
発売日:2022年9月9日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック、ソウル・ロック、ガレージ・ロック、インディー・ロック、ポスト・グランジ
概要
The Afghan Whigsの『How Do You Burn』は、2022年に発表された通算9作目のスタジオ・アルバムであり、再結成後のバンドが自らの核である暗い官能性、ソウルへの愛着、荒々しいロックの衝動を再び高密度にまとめ上げた作品である。The Afghan Whigsは1980年代後半にオハイオ州シンシナティで結成され、1990年代にはSub Pop周辺のオルタナティヴ・ロックの中でも異質な存在として評価された。彼らはグランジやインディー・ロックの文脈に置かれながらも、サウンドの奥にはR&B、ソウル、ファンク、ゴスペル、フィルム・ノワール的な情念が流れていた。
1993年の『Gentlemen』、1996年の『Black Love』、1998年の『1965』といった作品で、The Afghan Whigsは欲望、罪悪感、裏切り、自己破壊、性的緊張を、黒く濡れたロック・サウンドとして提示した。Greg Dulliのボーカルは、伝統的な意味で滑らかな美声ではないが、声の擦れ、吐き捨てるような言葉、ソウル・シンガーへの強い憧れ、そしてロック・フロントマンとしての危険な演技性を併せ持つ。彼の歌は、告白であると同時に誘惑であり、懺悔であると同時に相手を巻き込む儀式でもある。
『How Do You Burn』は、2017年の『In Spades』以来となるアルバムであり、再結成後のThe Afghan Whigsにとって重要な位置を占める。2014年の『Do to the Beast』が復活作としての緊張を持ち、『In Spades』がより幽玄で映画的な音響を深めた作品だったとすれば、『How Do You Burn』はそこにバンドのロック的な肉体性を強く戻したアルバムである。ギターは鋭く、リズムは重く、Dulliの声は傷つきながらも前へ出る。年齢を重ねたバンドの作品でありながら、音には衰えよりも燃え残った火のような執念がある。
タイトルの『How Do You Burn』は、「あなたはどう燃えるのか」と訳せる。これは単なる炎の比喩ではない。The Afghan Whigsにおける「燃える」とは、欲望に身を焼かれること、怒りや悲しみに焼かれること、過去を燃やすこと、死者の記憶を弔うこと、そしてステージ上で自分自身を燃料にすることを意味する。本作には、喪失と再生、肉体と魂、愛と暴力、祝祭と葬送が同時に存在している。
本作の制作において特に重要なのは、2020年に亡くなったギタリストDave Rosserの存在である。彼は再結成後のThe Afghan Whigsに深く関わった人物であり、その死はバンドの音楽に大きな影を落とした。『How Do You Burn』には、直接的な追悼の言葉だけではなく、失われた仲間の不在を抱えながら音を鳴らす感覚が漂っている。燃えることは、ただ情熱を表すだけでなく、弔いの行為でもある。
また、本作にはMark Laneganの参加も重要な意味を持つ。LaneganはScreaming Trees、Queens of the Stone Age、ソロ作品などで知られる深く低い声の持ち主であり、Greg DulliとはThe Gutter Twinsでも共演していた。Laneganも2022年に亡くなっており、本作で聴かれる彼の声は、結果的に深い追悼の響きを帯びることになった。The Afghan Whigsの音楽に元々あった死、闇、欲望、魂の救済というテーマは、この作品でさらに重く、現実的なものとして響いている。
音楽的には、本作はThe Afghan Whigsの多面性を凝縮している。ガレージ・ロック的に荒々しい曲、ソウル・バラード的な粘りを持つ曲、サイケデリックで幻想的な曲、ゴスペル的な高揚を持つ曲が並ぶ。だが、それらはバラバラではなく、Dulliの声とバンドの暗いグルーヴによって一つの世界へ束ねられている。The Afghan Whigsは、オルタナティヴ・ロックのバンドでありながら、常にソウル・ミュージックのドラマ性を背負ってきた。『How Do You Burn』は、その特徴が現在形で鳴らされた作品である。
日本のリスナーにとって本作は、1990年代オルタナティヴ・ロックの再評価という文脈だけでなく、長く活動してきたバンドが喪失を経てどのように現在の音を作るかを知るうえでも重要である。若さの怒りではなく、人生の傷を通過した後に残る怒り。恋愛の陶酔ではなく、愛と破壊が長年絡み合った後に残る執着。その濃さが『How Do You Burn』の魅力である。
全曲レビュー
1. I’ll Make You See God
オープニング曲「I’ll Make You See God」は、アルバムの幕開けにふさわしい強烈なロック・ナンバーである。タイトルは「お前に神を見せてやる」という挑発的な言葉であり、The Afghan Whigsらしい宗教的イメージと性的・暴力的なニュアンスが混ざっている。ここでの神は救済の象徴であると同時に、極限状態で見る幻覚のようでもある。
音楽的には、轟くギター、切迫したドラム、鋭いボーカルが一体となり、再結成後のバンドの中でも特に攻撃的な側面を打ち出している。曲は重く、しかし停滞しない。リフは前へ突き進み、Greg Dulliの声は聴き手を脅すように迫る。かつての『Gentlemen』や『Black Love』にあった危険な緊張感が、より現代的な音圧で更新されている。
歌詞では、相手を圧倒し、何かを見せつけ、変えてしまおうとする力が語られる。The Afghan Whigsの楽曲では、愛や欲望はしばしば救済ではなく支配や破壊と結びつく。この曲でも、語り手は相手を導く聖人ではなく、相手の意識を焼き尽くすような存在として描かれる。タイトルの宗教的な言葉は、信仰の清らかさではなく、欲望の極限を表している。
アルバム冒頭にこの曲が置かれることで、『How Do You Burn』は非常に明確な宣言を行う。これは穏やかな回顧作ではない。燃え残ったバンドが、まだ危険な熱を持っていることを示す、強烈な始まりである。
2. The Getaway
「The Getaway」は、タイトル通り逃走、脱出、逃避をテーマにした楽曲である。The Afghan Whigsの世界では、逃げることは単純な自由ではない。むしろ、罪、記憶、欲望、過去の関係から逃れようとしても逃れられない人間の姿が描かれる。この曲も、逃走のスリルと、その背後にある追跡される感覚が同居している。
音楽的には、前曲の荒々しさに比べると少し抑制されているが、リズムには緊張感があり、曲全体に暗いドライヴ感がある。ギターとベースは、夜の道路を進むような低い推進力を作り出す。Dulliのボーカルは、叫ぶよりも語りかけるように近づき、逃避の物語に不穏な親密さを加える。
歌詞では、どこかへ逃げ出したいという願望がある。しかし、その逃走は明るい未来へ向かうものではなく、むしろ何かから必死に離れようとする行為として響く。人は場所を変えても、自分自身からは逃げられない。The Afghan Whigsの楽曲における逃走は、常に内面の闇を連れていく。
「The Getaway」は、アルバムに映画的な雰囲気を与える楽曲である。車、夜、過去、逃亡、追跡。そうしたノワール的なイメージが、The Afghan Whigs特有のソウルフルなロックと結びついている。
3. Catch a Colt
「Catch a Colt」は、本作の中でもリズムの跳ねと鋭さが印象的な楽曲である。タイトルの「colt」は若い馬、あるいは銃の名としても連想される言葉であり、野性、速度、危険、暴発寸前のエネルギーを含んでいる。The Afghan Whigsはこの曖昧な言葉を、欲望や暴力性の比喩として響かせている。
音楽的には、ギターの切れ味とリズムのタイトさが強い。曲はコンパクトだが、内側に火薬のような緊張を抱えている。Dulliの歌唱は、抑えた部分と爆発する部分を行き来し、語り手の不安定さを表す。バンドの演奏は無駄がなく、荒さと精密さが同時にある。
歌詞では、制御しきれない何かを捕まえようとする感覚が描かれる。若い馬を捕まえることは、野性を支配しようとする行為である。しかし、その対象は簡単には従わない。欲望も、記憶も、怒りも同じである。捕まえたつもりでも、逆に引きずられてしまうことがある。
「Catch a Colt」は、『How Do You Burn』の中で、衝動の制御不能を象徴する楽曲である。The Afghan Whigsの音楽には常に、理性で抑えようとしても身体が先に燃えてしまう感覚がある。この曲はその衝動を短く鋭く刻み込んでいる。
4. Jyja
「Jyja」は、タイトルからして謎めいており、本作の中でも幻想的で異様な質感を持つ楽曲である。明確な意味をすぐに把握できない言葉をタイトルにすることで、曲は説明よりも音の質感やムードによって聴き手を引き込む。The Afghan Whigsの作品には、しばしばこうした意味の不透明な曲があり、そこでは言葉よりも雰囲気が重要になる。
音楽的には、サイケデリックで幽玄な空気が漂う。ギターの音色、リズムの揺れ、ボーカルの配置が、現実と夢の境界を曖昧にする。前半のロック的な攻撃性とは異なり、この曲では内側へ沈んでいくような感覚がある。Dulliの声は、暗い部屋の中で何かを呼び出すように響く。
歌詞のテーマは明確な物語よりも、感覚、記憶、幻影に近い。The Afghan Whigsの音楽では、愛や欲望はしばしば幽霊のように現れる。終わったはずの関係が残り、亡くなった人の声が残り、過去の夜が現在に侵入する。「Jyja」は、そのような亡霊的な時間を感じさせる。
この曲は、アルバムの中で重要な温度変化をもたらしている。『How Do You Burn』はただ激しく燃えるだけではない。炎が消えた後の煙、灰、幻影も描く作品である。「Jyja」はその煙のような楽曲である。
5. Please, Baby, Please
「Please, Baby, Please」は、タイトルだけを見るとクラシックなソウル・バラードやR&Bの懇願を思わせる。The Afghan Whigsの音楽には、長年にわたってソウル・ミュージックへの深い憧れがあり、この曲はその側面が強く出た楽曲である。だが、彼らが歌う「お願い」は、甘い恋愛の言葉ではなく、より切迫し、崩れかけた関係の中で発せられるものとして響く。
音楽的には、ロックの荒さよりも、ゆったりしたグルーヴと声の表情が重視されている。Dulliの歌唱は、懇願と命令、愛情と執着の間を揺れる。The Afghan Whigsのラブソングでは、相手にすがる言葉の中に、どこか支配的な気配や自己破壊の匂いがある。この曲もその系譜にある。
歌詞では、相手に何かを求める語り手が描かれる。だが、その要求は単純にロマンティックではない。相手に戻ってきてほしいのか、許してほしいのか、あるいは自分を破滅から救ってほしいのか。その境界は曖昧である。繰り返される「please」は、祈りでもあり、欲望でもあり、最後の抵抗でもある。
「Please, Baby, Please」は、The Afghan Whigsのソウル・ロック的な本質をよく示している。彼らはR&Bを表面的に引用するのではなく、愛と痛みが切り離せないものとして響くソウルのドラマ性を、自分たちの暗いロックへ変換している。
6. A Line of Shots
「A Line of Shots」は、タイトルから酒、銃撃、連続する衝撃といった複数のイメージを呼び起こす楽曲である。The Afghan Whigsの世界では、酒場の光、夜、暴力、身体の痛み、感情の麻痺がしばしば重なり合う。この曲は、そのような危険な連想を持ちながら進む。
音楽的には、鋭く直線的なロック・ナンバーであり、バンドの攻撃的な側面が戻ってくる。リフは硬く、リズムは前のめりで、曲には酔いと覚醒が同時にある。Dulliのボーカルは、感情を吐き出すというより、傷を自分から広げるように響く。
歌詞では、連続するショットが、酒のグラスであると同時に、心や身体に撃ち込まれる弾丸のようにも感じられる。人は痛みを忘れるために飲むが、その行為自体がさらに痛みを深くすることがある。The Afghan Whigsの歌詞では、快楽と自傷はしばしば隣り合っている。この曲も、その危うい関係を描いている。
「A Line of Shots」は、アルバムの中で燃焼感を再び高める曲である。前曲の懇願から一転して、ここでは身体を痛めつけるようなロックの力が前面に出る。Dulliの書く世界では、愛に傷ついた人間は静かに休むのではなく、さらに危険な場所へ向かうことが多い。
7. Domino and Jimmy
「Domino and Jimmy」は、本作の中でも特に重要な楽曲であり、Mark Laneganの参加によって深い陰影を持つ。タイトルは二人の人物名を並べたもので、物語性、過去の関係、逃れられない運命を感じさせる。The Afghan Whigsの楽曲にはしばしば映画的な人物像が登場するが、この曲は特に濃いノワール的な空気を持っている。
音楽的には、暗く、重く、ゆっくりとしたグルーヴが中心である。Dulliの声とLaneganの低い声が重なることで、曲には墓地のような深さが生まれる。Laneganの声は、ただゲストとして加わっているのではなく、曲の霊的な重さを決定づけている。彼の声が持つ砂漠のような乾き、死の気配、ブルースの底深さは、The Afghan Whigsの世界と非常に相性がよい。
歌詞では、DominoとJimmyという人物を通して、破滅的な関係や過去の因縁が描かれているように響く。二人の名前は、特定の人物であると同時に、犯罪映画や古いソウル・バラードに登場しそうな象徴的存在でもある。愛、罪、裏切り、逃亡、死の影が混ざり合う。
「Domino and Jimmy」は、本作の追悼的な側面を強く感じさせる楽曲でもある。Laneganの参加は、Dulliとの長年の関係を思わせるだけでなく、彼の死後に聴くとさらに重い意味を持つ。曲の中にある声は、現在の演奏でありながら、どこかすでに亡霊のようにも響く。アルバムの中心的なハイライトである。
8. Take Me There
「Take Me There」は、タイトル通り「そこへ連れて行ってくれ」という願望を持つ楽曲である。The Afghan Whigsの作品における「そこ」は、必ずしも明るい救済の場所ではない。むしろ、危険な場所、記憶の奥、欲望の中心、あるいは死者のいる場所のようにも感じられる。
音楽的には、広がりのあるアレンジと、ソウルフルな情感が印象的である。曲は穏やかに始まりながら、徐々に熱を増していく。Dulliのボーカルは、懇願するようでもあり、何かに導かれているようでもある。The Afghan Whigsらしい暗いロマンティシズムが強く表れている。
歌詞では、語り手が誰かに導きを求める。自分一人ではたどり着けない場所へ連れて行ってほしい。これは恋愛の言葉にも聞こえるし、宗教的な救済の言葉にも聞こえる。Dulliの歌詞では、恋人、神、悪魔、死者の区別がしばしば曖昧になる。この曲でも、その曖昧さが強い。
「Take Me There」は、アルバムの中で上昇感と沈降感を同時に持つ曲である。どこかへ向かっているが、それが天上なのか地獄なのかはわからない。この不確かさが、The Afghan Whigsらしい官能的な緊張を生んでいる。
9. Concealer
「Concealer」は、タイトルが示す通り、隠すこと、覆うこと、化粧、偽装、傷の隠蔽をテーマにした楽曲である。コンシーラーは肌の傷や欠点を隠す化粧品だが、ここでは心理的な傷、罪、過去、欲望を隠す行為の比喩として機能している。
音楽的には、やや不穏で、リズムに粘りがある。曲は大きく爆発するよりも、内側で圧力を高めるタイプである。Dulliの声は、隠しているものを暴かれそうな人物の緊張を帯びている。ギターやリズムの配置も、表面は整っているが、奥に汚れたものが見え隠れするような質感を作っている。
歌詞では、自分をどう見せるか、何を隠すかが問われる。The Afghan Whigsの音楽では、登場人物たちはしばしば自分の醜さを知っている。しかし、それを完全にさらけ出すこともできない。だから何かで覆う。化粧、嘘、酒、恋愛、音楽。それらはすべてコンシーラーになりうる。
「Concealer」は、本作における自己演出と隠蔽のテーマを象徴する楽曲である。燃えることは、自分をさらすことでもある。しかし人は同時に、自分が燃えていることを隠そうともする。この矛盾が曲の中心にある。
10. In Flames
アルバム本編の終盤に置かれた「In Flames」は、タイトル通り炎上、燃焼、破壊、浄化をテーマにした楽曲である。『How Do You Burn』というアルバムのタイトルを考えると、この曲は作品全体のイメージを集約する重要な位置にある。燃えることは、破滅であり、同時に再生の可能性でもある。
音楽的には、ドラマティックなスケールを持ち、アルバムの締めくくりにふさわしい重さがある。ギターとリズムは大きくうねり、Dulliの声は炎の中から響くように聞こえる。曲には終末感がありながら、完全な絶望ではなく、燃え尽きることで何かが変わるような感覚もある。
歌詞では、燃え上がる状況の中にいる語り手が描かれる。過去、関係、記憶、身体、街、すべてが炎に包まれているようなイメージである。The Afghan Whigsにとって、炎は感情の比喩であり、欲望の比喩であり、弔いの比喩でもある。燃えることで失われるものがあり、燃えることでしか見えないものもある。
「In Flames」は、『How Do You Burn』の終曲として非常に強い象徴性を持つ。アルバム全体で問われてきた「どう燃えるのか」という問いに対し、この曲は答えを説明するのではなく、燃えている状態そのものを音にする。The Afghan Whigsらしい、暗く、官能的で、痛切なフィナーレである。
総評
『How Do You Burn』は、The Afghan Whigsが長いキャリアの中で培ってきた暗いソウル・ロックの美学を、現在の時間と喪失の重さを背負いながら鳴らした作品である。再結成後のアルバムとしては特に肉体的で、ギター・ロックとしての力も強い一方、バンドの核にあるソウル、ゴスペル、ノワール的な情念はまったく失われていない。むしろ、年齢と経験を重ねたことで、その情念はより深く、より苦く響いている。
本作を貫く主題は、燃焼である。しかし、それは単なる情熱の比喩ではない。「I’ll Make You See God」では欲望が宗教的な幻視へ変わり、「A Line of Shots」では痛みと快楽が連続する衝撃として描かれ、「Domino and Jimmy」では死者の声を含んだ闇が広がり、「In Flames」ではすべてが炎に包まれる。燃えることは、愛すること、傷つくこと、怒ること、悼むこと、そして生き残ることでもある。
Greg Dulliの存在は、本作でも圧倒的である。彼は成熟したロック・シンガーでありながら、危険な感情を丸く処理しない。声には荒れ、痛み、執着、誘惑が残っている。Dulliの歌う人物たちは、清廉な主人公ではない。むしろ、自分の罪や弱さを知りながら、それでも相手を求め、神を呼び、悪魔に近づくような人物である。この倫理的な曖昧さこそがThe Afghan Whigsの魅力である。
音楽的には、本作はバンドの過去を単純に再現するものではない。『Gentlemen』のような剥き出しの自己嫌悪、『Black Love』の映画的な暗黒、『1965』のソウルフルな艶やかさは、すべて本作の背後にある。しかし『How Do You Burn』は、それらを現在の音として再構成している。音は分厚く、アレンジは洗練され、曲ごとのムードも多彩である。荒々しさと成熟が同時に存在している点が、本作の強みである。
また、本作には追悼の感覚が深く刻まれている。Dave Rosserの不在、Mark Laneganの参加とその後の死は、アルバムの聴こえ方に大きな影響を与える。The Afghan Whigsの音楽には元々、死者の声が聞こえるような暗さがあったが、本作ではそれが現実の喪失と結びつく。だからこそ、曲の中の炎は単なる比喩以上の重みを持つ。燃えることは、失われた者を忘れないための行為でもある。
The Afghan Whigsは、1990年代オルタナティヴ・ロックの中で、最もソウル・ミュージックのドラマを深く取り込んだバンドのひとつだった。彼らはR&Bを軽い引用として使うのではなく、罪、欲望、懺悔、救済というソウルの根本的なテーマを、歪んだギターと暗いロックの中で鳴らした。『How Do You Burn』でも、その本質は変わらない。「Please, Baby, Please」や「Take Me There」のような曲には、ソウル・バラードの懇願がThe Afghan Whigs流に変形された姿がある。
日本のリスナーにとって本作は、再結成後のバンドが過去の名声に依存せず、現在の痛みを持って鳴らしたアルバムとして聴く価値が高い。1990年代のオルタナティヴ・ロックに親しんだリスナーにとっては、当時の暗い熱が現在も失われていないことを確認できる作品である。一方で、初めてThe Afghan Whigsに触れるリスナーにとっても、本作はバンドの主要な要素を理解しやすい。荒いギター、ソウルへの深い愛、危険な歌詞、映画的な闇、そしてGreg Dulliの声がすべて揃っている。
『How Do You Burn』は、若さのアルバムではない。しかし、若さを失った後にしか鳴らせない火がある。過去の失敗、死者の記憶、身体の衰え、欲望の残り火、赦されない感情。それらを燃料にして、The Afghan Whigsは再び燃えている。タイトルの問いに対する答えは、アルバム全体にある。美しく燃えるのではなく、汚れ、傷つき、煙を上げながら、それでも燃え続ける。『How Do You Burn』は、その燃焼の記録である。
おすすめアルバム
1. The Afghan Whigs『Gentlemen』(1993年)
The Afghan Whigsの代表作であり、1990年代オルタナティヴ・ロックの中でも特に暗く、自己破壊的な名盤。欲望、罪悪感、男女関係の崩壊を鋭く描き、Greg Dulliの危険な語り手としての個性が決定的に表れている。『How Do You Burn』の根にある情念を理解するために欠かせない。
2. The Afghan Whigs『Black Love』(1996年)
映画的な構成と濃密な暗さを持つアルバム。ノワール的な雰囲気、ソウルへの深い接近、暴力と愛の混在が強く表れている。『How Do You Burn』の暗いドラマ性や物語的な側面を楽しめるリスナーには特に重要な作品である。
3. The Afghan Whigs『1965』(1998年)
The Afghan Whigsのソウル・ロック的側面が最も艶やかに表れた作品。R&B、ファンク、ロックがより滑らかに結びつき、Dulliのボーカルも官能的に響く。『How Do You Burn』にあるソウルフルな懇願やグルーヴの背景を知るうえで有効である。
4. The Gutter Twins『Saturnalia』(2008年)
Greg DulliとMark Laneganによるプロジェクトのアルバム。暗いロック、宗教的イメージ、死と救済、低く沈む声のドラマが強く表れている。『How Do You Burn』におけるLaneganの存在感や、Dulliとの精神的なつながりを理解するために重要な作品である。
5. Mark Lanegan『Bubblegum』(2004年)
Mark Laneganのソロ代表作のひとつ。砂漠のように乾いた声、ブルース、オルタナティヴ・ロック、暗い官能性が一体となっている。The Afghan Whigsとは異なる質感ながら、『How Do You Burn』に漂う死の影、喪失、低温の情熱と深く響き合う作品である。

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