Circle the Drain by Soccer Mommy（2020）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.04

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. “やさしい旋律に隠された、静かな絶望”
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1. 歌詞の概要

「Circle the Drain（サークル・ザ・ドレイン）」は、ナッシュビル出身のシンガーソングライター Soccer Mommy（ソッカー・マミー） ことソフィー・アリソンが、2020年にリリースしたセカンドアルバム『color theory』の収録曲であり、アルバムの核を成すような鮮やかで陰鬱なオルタナティブ・ポップの名作である。

この曲では、軽やかに鳴るギターのループと、90年代を思わせるドリーミーなプロダクションが特徴的だが、その歌詞ではうつ症状や精神的な沈下が率直に描かれている。サウンドの明るさと歌詞の重さとの間には強烈なコントラストがあり、そのギャップがむしろリスナーに感情の“ズレ”や“麻痺”というリアルな心理状態を強く印象づける。

「Circle the Drain」という表現は、直訳すれば「排水口のまわりをぐるぐる回っている」——つまり、自分がゆっくりと“下へ”沈んでいく感覚を比喩的に表現したものであり、その言葉はメンタルヘルスに関する非常に私的かつ普遍的な実感を代弁している。

2. 歌詞のバックグラウンド

本作を含むアルバム『color theory』では、ソフィー・アリソンが色をメタファーとして感情の状態を分けている。たとえば「青」はうつ状態、「黄色」は身体的・精神的健康、「グレー」は死や喪失を象徴しており、「Circle the Drain」はこの“青”の領域にあたる楽曲である。

ソフィー自身、過去にうつ病や自己否定感に悩んできたことを公言しており、この曲はそうした状態を客観視しながら冷静に描く試みでもある。だが、その語り口はあくまで淡々としており、「自分の中で何かがうまくいっていない」と感じながらも、なぜそれがそうなのか、どう対処すればいいのか分からないという、現代的な“感情の鈍さ”と向き合う姿勢が貫かれている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Hey, I’ve been falling apart these days
最近、心がバラバラになっていくのを感じてる

Split open, watching my heart go
裂けていく私を、自分で見つめてる

Round and around
ぐるぐると、同じところを回り続けて

Circle the drain
排水口のまわりを、落ちていくように

I’ve been praying for a way out
何か抜け道があるようにって、祈ってきたけど

I can’t escape
抜け出せないんだ

歌詞引用元：Genius Lyrics – Circle the Drain

4. 歌詞の考察

「Circle the Drain」は、心が崩れていく感覚を描きながらも、決してドラマチックではなく、日常の中で少しずつ感情が乾いていくような、静かな絶望を描いている。その表現は極めて現代的で、SNSや情報過多の社会のなかで“感情のキャパシティ”を超えてしまった若者のリアルな声でもある。

「I’ve been falling apart these days（最近、心が崩れてる）」というシンプルな一文に、“なぜ”を語らない潔さがある。多くを説明しないことで、むしろ“説明できない苦しさ”が浮き彫りになるのだ。

また、音楽のスタイルも重要だ。90年代のオルタナ・ポップやブリットポップを思わせる軽快なサウンドは、歌詞の重さと反転しており、このギャップが**“笑いながら泣いている”ような精神の二重性**を象徴している。美しくも切ないメロディの裏で、静かにSOSが鳴り響いているような楽曲なのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

Motion Sickness by Phoebe Bridgers
　感情の空虚さと愛憎を、冷静に見つめながらも強く響かせるインディー・フォークの名曲。
Your Best American Girl by Mitski
　自分らしさと恋愛の間で引き裂かれる感情を、ノイジーなギターでぶつける現代のアイデンティティ・ロック。
Fade Into You by Mazzy Star
　心が溶けていくような夢幻的なサウンドで、言葉にできない感情を描いたシューゲイズ・クラシック。
Real Love Baby by Father John Misty
　皮肉と優しさが入り混じった、現代人の愛の形を描く緩やかなオルタナティブ・ポップ。