- 発売日: 2017年2月21日
- ジャンル: インディーロック、アートポップ、エレクトロニカ
Dirty Projectorsは、バンドの創設者であるデイヴ・ロングストレスがバンドを一新して制作したセルフタイトルのアルバムで、バンドの新たなフェーズを象徴する一作である。前作までバンドの重要な一員だったアンバー・コフィンとの別れやメンバーの入れ替えを経て、ロングストレスは本作で彼の個人的な経験や失恋の痛みを赤裸々に表現している。エレクトロニカやR&B、ヒップホップの影響を強く受けたサウンドと、彼独自のアートポップ的アプローチが融合し、Dirty Projectorsのサウンドが大きく進化したアルバムである。
アルバム全体には、ロングストレスの心情がむき出しの状態で描かれており、デジタルサウンドやボーカルエフェクトが多用され、今までのDirty Projectorsにはないエモーショナルで内省的な一面が感じられる。個々のトラックには個人の苦悩や反省、過去の関係の余韻がテーマとして込められており、Dirty Projectorsの中でも最も個人的で感情に訴える作品となっている。
トラック解説
1. Keep Your Name
アルバムの幕開けにふさわしい一曲で、静かなイントロから始まり、ロングストレスのボーカルがエフェクトで重厚に響く。失恋後の心情が生々しく歌われ、暗くも美しいピアノとビートがその感情を包み込む。歌詞には過去の恋人への複雑な感情が込められており、聴く者の心に深く残る。
2. Death Spiral
ダークで不穏なビートが特徴の曲で、心の中の葛藤や崩壊への恐れが描かれている。デジタル加工されたボーカルと歪んだシンセサウンドが、スリリングな雰囲気を作り出し、恋愛に対する絶望感を印象づける。
3. Up in Hudson
サックスが印象的に響くこのトラックは、アンバー・コフィンとの関係に終止符を打った出来事を詩的に語る長編の楽曲。浮遊感のあるビートとエレクトロニカの要素が絶妙に絡み合い、二人の思い出や愛情が淡々と振り返られている。ポップでありながらも、苦悩が感じられる一曲。
4. Work Together
軽快なリズムとポップなサウンドが印象的だが、歌詞には不和と葛藤が込められている。ラップ調のボーカルがリズミカルに進行し、冷静でありながらも切実なメッセージが伝わる。過去の関係において、お互いが違う方向に進んでいったことへの内省が描かれている。
5. Little Bubble
アルバムの中でも特に静かな一曲で、ロングストレスのボーカルが控えめに響く。シンセとエフェクトが溶け合い、別れや孤独感を幻想的に表現している。まるで泡の中に閉じこもったような不安と疎外感が漂い、聴く者を心地よい空間へと誘う。
6. Winner Take Nothing
タイトル通り、勝者が何も得られないというテーマが込められた、エモーショナルな一曲。シンプルなビートとギターが支配的で、関係の終わりに伴う虚しさや心の傷が歌われている。切実な歌詞と控えめなアレンジが、この曲の持つ深みをさらに際立たせている。
7. Ascent Through Clouds
重厚なシンセと不穏なビートが特徴的な実験的なトラック。浮遊感のあるサウンドとデジタルエフェクトが、まるで雲の中を漂っているかのような感覚を生み出している。過去の出来事からの解放と未来への希望がうかがえる一曲で、静かに進行するビートが不思議な心地よさを与える。
8. Cool Your Heart (feat. D∆WN)
Dawn Richardをフィーチャーし、軽快なリズムが際立つポップな一曲。Dawnのソウルフルなボーカルと、ロングストレスのボーカルが調和し、別れを経験した二人の関係性を暗示している。アフロポップの影響を受けたサウンドで、リズムが跳ねるように明るく、アルバムの中でも軽快な雰囲気を持つ。
9. I See You
アルバムの締めくくりにふさわしいエモーショナルなトラック。ロングストレスが過去を振り返り、未来へ向かう覚悟を歌っている。シンプルなギターと優しいメロディが曲全体を包み込み、関係が終わった後の希望と新しいスタートへの決意が感じられる。
アルバム総評
Dirty Projectorsは、バンドの進化と変化を象徴するセルフタイトルアルバムであり、デイヴ・ロングストレスの個人的な苦悩と再生を表現した作品である。恋愛と別れのテーマを内省的かつエモーショナルに描写し、エレクトロニカやR&B、デジタルエフェクトを駆使して、Dirty Projectorsのこれまでにない深みと感情が表現されている。アンバー・コフィンの脱退を乗り越え、新しいサウンドに挑戦するロングストレスの姿勢が、アートポップの枠を超えた革新性を感じさせる。失恋と自己探求を通じて成長するアーティストの姿が見える本作は、Dirty Projectorsの中でも異色の一枚であり、ロングストレスの個人的なアートとしても強く心に残る。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Blood Orange – Freetown Sound
ロマンティックでソウルフルなサウンドが特徴的で、失恋やアイデンティティ探求を描いたアルバム。エレクトロニカとR&Bの融合がDirty Projectorsのファンにも響く。 - Bon Iver – 22, A Million
デジタルエフェクトとエモーショナルな歌詞が印象的で、内省的なアルバム。複雑なアレンジと個人的なテーマが共鳴する作品。 - Frank Ocean – Blonde
シンプルで美しいメロディと深い歌詞が特徴の一枚。内面的なテーマや静かなエレクトロニカのアプローチが、Dirty ProjectorsのDirty Projectorsと共鳴する。 - James Blake – The Colour in Anything
ソウルフルなボーカルとデジタルサウンドが融合し、切ない失恋の痛みを描写した作品。エモーショナルで静かなサウンドが共感を呼ぶ。 - The National – Sleep Well Beast
内省的な歌詞と実験的なエレクトロニカのアレンジが特徴的で、恋愛や感情の葛藤を深く描いた作品。Dirty Projectorsと同様、感情的な深みが感じられる。
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