
発売日: 1982年11月
ジャンル: カントリーロック、AOR、ハートランド・ロック
概要
『Ghost Town』は、Poco が1982年に発表した14作目のスタジオアルバムである。
前作『Blue and Gray』が南北戦争をテーマにしたコンセプト作品であったのに対し、本作はよりパーソナルで、“荒涼とした心の風景”に焦点を当てている。
タイトルの“Ghost Town(ゴーストタウン)”は、
- 過去の思い出が抜け殻のように残る場所
- 繁栄のあとに訪れる静寂
- 心の荒野
を象徴するモチーフとして使われており、アルバム全体に漂う“静かで乾いた寂しさ”の源泉となっている。
サウンドは80年代初頭という時代背景を反映し、
- AOR 的な滑らかさ
- 透明感のあるエレクトリックピアノ
- タイトなリズム
- 控えめだが美しいコーラス
が基盤となっている。
70年代のアコースティック主体のカントリーロックとは異なり、都会的で洗練された音像へとシフトした作品だ。
その一方で、ポール・コットンとラスト・グリフィンという2人の個性が作り出す南部的ルーツの温かみも健在で、
“荒涼 × 温度感”
という二重構造が『Ghost Town』の魅力を形成している。
本作は大ヒットこそしなかったが、ファンの間では“80年代Poco のベストワーク”と評価されることも多く、静かな再評価が進むアルバムである。
全曲レビュー
1曲目:Days Gone By
静かに染み入るような幕開け。
心に残る後悔や未練を優しく掘り下げる歌詞と、透明なサウンドが美しい。
“過ぎ去った日々”というテーマがアルバム全体のトーンを定義する。
2曲目:Daylight
軽快でポップなAOR寄りのナンバー。
都会的な明るさがあり、『Ghost Town』の中では比較的軽やかな存在。
しかし歌詞には“光を求める心”があり、アルバムの乾いたムードとの連続性もある。
3曲目:The Midnight Rodeo (In the Lead Tonight)
ロック色が強めで、ポール・コットンらしいスワンプ感が漂う。
乾いたギターが印象強く、都会の夜の底にある“孤独と衝動”を描いた好曲。
4曲目:Ghost Town
タイトル曲にしてアルバムの中心。
静けさが心を締め付けるようなミドルバラードで、
“人がいなくなった風景と、心の空白の重なり”
というテーマが深く響く。
Poco のカタログの中でも特に情緒濃度の高い曲だ。
5曲目:Shoot for the Moon
明るいメロディと柔らかいハーモニーが心地よいポップ寄りの曲。
“月を狙え”というタイトルは前向きだが、歌詞はどこか切なさを含んでいる。
都会的AOR色が最も強い一曲。
6曲目:The Last Goodbye
感傷的なバラード。
別れをテーマにしており、ボーカルの温度感が非常に丁寧に表現されている。
アコースティックの温かさと80年代的なシンセの空気がバランス良く融合している。
7曲目:Break of Hearts
ロマンティックなメロディを持つミッドテンポ曲。
“心が音を立てて崩れる瞬間”を描いた歌詞が、本作特有の“壊れそうな静けさ”を強調する。
8曲目:Down on the River Again
ブルージーで南部色の強い楽曲。
河辺の情景が濃厚に浮かび上がるようなスワンプ感が、アルバム後半に深みを与える。
前作との連続性が特に強く感じられる一曲。
9曲目:The Writing on the Wall
シリアスなトーンのロック寄りの曲。
運命の予兆や危機感がテーマで、ドラマティックな展開が印象的。
アルバムの後半を引き締める存在。
10曲目:Down to the Wire
緊張感あるギターとテンポが特徴のラストナンバー。
アルバムを重く深い余韻とともに締めくくる、強いインパクトを持ったエンディングである。
総評
『Ghost Town』は、Poco が80年代という新しい時代に完全に歩みを進めた瞬間を捉えた作品だ。
アコースティック中心の牧歌性から距離を置き、
AOR の滑らかさ × カントリーの温もり × 荒涼とした情緒
という独自の音世界を形成している。
このアルバムの特徴は、
- 静かな哀愁
- クリアな80年代プロダクション
- 都会と田舎の空気の混ざり合い
- 感情の内側にある“乾いた痛み”
にあり、Poco の作品群の中でも最も映画的で陰影のある一枚と言える。
派手さはないが、何度聴いても味わいが深まり、
“夜の静けさに寄り添うアルバム”
として高い完成度を誇る。
おすすめアルバム(5枚)
- Blue and Gray / Poco
前作であり、ストーリーテリングの深さを比較すると興味深い。 - Legend / Poco
都会的AOR路線の基盤となった重要作。 - Ghost Riders / New Riders of the Purple Sage
同時期の西海岸カントリーの“陰影ある側面”を共有する。 - The Long Run / Eagles
都会的で少し乾いたハートランド感と比較できる。 - American Fool / John Mellencamp
80年代アメリカーナとロックの接続が近い作品。
歌詞の深読みと文化的背景
『Ghost Town』の情景は、1980年代初頭のアメリカの空気を強く映している。
- 経済の再構築期
- 産業構造の変化
- 小さな町の衰退
- “昔のままではいられない”という焦燥
こうしたリアルな社会状況が、“ゴーストタウン”という象徴的モチーフに重なっている。
曲の多くは、
変わってしまった世界の中で感情や記憶をどう扱うか
というテーマを抱えており、前作の歴史的スケールとは異なる
“個人の静かな闘い”
が描かれている。
そのため、本作は時代背景を超えて普遍性を獲得しており、現代のリスナーにも強く響く内容となっている。



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