1. 歌詞の概要
「Glendale Train」は、1971年にリリースされたNew Riders of the Purple Sage(NRPS)のセルフタイトル・デビューアルバムに収録された楽曲であり、**アメリカ西部の列車強盗をテーマにした陽気でスリリングな“カントリー・ロック版アウトロー・バラッド”**である。
物語の舞台は、カリフォルニア州の町グレンデール。そこに到着した列車が、5人組のならず者たちによって襲撃される。彼らは銀行から現金を積んだこの列車を止め、保安官たちの目をかいくぐって金を奪い、メキシコへと逃走する――そんな西部劇のワンシーンをなぞるような展開が軽快に描かれていく。
しかし、語り口はあくまでも軽妙で、犯罪を風刺とユーモアで包み込んだ“音楽で語る昔話”のような趣がある。登場人物たちはアウトローでありながら、どこか憎めず、むしろ“やんちゃで魅力的な悪党”として描かれているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Glendale Train」の作詞作曲を手がけたのは、NRPSの中心メンバーであり、のちにグレイトフル・デッドとの関係でも知られるジョン・ドーソン(John Dawson)。彼の作風は、トラディショナルなアメリカン・フォークの物語性と、1970年代カリフォルニアのヒッピー的ユーモアを融合させたもので、本作はその代表格である。
NRPSは、カントリーの素朴さとロックの自由さを合わせ持つ“カウボーイ・デッドヘッズ”とも言うべき存在であり、同時期のGrateful Deadと共に西海岸ロックのもう一つの道――アメリカーナとアウトロー・スピリットの融合を体現したバンドである。
この曲はコンサートでも人気が高く、聴衆との一体感を生む楽しいナンバーとして愛され続けてきた。特にブディ・ケイジーのペダル・スティール・ギターとジョン・ドーソンの語り口が織りなすノスタルジックで軽やかな雰囲気は、この曲の代名詞となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Somebody robbed the Glendale train
This morning at half past nine
Somebody robbed the Glendale train
And I swear, I ain’t lyin’
今朝の9時半
グレンデールの列車が襲われた
本当に、グレンデールの列車がやられたんだ
誓って言うが、これは本当の話さ
They made clean getaway
Like all the good ones do
And they’re riding southbound
To old Mexico
きれいさっぱり逃げきったよ
腕のいい奴らがやるようにな
今ごろあいつらは南へ走ってる
古きメキシコを目指してな
引用元:Genius 歌詞ページ
この一節にあるように、語り手は事件の“目撃者”でありながら、どこか愉快そうに語っている。法と秩序の対極にある存在であるアウトローたちが、むしろヒーローのように讃えられているのがこの楽曲の面白さであり、西部劇とカントリー・ロックの軽妙な融合を象徴している。
4. 歌詞の考察
「Glendale Train」は、列車強盗というアウトローな題材を扱いながらも、社会批判でもなく、悲劇でもなく、純粋なエンターテインメントとして語っている点が魅力的である。これは、アメリカ音楽に古くからある**“トレイン・ソング”や“バラッド形式の英雄譚”**の現代的解釈とも言える。
ここで描かれる“列車”とは、単なる移動手段ではなく、希望、財宝、変化を運ぶ象徴である。そしてそれを襲う者たちは、現代社会の枠組みを超えて“自分の生き方”を貫く存在として、聴く者の共感を呼ぶ。
また、曲全体を包む軽やかなテンポとペダル・スティールの音色は、暴力性や現実の重さを包み隠す、ある種の幻想性やユートピア的感覚をもたらしている。これは、ヒッピーカルチャーにおける“自由への逃走”“共同体の外で生きる選択”というテーマとも重なる。
つまり、この曲の列車強盗は、自由を求める魂たちのメタファーでもあるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Friend of the Devil by Grateful Dead
逃亡犯を描く、NRPSと地続きのアコースティック・ナラティヴ。 - Panama Red by NRPS
同バンドによる、もう一人のアウトローを描く名作。陽気で風刺的。 - Up Against the Wall, Redneck Mother by Jerry Jeff Walker
田舎の暴れ者を主人公にしたカントリー・ロックの怪作。 - City of New Orleans by Steve Goodman
アメリカの列車と人々の物語。叙情的な“トレイン・ソング”の名曲。 -
Casey Jones by Grateful Dead
列車運転士がコカインでテンションを上げすぎて大事故、という痛烈な風刺。
6. ロックンロール西部劇としての「Glendale Train」
「Glendale Train」は、カントリー・ロックという枠組みのなかで、伝統的なアメリカの語り芸と、1970年代のカウンターカルチャーの精神を見事に融合させた楽曲である。
列車強盗というアウトローの物語は、古くは西部劇やバラッドで繰り返し語られてきたが、NRPSはそれをユーモアとグルーヴに乗せて、“共犯的な愉しさ”としてリスナーと共有することに成功した。
この曲を聴くたび、私たちはどこかの西部の町にいるような気分になる。
そして、グレンデールの列車が今まさに通過しようとするその瞬間、
心のどこかで願ってしまう――
「うまく逃げきれよ、パナマ・レッドみたいに」
そんな自由と浪漫と微かな反逆心を、3分ちょっとの音楽に込めたこの曲は、
時代を超えて、いつまでも走り続ける列車のような存在であり続けるのだ。
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