発売日: 2016年10月7日
ジャンル: シンセポップ、ニューウェーブ、ポストパンク・リバイバル
概要
『Friends』は、ロンドン出身のバンド White Lies による4作目のスタジオ・アルバムであり、
2016年という変化の多い時代に、“友情”という一見シンプルで普遍的なテーマを掲げた意欲作である。
前作『Big TV』では、都市の孤独やテクノロジーによる分断を描きながらも美しいポップ性を手に入れたWhite Liesだが、
本作ではさらに一歩進み、**“感情の共有”そのもの——とりわけ友情——がいかに曖昧で、かけがえのないものか”**という問いに取り組む。
サウンド面では、ギターよりもシンセとエレクトロニックな質感が前面に出ており、
1980年代のニューウェーブへのリスペクトを滲ませながら、ロマンティックでメロディアスな楽曲群が揃う。
一方で、疎外感、老い、離別、すれ違いといった裏テーマがアルバム全体に影を落としており、
単なる“明るい転換”ではなく、成熟と諦観を含んだ感情のスナップショットとして機能している。
全曲レビュー
1. Take It Out on Me
アルバムの冒頭を飾るエレクトロ・ポップの名曲。
「君が誰かに怒ってるなら、その怒りを僕に向けてくれていい」という、破滅的な優しさの歌。
軽快なビートと暗いリリックのギャップが、このアルバムのトーンを象徴する。
2. Morning in LA
シンセが心地よく駆け抜けるポップ・ナンバー。
タイトルとは裏腹に、ロサンゼルスの朝がもたらす空虚感がテーマ。
“夢を見ていたのに、何も変わっていなかった”というフレーズが印象的。
3. Hold Back Your Love
本作のハイライトとも言える、切実な愛の駆け引きを描いた感傷的なバラード。
「その愛を、なぜしまってしまうの？」という問いかけに、失われた親密さへの渇望が滲む。
4. Don’t Want to Feel It All
タイトル通り、“すべてを感じたくない”という感情の遮断をテーマにした楽曲。
感情を麻痺させることで自己防衛しようとする現代的な心理が、明るいシンセの裏に隠れている。
5. Is My Love Enough?
“僕の愛は、君にとって十分だった？”という、不安と自己疑念を主旋律にしたミディアム・ポップ。
歌詞のストレートさと、サビの高揚感がアンバランスで、聴く者を揺さぶる。
6. Summer Didn’t Change a Thing
“夏が来ても、何も変わらなかった”という脱力と哀愁を描いた楽曲。
シーズンの変化に心が追いつかない、年齢を重ねることへの違和感がさりげなく込められている。
7. Swing
恋愛にも似た“揺れ動く友情”を暗喩的に描いたナンバー。
ミニマルなビートと、サビでのエモーショナルな開放が対照的で、友情の不安定さを音で表現している。
8. Come On
“もう隠さないでくれ”という切羽詰まった呼びかけ。
誤解されたまま終わってしまいそうな関係への最後の言葉のようで、白昼夢的なシンセが印象的。
9. Right Place
“自分は正しい場所にいるのか？”という問いを、祈るようなボーカルとシンコペーションで描いたスロウバラード。
終盤にかけてのストリングスが感情を高める。
10. Don’t Fall
アルバムのクロージングは、支え合いながらも崩れそうな関係を留める祈りのようなバラード。
“倒れないで”という単純なフレーズに、これまでの楽曲すべての重みがのしかかる。
総評
『Friends』は、White Liesの音楽性が**“ダークで厳粛なポストパンク”から、“感情を宿したポップソング”へと移行したことを明確に示すアルバム**である。
とはいえ、それは妥協でも軟化でもなく、より成熟した音楽的選択と内面の深化によるものだ。
“友情”というテーマは、恋愛よりもずっと曖昧で説明しがたいが、
だからこそこのアルバムには、形にならない感情を音にするという使命感のような誠実さが漂っている。
そしてそれを、暗すぎず明るすぎず、絶妙なバランス感覚で描いた点に、本作の美徳がある。
おすすめアルバム
- M83『Junk』
80年代ポップを再構築した感情のサウンドトラック。 - Future Islands『The Far Field』
ダンサブルで感傷的なヴォーカル・ポップが共鳴。 - The 1975『I like it when you sleep…』
シンセを軸に、内面と社会性を接続したポップ作。 - Editors『Violence』
シリアスなテーマとポップ志向の緊張関係が似ている。 - The Killers『Wonderful Wonderful』
成熟した男性的感情とシンセロックの融合。
ファンや評論家の反応
『Friends』は、**賛否両論があった前作『Big TV』に比べて、より広く受け入れられた“安定期の名盤”**と評価された。
特に「Hold Back Your Love」や「Take It Out on Me」は、
ポップさとWhite Liesらしい翳りを兼ね備えた傑作として支持され、ライブでも定番になっている。
評論家からは、「これまでの作品よりも個人的で繊細な視点が印象的」とする声や、
「80年代へのラブレターのようだが、過去への逃避ではなく、感情の再確認として鳴らしている」と高く評価された。
『Friends』は、言葉にしづらい繋がりの尊さと不安定さを、
そっと抱きしめるように奏でられた、成熟したポストポップ・アルバムである。
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