発売日: 2009年6月23日
ジャンル: カバー・アルバム、オルタナティヴ・ロック、フォーク、パンク、サイケデリック
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. I Just Can’t Take It Anymore（Gram Parsons）
- 2. Fragile（Wire）
- 3. Layin’ Up with Linda（GG Allin）
- 4. Waiting Around to Die（Townes Van Zandt）
- 5. Green Fuz（Randy Alvey & Green Fuz）
- 6. Yesterlove（Smudge）
- 7. Dirty Robot（Arling & Cameron feat. Kate Moss）
- 8. Dandelion Seeds（July）
- 9. New Mexico（FuckEmos）
- 10. Hey, That’s No Way to Say Goodbye（Leonard Cohen）
- 11. Beautiful（Christina Aguilera）
- 総評
- おすすめアルバム
- ファンや評論家の反応
概要
『Varshons』は、The Lemonheadsが2009年に発表した初のフルカバー・アルバムであり、
エヴァン・ダンドゥという音楽家の**趣味性と選曲眼がダイレクトに反映された“混沌と親密のミックステープ”**のような作品である。
アルバムのプロデュースはあのギボンズ（Butthole Surfersのギブ・ギボンズ）が担当。
ゲストにはモデルのケイト・モス（ヴォーカル参加）やLiv Tyler（映画女優）などが登場し、
The Lemonheadsの作品としては異例の“外部との接続”が強く打ち出されている。
選ばれたカバー曲は、Townes Van ZandtやLeonard Cohenのような伝説的フォーク／SSWから、
GG Allin、Wire、Christina Aguileraに至るまで、ジャンルも精神性もバラバラ。
しかしそれらを**「エヴァンの声」で包むことで、すべてがLemonheadsらしい抒情に変換される**という、
非常にユニークで個人的な音楽の試みが実現されている。
全曲レビュー
1. I Just Can’t Take It Anymore（Gram Parsons）
グラム・パーソンズの隠れた名曲を、エヴァンが淡々とカバー。
疲労と諦めを含んだ歌声が、本家以上に胸に迫る。アルバムの空気感を決定づける静かなオープニング。
2. Fragile（Wire）
ポストパンクの先駆Wireのタイトな名曲を、ラフなパワーポップ風にアレンジ。
ノイズのバランスと甘めのヴォーカルが、絶妙なポップ性を引き出している。
3. Layin’ Up with Linda（GG Allin）
暴力と猥雑さで知られるGG Allinの楽曲を、意外にもポップで柔らかな演奏でカバー。
歌詞の狂気と演奏の清涼感の落差が妙にクセになる。
4. Waiting Around to Die（Townes Van Zandt）
フォークの巨人タウンズ・ヴァン・ザントの暗く沈んだバラッドを、
ほとんど原曲のテンションで再現。
エヴァンの“力の抜けた切実さ”が、絶望を希望に変えずにそのまま差し出してくる。
5. Green Fuz（Randy Alvey & Green Fuz）
1960年代ガレージロックのカルト・クラシック。
バンド編成が暴れる中、エヴァンの声はあくまでクール。パンキッシュな一服の煙のような短編。
6. Yesterlove（Smudge）
長年の盟友トム・モーガン率いるSmudgeの隠れた名曲を再解釈。
ややレトロでセンチメンタルな雰囲気が、Lemonheads流のオーストラリア讃歌にも聞こえる。
7. Dirty Robot（Arling & Cameron feat. Kate Moss）
テクノポップ・ユニットの楽曲にケイト・モスがヴォーカルで参加。
ローファイでスペーシーなサウンドとモデルとしての無機質な声の組み合わせが不思議な魅力を生んでいる。
8. Dandelion Seeds（July）
英国サイケのカルト・バンドJulyの楽曲。
浮遊感のあるギターとレトロなメロディが印象的。アルバム中でも最も幻想的な瞬間。
9. New Mexico（FuckEmos）
テキサスのカルト・バンドによる一曲。
演奏はややハードコア寄りだが、エヴァンの声が入ることで妙にポップな風通しが生まれている。
10. Hey, That’s No Way to Say Goodbye（Leonard Cohen）
カナダの吟遊詩人コーエンの名曲を、原曲のトーンに忠実にカバー。
囁くようなヴォーカルと、ギターの粒立ちの美しさが際立つ、極めてパーソナルな録音。
11. Beautiful（Christina Aguilera）
アルバム最大の意外性とも言えるポップスの名バラード。
グランジ的に歪んだギターに乗せて、エヴァンが囁くように歌い上げる。
自己肯定というテーマが、彼の壊れた声によって逆に説得力を持つ。
総評
『Varshons』は、The Lemonheadsというバンドが一時的に**“他者の声を借りて、自分を語る”という異色の実験である。
だがそれは決してパロディではなく、むしろ“自分が愛してきた音楽の断片を通してしか、今は自分を語れない”という切実さの現れ**である。
エヴァン・ダンドゥはこの作品で、
パンクの破壊衝動も、フォークの哀愁も、ポップの人工的なきらめきも、すべて自分の壊れた感性で受け止めては歌い返す。
それはつまり、「この世界にあるどんな音楽も、どんな感情も、自分の声で歌えば Lemonheads になる」ことの証明であり、
『Varshons』はまるで1本のカセットテープのように私的で、捨てられずに残る心の記録のようでもある。
おすすめアルバム
- Cat Power『The Covers Record』
同じく“自分を映す鏡としてのカバーアルバム”。静けさと誠実さが共通。 - Beck『One Foot in the Grave』
フォーク、パンク、ローファイを横断するスケッチ的名作。 - Mark Lanegan『I’ll Take Care of You』
ダークな声と解釈で歌うカバー集。Varshonsと精神的親和性が高い。 - Smudge『Manilow』
Tom Morgan率いるバンドの代表作。エヴァンとの世界観のルーツを知る鍵に。 - Silver Jews『American Water』
語りと歌の間にある美しさと破綻。エヴァンと似た“言葉の癖”がある。
ファンや評論家の反応
『Varshons』は「一貫性がない」「選曲がバラバラ」といった批判を受けつつも、
コアファンの間では**“エヴァンの精神状態を映す断片的な鏡”として評価が高い**。
特に「Beautiful」や「Waiting Around to Die」などの意外な楽曲の選び方が話題となり、
“壊れたポップスの再構築”という観点から、00年代インディーのカバー作品群の中でも異彩を放つ存在となった。
エヴァン・ダンドゥはここでもやはり、“完璧ではない何か”を届けてくれる。
そして私たちは、そこにこそ自分の痛みや記憶を重ねたくなるのだ。
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