発売日: 1978年8月18日
ジャンル: ロック、プログレッシブ・ロック、アートロック、ハードロック
概要
『Who Are You』は、The Whoが1978年に発表した8作目のスタジオ・アルバムであり、ドラマーのキース・ムーンが参加した最後の作品としても知られる、劇的かつ重厚な一作である。
タイトル曲「Who Are You」の国際的ヒットによって商業的成功を収めた本作は、時代の変化とバンドの葛藤、そして崩壊の予感を濃厚に刻み込んだアルバムでもある。
リリースのわずか3週間後、キース・ムーンが急逝したことで、本作は象徴的な意味を持つようになる。
ジャケットでムーンが座る椅子には“Not to be taken away(持ち出し厳禁)”と書かれており、その死を予見するような不穏な偶然が、アルバムに神話的な陰影を加えている。
音楽的には、プログレッシブ・ロックやシンセサイザーの導入、構造の複雑な楽曲など、より壮大で技巧的な方向へとシフトしており、60年代のシンプルなモッズ・ロックとは一線を画す。
同時に、Rivers CuomoやNoel Gallagherといった後続のアーティストたちにも多大な影響を与える、知的で情熱的なロックの完成形とも言える内容となっている。
全曲レビュー
1. New Song
タイトル通り、“新曲”でアルバムをスタート。
音楽業界への皮肉と自己言及が込められたリリックに加え、シンセサイザーとバンドサウンドが融合した近未来的な感触が漂う。
2. Had Enough
ベーシストのジョン・エントウィッスルによる作品。
ストリングスとギターが重厚に絡み合い、怒りと諦観を共存させたエネルギッシュなナンバー。
3. 905
こちらもエントウィッスル作。
ディストピア的SF世界を舞台にしたリリックが異彩を放つ、異常に洗練されたサイエンス・フィクション・ロック。
The Whoの“もう一つの顔”を提示する佳作である。
4. Sister Disco
ディスコ文化の台頭を風刺した象徴的な楽曲。
だが、否定的というよりは哀悼的に響くリリックが、時代の移り変わりに対するバンドの複雑な感情を映し出す。
5. Music Must Change
ジャズ風のアレンジと大胆な構成が目を引く、タウンゼント渾身の実験作。
“音楽は変わらねばならない”というメッセージとともに、自らの作家性と未来への不安を内包した楽曲。
6. Trick of the Light
エントウィッスル作のハードロックチューン。
セクシャルな不安と衝動を描いたリリックと、攻撃的なギターリフが印象的で、ムーンのドラミングも冴え渡る。
7. Guitar and Pen
劇場的なピアノとロックが交錯するアートロック色の強い楽曲。
“ギターとペン”=作曲家としての自分をテーマに、タウンゼントの自己省察が展開される。
8. Love Is Coming Down
アルバム随一のバラード。
喪失、孤独、そして愛への依存といったテーマが繊細に表現され、タウンゼントの脆さが静かに露呈する。
9. Who Are You
バンド史上最大級のヒットとなったタイトル曲。
都会の喧騒、アルコール、迷子のアイデンティティをテーマに、壮大なアンサンブルが炸裂する。
特に“Who the f*** are you?”という印象的なフレーズが象徴するように、自己の喪失と探求が鮮烈に刻まれている。
総評
『Who Are You』は、The Whoというバンドがロックの英雄から“終わりと再生の象徴”へと移行していく転換点に位置する作品である。
シンセサイザーの導入、複雑な構成、そして内省的なリリックの数々は、もはや単なるモッズ・ロックを越えた“現代的アートロック”としての地平を切り開いている。
同時に、キース・ムーンのドラミングは本作でも凄まじいエネルギーを放っており、バンドの最期の“フルスロットル”として記憶されている。
それだけに、彼の死がアルバムに与える影は大きく、ジャケットのメタ的な暗示も含めて、本作は“死と創造”というテーマを静かに内包するロック絵巻となっている。
混沌と冷静、怒りと祈り、パンクの台頭とアートの昇華——そうしたすべてが、1978年という時代の音に凝縮された名作。
タイトルの問い“Who are you?”は、音楽を作る者にも、聴く者にも突き刺さる永遠の問いなのである。
おすすめアルバム(5枚)
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Quadrophenia / The Who
本作と同様に自己探求と時代の混乱をテーマにしたロックオペラ。叙情性と構造美が共通する。 -
Low / David Bowie
シンセと内省を融合させた70年代後半の名作。『Who Are You』の未来志向的側面と響き合う。 -
The Wall / Pink Floyd
孤独、崩壊、再生といったテーマを視覚的・音楽的に描いた傑作。『Music Must Change』などと通じる芸術性。 -
Brain Salad Surgery / Emerson, Lake & Palmer
技巧とスケールを兼ね備えたプログレの名作。『Guitar and Pen』のような構成的壮大さに通じる。 -
Outlandos d’Amour / The Police
『Who Are You』と同時代に登場したニューウェーブの代表作。都会的孤独と怒りという主題がリンクする。
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