1. 歌詞の概要
“All My Ghosts“は、アメリカのシンガーソングライターLizzy McAlpine(リジー・マカルパイン)が2022年にリリースしたセカンドアルバム『five seconds flat』の収録曲であり、アルバム全体の中でも比較的軽やかで、恋の始まりに漂う期待と不安、そして過去の傷との共存をテーマにした、リリカルなオルタナ・ポップソングです。
この楽曲は、一見するとラブソングのように始まりますが、その核にあるのは**「自分の過去、痛み、トラウマ=“ゴーストたち”を、新たな恋の中にどう共存させるか」**というテーマです。語り手は恋人との時間を楽しみながらも、その背景には常に自分の“ゴーストたち”が控えており、完全には安心しきれていない心の揺らぎが描かれています。
それでも、「あなたならそのゴーストたちを受け入れてくれるかもしれない」と、希望の灯火のような恋の予感が綴られている点が、本作の大きな魅力となっています。明るくはじけるギターポップ的なサウンドと、Lizzyの柔らかく、でもどこか切実なボーカルが、“軽やかな不安”という絶妙な感情を見事に音楽化しています。
2. 歌詞のバックグラウンド
“All My Ghosts”は、リジーが2022年に発表したアルバム『five seconds flat』の中で、ストーリー性の強いバラードや内省的なトラックの中にあって、唯一と言えるほどの“明るさ”と“ポップさ”を備えた一曲です。このアルバムは全体として、恋愛の始まりから終わり、失恋後の再構築といった感情の流れを物語的に構成しており、その中でこの曲は**“新たな出会いと感情の再始動”を象徴する位置**にあります。
リジーは自身の過去のインタビューで、「恋を始めるとき、私はいつも自分の“荷物”をどう伝えるべきかを考えてしまう。でもこの曲は、それを包み隠さず、むしろ“これが私の全部”と伝える勇気について歌ってる」と語っています。
また、曲中に登場する“ゴースト”という言葉は、幽霊というよりもむしろ**“記憶の残像”や“過去の痛みの名残”として用いられており、これは感情的なトラウマを象徴的に描いたリジー独特の表現法**だと言えるでしょう。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Lyrics:
You kissed me in your car
And it felt like a movie I’ve seen before
和訳:
「あなたの車の中でキスをされた
まるで以前にも観たことのある映画みたいだった」
Lyrics:
I think you should know I carry all my ghosts with me
和訳:
「知っておいてほしいの、私は自分の“ゴーストたち”を全部連れて生きているってこと」
Lyrics:
And you kiss me like it’s the first time, every time
和訳:
「あなたはいつも、まるで初めてみたいにキスをしてくれる」
Lyrics:
I can’t believe you like me
I keep all my thoughts behind my teeth
和訳:
「あなたが私を好きだなんて信じられない
私は、思ってることを全部、口の奥に隠してるの」
(※歌詞引用元:Genius Lyrics)
このように、日常の出来事のような描写を通じて、過去の痛みと新しい感情がせめぎ合う様子が繊細に表現されています。特に“all my ghosts”という言葉は、語り手の内面世界すべてをそのまま相手に委ねる勇気と不安の象徴と言えるでしょう。
4. 歌詞の考察
“All My Ghosts”は、恋のはじまりが持つ“甘さ”と“怖さ”を同時に描いた作品です。そしてその“怖さ”の源は、自分自身の過去に他なりません。
✔️ 「ゴースト=心の傷跡」
ここでいう“ゴースト”とは、幽霊のような存在ではなく、過去の恋愛、傷ついた記憶、言えなかったこと、恐れていることの総称です。それらは見えないけれど、確かに語り手の中にいて、新しい恋を始めるたびに顔を出す。でも、それを抱えたままでも「あなたに出会えたら、私は変われるかもしれない」という希望が、静かににじみ出ています。
✔️ 「いつも初めてみたいなキス」=癒しの象徴
“You kiss me like it’s the first time, every time”という一節は、相手のやさしさがいかに語り手を癒しているかを象徴しています。過去を抱えながらも、新しい感情に救われている——愛されることで“ゴーストたち”が少しずつ和らいでいく過程が感じられる名フレーズです。
✔️ 隠しごとと透明性の間
“I keep all my thoughts behind my teeth(考えてることは歯の奥に隠してる)”というラインには、素直に感情を出せない自分への苛立ちと、それでも関係を築きたいという切実な思いがにじみ出ています。この矛盾があるからこそ、リジーの歌詞は人間味にあふれ、リスナーの共感を呼ぶのです。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Motion Sickness” by Phoebe Bridgers
→ 過去の関係の後遺症を描くエモーショナルな傑作。 - “Ghostin” by Ariana Grande
→ 前の恋を引きずったまま新たな恋に向き合う痛み。 - “i hate u, i love u” by Gnash ft. Olivia O’Brien
→ 抑えきれない感情と未練が交錯するデュエットバラード。 - “All Too Well” (10 Minute Version) by Taylor Swift
→ 記憶と現在が交錯する、極めて私的な失恋の語り。 - “Nothing New” by Taylor Swift ft. Phoebe Bridgers
→ 自分の存在意義への不安と、新たな関係に潜む疑念。
6. 『All My Ghosts』の特筆すべき点:新しい恋と“心の残像”との共存
この曲は、恋の初期に感じる高揚感だけでなく、それに伴う“自己の脆さ”や“過去からの解放の難しさ”を、誠実に描いた点で非常にユニークです。
- 👻 “ゴースト”を抱えたまま、それでも恋に踏み出そうとする葛藤
- 💫 心のざわめきとポップなサウンドが絶妙に融合したサウンドデザイン
- 🎧 軽やかさと深さが同居する、耳なじみの良いインディーポップの傑作
- 💬 言葉にならない“複雑な感情”をそのまま音楽に昇華するリジーの手腕
結論
“All My Ghosts“は、**恋愛のはじまりに感じる期待と不安、そして過去との共存を優しく描いた、Lizzy McAlpineならではの“静かな希望の歌”**です。
過去の痛みを抱えていても、
完璧に癒えていなくても、
それでも誰かを好きになることはできる。
そしてその人が、あなたの“ゴースト”たちを抱きしめてくれる存在なら——
それはもう、ひとつの救いなのです。
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