
発売日:2016年9月30日
ジャンル:エクスペリメンタル・ポップ、インディーフォーク、エレクトロニカ、アートポップ、アンビエント、オルタナティヴR&B
概要
Bon Iverの3作目となるアルバム『22, A Million』は、Justin Vernonのプロジェクトが、インディーフォークの枠組みを大胆に解体し、電子音、サンプリング、声の加工、記号的なタイトル、宗教的・数学的なイメージを用いて再構築した、キャリア上の大きな転換点である。デビュー作『For Emma, Forever Ago』(2007年/2008年再発)は、ウィスコンシンの森にある小屋で録音された孤独と失恋のフォーク・アルバムとして語られ、2作目『Bon Iver, Bon Iver』(2011年)では、その孤独な声がホーン、シンセサイザー、バンド・アンサンブルによって広大な地理的風景へと拡張された。そこから5年を経て発表された『22, A Million』は、過去2作の延長ではなく、Bon Iverという名前そのものを別の次元へ移動させた作品である。
本作の最大の特徴は、「歌」を壊しながら、なお歌として成立させている点にある。Justin VernonのファルセットはBon Iverの核であり続けるが、ここではその声がそのまま提示されることは少ない。声はAuto-Tune、ヴォコーダー、サンプラー、Messinaと呼ばれる独自のヴォーカル処理システムなどによって変形され、複数の声、断片、残響、記号のように配置される。だが、その加工は人間性を消すためではない。むしろ、自己が一つの声では捉えきれないほど分裂し、揺れ、複数化していることを示すための手段である。
タイトル『22, A Million』も象徴的である。“22”はJustin Vernonにとって個人的な意味を持つ数字として扱われ、アルバム内の多くの曲名にも数字や記号が含まれている。“A Million”は、無数の可能性、膨大さ、個人の小ささ、あるいは宗教的・宇宙的なスケールを思わせる。つまり本作は、個人としての「22」と、無限に広がる「million」の間にある緊張を描いている。自己と宇宙、個人と神、孤独と共同体、有限と無限。その対比がアルバム全体を貫いている。
音楽的には、インディーフォークの骨格を残しながらも、エレクトロニカ、ゴスペル、ソウル、ヒップホップ以降のサンプリング感覚、アンビエント、実験的なR&B、現代音楽的な断片性が混ざり合う。Bon IverがKanye Westの作品に参加した経験や、James Blake、Francis and the Lightsなどとの接点も、本作の音響に反映されている。特に声を電子的に加工しながら、そこに魂や祈りの感覚を残す手法は、2010年代のポップ/インディーの重要な流れとも結びつく。
『22, A Million』は、非常に個人的な危機のアルバムでもある。Justin VernonはBon Iverとしての成功、名声、自己像、そして創作の意味に対する疑念を抱えていた時期を経て本作を制作した。前作までのような美しいフォーク・サウンドを再現することは可能だったはずだが、彼はそれを選ばなかった。むしろ、自分の声、自分の言葉、自分の名前、自分の音楽を一度バラバラにし、その断片から新しい形を作ろうとした。その意味で本作は、成功したアーティストの実験作というより、自己解体と再生の記録である。
歌詞の面でも、本作は従来以上に抽象的である。意味は明確な物語として提示されず、宗教的な語句、数字、記号、場所、身体、罪、救済、愛、孤独の断片が散りばめられる。聴き手は歌詞を一つのストーリーとして読むより、音、声、言葉の断片が作る精神的な地形をたどることになる。これは難解さを目的としたものではなく、精神的混乱や信仰への問い、自己の分裂をそのまま音楽の形にしたものといえる。
キャリア上の位置づけとして、『22, A Million』はBon Iverの最も大胆な作品であり、後の『i,i』(2019年)へ向かう重要な橋渡しでもある。『i,i』では、本作の電子的実験性がより共同体的で温かい音響へと統合されるが、その前段階として、『22, A Million』には鋭い断絶と発明がある。Bon Iverが孤独なフォーク・アーティストから、ジャンルを横断する実験的ポップ・プロジェクトへ変貌したことを決定づけたアルバムである。
全曲レビュー
1. 22(OVER S∞∞N)
オープニング曲「22(OVER S∞∞N)」は、本作の理念を最初に提示する重要曲である。タイトルには、数字の22、括弧、無限記号のような表記が含まれ、従来の曲名の形式からすでに逸脱している。“OVER SOON”という言葉は、「すぐに終わる」という意味に読める。これは苦しみや混乱の終わりを願う言葉であると同時に、人生や存在そのものの儚さを示す言葉でもある。
音楽的には、加工された声とアコースティックな響きが重なり合う。冒頭からJustin Vernonの声は自然な生声としてではなく、電子的に処理された複数の層として現れる。だが、その加工された声には冷たさよりも祈りのような感覚がある。アコースティック・ギターやサンプルが柔らかく配置され、曲全体は断片的でありながら、どこか讃美歌のような静けさを持つ。
歌詞では、終わりを待つこと、過ぎ去ることへの願い、不安の中で何かに身を委ねる感覚が描かれる。Bon Iverの初期作品にあった孤独な語りは、ここではより抽象化され、個人の失恋ではなく、存在全体への問いとして響く。「すぐに終わる」という言葉は慰めにも聞こえるが、同時に不安でもある。終わってほしい苦しみと、終わってしまう人生。その二重性が、この曲の静かな緊張を生んでいる。
アルバム冒頭にこの曲が置かれることで、『22, A Million』は通常のロック/フォーク・アルバムとしてではなく、祈り、断片、記号、電子化された声による精神的な旅として始まる。
2. 10 d E A T h b R E a s T ⚄ ⚄
「10 d E A T h b R E a s T ⚄ ⚄」は、アルバムの中でも最も攻撃的で、リズムの強い楽曲のひとつである。タイトルは“deathbreast”という言葉を分解し、大文字と小文字、数字、サイコロのような記号を混在させている。生と死、身体、偶然性、断片化された言語が一つの曲名の中に詰め込まれている。
サウンドは荒々しく、歪んだビートとサンプルが前面に出る。前曲の柔らかな祈りのような空気から一転し、この曲では音が破裂し、リズムが身体を押す。従来のBon Iverの繊細なフォーク的イメージから大きく離れ、ヒップホップ以降のビート感覚や、実験的なエレクトロニック・ミュージックの影響が強く現れている。
歌詞は断片的で、身体的な不安、死の気配、自己の分裂が感じられる。声は加工され、叫びとも呟きともつかない形で配置される。ここでのBon Iverは、感情を美しいメロディにまとめるのではなく、感情そのものが崩れ、ノイズ化し、ビートに巻き込まれていく状態を音楽化している。
この曲の重要性は、『22, A Million』が単なる内省的な電子フォークではなく、破壊的なエネルギーを持つ作品であることを示す点にある。美しい声、静かなギター、雪景色というBon Iverの既存イメージは、ここで大きく揺さぶられる。
3. 715 – CR∑∑KS
「715 – CR∑∑KS」は、本作の中でも最も徹底して声の加工に焦点を当てた楽曲である。ほぼヴォーカルのみで構成され、楽器らしい楽器はほとんど存在しない。Justin Vernonの声は、Messinaによって加工され、複数のハーモニーを伴う電子的な聖歌のように響く。
タイトルの“Creeks”は、小川や流れを意味するが、表記にはギリシャ文字のような記号が使われ、自然と人工、土地と記号が混ざり合っている。Bon Iverの音楽には水や流れのイメージがしばしば現れるが、この曲ではそれが人間の声の流れとして表現されている。
歌詞では、失われた関係、後悔、痛み、赦しへの願いが感じられる。声は強く加工されているにもかかわらず、感情は非常に直接的に響く。むしろ、加工によって声が複数化されることで、一人の内面にある矛盾や重層性が浮かび上がる。生声で歌われていないからこそ、孤独な祈りがより普遍的なものとして響く。
「715 – CR∑∑KS」は、Bon Iverにおけるヴォーカル加工の到達点のひとつである。電子的な声は人間性を失うのではなく、むしろ生身の声では表現しきれない傷や祈りを伝える。この曲は、本作の精神的な核心を担う重要曲である。
4. 33 “GOD”
「33 “GOD”」は、アルバムの中でも最も明確に宗教的なテーマを扱う楽曲である。タイトルに“GOD”と明示されているが、ここでの神は安定した信仰の対象としてではなく、問い、疑い、憧れ、怒りの対象として現れる。数字の33は、宗教的・象徴的な意味を帯びやすい数字であり、タイトル全体が神秘的な記号のように機能している。
サウンドは、ピアノ、サンプル、加工された声、コーラスが複雑に絡み合う。曲はポップなフックを持ちながら、構造は非常に断片的である。James Blake以降の電子ソウルや、ゴスペルの断片、ヒップホップ的なサンプリング感覚が入り混じり、Bon Iverの音楽がフォークから大きく離れたことを示している。
歌詞では、神への呼びかけ、信じたい気持ち、信じきれない苦しさ、自己の不安定さが交錯する。Bon Iverの宗教性は、教義的な信仰ではなく、孤独や混乱の中で何か大きなものに触れたいという欲求に近い。この曲では、神は答えを与える存在というより、問いを増幅させる存在として響く。
「33 “GOD”」は、『22, A Million』の中でも特にキャッチーでありながら、同時に非常に複雑な曲である。ポップな旋律と宗教的な不安、電子音と祈りが同居している点に、本作の魅力が凝縮されている。
5. 29 #Strafford APTS
「29 #Strafford APTS」は、本作の中でも比較的アコースティックな質感を残した楽曲である。タイトルに含まれる“APTS”はアパートメントを思わせ、個人的な場所、住まい、記憶の部屋を連想させる。記号や数字が含まれていながらも、この曲には前作までのBon Iverに近い親密さがある。
音楽的には、ギターの響きと柔らかなヴォーカルが中心となり、アルバムの中では比較的穏やかに聴こえる。しかし、声や音の処理には本作らしい違和感があり、単純に過去のフォーク路線へ戻っているわけではない。アコースティックな表面の下に、電子的な揺らぎや記憶の歪みが潜んでいる。
歌詞では、場所、過去、愛、喪失が断片的に描かれる。アパートというモチーフは、生活の具体性を持つ一方で、そこにいた時間が過ぎ去った後には記憶の容器となる。Bon Iverにおいて場所は常に重要だが、この曲では広大な地形ではなく、より小さな住居の記憶が中心にある。
「29 #Strafford APTS」は、本作の実験性の中に、Bon Iverの原点である親密な歌心がまだ存在していることを示す楽曲である。断片化されたアルバムの中で、聴き手が一度人間的な温度に触れることのできる曲である。
6. 666 ʇ
「666 ʇ」は、タイトルからして不穏な曲である。666は一般的に悪魔や獣の数字として知られ、宗教的な恐怖や終末のイメージを呼び起こす。一方で、末尾の逆さ文字のような記号は、言葉や意味が反転している感覚を与える。Bon Iverはこの曲で、宗教的象徴を直接的な恐怖ではなく、内面の混乱や罪悪感の記号として扱っている。
サウンドは、緊張感のあるリズムと、加工された声、柔らかなコードが混在している。曲は暗いが、完全に閉じているわけではない。むしろ、不安の中で何かが進行しているような推進力がある。声は多層的に重なり、一人の祈りというより、複数の意識が交錯しているように響く。
歌詞では、罪、身体、欲望、信仰への疑い、自己の不安定さが感じられる。数字の666が持つ象徴性は、外部の悪魔というより、自分の中にある恐れや制御できない衝動を示しているように聞こえる。Bon Iverは、善と悪、信仰と疑い、神と自己を単純に分けず、それらが混ざり合う場所を音楽化している。
「666 ʇ」は、本作の暗部を担う楽曲であり、宗教的記号を現代的な電子音響へ変換した例である。美しいが不安定で、祈りのようでありながら、どこか危険な曲である。
7. 21 M♢♢N WATER
「21 M♢♢N WATER」は、アルバムの中でも最も抽象的で、アンビエント的な楽曲のひとつである。タイトルは“Moon Water”を連想させ、月、水、反射、夜、浄化、夢のイメージを呼び起こす。記号化された表記によって、自然のイメージはそのままではなく、デジタルな符号として変換されている。
音楽的には、明確な歌の構造よりも、音響の流れが重視されている。声は断片化され、シンセサイザーやノイズの中に溶け込む。曲は水面のように揺れ、輪郭が曖昧である。Bon Iverの初期作品にも自然のイメージは多く存在したが、ここでは自然が電子的に再構成されている点が重要である。
歌詞は非常に断片的で、意味を追うよりも、音の中で漂う言葉として受け取るべきである。月と水は、反射するもの、形を持たないもの、感情を吸収するものとして機能する。この曲では、自己もまた水のように揺れ、安定した輪郭を失っている。
「21 M♢♢N WATER」は、アルバム中盤における深い沈み込みの場面である。ポップ・ソングとしての即効性は弱いが、本作の精神的な不安定さ、抽象性、音響実験を理解するうえで重要な楽曲である。
8. 8(circle)
「8(circle)」は、本作の中でも比較的温かく、ソウルフルな響きを持つ楽曲である。タイトルの8は、横にすれば無限記号にもなり、円環や循環を連想させる。“circle”という言葉も、終わりのない回転、関係の輪、共同体、自己の反復を示している。
音楽的には、ホーン、柔らかなリズム、温かいコード進行が印象的で、アルバムの中では比較的開かれた質感を持つ。電子的な処理は残されているが、曲全体には人間的な温度がある。ゴスペルやソウルの影響も感じられ、Bon Iverの音楽が孤独なフォークから共同体的な響きへ向かっていることを示す。
歌詞では、関係性、循環、愛、赦しのようなテーマが浮かび上がる。円は閉じた形であると同時に、途切れないつながりの象徴でもある。この曲では、自己が孤立した点ではなく、誰かとの関係の中で回り続ける存在として描かれているように響く。
「8(circle)」は、『22, A Million』の中で一つの救済に近い瞬間である。ただし、それは明快な解決ではない。混乱と断片化の中で、少しだけ温かい円環が見える。その感覚が、この曲をアルバムの中でも重要な休息点にしている。
9. 45_
「45_」は、タイトルからして空白と数字で構成された楽曲であり、欠落や余白が重要な意味を持つ。45という数字は、レコードの回転数、年齢、象徴的な数値など複数の連想を生むが、ここでは明確な意味よりも、空白に囲まれた数字としての存在感が重要である。
音楽的には、ホーンの響きが印象的で、曲全体に静かな荘厳さがある。声は加工され、音の中に溶け込みながら現れる。楽曲は短く、スケッチのようでもあり、祈りの断片のようでもある。アルバムの終盤に置かれることで、長い精神的旅の途中に現れる、静かな標識のように機能する。
歌詞は少なく、意味は開かれている。だが、その少なさが曲の余白を強めている。Bon Iverはここで、言葉を多く語ることを避け、音の持つ宗教的・記憶的な力に委ねている。ホーンの響きは、前作『Bon Iver, Bon Iver』の広い風景を思い出させるが、ここではより断片化され、抽象化されている。
「45_」は、単体では小さな曲だが、アルバム全体の構造において重要な役割を持つ。音と言葉の間にある空白を聴かせる楽曲であり、『22, A Million』が沈黙や余白を含めて成立していることを示している。
10. 00000 Million
ラスト曲「00000 Million」は、『22, A Million』の締めくくりとして、非常に深い余韻を残す楽曲である。タイトルはゼロが並び、その後に“Million”が続く。無であり、同時に膨大であること。空白と無限、個人の消失と巨大な数の広がりが、曲名の中に込められている。
音楽的には、ピアノを中心にした穏やかなバラードであり、アルバムの中では比較的伝統的な歌の形に近い。だが、ここまでの断片化と電子処理を経た後にこの曲が現れることで、そのシンプルさは非常に強く響く。サンプリングされた声や柔らかな響きが重なり、曲は静かな終着点へ向かう。
歌詞には、諦め、赦し、旅の終わり、自己の受容が感じられる。特に重要なのは、完全な解決ではなく、不完全なまま終わることへの受容である。『22, A Million』は混乱、疑い、信仰、分裂をめぐるアルバムだが、この曲ではそのすべてを完全に整理するのではなく、静かに抱えたまま終える。
「00000 Million」は、アルバムの終曲として非常に美しい。デビュー作の孤独なフォークへ戻るようでいて、実際にはそこへ戻っているわけではない。ここで鳴っている声とピアノは、電子的解体と記号の迷宮を通過した後の声である。だからこそ、この静けさには重みがある。
総評
『22, A Million』は、Bon Iverのキャリアの中で最も実験的で、最も分裂的で、同時に最も重要な作品のひとつである。『For Emma, Forever Ago』で確立された孤独なフォークの美学を期待して聴くと、本作は大きな断絶として響く。しかし、その断絶こそが本作の意義である。Justin Vernonは、自分の声とイメージを守るのではなく、それを一度壊し、電子音、数字、記号、サンプリング、加工された声の中で再構築した。
本作の中心にあるのは、自己の不安定さである。タイトルに含まれる数字や記号、断片化された曲名、加工された声は、単なる装飾ではない。それらは、自己が一つの明確な物語として存在できないことを示している。人は一つの声ではなく、複数の声、記憶、信仰、疑い、欲望、恐れの集合体である。『22, A Million』は、その複雑さを音楽の形そのものに反映させている。
音楽的には、インディーフォーク、エレクトロニカ、ゴスペル、ソウル、アンビエント、ヒップホップ以降のビート感覚が高度に混ざり合っている。だが、単なるジャンルの融合ではない。重要なのは、フォーク的な「個人の声」が、電子的な処理によって解体されながらも、なお祈りとして機能している点である。Bon Iverはここで、テクノロジーを冷たさのためではなく、現代的な精神性を表すために用いている。
歌詞の面では、意味は非常に開かれている。宗教、数字、神、悪魔、月、水、円、死、愛、赦しといったイメージが断片的に現れる。聴き手はそれらを一つの明確な物語として理解する必要はない。むしろ、断片が重なり合い、精神的な地形を作っていく過程に身を置くことが重要である。本作は解読されるアルバムというより、体験されるアルバムである。
『22, A Million』の難しさは、聴き手に対して能動的な聴取を求める点にある。メロディの美しさや声の温かさは随所に存在するが、それらはしばしばノイズや加工、断片的な構成の中に埋め込まれている。だが、繰り返し聴くことで、アルバム全体が一つの危機と祈りの記録であることが見えてくる。混乱しているからこそ、誠実である。壊れているからこそ、現代的である。
Bon Iverのディスコグラフィーにおいて、本作は『i,i』への前段階としても重要である。『i,i』では、本作の実験性がより共同体的で温かい方向へ統合されるが、その統合は『22, A Million』の解体なしにはあり得なかった。つまり本作は、Bon Iverが次の段階へ進むために必要だった破壊のアルバムである。
日本のリスナーにとっては、本作はBon Iver入門としてはやや難解に感じられる可能性がある。『For Emma, Forever Ago』の静かなフォークや、『Bon Iver, Bon Iver』の美しい風景的サウンドとは異なり、ここでは音が途切れ、声が歪み、曲名さえ記号化されている。しかし、その難解さの中に、現代的な孤独、信仰への問い、自己の分裂が非常に鋭く刻まれている。James Blake、Sufjan Stevensの『The Age of Adz』、Kanye Westの実験的なプロダクション、Frank Ocean以降のジャンル横断的な音楽に関心があるリスナーには、特に深く響く作品である。
評価として、『22, A Million』はBon Iverの最も挑戦的な傑作である。美しいだけではなく、不安定で、壊れていて、祈りのようで、暗号のようでもある。だが、そのすべてが、Justin Vernonの声と精神的な探求に結びついている。フォーク・ミュージックが21世紀のテクノロジーと精神的混乱の中でどのように変形しうるか。その問いに対する最も大胆な回答のひとつが、『22, A Million』である。
おすすめアルバム
1. Bon Iver – i,i(2019)
『22, A Million』の電子的実験性を、より温かく共同体的な方向へ統合した作品。断片化された声やサンプリングの手法を受け継ぎながら、ゴスペル的なコーラスや人間的な温度が強まっている。『22, A Million』の次に聴くことで、Bon Iverの変化がよく分かる。
2. Bon Iver – Bon Iver, Bon Iver(2011)
本作以前のBon Iverが、孤独なフォークから広大なアンサンブルへ展開した重要作。ホーン、シンセサイザー、重層的なコーラスが、地名や記憶の風景を描いている。『22, A Million』の実験性がどこから生まれたのかを理解するうえで重要である。
3. James Blake – James Blake(2011)
電子音、沈黙、加工された声、ソウル的な感情表現を結びつけた重要作。Bon Iverの『22, A Million』における声の処理や空間の使い方と深く関連する。人間の声を電子的に変形しながら感情を保つ手法を理解するうえで欠かせない作品である。
4. Sufjan Stevens – The Age of Adz(2010)
フォーク的なソングライティングを出発点にしながら、電子音、ノイズ、オーケストレーション、精神的な混乱を大胆に取り込んだ作品。『22, A Million』と同様に、シンガーソングライター作品が実験的な音響へ変貌する重要な例である。
5. Kanye West – Yeezus(2013)
ヒップホップを基盤にしながら、ノイズ、インダストリアル、極端なミニマリズムを取り入れた実験作。Bon Iverとは音楽的な出自は異なるが、Justin VernonとKanye Westの接点、そして2010年代におけるポップ音楽の解体と再構築という観点から関連性が高い。

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