発売日: 2021年11月12日
ジャンル: ポストパンク、インダストリアルロック、オルタナティブロック
IDLESの4作目となる「CRAWLER」は、これまでの作品で見せた怒りと反抗心に加えて、より内省的で感情の幅を広げたアルバムである。本作では、社会的なメッセージから一歩踏み込み、自己の暗い一面や苦悩といったパーソナルなテーマを大胆に描き出している。フロントマンのジョー・タルボットは、過去のトラウマや依存症の経験を赤裸々に表現し、バンドはこれまでにないダークでシネマティックな音楽体験を提供する。
「CRAWLER」は、エネルギッシュで攻撃的なパンクロックの枠を超え、インダストリアルやエレクトロニカの要素も取り入れた実験的なサウンドが特徴である。IDLESはここで音楽性を拡大し、従来のシンプルでキャッチーなリフだけでなく、アンビエントな音響やドローン的なサウンドを大胆に用いることで、新たな音楽的次元に達している。「CRAWLER」は、リスナーにとってIDLESの新たな進化を示す重要な作品だ。
トラックごとの解説
1. MTT 420 RR
アルバムのオープニングを飾る「MTT 420 RR」は、ゆっくりと不穏に始まるダークなトラックで、死や絶望といったテーマを描いている。タルボットの低く語りかけるようなボーカルと、インダストリアルなビートが印象的な楽曲だ。
2. The Wheel
「The Wheel」は、ギターリフが疾走感を与え、タルボットの力強いボーカルが炸裂するトラック。中毒や過去の悪習慣に縛られる自己を歌った一曲で、リフレインが耳に残るパワフルな楽曲である。
3. When the Lights Come On
インダストリアルロックの要素が強い「When the Lights Come On」は、退廃的な夜の街を彷徨うようなイメージを喚起する。ビートが繰り返し鳴り響き、どこか孤独と虚無感が漂う楽曲だ。
4. Car Crash
「Car Crash」は、そのタイトル通り破滅的で激しいエネルギーに満ちた一曲。自らの衝動的な面や破壊的な性質について歌われており、タルボットの叫ぶようなボーカルが印象的だ。
5. The New Sensation
「The New Sensation」は、エレクトロ的なビートが特徴的なトラックで、新しい自分に変わろうとする希望と不安が歌われている。ポストパンクらしい鋭いリフと現代的なサウンドが融合している。
6. Stockholm Syndrome
中毒性のあるギターと重厚なビートが絡み合う「Stockholm Syndrome」は、自己への裏切りと赦しがテーマ。抑えたトーンでありながら、心に深く響くメッセージが込められている。
7. The Beachland Ballroom
「The Beachland Ballroom」は、IDLESとしては珍しいバラード風の一曲で、失われた愛や喪失感を描いた感情的なトラック。タルボットのソウルフルなボーカルが際立ち、IDLESの新たな一面が感じられる。
8. Crawl!
アルバムタイトルの一部でもある「Crawl!」は、低音の効いたリフと強いビートが特徴のダークなトラックで、自己再生や立ち上がることをテーマにした一曲。痛みの中から這い上がるような、力強いメッセージが込められている。
9. Meds
「Meds」は、鋭いギターとタルボットの語り口調のボーカルが特徴的。精神的な問題や薬物依存についての視点がリアルに表現されており、IDLESらしい社会への鋭い視点が感じられる。
10. Kelechi
「Kelechi」は、繊細なギターリフとダークなサウンドが響くトラックで、周囲の期待と自己の葛藤がテーマ。静かで深い余韻を残す楽曲で、アルバム全体に重厚感を加えている。
11. Progress
「Progress」は、力強くも静かなビートが特徴のトラックで、変化や成長について歌われている。新しい自分を模索するタルボットのボーカルが印象的な一曲。
12. Wizz
アルバムのラストを締めくくる「Wizz」は、短くも鋭い一曲で、IDLESの怒りとエネルギーが凝縮されている。エンディングにふさわしい勢いのあるトラックで、強烈な余韻を残す。
アルバム総評
「CRAWLER」は、IDLESが自己の内面に深く踏み込んだ、これまでの作品とは異なるアプローチが光るアルバムである。タルボットの個人的な体験や感情が反映され、IDLESの音楽は単なるパンクの怒りから、より内省的で重厚なサウンドへと進化している。インダストリアルなビートやアンビエントな要素が加わったことで、ダークでシネマティックな雰囲気が増し、IDLESの音楽が一段と深化したことを感じさせる。「CRAWLER」は、リスナーにとってIDLESの新たな可能性と進化を実感できる作品であり、彼らがいかに幅広い音楽性を持つバンドであるかを示している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
You Won’t Get What You Want by Daughters
IDLESと同様に、ダークでインダストリアルな要素が強いアルバム。痛みと怒りをダイナミックに表現し、共鳴する作品。
Disintegration by The Cure
メランコリックで内省的なサウンドが特徴の名盤。「CRAWLER」と同じく、暗いテーマと感情的な深みがある。
The Holy Bible by Manic Street Preachers
自己破壊や社会的テーマを鋭く描いた一枚。IDLESの持つエネルギーと内面的な表現と共通点が多い。
Ants From Up There by Black Country, New Road
複雑で内省的なリリックと、実験的なサウンドが特徴のアルバム。IDLESのファンにも新しい発見がある。
Strange Mercy by St. Vincent
個人的なテーマとエクスペリメンタルなサウンドが共鳴する作品で、自己の葛藤や痛みが表現されている。「CRAWLER」の持つ深い内省性と通じ合う。
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