
1. 楽曲の概要
「I’ll Do It Anyway」は、アメリカ・ボストン出身のオルタナティヴ・ロック・バンド、The Lemonheadsが1993年に発表した楽曲である。同年10月にAtlanticからリリースされたアルバム『Come On Feel The Lemonheads』に収録された。作詞作曲はEvan Dando。アルバムでは7曲目に置かれ、Belinda Carlisleがバッキング・ボーカルで参加している。
The Lemonheadsは、1980年代後半にはより荒いパンク/インディー・ロック色の強いバンドだったが、1992年の『It’s a Shame About Ray』で大きく評価を高めた。同作では、Evan Dandoの柔らかな声、短く整理されたメロディ、フォーク・ロックやパワー・ポップを含む親しみやすいサウンドが前面に出た。その翌年に発表された『Come On Feel The Lemonheads』は、前作の成功を受けて制作された作品であり、より長く、より多様で、時に散漫さも含むアルバムである。
「I’ll Do It Anyway」は、そのアルバムの中でも、The Lemonheadsらしい軽さと諦めの感覚が同居する曲である。メロディは明るく、ギター・ポップとして聴きやすい。しかし歌詞には、確信があるわけではないのに行動してしまう人物の姿が描かれる。タイトルの「I’ll Do It Anyway」は「それでも僕はやる」という意味で、開き直りにも、無謀にも、静かな決意にも聴こえる。
The Lemonheadsの魅力は、深刻な感情を重く演出しすぎないところにある。Evan Dandoは、失恋、怠惰、迷い、依存、軽薄さを、どこか風通しのよいメロディに乗せる。「I’ll Do It Anyway」もその典型であり、何かを深く考え抜いた末の決断ではなく、事実や根拠が足りないまま、それでも前へ出てしまう感覚をポップ・ソングにしている。
2. 歌詞の概要
「I’ll Do It Anyway」の歌詞は、確信のなさと行動の衝動を中心にしている。語り手は、すべての事実を把握しているわけではない。状況を完全に理解しているわけでもない。それでも「hunch」、つまり直感のようなものがあり、それに従って行動する。ここでの語り手は、理性的に判断している人物ではないが、完全に無責任とも言い切れない。
曲の中では、「計画されたことではない」「聞いたこととは違うかもしれない」「それでも世界は美しい」といった感覚が並ぶ。状況は曖昧で、未来もはっきりしない。しかし、語り手はその不完全さの中に留まらず、行動することを選ぶ。タイトルの言葉は、強い信念というより、迷いを抱えたままの前進として機能している。
この曲の歌詞は、The Lemonheadsの1990年代的な人物像とも重なる。Evan Dandoの楽曲には、社会的な成功や明確な目標に向かって一直線に進む人物よりも、曖昧な気分の中で何となく進んでしまう人物が多い。「I’ll Do It Anyway」でも、語り手は英雄的ではない。むしろ、事実が足りず、計画もなく、周囲の意見にも左右される。それでも自分の直感を捨てられない。
歌詞後半に出てくる「荒れた平原」「馬」「手綱」といったイメージは、曲に少し奇妙な余韻を与える。日常的な恋愛や人間関係の歌に見えたものが、突然、開けた土地と移動のイメージへ変わる。これは明確な物語というより、自由になりたい感覚、あるいは自分の進む方向を自分で握りたい感覚を示していると考えられる。
3. 制作背景・時代背景
『Come On Feel The Lemonheads』は、The Lemonheadsにとって商業的期待が大きくなった時期のアルバムである。前作『It’s a Shame About Ray』は、バンドの評価を大きく押し上げ、Simon & Garfunkelのカバー「Mrs. Robinson」も広く知られた。その結果、Evan Dandoは1990年代初頭のオルタナティヴ・ロック・シーンにおいて、インディー出身のソングライターでありながら、ポップ・スター的な注目も浴びる存在となった。
この時期のThe Lemonheadsは、パンク由来の粗さを残しながらも、フォーク・ロック、カントリー、パワー・ポップへ接近していた。『Come On Feel The Lemonheads』には、「Into Your Arms」のような明快なポップ・ソング、「Big Gay Heart」のようなカントリー色の強い曲、「Style」のように薬物や自己破壊的な態度を扱う曲が並ぶ。「I’ll Do It Anyway」は、その中で軽快なギター・ポップとして機能している。
Belinda Carlisleがバッキング・ボーカルで参加している点も、この曲の特徴である。CarlisleはThe Go-Go’sのボーカリストとして1980年代に成功し、ソロでもポップ・シンガーとして知られる存在だった。The Lemonheadsのインディー的な軽さに、彼女の明るい声が加わることで、曲はよりポップで開かれた響きを持っている。
ただし、『Come On Feel The Lemonheads』は前作ほど簡潔ではない。曲数も多く、隠しトラックを含む長い構成を持ち、評価はやや分かれた。『It’s a Shame About Ray』が短く鋭いアルバムだったのに対し、『Come On Feel The Lemonheads』はEvan Dandoの魅力と散漫さが両方出た作品である。「I’ll Do It Anyway」は、その中で彼の気まぐれさ、メロディの強さ、無防備な軽さがバランスよく出ている曲といえる。
4. 歌詞の抜粋と和訳
Ain’t got all the facts
和訳:
すべての事実を知っているわけじゃない
この一節は、語り手の立場をはっきり示している。彼は正確な情報や完全な理解を持っていない。にもかかわらず、そこで立ち止まるのではなく、直感に従って動こうとする。
I’ll do it anyway
和訳:
それでも僕はやる
このフレーズが曲全体の核である。強い信念の宣言というより、迷いや不完全さを認めたうえでの開き直りに近い。The Lemonheadsらしいのは、この言葉が大げさな決意ではなく、軽く口にされる点である。その軽さが、逆に曲のリアリティになっている。
It’s still a beautiful world
和訳:
それでも世界はまだ美しい
この一節には、曲の肯定的な側面が表れている。状況が計画通りでなくても、事実がそろっていなくても、世界そのものを完全には否定しない。The Lemonheadsの音楽にある、怠惰や混乱の中の小さな楽観がここに表れている。
引用した歌詞は、批評・解説に必要な範囲に限定した。「I’ll Do It Anyway」は、短い言葉の反復によって、不確かなまま動き出す感覚を描く楽曲である。
5. サウンドと歌詞の考察
「I’ll Do It Anyway」のサウンドは、The Lemonheadsらしい簡潔なギター・ポップを基盤にしている。ギターは過度に歪まず、軽く鳴る。コード感は明るく、曲全体には抜けのよさがある。歌詞に含まれる不確かさや無謀さは、重いサウンドではなく、軽快な演奏によって提示される。
リズムは安定しており、曲を短い時間で前へ進める。The Lemonheadsの楽曲は、しばしば2分台から3分台のコンパクトな構成を持つが、この曲もその流れにある。複雑な展開よりも、メロディとフレーズの反復を中心にすることで、タイトルの言葉が自然に耳に残る。
Evan Dandoのボーカルは、曲の意味を決定づけている。彼の声は柔らかく、力みが少ない。もし同じ歌詞を強く叫ぶように歌えば、曲は反抗的なロック・ソングになったかもしれない。しかしDandoの歌い方では、「それでもやる」という言葉が、気負いのない独り言のように響く。そのため、曲には大きな反抗よりも、ゆるい頑固さがある。
Belinda Carlisleのバッキング・ボーカルは、曲に明るいポップ感を加えている。The Lemonheadsはしばしば女性ボーカルとの相性がよく、Juliana Hatfieldの参加曲でも声の重なりが重要な役割を果たした。「I’ll Do It Anyway」では、Carlisleの声がDandoの少し曖昧な歌を支え、曲をより開かれたものにしている。
歌詞とサウンドの関係で見ると、この曲は「不確かな楽観」の歌である。歌詞では、事実が足りない、計画されていない、それでもやるという態度が示される。サウンドはその不安を暗く描くのではなく、軽く前へ流していく。つまり、曲そのものが「深く考えすぎずに進む」感覚を持っている。
アルバム『Come On Feel The Lemonheads』の中で見ると、「I’ll Do It Anyway」は中盤のポップな支点である。「Big Gay Heart」のカントリー的な広がりや、「Style」の荒さ、「Being Around」の短いユーモアと並ぶことで、アルバムの雑多な魅力を支えている。The Lemonheadsの魅力は、ひとつのトーンに統一されないところにもある。この曲は、その中でも最も聴きやすい部類に入る。
また、この曲はEvan Dandoの人物像とも重なる。1990年代の彼は、魅力的なメロディを書けるソングライターであると同時に、メディアからは気まぐれで危うい存在としても見られていた。「I’ll Do It Anyway」というタイトルは、そのイメージをそのまま肯定するものではないが、計画性よりも直感で動く人物の歌として、Dandoのキャラクターに強く結びつく。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Into Your Arms by The Lemonheads
『Come On Feel The Lemonheads』を代表するシングル曲であり、The Lemonheadsのメロディの強さが最も明快に出た楽曲である。「I’ll Do It Anyway」よりもロマンティックで、より完成度の高いポップ・ソングとして聴ける。
- It’s About Time by The Lemonheads
同じアルバムに収録された楽曲で、Evan Dandoの軽やかな歌唱とギター・ポップの親しみやすさがよく表れている。「I’ll Do It Anyway」の明るさが好きな人には、この曲の自然なメロディ展開も合う。
- My Drug Buddy by The Lemonheads
『It’s a Shame About Ray』収録曲で、Juliana Hatfieldの声が大きな役割を果たす楽曲である。「I’ll Do It Anyway」と比べると、よりけだるく、親密な空気を持つ。The Lemonheadsの陰影を知るために重要な曲である。
- Favorite T by The Lemonheads
『Come On Feel The Lemonheads』収録曲で、失われた関係を日用品の記憶から描く曲である。「I’ll Do It Anyway」の軽い語り口が好きな人には、この曲の小さな感情の扱い方も響きやすい。
- Spin the Bottle by The Juliana Hatfield Three
The Lemonheads周辺の1990年代オルタナティヴ・ポップを知るうえで聴きたい曲である。Juliana Hatfieldの声とメロディ感覚は、The Lemonheadsの同時代性を理解する助けになる。甘さと皮肉の混ざり方にも共通点がある。
7. まとめ
「I’ll Do It Anyway」は、The Lemonheadsの1993年作『Come On Feel The Lemonheads』に収録された楽曲であり、Evan Dandoの軽やかなソングライティングと、不確かなまま進む感覚がよく表れた曲である。Belinda Carlisleのバッキング・ボーカルも加わり、アルバムの中でも親しみやすいポップ・ソングになっている。
歌詞は、すべての事実を知っているわけではないが、それでもやるという態度を描く。これは強い信念というより、迷いを抱えたまま行動してしまう人間の姿である。The Lemonheadsらしいのは、その曖昧さを深刻に演出しすぎず、軽いメロディの中に置いている点である。
サウンド面では、明るいギター、安定したリズム、Dandoの柔らかな声、Carlisleのコーラスが曲を支えている。大きなドラマはないが、その気負いのなさが魅力になっている。「I’ll Do It Anyway」は、1990年代初頭のThe Lemonheadsが持っていたポップな才能、無防備さ、そして少し無責任な楽観をよく示す楽曲である。
参照元
- Come On Feel The Lemonheads – Wikipedia
- The Lemonheads – Come On Feel The Lemonheads / Discogs
- I’ll Do It Anyway – The Lemonheads / Spotify
- I’ll Do It Anyway – The Lemonheads / Apple Music
- I’ll Do It Anyway – The Lemonheads / Shazam
- The Lemonheads: Come on Feel 30th Anniversary Edition / Pitchfork
- The Alternative Number Ones: The Lemonheads’ “Into Your Arms” / Stereogum
- The Lemonheads review / Trouser Press

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