1. 歌詞の概要
「History Never Repeats（歴史は繰り返さない）」は、Split Enz（スプリット・エンズ）が1981年に発表したシングルで、アルバム『Waiata（北米ではCorroboree）』に収録された楽曲である。タイトルにある“歴史は繰り返さない”という言葉は、一見すると楽観的な宣言のようにも思えるが、実際にはその裏に皮肉と切実な願望が込められている。
歌詞では、過去の失敗、後悔、愛の終わりが主題となっており、それらが再び起こらないことを願いながらも、「本当にそうだろうか？」という疑念が行間から滲み出る。語り手は、かつての恋人との関係を通して「同じ過ちを二度と繰り返さない」と言い聞かせるが、その決意はどこか不安定で、脆さと希望がせめぎあっている。
この曲は、短くも明快な詩の中に、時間・記憶・自己成長といった哲学的テーマを含みつつ、Split Enzらしいポップな感性と緊張感のあるメロディで展開していく。だからこそ、「History Never Repeats」はシンプルながらも奥行きのある“日常の教訓歌”として、今なお多くのリスナーに刺さるのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「History Never Repeats」は、Split Enzに新たな息吹をもたらしたニール・フィンによって書かれた楽曲であり、彼が本格的にソングライターとして台頭し始めた時期を象徴する作品である。
当時のSplit Enzは、兄ティム・フィンのカリスマ性によって支えられていたが、1981年の『Waiata』ではニールがその存在感を強め、よりポップかつ内省的な作風を取り入れるようになっていった。この曲もまさにその路線のひとつであり、エネルギッシュなギターリフとダンサブルなビートに乗せて、極めてパーソナルなメッセージを届けている。
また、この曲はニュージーランド音楽史においても重要な地位を占めており、後に国営放送TVNZの閉局ソングや選挙キャンペーンなどで広く使用された。シンプルでありながら時代を超えて響く言葉と音楽の力が、この曲を“文化的記憶”として残している所以である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
曲の冒頭は、記憶と時間をめぐるシンプルなフレーズで始まる。
History never repeats
I tell myself before I go to sleep
歴史は繰り返さない
眠りにつく前に、そう自分に言い聞かせる
このラインには、自分を納得させるための“呪文”のような響きがある。だが、その繰り返しは逆に“繰り返される過ち”への恐れを感じさせもする。
Don’t say the words you might regret
I lost before, you know I can’t forget
後悔するようなことは言わないでくれ
僕は一度すでに失っているんだ、忘れられないんだよ
ここで語られるのは、かつての失敗から学んだ教訓であり、今度こそ同じ轍を踏まないという意志。でもその背後には、“また同じことが起こるかもしれない”という不安が潜んでいる。
History never repeats
I’m not giving you a second chance
歴史は繰り返さない
だからもう、二度目のチャンスは与えない
これは、過去を断ち切りたいという強い決意の表れでもあると同時に、その言葉の裏にある迷いも感じさせる。“絶対に繰り返さない”という言葉ほど、実は過去にとらわれている証でもあるのだ。
（出典：Genius Lyrics）
4. 歌詞の考察
「History Never Repeats」は、時間と記憶の関係、そして自己の変化をめぐる内省的な楽曲である。語り手は、かつての自分の過ちや、愛の崩壊を思い返しながらも、それを繰り返さないよう強く決意している。しかしその決意は、過去に深く傷ついた者に特有の防衛反応のようでもあり、そこにこの曲の“人間らしさ”が滲む。
この曲の魅力は、悲観に陥らず、むしろ“前に進む”という意志をポップなサウンドで肯定している点にある。ニール・フィンの歌声は決して叫ばず、淡々と、しかし強い意志を込めて過去と決別しようとしている。それがこの曲を“告白”でもあり、“祈り”でもあるように感じさせている。
また、“歴史”という大きな言葉を使いながら、歌っているのはごく個人的な恋愛の話であるという点が秀逸だ。そこには「私たちの個人的な失敗こそが、世界のどこかに通じている」というSplit Enzならではの詩的な視座がある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Better Be Home Soon by Crowded House
ニール・フィンの後年の傑作。帰る場所と愛への希求を静かに歌い上げる。 - The Logical Song by Supertramp
過去と現在の自己を比較しながら“人生の意味”を問う、哲学的ポップソング。 - Don’t Dream It’s Over by Crowded House
“終わりではない”という言葉で関係性をつなぎ止める名曲。希望と不安が同居するバラード。 - Talking in Your Sleep by The Romantics
言葉にならない思いがすれ違う恋愛模様を、ビートと共に描いた80年代の隠れた名曲。
6. “歴史は繰り返さない”という希望と諦念のあいだで
「History Never Repeats」は、Split Enzというバンドがポストパンクとニューウェーブの狭間で、自分たちの言葉と音を研ぎ澄ませていた時代の、象徴的な作品である。
タイトルは宣言のようでありながら、実はそれを繰り返し唱えることでしか保てない不安定な希望を示している。その揺れ動く感情こそが、日々を生きるすべての人に通じる“真実”なのだ。
Split Enzの「History Never Repeats」は、失敗を糧にしようとする人間の脆くも美しい決意の歌である。過去に囚われながらも、それを超えて前に進もうとする意志──その叫びが、軽やかなメロディの中に確かに響いている。たとえ歴史がまた繰り返されるとしても、私たちはそのたびに少しずつ違う選択ができると信じたい──そう願う心が、この曲には込められている。
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