1. 歌詞の概要
「Cartoon Earthquake」は、Blondshell（ブロンドシェル）の2023年デビューアルバム『Blondshell』のデラックス・エディションに収録された追加曲であり、そのタイトルが示すように、“感情の揺れ”や“非現実的な崩壊”を、まるでアニメのように誇張された比喩で描いた、一種の精神的カタストロフの記録である。
語り手は、恋愛関係あるいはそれに近しい親密な結びつきの中で、自分が「何か大きな破滅を予感している」にもかかわらず、そこに巻き込まれていくさまを、揺れる感情、抑えられない衝動、そして皮肉な自己認識で鮮やかに語る。「Cartoon Earthquake（アニメの地震）」という不自然なタイトルは、それ自体がこの曲のテーマ——現実の痛みすらどこか“演出”のように感じられる感情の解離——を的確に表現している。
全体を通して、これは“恋に落ちる”ことの可笑しさと恐ろしさを同時に描いた曲であり、自分を壊すとわかっていながらも飛び込んでしまう関係性の危うさを、Blondshellならではの視点で鋭く切り取っている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Cartoon Earthquake」は、Sabrina TeitelbaumによるプロジェクトBlondshellのなかでも特に比喩的かつメタ的な色合いの強い作品であり、アルバムの核心である「自己破壊」「欲望と痛みの循環」「アイデンティティの揺らぎ」といったテーマが、ここではより幻想的でブラックユーモアを帯びた形で再構成されている。
Blondshell自身は、カート・コバーン、PJ Harvey、Fiona Appleなど90年代の内省的ロックからの影響を公言しているが、この曲ではそこにポップカルチャーやテレビアニメ的な感覚が織り込まれ、「破滅すら視覚的でポップな“スペクタクル”として感じる」ような、現代的な心の感覚麻痺が浮かび上がる。
また、恋愛や性に伴う不安定な感情の高まりを「地震」にたとえるのはBlondshellの詞世界に一貫して流れる“身体的メタファー”の一部であり、この曲ではその比喩がさらに“可視化された幻想”として描かれている点で、独特の美学が際立っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You’re the cartoon earthquake
And I’m under the table again
あなたは“アニメの地震”みたいな存在
私はまた、机の下にもぐりこんでる
I still think you’re pretty
Even when you shake the room
あなたが部屋を揺らしても
私はまだ「あなたって素敵だな」と思ってしまう
And I laugh like a dumb kid
While I lose my mind
バカな子どもみたいに笑ってる
でも、心の中では完全に正気を失ってる
It’s not even real
But it still knocks me down
これって“現実”じゃないのに
なぜか私は、ちゃんと打ちのめされてる
歌詞引用元：Genius – Blondshell “Cartoon Earthquake”
4. 歌詞の考察
「Cartoon Earthquake」は、現代的な恋愛や欲望におけるリアリティの喪失と感情の過剰を、美しくも歪んだ比喩で描き出す異色の楽曲である。
語り手は、地震のように激しく、破壊的で、それでいてなぜか“愛おしい”という感情の渦の中にある。そして、その相手はまるで「アニメの地震」——つまり、どこか不自然で、誇張され、制御できない存在として描かれる。
「私は正気を失っている」と語りながらも、「それを望んでいた」ようにも聴こえる矛盾した感情。この構造は、恋愛における依存や衝動性をシニカルに表現するBlondshellの歌詞世界のなかでも特に鋭利であり、“心を揺さぶられること”への欲望と恐怖が共存している。
また、「現実ではないのに、本当に打ちのめされている」という一節には、感情と現実の乖離、あるいは精神的な“ショック”が過剰に身体化される体験が映し出されている。
これは、トラウマや過去の記憶がフラッシュバックのように“非現実的に再演”される瞬間と類似しており、単なる恋愛ソングではなく、記憶・恐れ・執着の再演としての側面も含んでいる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Mariners Apartment Complex by Lana Del Rey
強さと弱さが共存する自己像を、恋愛の中で浮かび上がらせる感情的バラード。 - Losing My Religion by R.E.M.
恋や信仰の喪失に伴う心の地滑りを、宗教的メタファーで描いた90年代の名曲。 - Fell In Love With A Girl by The White Stripes
“恋の爆発”と“混乱”を、シンプルでパンキッシュに描いたスピード感あるロック。 - Running With the Boys by LIGHTS
子どものような自由と現実逃避の間で揺れる青春と心の揺らぎを描いたシンセポップ。 - Crush by Ethel Cain
愛と欲望が絡み合い、終わりの予感に満ちたロマンスをゴシックな視点で描いた一曲。
6. “感情の地震”が、すべてをぶち壊す前に
「Cartoon Earthquake」は、恋の“地震”が起こる直前の、あの異様な静けさと高揚を記録したような一曲である。それは決して本物の地震ではないし、きっと誰にも見えない。でも、語り手には確かに“揺れている”と感じられてしまうのだ。
この曲でBlondshellが描くのは、「傷つくと分かっているのに飛び込んでしまう感情」の正当化でも告白でもない。それは、混乱の最中で「私は今、揺れている」と言葉にすること、そのただ一つの勇気なのだ。
「Cartoon Earthquake」は、見えない揺れに打ちのめされた経験があるすべての人に贈られる、甘くも苦い自己観察のうたである。Blondshellはそこで、感情の暴走や記憶の揺らぎを「アニメの地震」という奇妙な比喩に包んで、私たちの心に小さな衝撃を残していく——笑えるのに、笑いきれない。
それが、この曲が持つ危うさであり、やさしさでもある。
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