1. 歌詞の概要
「Future Me Hates Me」は、ニュージーランドのインディーロック・バンド The Beths(ザ・ベス)が2018年にリリースしたデビューアルバムの表題曲であり、その疾走感と自己嫌悪を爽やかに歌い上げたリリックで、一躍彼らの代表曲となった楽曲である。
タイトルにある「未来の自分が私を嫌う」というフレーズは、恋に落ちそうな自分を予感しながらも、それがうまくいかない未来をすでに見通している――そんな自己矛盾と防衛本能の入り混じった複雑な感情をユーモラスに、そして極めてリアルに捉えている。
つまりこれは、「恋に落ちると痛い目を見る」とわかっていながら、なおもその感情から逃れられない主人公の心情を、爆発的なギターポップに乗せて描いた“ネガティブであることの肯定歌”とも言える楽曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Bethsは、ジャズ科出身のメンバーによって構成されたバンドで、リーダーであるElizabeth Stokesのパーソナルな感情や、シャイで自意識過剰な一面がリリックに色濃く反映されている。「Future Me Hates Me」はまさにその象徴であり、リスナーから「これは私の話だ」と共感を呼ぶ理由となっている。
この曲が持つ最大の魅力は、“心の中の否定的な声”をそのままロックンロールに昇華している点にある。落ち着いた冷静な語りではなく、全力で走りながら自己嫌悪に陥る感情の揺れが、曲のテンポ感とリフにぴったり合っている。これは単なる失恋の歌ではなく、恋愛と自己認識のねじれた関係性を、笑い飛ばすような快活さで描いた珍しい例である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’m gonna fall in love with you
私はきっと、あなたに恋をしてしまうIt’s gonna feel so good
それは、すごく素敵な気持ちになるでしょうねAnd then I’m gonna fall apart
でもそのあと、私はきっとボロボロになるAnd the future me hates me for it
未来の私は、そんな自分を嫌うんだろうなI know I shouldn’t do it
そんなこと、しちゃいけないってわかってるBut I do
それでも、してしまうのよ
歌詞引用元:Genius Lyrics – Future Me Hates Me
4. 歌詞の考察
この曲のリリックには、恋愛における「過剰な自意識」と「ネガティブな予測」が見事に凝縮されている。好きになってしまいそうな自分を止めたい。でも止められない。そしてそのことを、未来の自分がきっと後悔する。そうわかっていても突き進んでしまう心の矛盾。これらすべてが、軽快なポップパンクのビートに乗って歌われることで、むしろ開放的な快感すら伴ってくる。
面白いのは、この「自己嫌悪」が決して悲観的ではないという点だ。Elizabeth Stokesの歌声は、どこかしら諦めきったような、それでいて誇らしげな響きを持っており、「未来の私に怒られても、今の私は今の私でいたいの」とでも言っているようだ。
このようにして「Future Me Hates Me」は、恋愛に臆病な人、過去の失敗に囚われている人、未来の自分を思って足を止めてしまうすべての人に対して、「それでもやってしまうのが人間じゃん」と笑いかけるような、軽やかな励ましの歌になっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Your Dog by Soccer Mommy
自己防衛と怒りをローファイなギターに乗せて歌い上げる、鋭利なインディーロック。 - Cool by Soccer Mommy
“クール”なふりをしながら恋に悩む複雑な感情を、淡々と描くインディーポップの名曲。 - Motion Sickness by Phoebe Bridgers
理性と情動の摩擦をポップに描いた、恋愛の“後遺症”を歌うリアルなラブソング。 - Boyish by Japanese Breakfast
相手に合わせすぎてしまう自分を見つめながらも、そこにある未練と優しさを描いた秀作。
6. “自意識過剰と愛の間にあるロック”
「Future Me Hates Me」は、恋に落ちることを“災難”として扱いながらも、その災難すらユーモアとビートに変えていくThe Bethsの真骨頂である。
これは、恋愛の甘さでも、別れの悲しみでもなく、その“手前”にあるやっかいな自意識――「どうせまたうまくいかない」「失敗するってわかってるのに、惹かれてしまう」という、理屈と感情の狭間に立つ若者たちのアンセムなのだ。
エリザベス・ストークスの歌声は、誰にも届かない心の中の会話を、そのままメロディにしたかのように自然で、正直で、ちょっと滑稽で、だからこそ愛おしい。
「Future Me Hates Me」は、恋に臆病なあなたにこそ贈りたい。未来の自分がどう言おうと、今のあなたが恋に落ちることを止められないのなら――それもまた、生きている証なのだから。
コメント