
発売日:1980年3月26日
ジャンル:ハードロック、ヘヴィメタル、アメリカン・ロック
概要
Van Halenの3作目『Women and Children First』は、1978年のデビュー作『Van Halen』、1979年の『Van Halen II』によって一気に確立されたバンドの爆発力を、より荒々しく、より重く、そしてより自律的な方向へ押し進めた作品である。一般的にVan Halenは、エドワード・ヴァン・ヘイレンの革新的なギター奏法、デイヴィッド・リー・ロスのショーマンシップ、マイケル・アンソニーの安定したコーラスとベース、アレックス・ヴァン・ヘイレンのダイナミックなドラミングによって語られることが多いが、本作はそれらの要素が単なる“派手さ”ではなく、バンド全体の化学反応としてどれだけ強く機能しているかを示した重要作である。
初期2作が、クラブ・バンドとして鍛え上げられた即効性と、ギター・ヒーロー時代の幕開けを告げる鮮烈さによって受容されたのに対し、『Women and Children First』はより濃密で、時に不穏で、必ずしも一聴で親しみやすいとは言えない側面を持っている。つまりこれは、「デビュー直後の勢い」をそのまま反復したアルバムではない。むしろ、すでに大きな成功を収めたバンドが、より重いリフ、変則的な曲展開、下品さと知性が同居するロックンロール感覚を用いて、自分たちの地盤をさらに掘り下げた作品である。
このアルバムの重要性は、Van Halenが単なる“ギターのすごいバンド”ではなく、“作曲とアンサンブルで独自のロック像を築けるバンド”であることを明確にした点にある。エドワードのタッピングや高速フレーズ、トリッキーなハーモニクスといった技巧はもちろん本作でも健在だが、それ以上に印象的なのは、リフの重量感、楽曲ごとのキャラクターの差、そしてバンドのグルーヴの強さである。前2作に比べ、本作はよりリフ主導で、ギターの奇抜さよりも“曲の圧力”が前に出る場面が多い。そのため、Van Halenの音楽性をポップなハードロックとしてのみ理解しているリスナーにとっては、本作はかなりラフで攻撃的に聞こえるかもしれない。
また、本作は1980年代アメリカン・ハードロックの方向性を考えるうえでも重要である。のちのLAメタルやグラム・メタルは、Van Halenの持っていた華やかさ、セクシュアリティ、ギター中心主義を大きく参照したが、『Women and Children First』に刻まれているのは、その派手なイメージだけではない。ここには、ブルージーで土臭いロックンロールの感覚、パーティー・バンド的な猥雑さ、そしてヘヴィメタルに接近する硬質さが混在している。その雑食性こそがVan Halenの独自性であり、本作はそれが最もむき出しになった一枚のひとつといえる。
歌詞面でも、Van Halenらしい享楽性や性的なユーモアは依然として強いが、本作ではより挑発的で、ナンセンスと攻撃性が同時に前に出る。デイヴィッド・リー・ロスの歌詞世界は、厳密な物語性よりも言葉の勢い、キャラクター、挑発、スラング感覚によって成立しているが、それが本作のラフなサウンドと強く結びついている。結果として『Women and Children First』は、洗練よりもエネルギー、整合性よりも体感、品位よりもロックの衝動を優先した作品として機能する。
キャリア上の位置づけとしては、本作は次作『Fair Warning』へ向かうダークさの前兆を含みつつ、同時に『Diver Down』以降でより多彩になるスタイルの萌芽も見せている。つまりVan Halenの初期を語る際、このアルバムは単なる“3作目”ではなく、バンドの野性味と構築力が高次元で結びついた転換点なのである。大ヒット曲の数ではデビュー作ほど象徴的ではないかもしれないが、バンドの本質を理解する上では極めて重要な作品といってよい。
全曲レビュー
1. And the Cradle Will Rock…
アルバム冒頭を飾る代表曲であり、Van Halenの中でも特に象徴的なオープニング・トラックのひとつ。冒頭の印象的なリフはギターではなく、歪ませたエレクトリック・ピアノによるもので、これによってバンドはのっけから「自分たちは単純なギター・ロック・バンドではない」という姿勢を示している。もっとも、楽曲全体を支配しているのはやはりVan Halenらしい重量感であり、アレックスのドラムとマイケルのベースが、リフの反復に確かな推進力を与えている。歌詞は権威や抑圧への反発としても読める内容を含み、若者の反抗性がデイヴィッド・リー・ロスの挑発的な歌い回しによって拡張される。キャッチーでありながらザラつきが強く、本作の方向性を明快に提示する重要曲である。
2. Everybody Wants Some!!
Van Halenのライヴ感覚、ユーモア、セクシュアルな挑発、そしてリズムの強さが凝縮された一曲。冒頭のパーカッシヴな導入、掛け声、会話めいたヴォーカル、リフの反復によって、曲は単なるハードロックではなく、祝祭的かつ挑発的なパフォーマンスとして展開する。タイトル通り、この曲は欲望の普遍性を扱っているが、その描き方はシリアスなものではなく、むしろ露悪的なユーモアとロックンロール的な煽りに満ちている。演奏面では、エドワードのギターが過剰に前へ出るのではなく、リズム隊との一体感の中でグルーヴを形成している点が重要で、Van Halenが“ノリ”を作れるバンドであることを強く示す。後年のパーティー・ロック的なバンド群への影響も大きい楽曲である。
3. Fools
本作の中でも特にヘヴィで、ブルース由来の鈍重さが色濃く感じられる楽曲。リフの進行は単純に見えて実際には重心が低く、聴き手に圧力をかけ続ける。デイヴィッド・リー・ロスのヴォーカルも、派手なシャウトよりルーズな語り口や威圧感を活かしており、楽曲全体に不穏な空気が漂う。タイトルの“Fools”は、単なる侮蔑語としてだけでなく、ロックにおける欺瞞や虚勢、見栄の構造をも照らし出すように機能している。エドワードのギターはここで、技巧を誇示するというより、重くうねるリフの中に鋭い切れ込みを入れる役割を果たす。本作が単なる明るいアメリカン・ハードロックではなく、かなりダークな表情を持つことを示す曲である。
4. Romeo Delight
アルバム前半のハイライトのひとつで、疾走感、ギターの切れ味、ヴォーカルの煽りが高水準で結びついたロックンロール・ナンバー。高速で刻まれるリフとアレックスのタイトなドラミングが生み出す推進力は圧倒的で、Van Halenが速度感ある楽曲でもきわめて高い演奏精度を保てることがよく分かる。歌詞はいつものデイヴィッド・リー・ロス節といえる享楽的・性的なニュアンスを帯びつつ、ストリート感覚と自信に満ちた態度を前景化している。ここでのエドワードは派手なソロ以上に、リフとフィルの精妙さによって曲全体をドライブさせており、“ギター・ヒーロー”を超えたリズム・ギタリストとしての優秀さが際立つ。ライヴ映えする楽曲としても非常に強い。
5. Tora! Tora!
短いインタールード的な楽曲だが、アルバム全体のトーンを決定づける意味で見逃せない。タイトルは歴史的な語感を持ち、サウンドもノイジーで緊張感があり、作品に一瞬の異物感をもたらす。ここでは“曲”というより、“アルバムの流れの中に挿入された攻撃的な音響断片”として機能しており、Van Halenが単なるキャッチーなシングル志向ではないことを示す。雑然としたエネルギーをそのまま提示するようなこの短いトラックは、次曲への導火線として強力で、アルバムの構成にライヴ的な連続性を与えている。初期Van Halenの粗野な魅力が凝縮された瞬間でもある。
6. Loss of Control
『Women and Children First』の中でも最も過激で、最もコントロール不能な印象を与える一曲。タイトルの通り、この曲のテーマは“制御の喪失”であり、その内容は演奏、ヴォーカル、テンポ感、音響のすべてに表れている。ドラムは暴れ回るように展開し、ギターは切迫感を保ちながら鋭利に突き刺さる。デイヴィッド・リー・ロスの歌唱も、メロディよりテンション優先で、騒乱に近い熱量を帯びる。ここでVan Halenは、ハードロックの快楽を洗練ではなく混沌によって生み出しており、のちのLAメタル勢にはあまり継承されなかった、彼ら固有の危険な側面が前面に出ている。アルバム中もっともラディカルな楽曲の一つであり、バンドのアグレッシヴな本質を理解する上で重要である。
7. Take Your Whiskey Home
この曲ではブルース・ロックの感覚が比較的明快に表れており、アルバムの中でもとりわけ“アメリカ的”な響きを持つ。酒、享楽、退廃、だらしなさといったロックンロールの伝統的モチーフが中心にあり、タイトルからしてすでにデイヴィッド・リー・ロスらしい下世話さが前面に出ている。ただし、単なる酔いどれソングではなく、ギター・リフの緊張感やコーラスの分厚さによって、曲はしっかりとハードロックとしての重量感を保つ。マイケル・アンソニーのコーラスが持つ抜けのよさは、こうした泥臭い楽曲に独特の明るさを与えており、Van Halenのサウンドが単に暗く沈みきらない理由の一つになっている。バンドのルーツ感覚が見えやすい佳曲である。
8. Could This Be Magic?
本作の中では異色のアコースティック寄りナンバーであり、Van Halenの多面性を示す重要曲。ハードロック・バンドとしての攻撃性を一時的に和らげながらも、ここで聴けるのは繊細なバラードというより、酔いとユーモアと素朴さを帯びたアメリカーナ的な小品である。アコースティック・ギターの響きと軽やかなノリは、バンドがロックンロールの原初的な楽しさをどれだけ自然に扱えるかを示している。歌詞も幻想的な恋愛賛歌というより、軽妙でやや胡散臭いロマンティシズムとして機能しており、デイヴィッド・リー・ロスのキャラクターとよく合っている。アルバム全体の荒々しい流れの中で、緩急を与える役割を果たしている。
9. In a Simple Rhyme
アルバムを締めくくるにふさわしい、構成面でも感情面でも充実した楽曲。イントロからすでに独特の哀感と高揚感が同居しており、本作が単なる乱痴気騒ぎの記録ではないことをはっきり示している。メロディは比較的抒情的だが、演奏は甘さに流れず、あくまでVan Halenらしい張りのある音で統一されている。歌詞はタイトルが示す通り、単純な韻や言葉遊びの中に感情を託そうとするような性格を持ち、アルバム内ではやや内省的な響きがある。エドワードのギターはここで、技巧の誇示とメロディックな表現を高水準で両立させており、プレイヤーとしてだけでなく、曲想を形作るアレンジャーとしての資質も強く感じられる。ラストに向けての展開は劇的で、アルバム全体をただの粗野な作品ではなく、構成美を備えた作品として完結させている。
総評
『Women and Children First』は、Van Halenの初期作品群の中でも特に荒々しく、重く、そして野心的なアルバムである。デビュー作の衝撃や『1984』のような大衆的成功と比べると、やや中間的な位置に置かれがちな作品ではあるが、実際にはバンドの個性が最もむき出しになった一枚のひとつといえる。ここには、エドワード・ヴァン・ヘイレンの革新的ギターだけでなく、リフ作家としての優秀さ、バンド全体のグルーヴ、デイヴィッド・リー・ロスの扇動的な存在感、そしてアメリカン・ハードロックとしての雑食性が詰まっている。
音楽的特徴としては、リフ中心の構築、ライヴ感の強い演奏、ブルース由来の粘り、そして混沌すら魅力へ転化するアレンジが挙げられる。前2作と比べて、よりダークで硬質な表情を持つ一方、ユーモアや享楽性は失われておらず、そのコントラストがアルバムを独特のものにしている。Van Halenはしばしば“明るく派手なハードロック・バンド”として記憶されるが、本作を聴くと、彼らが実はかなりラフで危険なエネルギーを内包したバンドだったことがよく分かる。
歴史的に見ても、この作品は1980年代ハードロックの発展に大きな影響を与えた。ギター・ヒーロー文化、パーティー性、性的挑発、アリーナ級のスケール感といった要素は、のちの多くのアメリカン・ロック・バンドに受け継がれていく。ただし、『Women and Children First』の価値はその影響力だけではない。ここには、まだフォーマットに回収されきっていない、Van Halen本来の暴れ方がある。だからこそ本作は、後続バンドが模倣した“スタイル”よりも、Van Halenそのものの“衝動”に近い。
Van Halenを代表作から順に追うリスナーにとっても、本作は避けて通れない。特に、キャッチーさだけでなく、バンドのヘヴィでラフな側面、初期80年代アメリカン・ハードロックの原型、そしてエドワードのリフ感覚をじっくり味わいたいリスナーには非常に重要な一枚である。華やかなヒット曲集としてではなく、バンドの筋肉質な本質が刻まれた作品として、本作は今なお高い評価に値する。
おすすめアルバム
- Van Halen『Fair Warning』
本作のダークさやストリート感をさらに推し進めた作品。初期Van Halenの攻撃性をより深く味わいたい場合に最適である。
– Van Halen『Van Halen II』
本作直前のアルバムで、より明快なハードロックと若々しい勢いが前面に出ている。『Women and Children First』との変化を比較すると興味深い。
– Montrose『Montrose』
サミー・ヘイガー在籍時の名作で、アメリカン・ハードロックの豪快さとリフ主導の魅力を備える。Van Halenの系譜を考える上でも重要。
– Aerosmith『Rocks』
下世話さ、グルーヴ、ブルース感覚、ロックンロールの猥雑さという点で、本作と深い共通性を持つ70年代ハードロックの古典。
– AC/DC『Highway to Hell』
シンプルなリフを最大限の推進力へ変える手法、享楽性と硬質さの両立という面で、『Women and Children First』と並べて聴く価値の高い作品。

コメント