アルバムレビュー：Want by 3OH!3

発売日: 2008年7月8日
ジャンル: エレクトロポップ、ヒップホップ、クラブ・パンク

概要

『Want』は、3OH!3が2008年にリリースしたメジャーデビュー・アルバムであり、インディーズ的過激さとポップシーンの即効性を融合させた一撃必殺の衝撃作である。

コロラド州出身のSean ForemanとNathaniel Motteによるデュオは、本作によってMySpace時代のカルト的存在から、全米を席巻するポップ・モンスターへと進化。

その象徴ともいえるのが、全米トップ10入りを果たしたシングル「Don’t Trust Me」。
性、メディア、消費文化を皮肉りながらも、そのキャッチーさと大胆不敵な態度によって、パーティーアンセムとして爆発的な人気を獲得した。

ジャンル的にはエレクトロクラッシュ、ダーティー・ヒップホップ、クラブ・ポップを土台としつつ、サブカルの悪ふざけと、ティーン文化の享楽主義が絶妙にブレンドされている。

『Want』は、2000年代後半のアメリカにおける「若者文化の躁状態」を記録したドキュメントともいえる、アグレッシブかつアイロニカルなポップ・アルバムである。

1. Tapp
ノイズ交じりのイントロと共に始まる、狂騒の序章。
重くうねるビートと暴力的なヴォーカルが、これからの破壊的世界観を予告する。

2. Punkbitch
女性像を過激に揶揄する歌詞で物議を醸したが、皮肉の効いたストーリーテリングが光る。
エレクトロパンク的なラフなギターとビートが、3OH!3の反骨性を象徴。

3. Don’t Trust Me
彼ら最大のヒット曲。
「Shush girl, shut your lips〜」のフレーズがあまりにも有名で、性的・文化的挑発に満ちた歌詞と中毒性のあるビートが特徴。
ポップへの接近と不遜さの同居が生んだ奇跡の一曲。

4. Chloe (feat. Dmotional)
ミッドテンポのデジタルR&B的ナンバー。
女性との心理的駆け引きをコミカルに描写し、メロディとリズムのバランス感覚が光る。

5. I’m Not Your Boyfriend Baby
インディーズ時代からの代表曲を再録。
“恋人にならない”と叫ぶ姿勢は、恋愛神話へのアンチテーゼとして機能。
サウンドも洗練され、攻撃性とポップ感の調和が取れたリマスター版。

6. I Can’t Do It Alone
珍しく内省的なテーマで、孤独や無力感を描く。
柔らかいメロディラインとエレクトロ・トラックが、3OH!3の裏の顔を覗かせる。

7. Starstrukk
後にKaty Perryとのコラボ版も話題に。
ここでは原曲のローファイで直情的な魅力が全面に出ており、有名人崇拝文化の虚しさを笑い飛ばすようなリリックが秀逸。

8. Richman
「金がなくても俺は“リッチマン”だ」という貧者の逆転宣言。
イケてない自分をアイロニカルに肯定する歌詞が、ティーン世代に強く響いた。
3OH!3流ポジティブ・アグレッションの代表例。

9. Photo Finish
スロウなテンポで構成された、やや内省的な一曲。
人間関係の勝敗やタイミングを「ゴールライン直前の競り合い」に喩えたメタファーが印象的。

10. Still Around
音数を絞ったストイックなエレクトロ・バラード。
「ずっと君のそばにいる」という直球の愛情表現が、逆にこのアルバムでは異質に響く。

11. Holler Til You Pass Out
初期からの人気曲の再録。
ライブ映えするパーティー・チューンとしての勢いはそのままに、音質や構成が向上している。

12. Colorado Sunrise
本作の締めくくりにふさわしい美しいトラック。
地元コロラドを舞台に、愛と風景を重ねた叙情的なラブソングで、暴れ回ったアルバムに静かな余韻をもたらす。

『Want』は、3OH!3というグループが「ふざけているようで真剣」であり、「バカっぽいのに計算されている」ことを証明した突破作である。

ティーン・パーティー文化への共感と批判、ポップへの欲望とその拒絶――あらゆる二項対立を越境するかのように、彼らはあらゆる表現を“盛って”提示してみせた。

サウンド的には、エレクトロのビートにラップ、シャウト、シンガロングとあらゆる要素を詰め込み、ジャンルの境界を破壊するような構成が中心。

だが、注目すべきはその“知性”である。
たとえば「Don’t Trust Me」では、キャッチーなメロディの裏に、ポップカルチャーへの強烈な風刺が込められており、それを“ノリ”として成立させるセンスは極めて高度だ。

『Want』は、混沌と過剰の時代に生まれた“現代的カーニバル・ポップ”であり、その過激さゆえにこそ、今なおカルト的な輝きを放っている。

これは、派手なだけの一発屋アルバムではない。
時代の無意識を、パリピな仮面をかぶって描き出した、鋭くも笑える青春の記録なのだ。

『Want』の歌詞世界には、「消費される自分」と「消費を楽しむ自分」の間で揺れる葛藤が垣間見える。

「Starstrukk」では、セレブに夢中になる女の子たちを茶化すように描きつつ、自分たちもその“消費される側”に入り込んでいることを自覚している。

「Don’t Trust Me」は、恋愛という制度そのものを疑い、メディアが作り出す女性像と、それに翻弄される若者たちを冷笑する視点を内包している。

そして「Colorado Sunrise」で示される地元への愛情と静かな語り口は、アルバム全体の“仮面”を一瞬外したような素顔のメッセージとして、強い余韻を残す。

このアルバムが持つ風刺性は、単なるティーンの戯れにとどまらず、「ポップとは何か」「若者文化とは何か」という問いを投げかけているのかもしれない。