
発売日:1982年4月14日
ジャンル:ハードロック、ヘヴィメタル、パーティー・ロック、アリーナ・ロック
概要
Diver Downは、ヴァン・ヘイレンが1982年に発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの初期黄金期の中でも特に評価が割れやすく、しかし同時にバンドの本質をかなり露骨に映し出した作品でもある。デビュー作 Van Halen から Fair Warning までの流れで、ヴァン・ヘイレンはエディ・ヴァン・ヘイレンの革新的なギター奏法、デイヴィッド・リー・ロスの挑発的で祝祭的なフロントマンシップ、マイケル・アンソニーの高音コーラス、アレックス・ヴァン・ヘイレンの重量感あるドラミングを武器に、ハードロックの中心へ一気に上り詰めた。だが、Diver Downはそうした「最強のライヴ・バンド」「ギター革命の旗手」としての期待に、必ずしも正面から応える作品ではない。むしろここでは、カヴァー曲の多さ、短い曲の連なり、遊び心、雑多なアイデア、そしてバンド内部の方向性のずれが前面化する。だからこそ本作は、ヴァン・ヘイレンの“逸脱”として語られることが多い。
このアルバムの成立には、ヒットしたカヴァー“(Oh) Pretty Woman”の成功が大きく関わっている。もともとシングルとして録音されたこの曲が予想以上の反応を得たことで、アルバム制作はその延長線上で進められ、結果として本作にはカヴァー曲や短いインタールード的楽曲が多く含まれることになった。エディ・ヴァン・ヘイレン自身は後年、このアルバムを必ずしも満足のいく作品としては語っていない。彼の視点からすれば、もっとオリジナル曲を掘り下げ、バンドの作曲面を発展させる余地があったはずだという不満も理解できる。実際、1984 に至る創造的飛躍を思えば、Diver Down は過渡期的で、やや散漫に聞こえる部分もある。
しかし、この作品を単なる“足踏みのアルバム”と見るのは不十分だ。Diver Downには、ヴァン・ヘイレンというバンドが単にハードロックの猛者ではなく、ルーツ・ロック、ポップ、R&B、オールディーズ、ショウビズ感覚、南カリフォルニア的な享楽主義をすべて自分たちの武器に変えられる集団であったことが、非常にわかりやすく刻まれている。彼らの初期作品には一貫して、破壊力と同時に“楽しさ”があった。ヘヴィでありながら陽性で、技巧的でありながら悪ふざけもできる。その二面性が、Diver Downではとりわけ極端な形で出ている。つまりこのアルバムは、ヴァン・ヘイレンの“雑食性”と“ショーとしてのロック”を最も剥き出しにした作品なのだ。
タイトルのDiver Downも象徴的である。ダイバー・ダウン旗は「潜水士がいるので近づくな」を意味する警告旗だが、このイメージはアルバムの性格とも奇妙に重なる。ここでのヴァン・ヘイレンは、いつものように一直線に突っ込むだけでなく、水中に潜り、寄り道し、変な角度から浮上する。つまり、表面的にはパーティー感覚や軽薄さが目立ちながら、その裏ではバンドの進路や内部バランスに微妙な変化が起きている。その曖昧さが、この作品を単純な快作以上のものにしている。
音楽史的に見ると、本作は1980年代初頭のアメリカン・ハードロックが、単なるヘヴィネスの競争ではなく、MTV時代を前にしたポップ性やショーマンシップの強化へ向かう過程の一例でもある。ヴァン・ヘイレンはすでにその点で先進的だったが、Diver Downではそれがより露骨だ。ヘヴィメタルの純化から見ると軽い作品に映るかもしれないが、アメリカの大衆ロックとして見ると、ここには非常に柔軟で器用な感覚がある。のちのグラム・メタルやハードポップ路線の多くが、重さと楽しさを両立させるうえでヴァン・ヘイレンから学んだものは大きい。その意味で、本作の軽さもまた影響力の一部である。
また、このアルバムはデイヴィッド・リー・ロス時代のヴァン・ヘイレンの魅力を考えるうえで重要だ。エディの技術革新や作曲能力が注目されがちだが、ロスの存在感、選曲感覚、エンターテイナー性がバンド全体の方向をどれほど左右していたかは、本作を聴くとよくわかる。カヴァー曲の多さも、ロックを“演じる”ことへの執着も、まさにロス的な要素である。その意味でDiver Downは、エディ主導の作品というより、バンド内の複数の欲望がぶつかり合った結果としてのヴァン・ヘイレン像を最もよく映している。
全曲レビュー
1. Where Have All the Good Times Gone!
キンクスの楽曲で幕を開けるという選択自体が、このアルバムの性格をよく示している。オリジナル版の皮肉と英国的なひねりを、ヴァン・ヘイレンはより直線的で筋肉質なハードロックへ変換しているが、単なる力押しにはならない。エディのギターはリフの輪郭を太くしつつ、ロスのヴォーカルは原曲のノスタルジアを少し下品で祝祭的な方向へ引っ張る。
タイトルにある「良き時代はどこへ行った?」という問いは、アルバム全体のムードにもどこか通じる。ここには懐古趣味というより、古いロックンロール感覚を現在の騒々しさの中へ引っ張り出す楽しさがある。オープニングとしてはやや意外だが、ヴァン・ヘイレンが“ロックの歴史を自分たち流に演じるバンド”であることを最初に示すには適切である。
2. Hang ‘Em High
ここでようやく、ヴァン・ヘイレンらしいオリジナル曲の爆発力が前面に出る。イントロからしてエディのギターは跳ね回り、西部劇的な緊張感を含んだリフと、疾走感のあるリズムが曲を引っ張っていく。もともと“Last Night”としてデモ段階から存在していた曲の改訂版ともされるが、本作の中ではかなり攻撃的で、初期ヴァン・ヘイレンらしいエネルギーが濃い。
ロスのヴォーカルも快調で、煽るようなテンションが曲によく合っている。アルバム全体がやや断片的な中で、この曲は「ヴァン・ヘイレンはまだこれだけ鋭い曲を作れる」という証明になっている。Fair Warning の緊張感を少し引き継ぎつつ、よりショーアップされた形にしたような印象で、本作前半の大きな山場である。
3. Cathedral
エディ・ヴァン・ヘイレンのギター実験が凝縮された短いインストゥルメンタルであり、アルバム中ではインタールード的な役割を果たす。ボリューム奏法を駆使して、まるでパイプオルガンのような響きをギターで作り出すこの曲は、タイトル通り“聖堂”のような残響感を持つ。ヴァン・ヘイレンというバンドの中で、エディの感覚が単に速弾きや派手なタッピングにとどまらず、音色そのものを発明する方向に向いていたことを示す好例である。
短いながら非常に印象的で、雑多なアルバムの流れの中に一瞬の異空間を生み出す。遊びにも聞こえるが、同時にエディの音楽的野心の一端がはっきりと現れた瞬間でもあり、この時点で彼がすでに“ギタリスト”以上の発想を持っていたことを感じさせる。
4. Secrets
本作の中でも特に魅力的なオリジナル曲の一つであり、ヴァン・ヘイレンのメロディアスな側面がよく出ている。イントロのギターの開放感、少し哀感を含んだコード進行、ロスの比較的抑えた歌い方が組み合わさり、ハードロックというよりカリフォルニア的な風通しのよさを感じさせる。
エディのギターはここで派手な技巧より、曲の雰囲気づくりに徹している。その結果、アルバム全体の中では少し落ち着いた呼吸を与える曲になっている。ヴァン・ヘイレンはしばしば陽気で騒がしいバンドと思われがちだが、この曲のように、明るさの中に切なさを差し込むのも上手い。隠れた佳曲と言ってよい。
5. Intruder
シンセや不穏な効果音を用いた短いインストゥルメンタルで、“(Oh) Pretty Woman”への導入として機能する曲である。単独曲として見れば断片的だが、この不気味でじわじわ高まる空気は、アルバムに小さな異物感を与えている。もともとMTV用の映像演出と結びついた楽曲でもあり、ヴァン・ヘイレンが1980年代初頭の映像時代をかなり早い段階で意識していたことがうかがえる。
エディの音色処理も面白く、単なるつなぎでは終わらない。Diver Downの散漫さはしばしば批判されるが、こうした奇妙な短曲が並ぶことで、逆にアルバムは“ショー”としての流れを持つようになっている。ここにもロス時代ヴァン・ヘイレンの演出感覚が強く現れている。
6. (Oh) Pretty Woman
ロイ・オービソンの名曲を大胆にハードロック化したカヴァーであり、本作を象徴するヒット曲である。原曲の持つシンプルで強力なフックはそのままに、ヴァン・ヘイレンはそれをより筋肉質に、よりカラフルに、よりショーアップされた形で鳴らしている。ロスのヴォーカルは軽妙かつ下世話で、原曲のロマンティックさを少し崩しつつ、自分たちのキャラクターへ引き寄せている。
この曲の成功はアルバムの方向性そのものを左右したが、作品単体として見ると非常によくできている。ヴァン・ヘイレンのカヴァー能力の高さ、つまり既存のポップソングを自分たちのキャラクターへ自然に変換する力がはっきり出ている。軽快で大衆的だが、エディのギターの切れ味は十分にあり、バンドの個性も失われていない。
7. Dancing in the Street
ここではさらに古いポップ/R&Bレパートリーへ踏み込み、マーサ&ザ・ヴァンデラスの名曲を取り上げる。原曲のダンサブルな高揚感を、ヴァン・ヘイレンはかなり直線的なロックへ変えているが、不思議と曲の祝祭性は損なわれていない。むしろロス時代のヴァン・ヘイレンが持つ“騒ぎを起こす才能”と非常によく噛み合っている。
ただし、この曲はアルバム内で聴くと、カヴァーが続くことによるやや散漫な印象も強める。個々の完成度は高いが、バンドのオリジナル路線の深化を期待する耳には物足りなさもあるだろう。その意味でも、本作の評価が分かれる理由をよく示す一曲である。
8. Little Guitars (Intro)
ごく短い導入だが、アルバムの中でも印象的な瞬間の一つである。スペイン風のフレーズ、ナイロン弦的な響き、雰囲気の切り替えが鮮やかで、エディのギター感覚の幅広さがよく出ている。彼は本来、単なるハードロック・ギタリストではなく、和声感覚や音色の遊びに非常に敏感なプレイヤーであり、この短い導入にもその資質が表れている。
単独で評価する曲ではないが、続く“Little Guitars”を引き立てる意味でも非常に効果的で、アルバムの“ショー仕立て”の流れの中でよく機能している。
9. Little Guitars
本作の中核を成すオリジナル曲の一つであり、ヴァン・ヘイレンの器用さと個性がうまく両立した好曲である。アコースティック風のイントロから始まりながら、曲自体はしっかりヴァン・ヘイレンらしい跳ねたロックへ展開していく。タイトルの“小さなギター”という語感も含めて、ここには技巧誇示ではなく、少し洒落た遊び心がある。
ロスの歌唱は軽やかで、エディのギターも全体のムードづくりを優先している。メロディの良さ、アレンジの工夫、独特の南欧風味が合わさって、アルバムの中でもかなり記憶に残る。Diver Downが単なる寄せ集めで終わらないのは、こうした曲の存在があるからだろう。
10. Big Bad Bill (Is Sweet William Now)
この曲は本作を最も象徴する“変化球”の一つであり、同時に最も賛否が分かれるトラックでもある。1920年代由来の古いポピュラー・ソングをほとんどそのままショウビズ風に演奏するという選択は、ハードロック・バンドのアルバムとしてはかなり大胆だ。しかもエディとアレックスの父ヤン・ヴァン・ヘイレンがクラリネットで参加している点も含め、これは単なる冗談ではなく、家族的で音楽的なルーツの提示としても読める。
とはいえ、アルバムの流れの中ではかなり異質であり、エディ的な“もっと先へ行きたい”志向とは距離のある曲でもある。この違和感こそがDiver Downの本質の一部で、ロスのエンターテイナー性とバンドのルーツ遊びが最大化した結果とも言える。楽曲としての愛嬌は十分だが、作品の統一性を崩す一因でもある。
11. The Full Bug
ここで再び、ヴァン・ヘイレンの荒っぽくブルージーな側面が顔を出す。ハーモニカも交えたこの曲は、パーティー・バンドとしてのヴァン・ヘイレンと、アメリカン・ロックの土臭さが交差したようなトラックである。ロスの歌い方もかなりラフで、洒落っ気と下品さが同居している。
音楽的にはそれほど複雑ではないが、その分だけバンドの勢いがそのまま出ている。アルバム後半でこうした曲が入ることで、Diver Downは完全にカヴァー集へ傾かず、ヴァン・ヘイレンらしい雑な力強さを保っている。小品だが、雰囲気のよい一曲である。
12. Happy Trails
ロイ・ロジャース由来の古い楽曲をアカペラ的に締めに持ってくるこの終わり方も、実にロス時代ヴァン・ヘイレンらしい。真面目に締めるのではなく、どこかふざけた、ショーのエンディングのような空気を残して終わる。この感覚はバンドの魅力でもあり、同時にエディの作曲家としての志向とはズレる部分でもある。
とはいえ、本作のように雑多でカーニバル的なアルバムを締めるには、この軽さは意外なほど似合っている。観客に手を振って舞台袖へ消えていくような終わり方であり、Diver Down全体を一つのショーとして見るなら、かなり納得のいくラストでもある。
総評
Diver Downは、ヴァン・ヘイレンの最高傑作ではない。作曲面の密度、バンドとしての緊張感、統一感という点では、前後の作品に軍配が上がる部分が多い。特にエディ・ヴァン・ヘイレンの創作欲求という観点から見れば、本作は寄り道が多く、物足りなさの残るアルバムだろう。だが、そのことは本作の価値をそのまま損なうわけではない。むしろここには、ヴァン・ヘイレンというバンドが持っていた“ロックンロールの雑食性”と“ショーとしての魅力”が、もっともそのまま記録されている。
音楽性の面では、ハードロック、オールディーズ、R&B、ショウチューン的感覚、スペイン風味、ブルース、ポップが雑然と並んでいる。その雑然さは統一感の不足でもあるが、同時にロス時代ヴァン・ヘイレンの自由さそのものでもある。エディの革新的ギター、ロスの演劇的キャラクター、バンドの祝祭感覚。その三つが、時に噛み合い、時にズレながら進んでいく様子が、このアルバムでは非常によく見える。
つまりDiver Downは、完成されたアルバムというより、初期ヴァン・ヘイレンという現象の断面を映した作品である。すべてが理想的に整理されているわけではない。しかし、その未整理さの中にこそ、このバンドの危うい魅力がある。ハードロックの名盤としてよりも、デイヴィッド・リー・ロス時代のヴァン・ヘイレンがどれほど多面的で、どれほど騒々しく、どれほどエンターテインメントに徹していたかを知るための一枚として、本作は非常に重要である。
おすすめアルバム
1. Van Halen – Women and Children First
より荒々しく、オリジナル曲中心のヴァン・ヘイレンらしさが強く出た作品。Diver Down の散漫さと比較すると、バンドの本流が見えやすい。
2. Van Halen – Fair Warning
暗さと緊張感が前面に出た異色作。Diver Down の軽さが、どれほど意識的な反動だったかがよくわかる。
3. Van Halen – 1984
次作にして、ポップ性と創作性がより高い水準で結実した代表作。Diver Down の寄り道がどのように次の飛躍へつながったかを確認できる。
4. David Lee Roth – Eat ’Em and Smile
ロスのショウマンシップと雑食的ロック感覚が全面に出た作品。Diver Down におけるロス的要素をより純粋な形で味わえる。
5. Montrose – Montrose
サミー・ヘイガー時代の後期ヴァン・ヘイレンではなく、初期VHのアメリカン・ハードロック的基盤を理解するうえで有益な一枚。豪快さとキャッチーさの共存という点で共通項が多い。



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