アルバムレビュー：Alphabetland by X

アルバムレビュー

2025.05.10

発売日: 2020年4月22日
ジャンル: パンク・ロック、オルタナティブ・ロック、カウパンク、アート・パンク

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
特筆すべき事項
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概要

『Alphabetland』は、ロサンゼルスの伝説的パンク・バンドXが2020年に突如発表した、35年ぶりにオリジナルメンバー全員で制作された通算8作目のスタジオ・アルバムである。
前作『Hey Zeus!』（1993）以来およそ27年ぶりという長い沈黙を破ってのリリースであり、
何よりも特筆すべきは、オリジナル・ギタリストのビリー・ズームが1985年の『Ain’t Love Grand!』以来初めて復帰したことで、
まさに“本当のX”が帰ってきたと言える作品である。

このアルバムは、“老いてなお速く、鋭く、混乱している”Xの姿をそのままパッケージしたような爆発力を持っている。
社会的混迷のただなかで発表された本作は、コロナ禍の最中にサプライズでリリースされ、
多くのファンに衝撃と興奮をもたらした。
全編で30分にも満たないコンパクトさ、しかし一切の無駄のない濃度と強度。
これは、若きパンクスではなく、“熟達したアナーキストたち”によるパンチの連打である。

全曲レビュー

1. Alphabetland
ピアノと語りの導入部に始まり、即座に全パートが駆け抜けるタイトル曲。
“アルファベットの国”＝混乱した情報社会のメタファーとして、現代アメリカの無秩序を痛烈に描く。
Xの復活宣言にふさわしい一撃。

2. Free
“自由”というテーマにしては皮肉が効きすぎている。
高速リズムと鋭利なギターに乗せられた、搾取と虚無の風刺。
ジョン・ドウとエクシーンの掛け合いも往年のテンションを維持。

3. Water & Wine
宗教的メタファーを利用しながら、信仰、暴力、アイデンティティの混濁を疾走感に変換。
不協和ギターと詩的なリリックの融合は、まさにXの真骨頂。

4. Strange Life
中年パンクらしい冷笑的自省に満ちたトラック。
“奇妙な人生”と繰り返すコーラスが、若さの消費ではなく老いの昇華を感じさせる。

5. I Gotta Fever
初期のXに通じる荒くれロックンロール。
“熱がある”というフレーズが、社会病理と個人の情熱の両方を暗示する。
ギターのノイズが心地よく暴れる。

6. Delta 88 Nightmare
1980年に録音された未発表曲のリメイク。
これが古さを感じさせずアルバム内で最もアグレッシブに聴こえるのは、Xの時間軸が常に“今”であることの証明である。

7. Star Chambered
タイトルは“特別法廷”を意味し、司法制度や情報統制への風刺が込められている。
テンポは抑えめだが、緊張感は高い。

8. Angel on the Road
アメリカーナ調のリズムと文学的な語りが融合した叙情的パート。
“道の天使”というテーマに、自由と孤独の旅の寓話が重ねられる。

9. Cyrano deBerger’s Back
1987年の『See How We Are』収録曲のセルフリメイク。
歳を重ねた視点からの再解釈であり、かつての自分への返答として響く。

10. Goodbye Year, Goodbye
“さよなら、年よ”というシンプルな別れの歌。
しかし、そこには未来への期待よりも、過ぎ去った時間への諦観がにじむ。
スローで渋い佳曲。

11. All the Time in the World
最終曲にして、エクシーンによる詩の朗読が響くアートパンク的エピローグ。
全編を通じて唯一のスロー語り曲で、すべてのノイズのあとに残る“声”の強さが印象的。
まるで“生き延びたバンドの祈り”。

総評

『Alphabetland』は、Xが2020年代の混迷に向けて放った“怒りでもなく懐古でもなく、今あるべき言葉と音”を刻み込んだアルバムである。
それはノスタルジーではない。むしろ逆に、
“パンク”とは何か、老いとは何か、再び声を上げることの意味とは何かを突き詰めた実験でもあった。

35年ぶりに戻ったオリジナル編成が、ただ昔の音を再演するのではなく、
そのエネルギーを現代の混沌にぶつけた瞬間芸術として、
本作は他の再結成バンドとは一線を画する。

特筆すべき事項

本作は**レコード・ストア・デイを前に突如デジタルリリースされ、コロナ禍に苦しむファンと世界に向けた“即時性ある応答”**として高く評価された。
レーベルはFat Possum。Xにとって初の新興インディーレーベルとの契約であり、
“老舗がインディーに帰ってきた”という象徴的意味も持つリリースだった。
批評家・ファンからは、「最も現代的なX」「キャリア最高傑作の一つ」と称され、
再結成アルバムとしては異例の高評価を獲得している。