
発売日:2002年11月19日
ジャンル:Country Rock / Folk Rock
概要
Running Horseは、Pocoが2002年に発表したスタジオ・アルバムである。1960年代末から活動し、カントリーとロックを結びつけるうえで大きな役割を果たしたPocoだが、本作は長いキャリアを経た彼らが、自分たちの得意とするスタイルへ自然に戻った作品として聞ける。中心となるのはPaul Cotton、Rusty Young、Jack Sundrud、George Granthamで、初期からバンドを支えてきたYoungとGranthamを含む編成によって制作された。
1970年代のPocoでは、ペダル・スティール・ギターやアコースティック楽器と、ロックバンドらしいリズム、複数人のハーモニーが重要だった。本作でも基本的な考え方は変わらない。2000年代の作品だからといって大幅に電子化することはなく、ギター、ベース、ドラムを軸に、Rusty Youngのスティール・ギターやマンドリンなどを加えている。演奏には長い活動歴を持つバンドらしい落ち着きがあり、速さや音圧よりも各パートが互いを邪魔しないことを重視した音作りだ。
歌詞も若いバンドのような反抗や衝動より、時間の経過、愛情、別れ、旅、過去との付き合い方へ目を向けている。初期Pocoの軽快なカントリー・ロックをそのまま再現するのではなく、メンバー自身の年齢やキャリアに合った穏やかな音楽へ変化させている点が、本作を単なる回顧作にしていない。
全曲レビュー
1. 「One Tear at a Time」
アコースティックな響きと穏やかなリズムによって始まり、本作の肩の力が抜けたサウンドを最初に示す。タイトルが示すように、感情的な痛みを一度に解決するのではなく、少しずつ受け止めていく姿勢が中心にある。ボーカルも悲しみを大げさに表現せず、長く経験を積んだ人物が過去を振り返るような落ち着きを持つ。コーラスの重なりもPocoらしく、柔らかな導入曲になっている。
2. 「Every Time I Hear That Train」
列車というカントリーやフォークで古くから使われてきたイメージを軸に、記憶と距離を結びつける。一定のリズムが列車の動きを思わせる一方、ギターやコーラスには広い空間が残されており、演奏は必要以上に忙しくならない。列車の音が過去の人や場所を呼び戻すという構図によって、移動そのものより、離れたものを思い出す瞬間に焦点を当てている。
3. 「If Your Heart Needs a Hand」
親密なボーカルと滑らかなハーモニーを中心にしたラブソングである。相手を劇的に救うと宣言するのではなく、必要なときに支えようとする語り口が曲の穏やかな演奏とよく合う。Pocoのコーラスは声を厚く重ねながらも主旋律を覆わず、サビのメロディを自然に広げていく。カントリーの素朴さと1970年代以降のウェストコースト・ロック的な滑らかさが交わる一曲だ。
4. 「Never Loved… Never Hurt Like This」
愛情の強さと、それを失うことで生まれる痛みを表裏一体のものとして描く。演奏は歌詞に合わせて抑制されており、派手なギターで感情を説明するより、ボーカルの旋律と声の重なりを中心に進む。若い恋愛の混乱というより、傷つく可能性を知ったうえで誰かを愛する感覚が前面に出るため、本作の成熟した視点がよく表れている。
5. 「Forever」
ゆったりとしたテンポの中で、長く続く関係への思いをまっすぐに聞かせる。アコースティック楽器を中心とした温かい音色と、Pocoが長年磨いてきたハーモニーが曲の核であり、複雑な展開を作る必要がない。タイトルの大きな言葉に対して演奏を過度に壮大にしないことで、永続する愛情を日常に近い感覚として表現している。
6. 「Never Get Enough」
ここではリズムが前に出て、前半のバラード中心の流れに動きを加える。ギターも伴奏だけに徹するのではなく、ボーカルの隙間へ短いフレーズを入れ、バンドとしてのやり取りを聞かせる。欲求や愛情が満たされてもなお相手を求める感覚を扱い、内省的な周囲の曲より直接的だ。穏やかな作品の中でも、Pocoがロックバンドであることを思い出させる場面になっている。
7. 「If You Can’t Stand to Lose」
失うことを恐れるなら、そもそも深く関わることも難しいという考えを軸にした曲で、恋愛を単純な幸福として描かない。サウンドにはカントリー色がありながら、リズム隊は安定したロックの感触を保つ。ボーカルにも過剰な悲壮感はなく、経験から得た教訓を相手に伝えるように進むため、アルバムが繰り返し扱う「時間を経た人間関係」という視点が自然に表れている。
8. 「I Can Only Imagine」
柔らかなメロディを中心に、手の届かないものへ思いを向ける感覚を描いていく。楽器を大量に重ねるよりも、ボーカルの周囲にギターやリズムを配置することで、言葉が聞き取りやすい作りになっている。想像することと現実との距離が曲の余白につながっており、強い結論へ向かわずに感情を残すところも、この時期のPocoらしい落ち着きにつながっている。
9. 「Shake It」
タイトル通り、ここではアルバムの中でも軽快な演奏が前面に出る。ドラムとベースがはっきりした拍を作り、その上でギターが短いフレーズを交わすため、前後の穏やかな曲より身体的なリズムを感じやすい。深い物語を聞かせるというより、バンドが一緒に演奏する楽しさを優先したナンバーで、後半に入ったアルバムのテンポを立て直している。
10. 「That’s What Love Is All About」
恋愛を一時的な高揚だけでなく、相手を受け入れながら関係を維持することとして捉えている。メロディは親しみやすく、複数の声が重なることで歌詞の肯定的な調子を広げる。技巧を目立たせないアレンジだが、各楽器が歌を支える位置を守っているため、長年セッションとツアーを経験してきたメンバーらしい安定感がよく分かる。
11. 「Running Horse」
表題曲では「走る馬」というイメージが、自由や移動、束縛されない生き方を連想させる。Pocoにとって西部的なイメージは初期からカントリーとの結びつきを示す重要な要素だったが、ここでは若々しい冒険というより、長い時間を経ても前へ進み続ける感覚に近い。開放的な演奏とスティール・ギターの響きがその景色を広げ、アルバム名を担うにふさわしい曲になっている。
12. 「Nothing Less Than Love」
最後はアルバムを通して何度も扱われてきた愛情という題材へ戻る。ここで求められているのは曖昧な関係ではなく、十分な愛情そのものであり、タイトルにもその姿勢が率直に表れている。演奏は終幕だからといって過度に大きくならず、歌とハーモニーを中心にまとめられる。大げさな結論を置かず、人間関係についての落ち着いた視点を保ったまま作品を閉じていく。
総評
Running Horseの魅力は、Pocoが自分たちの過去を誇張して再現しようとしていないことにある。ペダル・スティールやアコースティックギター、柔らかなハーモニーといった長年の特徴は残っているが、それらを「1970年代らしさ」の記号として派手に強調してはいない。ロックとカントリーの融合が珍しくなくなった時代だからこそ、ジャンルを混ぜること自体より、歌と演奏を自然に結びつける技術が前面に出ている。
特にボーカル・ハーモニーは、このバンドの個性が最も分かりやすく残った部分である。一人の強烈なリードシンガーに依存せず、複数の声を重ねることでサビを広げる方法は初期からのPocoに通じる。それに対して楽器は比較的控えめで、スティール・ギターやエレクトリックギターも長いソロを取るより、歌の周囲へ短い色を加えることが多い。この抑制によって、メンバーの演奏力を見せつける作品ではなく、楽曲そのものを中心としたアルバムになった。
歌詞では愛や別れが大きな比重を占めるため、題材の幅が非常に広い作品ではない。しかし、若い恋愛の興奮だけを歌うのではなく、傷ついた経験や時間の経過を前提として関係を見つめることで、当時のPocoにふさわしい視点を作っている。列車や馬といったカントリーで馴染み深いイメージも、単なる懐古趣味ではなく、記憶や移動、自由を表す道具として機能する。
1970年代初頭には先進的だったカントリー・ロックという方法は、Running Horseが登場した2002年にはすでにアメリカ音楽の一般的な語彙になっていた。その意味で本作は、新しいジャンルを切り開くアルバムではない。むしろ、その語彙を作る側にいたPocoが数十年後にも無理なく同じ音楽を演奏できることを示した作品である。派手な刷新より、メロディ、ハーモニー、簡潔な演奏を優先したところに、後期Pocoならではの価値がある。
おすすめアルバム
Pickin’ Up the Pieces by Poco
1969年のデビュー作で、カントリーの楽器とロックバンドの推進力を結びつけた初期Pocoの姿を確認できる。Running Horseの落ち着いた演奏と比べると若々しく、同じ基本要素が長いキャリアの中でどう変化したかが分かる。
A Good Feelin’ to Know by Poco
初期Pocoの演奏力とコーラスワークが充実した作品。カントリー色を保ちながらロックとしての力強さも増しており、Running Horseで穏やかに使われるギターやハーモニーが、若い時期にはどれほど勢いを持っていたかを比較できる。
Legend by Poco
「Crazy Love」「Heart of the Night」を収録し、Pocoがより滑らかなポップ/ウェストコースト・サウンドへ接近した作品である。Running Horseの親しみやすいメロディと整ったアレンジには、この時期に確立された方向性とのつながりが見える。
Sittin’ In by Loggins and Messina
元PocoのJim MessinaがKenny Logginsと組んだ作品で、カントリー、フォーク、ロックを滑らかなハーモニーと演奏でつないでいる。Pocoとは異なる道を進みながら、1970年代の西海岸で育った音楽的な感覚を共有する一枚だ。
Desperado by Eagles
カントリー・ロックを物語性の強い楽曲と精密なコーラスへ発展させた作品。Pocoより劇的なアルバム構成を取る一方、アコースティック楽器とロックのリズム、複数人のハーモニーを自然に結ぶ方法には明確な共通点がある。

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