アルバムレビュー:Evolution by The Hollies

Spotifyジャケット画像

発売日: 1967年6月1日(UK)
ジャンル: サイケデリック・ポップ、バロック・ポップ、ビート


ポップの進化と変容——”進化”という名の英国的サイケの到達点

Evolution』は、英国のポップロック・グループThe Holliesが1967年にリリースした通算6作目のスタジオアルバムであり、サイケデリック革命の真っただ中における彼らの“進化”を示した作品である。
同年にThe Beatlesが『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』を発表し、ロックの形式が急激に変容していく中、The Holliesもまたポップ志向の中に幻覚的な音像や内省的なテーマを取り込み始めた。

プロデュースはロン・リチャーズ、レコーディングはアビイ・ロード・スタジオで行われた。アルバム・ジャケットはヒッピー文化の美術的象徴として知られるThe Foolによる手描きアート。
全体的にビートルズ的な美意識を継承しつつも、より瑞々しく、リリカルな英国ポップの洗練を追求しており、甘さと不可思議さが交錯する独自のサイケデリック・ポップが形成されている。


全曲レビュー

1. Then the Heartaches Begin

メロウなイントロとメランコリックなコード進行。
失恋の痛みを内省的に描いた歌詞と、コーラスワークが美しく融合し、アルバムの叙情的な基調を提示する。

2. Stop Right There

スウィンギン・ロンドンの空気感を凝縮したビート調のナンバー。
止められない感情の衝動と、恋愛の駆け引きが軽妙に描かれている。

3. Water on the Brain

ループするメロディとサイケ調のギターが印象的な中編曲。
“脳にたまった水”という奇妙な比喩は、60年代的なドラッグ体験の象徴とも読める。

4. Lullaby to Tim

幻想的なアレンジと悲しみの込められたメロディ。
“Tim”という名前は個人的な記憶や喪失を想起させ、夢のように儚い雰囲気が漂う。

5. Have You Ever Loved Somebody

最もアグレッシブなロック調ナンバー。
The Searchersなどにもカバーされた人気曲で、執拗に問いかけるリフレインが耳に残る。

6. You Need Love

ブルース進行を基盤にしたシンプルなポップソング。
必要とされることと愛されることの微妙な差異を繊細に描いている。

7. Rain on the Window

印象派的なギターサウンドと浮遊感のあるヴォーカルが、雨の中の心象風景を描く。
ロンドンの灰色の空をそのまま音にしたような、静謐な美しさを持つ。

8. Heading for a Fall

運命的な失敗を予感させるタイトルと、メロディに潜む焦燥感が特徴。
コード進行の不安定さが、歌詞の情緒と呼応している。

9. Ye Olde toffee Shoppe

英国的ユーモアが炸裂した、音の“お菓子屋”とも言えるキュートな楽曲。
バロック調のアレンジと、奇抜な詞世界がアルバム中でも異彩を放つ。

10. When Your Light’s Turned On

内面の葛藤と変化を“明かりが灯る”という比喩で表現。
サイケでありながら感傷的でもある、60年代らしいポップの結晶。

11. Leave Me

強めのファズギターとロック色の強いビートで展開されるナンバー。
別れを肯定的に受け入れるようなクールな態度が新鮮。

12. The Games We Play

遊びのようでいて残酷でもある人間関係の機微をテーマにした締めの一曲。
優雅なメロディと微かな哀愁が、アルバムを静かに閉じていく。


総評

Evolution』は、The Holliesが単なるヒットメイカーではなく、60年代後半の“精神的進化”を体現する存在であったことを証明する一枚である。
ビートルズザ・ゾンビーズらと並ぶ英ポップの精鋭たちの中でも、この作品が特に際立つのは、甘美なメロディとサイケデリックな幻影の見事な同居にある。

アレンジは洗練されつつも奇抜であり、歌詞には抽象と感情が共存している。
この作品における“進化”とは、サウンドだけでなく感情表現の深化であり、後のソフトロックやネオアコにも繋がる要素を内包していた。

60年代英国ロックの奥深さと、ポップミュージックの可能性を再確認させてくれる名作である。


おすすめアルバム

  • The ZombiesOdessey and Oracle (1968)
    幻想的で繊細なサイケポップの金字塔。
  • The BeatlesRevolver (1966)
    ポップと実験精神の均衡が取れた、英国サイケの嚆矢的存在。
  • The Bee GeesBee Gees’ 1st (1967)
    バロック調アレンジと美しいハーモニーが光る、同時代的傑作。
  • The Kinks – Something Else by The Kinks (1967)
    英国的情緒とサイケの香りが同居する、隠れた名盤。
  • Love – Forever Changes (1967)
    ロサンゼルスからの回答とも言える、文学的で緻密なサイケロックの大傑作。

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