
1. 歌詞の概要
「Kids」は、**Current Joys(カレント・ジョイズ)**の初期代表曲のひとつであり、2013年にセルフリリースされたアルバム『Wild Heart』に収録されている。10代から20代初頭の“不安定な自我”と“世界への違和感”を赤裸々に吐露した、切実な青春の断章であり、Nick Rattigan(Current Joys本人)の感情がそのまま生々しく刻まれたような一曲である。
タイトルの「Kids(子どもたち)」は、単なる年齢的意味合いではなく、まだ大人になりきれない、感情と価値観の揺らぎを抱えた“若き心”そのものを象徴する言葉である。
この曲は、成長への焦り、人生に対する漠然とした絶望、誰かへの届かない愛、そして孤独と自己嫌悪が入り混じった精神の風景を、ミニマルなギターと切迫した声で描いている。
その語り口はどこか投げやりで、自嘲的ですらあるが、それこそがCurrent Joysの表現の核だ。「どうせこんな自分だから」という諦念の中に、まだ諦めきれない“誰かに伝えたい衝動”が燃えている。この矛盾と衝動こそが、「Kids」の魂なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
Current Joysは、**ニック・ラタガン(Nick Rattigan)によるベッドルーム・ロックプロジェクトであり、「Kids」は彼がStill Sound(前名義)**から現在のCurrent Joysへと移行していく過程で制作された楽曲である。
当時20歳前後だった彼は、大学を中退し、創作と日常の狭間で自問を続けていた。その中で録音された『Wild Heart』の楽曲群は、すべて手作り感のあるローファイ音質と、日記のようなリリックで構成されており、特に「Kids」はその象徴として多くのリスナーに響いた。
TikTokやYouTubeなどで再評価される中、後年のNickとはまた違う、初期特有の“未完成のまま吐き出される感情”の美しさが、この曲にはある。
また、当時のMVは家庭用カメラで撮影されたような質感で、郊外の孤独と親密さを同時に映すノスタルジックな映像詩としても注目された。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“I never wanna be a kid again”
もう二度と 子どもには戻りたくない“I want to live my life and be a man”
自分の人生を生きて “大人”になりたいんだ“But love, I don’t even know what that means”
だけど“愛”って何かさえ 僕にはわからない“And you, you don’t know what I’ve seen”
君だって知らないだろ 僕が見てきたものを“I don’t want to feel again / I just want to run”
もう何も感じたくない
ただ 逃げ出したいだけなんだ
※ 歌詞引用元:Genius
4. 歌詞の考察
この曲の語り手は、「子どもではいたくない」と言いながらも、大人になりきることにも躊躇している。アイデンティティの狭間に揺れる若者の心の振幅が、そのままの言葉で綴られている。
「愛とは何かもわからない」「感じたくない」というフレーズは、自分の未熟さへの苛立ちと、感情を抱えることそのものへの拒否感を示しており、成長することと痛みを受け入れることが等価であるという事実に、どうしても耐えきれない姿が浮かび上がる。
しかしながら、その中に「逃げたい」と言いながらも「誰かに理解されたい」という願望もにじんでいる。“君は僕のことを知らない”という語りは、防衛と渇望のどちらも含む。それが「Kids」という存在の矛盾——誰かに助けてほしいのに、それを拒否するふりをしてしまう不器用さの描写として切実なのだ。
その不完全さこそが、この曲の最大の魅力であり、リスナーが自分の過去の痛みと重ね合わせてしまう理由でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Never Meant” by American Football
自己嫌悪と恋の痛みが絡み合う、エモの金字塔。 - “Teen Suicide” by Yuck
生きる気力も愛も信じられない若者の、無防備な自画像。 - “Jesus Christ” by Brand New
信仰、死、孤独を問いながら、それでも誰かと繋がろうとする叫び。 -
“Peach” by Kevin Abstract
傷つくことを恐れながらも、愛を欲しがる若者の正直な詩。 -
“Angeles” by Elliott Smith
美しい旋律の下に潜む、自己否定と優しさの共存。
6. 壊れそうなまま、叫ぶ——「Kids」が描く若さの不安と美しさ
「Kids」は、Current Joysというアーティストの出発点であり、“語られることで初めて整理される感情”の生々しい記録である。
それは10代〜20代初頭の、どうしようもなく不安で、でも誰にも言えなかった心の揺れを、たった3分半で代弁してくれる。
この曲が多くの若者に支持されるのは、うまく言語化できなかったあの感情たちが、Nickの声とともに形になっているからだ。
未完成なリズム、ざらついた音質、感情むき出しのボーカル。それらすべてが、この曲を“真実”にしている。
「Kids」は、まだ誰にもなれていない僕たちが、それでも生きていくしかないという現実を、優しくも痛切に突きつける歌である。
そしてその痛みの中にこそ、たしかな“青春の美しさ”が、静かに揺れている。
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