発売日: 1985年11月18日
ジャンル: ノイズポップ、オルタナティヴ・ロック
1985年に登場したThe Jesus and Mary Chainのデビューアルバム『Psychocandy』は、80年代の音楽シーンにおいて革新的な存在感を放った。ギターノイズと甘美なメロディを融合させることで、彼らはポップの可能性を拡張し、シューゲイザーやノイズポップの先駆けとなった。スコットランド出身の兄弟、ジムとウィリアム・リードを中心に結成されたこのバンドは、フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドとザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの退廃的な美学を受け継ぎ、独自の音楽世界を構築している。
プロデューサーには、アラン・マクギーとバンド自身が関わり、荒削りなサウンドがそのままに収められている。『Psychocandy』は、フィードバックとディストーションにまみれたギターの壁に包まれながら、どこか甘くも切ないメロディが浮かび上がるという絶妙なコントラストが特徴だ。反抗的で鋭いエッジと、ロマンティックでメランコリックなムードが同居しており、リリースから何年経っても聴く者に新鮮な驚きを与える。
トラック解説
1. Just Like Honey
アルバムのオープニングを飾る名曲で、ゆったりとしたドラムと甘美なメロディが一度聞けば忘れられない印象を与える。歌詞には愛と痛みの二面性が漂い、ジム・リードの淡々としたボーカルがその儚さを際立たせる。ノイズの壁の向こう側から響くメロディが、夢の中にいるかのような感覚をもたらす。
2. The Living End
激しいギターと衝撃的なサウンドが特徴のこの曲は、アルバムの中でも特に荒々しい一曲。短いフレーズの繰り返しと、爆音のディストーションがカオスな雰囲気を生み出しており、バンドの反抗的なエネルギーが詰まっている。
3. Taste the Floor
重低音が響くイントロが印象的なトラック。歌詞には焦燥感と絶望が漂い、ギターの不協和音とジムの無気力なボーカルが心に刺さる。ポップなメロディが隠されているものの、ノイズがその美しさを覆い隠すように表現されている。
4. The Hardest Walk
メランコリックなメロディが流れる一方で、切なさと虚無感が色濃く表現された一曲。曲のタイトルが示すように、困難な人生の旅を連想させ、どこか心に沁みる哀愁が漂う。ドリーミーなサウンドと甘さが絡み合う、アルバムの中でも静かに強い存在感を放つ。
5. Cut Dead
シンプルで落ち着いた曲調の中にも、どこか不穏さを感じさせる。曲が進むにつれてギターのノイズが加わり、サウンドが厚みを増していく。歌詞には愛の消失を暗示する内容があり、その冷たさが心に刺さる。
6. In a Hole
短いながらも鋭いギターリフと荒々しいドラムが印象的で、リードの無機質なボーカルが終始突き放すような距離感を保つ。この曲は暴力的なエネルギーが詰まっており、彼らの反抗的なスタイルがストレートに伝わってくる。
7. Taste of Cindy
シンプルでポップなメロディが一瞬の甘さを感じさせるが、ノイズに埋もれていく展開がユニーク。歌詞には切ない恋の影が見え隠れし、ジムのボーカルがその脆さを表現する。短いながらも印象深い一曲だ。
8. Never Understand
ディストーションに包まれたギターと狂気じみたサウンドが圧倒的な存在感を放つ。歌詞には理解できない感情や孤立感が描かれ、心に響く。「理解されない」というテーマがノイズに埋もれたメロディと絶妙に絡み合い、孤独感を増幅させている。
9. Inside Me
重く低いギターの響きが曲全体を包み込み、深い内面的な苦悩を表現している。バンドの中でも特に陰鬱な曲であり、無表情なボーカルが心に重く響く。無機質なリズムと深いサウンドが、孤独な心情を一層強調している。
10. Sowing Seeds
ポップなメロディが心地よく、アルバムの中でも一瞬の安らぎを感じさせる。ノイズポップの中にも、どこか牧歌的で優しさのあるサウンドが流れる瞬間が新鮮であり、サウンドの多様性を感じさせる楽曲だ。
11. My Little Underground
不安定で狂気じみたサウンドが特徴の一曲。ギターとベースがぶつかり合うような不協和音が、聞き手に緊張感を与える。ジムの歌声は遠くから響くようで、どこか現実から離れたような感覚を抱かせる。
12. You Trip Me Up
アルバム後半のハイライトともいえる楽曲で、強烈なギターリフが頭に残る。歌詞には、恋愛の困難や不安定さが隠れており、ノイズに包まれながらもそのテーマが深く感じられる。
13. Something’s Wrong
重厚なギターと沈んだリズムが陰鬱な空気を生み出している。歌詞には閉塞感や不安が反映されており、心の奥底にある「何かが間違っている」感覚が響くようだ。
14. It’s So Hard
アルバムの締めくくりにふさわしい、深く感傷的な一曲。リードの抑えたボーカルとノイズが、まるで終わりの見えない旅を示唆するかのようで、心に深い余韻を残すエンディングである。
アルバム総評
『Psychocandy』は、The Jesus and Mary Chainがポップとノイズの境界線を大胆に越え、音楽の新たな表現を探求したアルバムだ。甘くも切ないメロディとフィードバックに満ちたギターの組み合わせが、独特の美しさと不穏さを同時に感じさせる。この作品の影響は、シューゲイザーやオルタナティヴロックといった後続の音楽シーンにも多大な影響を与え、彼らの独自性が未だに色あせることなくリスナーを魅了し続けている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Loveless by My Bloody Valentine
シューゲイザーの金字塔であり、音の壁と美しいメロディが印象的。『Psychocandy』の影響を受けたサウンドと、フィードバックの美しさが共鳴する。
Isn’t Anything by My Bloody Valentine
My Bloody Valentineの初期作で、荒削りながらもノイズとメロディの融合を試みた一作。The Jesus and Mary Chainファンならその影響を強く感じ取れる。
Surfer Rosa by Pixies
オルタナティヴロックの代表作で、ノイジーなギターとポップなメロディの融合が際立つ。『Psychocandy』同様、実験的なサウンドとエッジの効いた楽曲が魅力。
Ocean Rain by Echo & the Bunnymen
ゴシックでドリーミーなサウンドが特徴の一作。ダークで美しいメロディが、The Jesus and Mary Chainのノイズポップに共鳴し、幻想的な雰囲気を楽しめる。
Nowhere by Ride
ノイズと美しさが混ざり合うシューゲイザーの名作。The Jesus and Mary Chainの影響を受けつつ、浮遊感と内省的なサウンドで独自の世界を築いている。
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