発売日: 1997年7月15日
ジャンル: インディーポップ、ローファイ、サイケデリックポップ
アルバム全体の印象
「Cherry Peel」は、インディーポップバンドof Montrealのデビューアルバムであり、バンドの創設者であるケヴィン・バーンズのパーソナルでDIYなアプローチが色濃く反映された作品だ。エレファント6コレクティブの一員として、60年代のポップサウンドとサイケデリックな要素を融合させたスタイルが特徴的で、同時期の中でも特に親密で温かみのあるアルバムとなっている。
アルバム全体の音はローファイで素朴だが、その中にバーンズの鋭いソングライティングと感情的な深みが感じられる。歌詞は愛、自己の探求、若者特有の不安と希望に満ちており、どの楽曲も繊細で、まるで日記のページをそのまま音楽にしたかのような親密さを持つ。ギター、ベース、簡素なドラム、時折挿入される鍵盤楽器が中心のシンプルなアレンジは、ケヴィン・バーンズの個性を際立たせる役割を果たしている。
デビュー作でありながら、「Cherry Peel」にはof Montrealのその後の音楽的進化の萌芽が見られる。サイケデリックポップとインディーロックの間を縫うようなサウンドスケープが、彼らの持つ独特の魅力を予感させる一枚だ。
各曲解説
1. Everything Disappears When You Come Around
オープニングトラックは、シンプルなアコースティックギターとバーンズの柔らかなボーカルで始まる。愛する人の存在が世界を変えるというテーマが、飾らないリリックと温かなメロディで表現されている。軽やかだが、心に深く響く一曲。
2. Baby
ミニマルなアレンジの中で、バーンズの歌声が優しく響く。恋愛の初期の甘美な感覚を描いた歌詞が印象的で、聴いていると無邪気な喜びが伝わってくるようだ。
3. I Can’t Stop Your Memory
切なさが漂うメロディが特徴の楽曲。失恋の痛みをテーマにした歌詞は普遍的で、バーンズのストレートな表現が聴き手の心に訴えかける。
4. When You’re Loved Like You Are
明るいメロディが魅力の楽曲。60年代のポップソングを彷彿とさせるハーモニーが心地よい。愛されていることの幸福感を歌った内容はシンプルながら感動的だ。
5. Don’t Ask Me to Explain
バーンズの歌詞が最もパーソナルに感じられる一曲。複雑な感情を繊細に描き出しながら、サウンドは軽快でポップ。対比が印象に残る楽曲だ。
6. In Dreams I Dance With You
夢と現実の間にある曖昧な感覚を描写した楽曲。繰り返されるメロディが催眠的な雰囲気を醸し出し、心地よい浮遊感を与える。
7. Sleeping in the Beetle Bug
ローファイな録音が曲の素朴な魅力を引き立てる。まるで個人的なエピソードをそのまま歌にしたような親密さがあり、聴く人を穏やかな気持ちにさせる。
8. Tim I Wish You Were Born a Girl
ユーモラスでユニークなラブソング。友人への複雑な感情を率直に歌い上げた歌詞が新鮮で、バーンズの遊び心が感じられる一曲だ。
9. Montreal
バンド名にも通じる曲で、郷愁と喜びが入り混じった歌詞が印象的。控えめなアレンジの中に、心の奥深くに触れるような美しさがある。
10. This Feeling (Derek’s Theme)
短くもエモーショナルなトラックで、アルバム全体の中で一つのブリッジのような役割を果たしている。インストゥルメンタル的な要素も感じられる構成だ。
11. Panda Bear
楽しいリズムと明るいメロディが特徴の楽曲。歌詞の内容は遊び心があり、ポップソングとしての魅力が詰まっている。
12. A Pretty Girl Is Like…
シンプルなコード進行と詩的な歌詞が融合した一曲。バーンズの声が特に親密に響き、歌詞にはロマンティックなテーマが散りばめられている。
13. Jaclyn of the Roses
ノスタルジックなムードを感じさせる楽曲。メロディは穏やかだが、歌詞にはほのかな哀愁が漂い、アルバムの流れを美しく締めくくる。
14. You’ve Got a Gift
アルバムのエンディングにふさわしい、優しく穏やかな曲。感謝の気持ちが込められた歌詞と、シンプルなサウンドが温かい余韻を残す。
アルバム総評
「Cherry Peel」は、of Montrealのスタート地点であり、彼らの音楽的な個性と感情的な深みを感じることができる重要な作品だ。ローファイな音質やシンプルなアレンジは、ケヴィン・バーンズのソングライティングをより引き立て、聴き手に親密な体験を提供している。後の作品で見られるサイケデリックで華やかなサウンドとは異なり、このアルバムはその素朴さと純粋さで特別な魅力を放っている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
「The Gay Parade」 by of Montreal
of Montrealの次作で、よりカラフルでサイケデリックな要素が加わった。ポップなメロディはそのままに、音楽性の広がりを楽しめる。
「In the Aeroplane Over the Sea」 by Neutral Milk Hotel
エレファント6コレクティブの別のアーティストによる名作。ローファイなサウンドと感情的な歌詞が「Cherry Peel」に共通している。
「Bee Thousand」 by Guided by Voices
DIY精神とローファイな録音が特徴的なアルバムで、シンプルなサウンドが好きな人におすすめ。
「Tigermilk」 by Belle and Sebastian
甘くメランコリックなポップソングが詰まったデビューアルバム。親密な雰囲気が「Cherry Peel」に通じる。
「Revolver」 by The Beatles
60年代ポップの影響を感じるなら、of Montrealのルーツともいえる名盤。シンプルな美しさと実験精神が融合している。
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