
発売日:1967年2月17日
ジャンル:ブリティッシュ・ブルース、ブルース・ロック、エレクトリック・ブルース、シカゴ・ブルース、リズム・アンド・ブルース
概要
John Mayall & the Bluesbreakersの『A Hard Road』は、1960年代ブリティッシュ・ブルースを語るうえで欠かせない重要作であり、とりわけPeter Green在籍期の決定的な記録として位置づけられるアルバムである。前作『Blues Breakers with Eric Clapton』は、Eric Claptonのレスポールとマーシャル・アンプによる太く歪んだギター・サウンドを前面に出し、英国ブルース・ロックの金字塔となった。そのClaptonがCream結成のためにバンドを離れた後、John Mayallが新たに迎えたギタリストがPeter Greenだった。
この交代は、単なるメンバー変更以上の意味を持っていた。Claptonは当時すでに「Clapton is God」とまで言われる存在であり、その後任には大きな重圧があった。しかしPeter Greenは、Claptonの模倣ではなく、まったく異なるブルース・ギターの美学を提示した。Claptonの演奏が攻撃的で、厚く、ロック的な推進力を強調していたのに対し、Greenのギターはより内省的で、空間を活かし、音数を抑えながら深い感情を表現する。『A Hard Road』は、その違いが明確に刻まれた作品である。
John Mayallは、英国ブルース・シーンにおける中心人物であり、同時に才能ある若いミュージシャンを見抜く優れたバンドリーダーだった。Bluesbreakersは、単なる固定バンドではなく、英国ロックの重要人物を次々に育てた実験場でもある。Eric Clapton、Peter Green、Mick Taylor、John McVie、Aynsley Dunbar、Keef Hartleyなど、後に大きなキャリアを築く演奏家たちがこのバンドを通過した。『A Hard Road』は、その中でもPeter GreenとJohn McVieの存在が特に重要な作品である。
本作のサウンドは、シカゴ・ブルース、エレクトリック・ブルース、R&B、ジャズ的なホーン・アレンジを基盤にしている。前作ほどギター・ヒーロー的な衝撃に集中しているわけではなく、バンド全体のアンサンブル、Mayallのソングライティング、ホーン・セクションの導入、Peter Greenの繊細なギター表現がバランスよく配置されている。結果として、『A Hard Road』は『Blues Breakers with Eric Clapton』よりもやや落ち着き、陰影が深く、ブルースの情感に近いアルバムになっている。
アルバム・タイトルの「A Hard Road」は、「険しい道」「困難な道」を意味する。これは、ブルースという音楽が本質的に持つ苦難、旅、人生の重さを示すと同時に、Mayall自身のバンド運営や、Peter GreenがClaptonの後任として歩むことになった道にも重なる。1960年代半ばの英国ブルース・シーンは、若い白人ミュージシャンたちがアメリカ黒人ブルースを熱心に学び、自分たちの音へ翻訳していく過程にあった。その道は、単なる模倣ではなく、敬意と独自性のバランスを問われる難しい道でもあった。
歌詞面では、恋愛、孤独、別れ、旅、社会的な不満、ブルースの伝統への敬意が扱われる。John Mayallのオリジナル曲は、伝統的なブルースの形式を踏まえながらも、英国の若いミュージシャンとしての視点を持っている。「A Hard Road」では人生の苦難が歌われ、「Another Kinda Love」では恋愛の別の形が提示され、「The Supernatural」ではPeter Greenのギターがほとんど歌詞以上に霊的なムードを作る。「The Same Way」ではGreen自身のヴォーカルも聴ける。
本作の最大の聴きどころは、やはりPeter Greenのギターである。彼は後にFleetwood Macを結成し、「Black Magic Woman」「Albatross」「Man of the World」「Oh Well」「The Green Manalishi」などで、ブルース、ロック、フォーク、サイケデリアを独自に融合していくことになる。その原点として『A Hard Road』を聴くと、彼の特徴である深いトーン、余白、感情のコントロール、メロディアスなフレージングがすでに明確に表れていることが分かる。
特に「The Supernatural」は重要である。このインストゥルメンタルでは、Greenのギターがまるで人の声のように鳴る。速弾きや派手な技巧で圧倒するのではなく、少ない音で強い感情を作り出す。その演奏は、後のCarlos Santanaにも影響を与えたと語られることが多く、Greenのギター美学を理解するうえで欠かせない一曲である。
『A Hard Road』は、ブリティッシュ・ブルースの歴史において、Clapton期とMick Taylor期の間にある単なる中継点ではない。むしろ、Peter Greenという非常に特異なギタリストの個性が、John Mayallのバンドという枠の中で初めて大きく記録された作品である。前作の衝撃に比べると地味に感じられる部分もあるが、深く聴くほどに、ブルースの内面性と英国ロックの発展が交差する重要なアルバムであることが分かる。
全曲レビュー
1. A Hard Road
タイトル曲「A Hard Road」は、アルバムのテーマを端的に示すブルース・ナンバーである。人生は簡単ではなく、誰もが困難な道を歩むというブルースの基本的な世界観が、John Mayallの言葉とバンドの演奏によって表現される。冒頭曲として、作品全体の重心をはっきり定めている。
サウンドは、重すぎず、しかし確かなブルースの苦味を持っている。Mayallのヴォーカルは、アメリカ南部のブルースマンのような深い声ではないが、英国ブルースらしい乾いた真剣さがある。彼はブルースを演技として誇張するのではなく、自分の声の範囲で誠実に歌っている。
Peter Greenのギターは、この曲ですでに重要な存在感を示す。彼の音は鋭く突き刺すというより、歌に寄り添いながら、必要な瞬間に深い感情を加える。Clapton期の強烈なギター・サウンドと比べると、Greenのアプローチはより抑制されているが、その分、音の表情が豊かである。
歌詞では、人生の苦難や、前に進むことの難しさが歌われる。これはブルースの伝統的なテーマでありながら、アルバム全体のタイトルとしても機能する。Clapton脱退後のBluesbreakersにとっても、これは新たな困難な道の始まりだった。「A Hard Road」は、本作を象徴する誠実なオープニングである。
2. It’s Over
「It’s Over」は、関係の終わりを扱ったブルースである。タイトルは非常に直接的で、「もう終わった」という断定が、曲全体の感情を支配している。恋愛の終わりを歌うブルースは数多いが、この曲ではその終わりを受け入れざるを得ない冷たさが前面に出る。
サウンドは、抑えたテンポで進み、Mayallのヴォーカルとバンドのアンサンブルが落ち着いた緊張感を作る。Peter Greenのギターは、感情を大げさに泣かせるのではなく、短いフレーズで別れの苦味を示す。音数を詰め込みすぎないため、歌詞の余韻が残る。
歌詞では、語り手が関係の終わりを認めている。そこには怒りというより、諦めに近い感情がある。ブルースでは、別れは単なるドラマではなく、生活の一部として扱われる。この曲も、喪失の感情を日常的な苦さとして表現している。
「It’s Over」は、本作の内省的な側面を示す楽曲である。派手なギター・ソロよりも、関係が終わった後の空気をどう作るかに重点が置かれている。Peter Green期のBluesbreakersらしい、陰影のあるブルースである。
3. You Don’t Love Me
「You Don’t Love Me」は、Willie Cobbsの楽曲として知られるブルース・スタンダードであり、多くのアーティストに取り上げられてきた曲である。タイトルの通り、愛されていないことへの悲しみと不満を歌う、非常にブルースらしい題材である。
Bluesbreakers版では、原曲の持つシンプルな構造を保ちながら、英国ブルース・ロックとしての硬質な演奏が加えられている。リズムはタイトで、ギターとハーモニカが曲を引き締める。Mayallのハーモニカも、ブルースの伝統への接続を強く感じさせる。
歌詞では、相手が自分を愛していないことを知りながら、その関係から完全には離れられない語り手が描かれる。ブルースにおいて、愛の欠如はしばしば自己認識の痛みを伴う。相手の気持ちがないことを知っているからこそ、その言葉はより苦い。
Peter Greenのギターは、ここでも歌を支える役割を重視している。彼は曲を自分の技巧で塗りつぶすのではなく、楽曲の持つブルースの骨格を尊重している。「You Don’t Love Me」は、Bluesbreakersがアメリカン・ブルースのレパートリーをどのように英国的に再演したかを示す好例である。
4. The Stumble
「The Stumble」は、Freddie Kingのインストゥルメンタル・ブルースとして知られる楽曲であり、本作におけるPeter Greenのギター・プレイを前面に出す重要なトラックである。Freddie Kingは、ブリティッシュ・ブルースのギタリストたちに大きな影響を与えた人物であり、この曲の選曲自体がその敬意を示している。
サウンドは軽快で、リズム・セクションがしっかりとグルーヴを作る。John McVieのベースは堅実でありながら存在感があり、ドラムは曲を前へ推進する。インストゥルメンタルであるため、ギターのフレーズの組み立てが曲の中心になる。
Peter Greenの演奏は、Freddie Kingの影響を受けつつも、自分の個性をはっきり出している。彼のギターは、力で押すというより、メロディの流れと音色で聴かせる。フレーズのひとつひとつが歌うように配置され、単なる技巧披露ではなく、ブルースの言葉として機能している。
「The Stumble」は、本作の中でギター・アルバムとしての魅力を最も分かりやすく示す曲の一つである。Clapton期の強烈な音圧とは違う、Peter Greenならではの流麗で陰影のあるブルース・ギターを堪能できる。
5. Another Kinda Love
「Another Kinda Love」は、John Mayallのオリジナル曲であり、アルバムの中でも比較的軽快なR&B/ブルース・ロック色を持つ楽曲である。タイトルは「別の種類の愛」という意味で、一般的な恋愛の型とは異なる関係性や感情を示している。
サウンドは、ホーンの響きも含めて、ブルースだけでなくリズム・アンド・ブルース的な明るさを持っている。曲は重苦しくならず、グルーヴを重視して進む。Mayallのバンドが、スロー・ブルースだけでなく、よりショー的でリズミックな楽曲にも対応できることを示す。
歌詞では、ありきたりな愛とは違う関係が歌われる。ブルースにおいて恋愛は、しばしば苦しみや裏切りとして描かれるが、この曲では少し違った角度から愛が扱われている。タイトルの言葉には、変化や新しい感情への関心がある。
Peter Greenのギターは、ここでは曲の軽快さに合わせて、短く鋭いフレーズを挟む。アルバムの中で重いブルースが続く中、この曲は良いアクセントになっている。「Another Kinda Love」は、BluesbreakersのR&B的な側面を示す楽曲である。
6. Hit the Highway
「Hit the Highway」は、タイトル通り「ハイウェイに出る」「旅に出る」というブルース/ロックの古典的なテーマを持つ楽曲である。ブルースにおいて道路や旅は、逃避、自由、孤独、再出発を象徴する。この曲もその伝統に連なる。
サウンドは、動きのあるブルース・ロックで、リズムが前へ進む感覚を作る。ドラムとベースがしっかりと道を作り、ギターとハーモニカがその上で反応する。曲全体に移動感があり、タイトルと演奏の方向性が一致している。
歌詞では、今いる場所から離れ、道へ出ることが歌われる。これは恋愛の問題からの逃避かもしれないし、人生の行き詰まりからの脱出かもしれない。ブルースでは、旅に出ることは必ずしも明るい解放ではない。むしろ、居場所を失った者が移動し続けることでもある。
「Hit the Highway」は、本作の中でロード・ブルース的な役割を担う曲である。John Mayallのブルースが、部屋の中の嘆きだけでなく、道を進む身体感覚とも結びついていることを示している。
7. Leaping Christine
「Leaping Christine」は、アルバムの中でもリズム感と勢いのある楽曲である。タイトルには女性名が含まれており、軽やかに跳ねるようなイメージがある。曲調もその印象に合わせ、比較的活発で、バンドの演奏の楽しさが前面に出ている。
サウンドは、ブルースとR&Bの間にあり、リズムの跳ねが印象的である。ホーンやギターの絡みも含め、曲全体にライブ感に近い躍動がある。Bluesbreakersは、深いスロー・ブルースだけでなく、こうした軽快なナンバーでも高い演奏力を発揮する。
歌詞では、Christineという人物をめぐるイメージが描かれる。深い物語というより、人物のキャラクターや動きが曲のノリと結びついている。ブルースやR&Bには、特定の人物名をタイトルにした楽曲が多く、この曲もその伝統にある。
「Leaping Christine」は、本作の中で明るい動きを作る曲である。アルバム全体の陰影の中に、こうした軽快な楽曲があることで、作品は単調にならず、バンドとしての幅が示されている。
8. Dust My Blues
「Dust My Blues」は、Elmore Jamesの代表的なスタイルと深く関係するブルースであり、スライド・ギターの伝統を強く感じさせる楽曲である。Elmore Jamesは、ブルース・ロックに大きな影響を与えたギタリストであり、彼の曲を取り上げることは、Bluesbreakersがブルースのルーツを重視していたことを示している。
サウンドは、エレクトリック・ブルースの伝統に忠実で、リフを中心に力強く進む。Peter Greenは、Elmore James的なスライドの強烈さを完全にコピーするのではなく、自分のトーンとフレージングで曲に関わっている。ここでも、彼は伝統を学びながら、自分の声を探している。
歌詞では、古い憂鬱や悩みを払い落とし、新たに動き出すような感覚がある。「dust my blues」という表現には、ブルースそのものを振り払う、あるいは抱えながら進むという二重の意味が感じられる。
「Dust My Blues」は、Bluesbreakersがシカゴ・ブルースやデルタ以後の電化ブルースのレパートリーをどのように取り込んだかを示す曲である。アルバムの中で、ブルースのルーツへの敬意を強く感じさせる一曲である。
9. There’s Always Work
「There’s Always Work」は、タイトルの通り、働くこと、生活の現実、日常の重さを感じさせる楽曲である。ブルースは労働者の音楽でもあり、生活の苦労や働くことの疲れは重要なテーマである。この曲では、その現実感がMayallの視点で表現されている。
サウンドは、比較的落ち着いたブルースで、歌詞の内容に合わせて地に足のついた演奏になっている。リズムは大きく跳ねるというより、堅実に進む。John McVieのベースはここでも安定しており、労働の反復のような感覚を支えている。
歌詞では、どこへ行っても仕事はあり、生活は続くという現実が歌われる。これは希望とも諦めとも取れる。仕事があることは生きる手段であり、同時にそこから逃れられない日常の象徴でもある。ブルースらしい現実感がある。
「There’s Always Work」は、派手な曲ではないが、アルバムに生活の重みを与える。恋愛や旅だけでなく、働くこと、生きることの地味な困難もまた、ブルースの重要な主題であることを示している。
10. The Same Way
「The Same Way」は、Peter Greenがヴォーカルを取る楽曲として重要である。彼の歌声は、Mayallとは異なり、より柔らかく、内省的で、やや影のある響きを持つ。後のFleetwood MacでのGreenのヴォーカル表現を考えると、この曲はその初期の重要な記録といえる。
サウンドは、ゆったりとしたブルースで、Greenの声とギターの相性がよく出ている。彼のギターは、自分の歌に応答するように鳴り、声と楽器が一体化している。これは、単なるギタリストとしてだけではなく、ブルース・シンガー/ソングライターとしてのGreenの可能性を示す。
歌詞では、相手との関係や感情のすれ違いが歌われる。大げさな表現ではなく、静かな苦味がある。Greenの声は、こうした控えめな感情に非常によく合っている。ClaptonやMayallとは違う、もっと内側に沈むようなブルース感覚がある。
「The Same Way」は、『A Hard Road』の中でもPeter Greenの個性を最も直接的に味わえる曲である。ギターだけでなく、声にも彼のブルース観が表れている。後のFleetwood Mac初期作品へつながる重要な一曲である。
11. The Supernatural
「The Supernatural」は、本作の中でも最も重要な楽曲の一つであり、Peter Greenのギター美学を象徴するインストゥルメンタルである。タイトルは「超自然的なもの」を意味し、その名の通り、曲には通常のブルース・インストを超えた霊的な空気が漂う。
サウンドは、非常にゆったりしており、空間が大きい。Peter Greenのギターは、速く弾くことを目的としていない。一音一音が長く伸び、揺れ、沈み、聴き手の感情に深く入り込む。音数を抑えることで、逆に一音の重みが増している。
この曲が特別なのは、ギターがほとんど人間の声のように響く点である。言葉はないが、メロディの流れとトーンによって、深い哀しみ、神秘性、孤独が伝わる。Peter Greenのブルースは、技巧的な誇示よりも、音そのものに感情を宿らせることを重視していた。その核心がここにある。
「The Supernatural」は、後のSantana的な泣きのギターにもつながる重要な演奏として語られることが多い。Peter Greenの代表的なインストゥルメンタルであり、『A Hard Road』を名盤として位置づける大きな理由の一つである。
12. Top of the Hill
「Top of the Hill」は、アルバム終盤に置かれた力強いブルース・ロックである。タイトルは「丘の頂上」を意味し、上り詰めること、到達点、見晴らしの良さを連想させる。曲には、ある種の前向きな推進力がある。
サウンドは、ギターとリズム・セクションがしっかり噛み合い、アルバムの終盤にエネルギーを与える。Mayallのヴォーカルは力強く、バンドもタイトに応答する。Peter Greenのギターは、必要なところで鋭く入り、曲の輪郭を引き締める。
歌詞では、困難を越えて上へ向かうような感覚が示される。これはアルバム・タイトル「A Hard Road」ともつながる。険しい道を歩いた先に、丘の頂上があるというイメージは、ブルースの苦難と小さな達成を象徴している。
「Top of the Hill」は、アルバムの流れの中で、少し開けた感覚をもたらす曲である。重いブルースや内省的な曲が多い中で、前へ進むエネルギーを感じさせる重要な楽曲である。
13. Someday After Awhile (You’ll Be Sorry)
「Someday After Awhile (You’ll Be Sorry)」は、Freddie Kingの名曲として知られるスロー・ブルースであり、本作における感情的な山場の一つである。タイトルは「いつかそのうち、君は後悔するだろう」という意味で、失恋、誇り、復讐心、忍耐が複雑に混ざったブルースである。
サウンドは、スロー・ブルースの形式をしっかり踏まえている。こうした曲では、ギターの表現力が非常に重要になる。Peter Greenは、ここで音数を抑えながらも、深い感情を込めたフレーズを聴かせる。彼のギターは、怒りを直接ぶつけるのではなく、後悔と時間の重さを感じさせる。
歌詞では、今は自分を傷つけた相手が、いつか後悔するだろうと語られる。これは単なる恨みではなく、時間が真実を明らかにするというブルース的な感覚である。語り手はすぐに勝利するわけではない。ただ、いつか自分の痛みが相手に返ると信じている。
「Someday After Awhile」は、本作におけるPeter Greenのスロー・ブルース表現を味わううえで欠かせない曲である。Freddie Kingへの敬意と、Green自身の内省的なトーンが結びついた名演である。
14. Living Alone
アルバムの最後を飾る「Living Alone」は、孤独をテーマにした楽曲である。タイトルは「一人で暮らす」という意味で、ブルースの根本的なテーマである孤独、生活の寂しさ、他者との断絶を直接的に示している。アルバムの締めくくりとして、非常にふさわしい題材である。
サウンドは、落ち着いたブルースで、派手な終幕というより、静かな余韻を残す。Mayallのヴォーカルは、孤独を大げさに嘆くのではなく、日常の事実として歌う。この淡々とした感覚が、逆に曲の寂しさを強めている。
Peter Greenのギターも、ここでは控えめながら深い表情を持つ。孤独の歌において、彼の音数の少なさは非常に効果的である。隙間があるからこそ、一人でいる空間が聴こえてくる。バンド全体も、曲を過剰に盛り上げず、最後に静かな苦味を残す。
「Living Alone」は、『A Hard Road』の結末として、ブルースの基本へ戻る曲である。困難な道、失恋、旅、労働、超自然的な感覚を経た後、最後に残るのは一人で生きることの寂しさである。アルバム全体に深い余韻を与える終曲である。
総評
『A Hard Road』は、John Mayall & the Bluesbreakersのディスコグラフィの中でも、Peter Greenの加入によって特別な意味を持つアルバムである。前作『Blues Breakers with Eric Clapton』が、ブリティッシュ・ブルース・ロックにおけるギター・サウンドの革命を記録した作品だとすれば、本作はより内省的で、陰影に富み、ブルースの感情的な深さに近づいた作品である。
本作の中心にあるのは、Peter Greenのギターである。彼はClaptonの後任という大きな重圧を受けながら、Claptonとは異なる自分のスタイルを提示した。Claptonが強いアタックと太い歪みでブルースをロックへ押し出したのに対し、Greenはより繊細なトーン、余白、音の揺れ、メロディアスなフレージングでブルースを内側へ掘り下げた。この違いが『A Hard Road』の最大の価値である。
「The Supernatural」は、その象徴である。速弾きや音量ではなく、音色と間によって深い感情を作るこの曲は、Peter Greenのギター哲学を明確に示している。彼の演奏は、単にブルースの型をなぞるのではなく、音そのものに魂を宿らせようとするものだった。この方向性は、後のFleetwood Mac初期作品でさらに発展する。
John Mayallの役割も重要である。彼は本作で、ブルースの伝統を守りつつ、若い演奏者の個性を引き出している。オリジナル曲とカバー曲を組み合わせ、ホーンやハーモニカ、キーボードを加えながら、アルバム全体をブルース作品としてまとめている。Mayallの歌唱は、アメリカ黒人ブルースの深い声とは異なるが、彼の誠実さとブルースへの理解が作品の土台になっている。
本作は、楽曲面でも多様性がある。「A Hard Road」や「It’s Over」では人生や関係の苦さが歌われ、「The Stumble」「The Supernatural」ではインストゥルメンタルとしてのギター表現が前面に出る。「The Same Way」ではPeter Greenのヴォーカルが聴け、「Someday After Awhile」ではFreddie Kingへの敬意が示される。「Living Alone」では、ブルースの根本にある孤独へ戻る。アルバム全体として、派手なコンセプトはないが、ブルースのさまざまな表情が丁寧に配置されている。
一方で、『A Hard Road』は『Blues Breakers with Eric Clapton』ほど即座に衝撃を与えるアルバムではない。Clapton期のようなギター・ヒーロー的な爆発力を期待すると、やや地味に感じられる可能性がある。また、制作や演奏は非常に堅実である一方、後年のロック・アルバムのような劇的な構成や明確なコンセプトはない。しかし、その地味さの中にこそ本作の深みがある。
ブリティッシュ・ブルースの歴史において、本作は非常に重要である。1960年代英国の若いミュージシャンたちは、アメリカのブルースを吸収し、それをロックの文脈へ翻訳していた。その過程で、Clapton、Peter Green、Mick Taylorのようなギタリストたちは、それぞれ異なるブルース解釈を提示した。『A Hard Road』は、その中でPeter Greenのブルース解釈を最も早い段階で体系的に聴ける作品である。
Peter Greenの後のキャリアを考えると、本作の重要性はさらに大きくなる。彼はFleetwood Macで、ブルースを基盤にしながら、より神秘的で、哀愁に満ち、サイケデリックな方向へ進む。「Black Magic Woman」や「Albatross」に見られる独自の感覚は、『A Hard Road』の「The Supernatural」や「The Same Way」にすでに芽生えている。つまり本作は、単なるBluesbreakersの一作ではなく、Peter Greenという音楽家の出発点としても重要である。
日本のリスナーにとって『A Hard Road』は、ブリティッシュ・ブルースをギターの個性で聴き分けるための重要なアルバムである。Clapton期、Green期、Taylor期を比較すると、同じJohn Mayallのバンドであっても、ギタリストによってサウンドの表情が大きく変わることが分かる。『A Hard Road』は、その中でも最も内省的で、深いトーンを持つ作品である。
『A Hard Road』は、派手な成功作というより、じっくり聴くべきブルース・アルバムである。Peter Greenのギター、Mayallのブルースへの誠実な姿勢、バンドの堅実な演奏、カバー曲とオリジナル曲のバランスが、静かな強さを作っている。ブリティッシュ・ブルースの歴史における重要な一枚であり、Peter Greenの才能が本格的に記録された決定的な作品である。
おすすめアルバム
1. Blues Breakers with Eric Clapton by John Mayall & the Bluesbreakers
1966年発表のブリティッシュ・ブルース・ロックの金字塔。Eric Claptonの太く歪んだレスポール・サウンドが、後のロック・ギターに大きな影響を与えた作品である。『A Hard Road』と比較すると、ClaptonとPeter Greenのギター美学の違いが明確に分かる。
2. Crusade by John Mayall & the Bluesbreakers
1967年発表のMick Taylor在籍期の作品。Peter Green脱退後に加入した若きMick Taylorの流麗なギターが聴けるアルバムである。Bluesbreakersがギタリストごとに異なる表情を持っていたことを理解するうえで重要である。
3. Mr. Wonderful by Fleetwood Mac
1968年発表の初期Fleetwood Macのアルバム。Peter GreenがBluesbreakers脱退後に結成したバンドであり、よりディープなブルース・バンドとしての方向性が示されている。『A Hard Road』で見えたGreenの個性が、バンドリーダーとして発展していく過程を確認できる。
4. Then Play On by Fleetwood Mac
1969年発表のFleetwood Macの重要作。ブルースを基盤にしながら、サイケデリック・ロック、フォーク、実験的な構成へ広がった作品である。Peter Greenの音楽的視野が、単なるブルース・ギタリストを超えて大きく拡張されたことが分かる。
5. The Turning Point by John Mayall
1969年発表のライブ・アルバム。ドラムとエレクトリック・リード・ギターを排した編成で、ブルースをアコースティックかつジャズ的に再構築した作品である。『A Hard Road』のエレクトリック・ブルース路線から、Mayallがどのように別の方向へ進んだかを理解するために有効な一枚である。



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