アルバムレビュー：See You in the Dark by Softcult

発売日: 2023年3月24日
ジャンル: ドリームポップ、グランジ、オルタナティブロック

概要
全曲レビュー
総評
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制作の裏側（Behind the Scenes）
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概要

『See You in the Dark』は、カナダの双子姉妹デュオ、Softcultが2023年にリリースした3作目のEPであり、彼女たちの音楽的・思想的世界観をさらに深化させた作品である。

前作『Year of the Snake』で見せた内省と社会批評のバランスを受け継ぎながら、今作ではさらにダークな美しさと、ドリーミーなサウンドテクスチャを押し広げている。
MercedesとPhoenix Arn-Hornは、グランジ、ドリームポップ、オルタナティブロックといった要素を自在に行き来しながら、より洗練された表現へと到達しているのだ。

タイトル『See You in the Dark』には、「闇の中でこそ本当の姿を見つめ合える」という逆説的な希望が込められており、EP全体が”痛みを乗り越えた先に見える連帯”をテーマにしている。

パンデミック後の世界、社会不安、個人的なトラウマといった重い題材を扱いながらも、Softcultは決して絶望に沈まない。
むしろ闇の中に手を伸ばし、誰かに触れようとするような、静かで力強い希望が本作には脈打っている。

全曲レビュー

1. Drain

重たいベースラインと透明なボーカルが交錯するオープニング。
消耗と再生をテーマにしたリリックが、静かながら圧倒的な説得力を持つ。

2. Dress

フェミニズムをテーマにした鋭い一曲。
ドリーミーなサウンドの下に、社会的抑圧への怒りと抵抗のエネルギーが潜んでいる。
「見た目で評価されること」への静かな抗議が胸に響く。

3. Someone2Me

承認欲求と自己価値への問いを描いたナンバー。
甘く浮遊するサウンドの中に、自己喪失への恐れが滲む。

4. One of a Million

孤独と社会の匿名性をテーマにした楽曲。
緩やかに歪んだギターサウンドと、遠く霞むようなボーカルが、存在の儚さを際立たせる。

5. Love Song

EP随一のラブソング。
ただし、安易なロマンスではなく、傷ついた者同士が寄り添う姿を描いている。
柔らかく滲むメロディと、温もりのあるリリックが印象的である。

6. See You in the Dark

表題曲にしてクロージングトラック。
アルバム全体のテーマを象徴する、静かで、しかし確かな希望を宿したナンバー。
闇の中でこそ見えるものへの祈りのような美しい余韻を残して幕を閉じる。

総評

『See You in the Dark』は、Softcultの音楽的成長と思想的深化を感じさせる作品である。
本作で彼女たちは、グランジの粗さ、ドリームポップの幻想性、オルタナティブロックの鋭さを自在に編み上げ、独自の感情地図を描き出した。

サウンド面では、これまで以上に緻密なレイヤー構成と、深いダイナミクスを持ち、聴き手を優しく、しかし確実に内面の旅へと誘う。
また、リリックにおいても、個人的な痛みと社会的問題意識を無理なく融合させ、「個人」と「社会」という二つの闇を静かに見つめ直す視座が提示されている。

Softcultの強さは、大声で叫ぶのではなく、静かに、しかし確実に変革を促すところにある。
『See You in the Dark』は、そんな彼女たちの哲学と音楽性が見事に結晶した、優れたオルタナティブ作品なのである。

制作の裏側（Behind the Scenes）

『See You in the Dark』は、これまでのEP同様、MercedesとPhoenix自身によるセルフプロデュースで制作された。
自宅スタジオで録音され、ミキシングも自ら手掛けることで、よりパーソナルな質感が追求されている。

使用された楽器には、リバーブとコーラスエフェクトを強調したフェンダー・ジャズマスター、ヴィンテージペダルを通したベースが中心に据えられ、サウンドに深い奥行きと柔らかな輪郭を与えている。
また、ボーカル録音では、空気感を重視したマイクセッティングが施され、リスナーに直接語りかけるような親密な響きを実現している。

こうした細部へのこだわりが、『See You in the Dark』の温かくも陰影に富んだ音世界を支えているのである。