アルバムレビュー：Climbing! by Mountain

発売日: 1970年3月7日
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、サザンロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
- 関連記事:

概要

『Climbing!』は、アメリカのハードロック・バンド、Mountainが1970年にリリースしたデビュー・アルバムであり、70年代初頭の“ヘヴィ・ブルースロック”ムーヴメントの象徴的作品として知られる。
レスリー・ウェスト（ギター／ヴォーカル）、フェリックス・パパラルディ（ベース／プロデューサー）、コーキー・レイング（ドラム）、スティーヴ・ナイト（キーボード）という編成で鳴らされた本作は、ブルースの泥臭さとハードロックの轟音とを見事に融合し、重量感あふれるサウンドで注目を集めた。

フェリックス・パパラルディはCreamのプロデューサーとしても知られ、本作においてもその影響が色濃く表れている。
実際、Mountainは“アメリカ版Cream”と評されることも多いが、その土着性と肉体性は、よりアメリカ的であり、特にサザン・ロックの先駆け的役割も果たしている。

代表曲「Mississippi Queen」は、アメリカン・ハードロック史における金字塔であり、今日でも映画やCM、ゲームなどで頻繁に耳にするロック・クラシックである。

全曲レビュー

1. Mississippi Queen

山のようにそびえるオープニング・リフと、レズリー・ウェストの力強いヴォーカルが炸裂する、Mountain最大の代表曲。
鐘の音から始まるイントロ、野太いギター・トーン、そしてサザンなリズムが印象的。
“ミシシッピの女王”という神話的存在への憧れと畏れが、荒々しいロックンロールに凝縮されている。
ハードロック誕生初期のテンプレートの一つ。

2. Theme for an Imaginary Western

ジャック・ブルースが元々歌っていた楽曲を、Mountain流にアレンジした壮麗なバラード。
広大なアメリカ西部を思わせるスケール感のあるメロディと、パパラルディの叙情的なヴォーカルが響く。
Creamの精神を引き継ぐ一曲であり、バンドの抒情性を象徴する。

3. Never in My Life

リズミカルなリフとシャウトが特徴的な、骨太のハードロック・ナンバー。
“お前のような女は今まで出会ったことがない”という直接的な表現に、レズリー・ウェストのロック・スピリットが宿る。
ブルースとロックンロールの融合点としても秀逸。

4. Silver Paper

オルガンとギターが絡み合う、ファンキーなグルーヴが特徴の一曲。
ややサイケデリックなムードもあり、Mountainの実験精神が垣間見える。
シンプルな構成ながら、中毒性のある一曲。

5. For Yasgur’s Farm

1969年ウッドストック・フェスティバルの開催地、マックス・ヤスガーの農場に捧げた楽曲。
フェスティバル精神と自由の賛歌が歌われ、バンドのヒッピー的側面が強調される。
力強さと叙情がバランスよく共存する佳曲。

6. To My Friend

アコースティック・ギターを中心とした小品で、アルバムの中では異色の穏やかさを持つ。
インストゥルメンタルでありながら、パーソナルな情感がにじみ出る。
本作における静寂のハイライト。

7. The Laird

スコットランド風の旋律が漂うスロー・ナンバー。
“Laird”とは地主階級のことで、どこか牧歌的かつ幻想的な雰囲気を持つ。
Mountainのもう一つの顔である“叙情のロック”を象徴。

8. Sittin’ on a Rainbow

陽気で軽快なリズムのロック・ナンバー。
タイトル通り、“虹の上に座る”というユーモラスな幻想が、ブルージーなサウンドと絡み合う。
ヴァースの構成に、どこかラグタイム的な感触もある。

9. Boys in the Band

ラストを飾るアップテンポなジャム的ロック。
“バンドの少年たち”が夜の街を駆け抜けるような、自由で荒々しいサウンドが展開される。
ライヴ感が強く、アルバムをエネルギッシュに締めくくる。

総評

『Climbing!』は、Mountainというバンドの名の通り、“巨大で、どっしりとして、土臭く、荒々しい”ロックのひとつの到達点である。
ここにあるのは、ブルースの魂を宿したロック、ギターの肉体性、そしてバンドが放つ生々しいグルーヴであり、70年代初頭のハードロックというジャンルがいかに“地に足のついた音楽”であったかを教えてくれる。

また、レスリー・ウェストのギター・トーンは、のちの多くのギタリストに影響を与え、Mountainはその後もアメリカン・ハードロックの源流として語り継がれる存在となった。
デビュー作とは思えない完成度と、表情豊かな楽曲群により、『Climbing!』はブルースロックとハードロックの間に築かれた“鉄橋”のような役割を果たしている。