アルバムレビュー:Wild Mood Swings by The Cure

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1996年5月6日

ジャンル:オルタナティヴ・ロック、ニューウェイヴ、ゴシック・ロック、ポップ・ロック、アート・ロック

概要

The CureのWild Mood Swingsは、1996年に発表された10作目のスタジオ・アルバムであり、バンドのディスコグラフィの中でも特に評価が分かれる作品である。1989年のDisintegrationで、The Cureはロマンティックな喪失感、広大な音響、ゴシック的な沈降美を極限まで高め、バンドの代表作を生み出した。続く1992年のWishでは、「High」や「Friday I’m in Love」に代表される明るいギター・ポップと、長尺で陰影の深い楽曲を共存させ、商業的にも大きな成功を収めた。そうした成功の後に登場したWild Mood Swingsは、タイトルの通り、感情も音楽性も大きく揺れ動くアルバムである。

本作を理解するうえで重要なのは、The Cureがこの時期、バンドとしての再編成を経験していたことだ。長年在籍していたドラマーBoris Williamsが脱退し、キーボーディストのRoger O’Donnellも一時離脱していた。結果として、バンドは新しいメンバーや外部ミュージシャンを加えながら制作を進めることになった。この変化はサウンドにも強く影響している。DisintegrationやWishにあった強固なバンド・サウンドの一体感に比べると、Wild Mood Swingsは曲ごとに編成や質感が変わり、全体像がかなり散漫に聴こえる。しかし、その散漫さは偶然ではなく、アルバム・タイトルが示すような「気分の激しい揺れ」をそのまま反映しているともいえる。

音楽的には、本作はThe Cureの多面性が過剰なほど詰め込まれたアルバムである。明るいポップ・ソング、ラテン風のリズム、ホーンを使った軽快なアレンジ、ゴシック的な暗さ、アコースティックな叙情、歪んだロック、夢のようなバラードが次々に現れる。これは1987年のKiss Me, Kiss Me, Kiss Meに近い多彩さともいえるが、あちらが二枚組という大きな器の中で過剰さを魅力に変えていたのに対し、Wild Mood Swingsは一枚のアルバムの中で気分の変化がやや急激に起こる。そのため、聴き手によってはまとまりのなさを感じやすい。

しかし、本作を単なる迷走作として切り捨てるのは不十分である。The Cureは常に、暗さと明るさ、絶望とポップ性、ロマンティシズムと滑稽さを同時に抱えてきたバンドだった。Wild Mood Swingsでは、その二面性が制御されすぎず、むしろ不安定なまま表に出ている。Robert Smithの歌詞は、恋愛の陶酔、自己嫌悪、孤独、世界への違和感、別れの痛み、幸福への疑いを扱い続けるが、サウンドは曲ごとに極端に変化する。つまり本作は、The Cureの「感情の振れ幅」をそのままアルバム構造にした作品である。

タイトルのWild Mood Swingsは非常に率直である。気分の激しい上下、予測不能な感情の変化、幸福から絶望へ、愛から怒りへ、静けさから混乱へと急に切り替わる心理状態を示している。The Cureの音楽は、しばしばこのような感情の揺れを描いてきたが、本作ではそれがアルバム全体の原理になっている。曲順にも、明るい楽曲の直後に暗い曲が来たり、軽快なリズムの後に重いバラードが置かれたりする。これは聴きやすい統一感を犠牲にしている一方で、感情の不安定さをかなり正直に表現している。

歌詞面では、Robert Smithらしい恋愛の過剰さが目立つ。彼の語り手は、愛を求めながらも、愛がもたらす苦しみから逃れられない。幸福な瞬間を歌っているように見えても、その背後には必ず崩壊の予感がある。また、本作ではユーモラスで軽い表現も多く、過去の暗黒期のような一貫した絶望ではなく、感情が冗談やカラフルなアレンジの中へ逃げ込むような場面もある。The Cureのポップな側面と病的な側面が、やや整理されないまま同居していることが本作の特徴である。

1990年代半ばという時代背景も重要である。オルタナティヴ・ロックがメインストリーム化し、ブリットポップが英国音楽の中心に躍り出ていた時期、The Cureはすでにベテラン・バンドとして見られていた。彼らは新世代のシーンに直接乗るのではなく、自分たちの過去の要素を再配置しながら、新しい時代にどう存在するかを模索していた。Wild Mood Swingsは、その模索の記録でもある。完璧な答えを出したアルバムではないが、The Cureが90年代半ばに自らの多面性を再確認しようとした作品として、非常に興味深い。

全曲レビュー

1. Want

アルバム冒頭の「Want」は、Wild Mood Swingsの中でも最も重く、暗い楽曲の一つであり、The Cureのゴシック的な側面を強く示すオープニングである。タイトルは「欲しい」「求める」を意味し、欲望そのものを非常に直接的に掲げている。Robert Smithの歌詞世界において、欲望はしばしば満たされることのない飢えとして描かれる。この曲もまさにその系譜にある。

音楽的には、長めのイントロ、厚いギター、重いベース、陰影のあるリズムが特徴である。曲はゆっくりと膨らみ、内側に溜まった欲望と苛立ちを少しずつ外へ押し出していく。Disintegration期の広大な暗さを思わせるが、より荒く、焦燥感が強い。Robert Smithのヴォーカルは、単に悲しんでいるのではなく、欲し続けることに疲れた人物のように響く。

歌詞では、何かを求めても求めても満たされない状態が反復される。愛、快楽、意味、安心、すべてを欲しがっているのに、どれも十分ではない。これは個人的な恋愛感情であると同時に、現代的な消費欲望の空虚さにも通じる。欲望は人を動かすが、同時に人を消耗させる。

冒頭曲として「Want」は非常に効果的である。タイトルがWild Mood Swingsであるにもかかわらず、アルバムはまず暗い欲望の底から始まる。ここから聴き手は、幸福や軽快さへ向かう前に、The Cureの根底にある飢えと不満を突きつけられる。

2. Club America

「Club America」は、前曲の重さから一転して、皮肉と演劇性の強い楽曲である。タイトルはアメリカ的なクラブ文化、消費、ショービジネス、空虚な華やかさを思わせる。The Cureはここで、外部の世界、とりわけアメリカ的なイメージの過剰さをやや戯画的に描いている。

音楽的には、ねじれたロックンロールの感覚があり、Robert Smithのヴォーカルもいつもより芝居がかっている。声は少し鼻にかかったように演じられ、キャラクターをまとっているように聴こえる。The Cureのシリアスな暗さを期待すると戸惑う曲だが、本作の「気分の揺れ」を象徴する重要な一曲である。

歌詞では、アメリカのクラブ的な空間が、欲望、見栄、表面的な魅力の場所として描かれる。人々は自分を売り込み、見られ、演じ、消費される。Robert Smithはその世界に引き寄せられながらも、どこか冷笑的に見ている。これはThe Cure自身が巨大な国際的バンドになったことへの距離感とも読める。

「Club America」は、The Cureの中では異色の曲だが、アルバムの多面的な構造において重要な役割を果たす。暗い内面から、突然外部のショー的な世界へ飛び出す。この落差が、本作の不安定な魅力である。

3. This Is a Lie

「This Is a Lie」は、本作の中でも特に美しいバラードであり、Robert Smithの恋愛観と人生観の冷めた側面が強く表れている。タイトルは「これは嘘だ」という非常に強い断定であり、愛、運命、幸福、選択といったものへの疑いを示している。

音楽的には、ストリングスを含む繊細なアレンジが印象的で、The Cureの静かな叙情性がよく表れている。テンポはゆっくりとしており、Robert Smithの声は諦めと優しさを同時に含む。大きく爆発する曲ではなく、淡々とした悲しみが続く。

歌詞では、人は誰かを選び、人生を選び、愛を選んでいるように見えるが、それらは本当に自由な選択なのかという問いが投げかけられる。社会は恋愛や結婚、幸福について物語を作るが、その物語そのものが嘘かもしれない。Smithはここで、ロマンティックな理想を歌いながら、それを同時に疑っている。

「This Is a Lie」は、The Cureの成熟した悲観主義を示す曲である。若い頃の絶望とは違い、ここには人生をある程度知った者の静かな不信がある。美しいメロディで「これは嘘だ」と歌うことによって、曲は非常に深い余韻を残す。

4. The 13th

「The 13th」は、アルバムからのリード・シングルであり、本作の中でも特に明るく、ラテン風のリズムを取り入れた異色曲である。The Cureのシングルとしてはかなり大胆な選択であり、バンドのカラフルで風変わりな側面を前面に出している。

音楽的には、ホーン、ラテン的なリズム、軽快なギターが特徴で、暗いゴシック・ロックのイメージからはかなり遠い。曲は踊れるが、完全に陽気というわけではない。Robert Smithの歌唱にはいつもの不安定な甘さがあり、明るいアレンジの中に奇妙な影を落としている。

歌詞のテーマは、誘惑、酩酊、性的な混乱、自己制御の喪失として読める。軽快なリズムに乗っているが、語り手は相手に振り回され、感情のバランスを失っている。13という数字も、不吉さや不安定さを連想させる。つまりこの曲の明るさは、安定した幸福ではなく、危うい快楽の明るさである。

「The 13th」は、Wild Mood Swingsを象徴する曲の一つである。The Cureのポップな冒険心が表れている一方で、従来のファンを戸惑わせる要素も強い。だが、この曲の大胆な軽さがなければ、本作のタイトルが示す「気分の揺れ」は十分に表現されなかっただろう。

5. Strange Attraction

「Strange Attraction」は、タイトル通り奇妙な引力、つまり説明しがたい恋愛や執着を扱うポップ・ソングである。本作の中では比較的明るく、メロディアスで、シングル向きの楽曲である。The Cureのポップな側面が分かりやすく出ている。

音楽的には、軽快なリズムと明るいギター、親しみやすいメロディが中心である。Wish期の「Friday I’m in Love」ほどの即効性はないが、The Cureらしい甘酸っぱいポップ感覚がある。Robert Smithの声は、相手に引き寄せられる喜びと戸惑いを同時に表現している。

歌詞では、電話や距離を介した関係、相手への不思議な惹かれ方が描かれる。愛は理屈では説明できない力として現れる。だが、その引力が「strange」と呼ばれていることが重要である。これは健全で安心できる愛ではなく、どこかおかしく、制御できない感情である。

「Strange Attraction」は、本作のポップな表情を支える曲である。軽い曲に聴こえるが、The Cureらしい不安定な恋愛観がしっかりと含まれている。明るいメロディの中に、説明不能な執着が潜んでいる。

6. Mint Car

「Mint Car」は、Wild Mood Swingsの中で最も明るく、幸福感の強い楽曲の一つである。タイトルの「Mint Car」は、新品同様の車、あるいは爽快で鮮やかな乗り物のイメージを持ち、曲全体にも疾走感と高揚がある。

音楽的には、きらびやかなギター、弾むリズム、開放的なメロディが特徴である。The Cureの明るいポップ・ソングの系譜に属し、「Just Like Heaven」や「High」に通じる快活さを持つ。ただし、本作特有の少し過剰でカラフルな質感もある。

歌詞のテーマは、恋愛の幸福な瞬間である。車に乗ってどこかへ向かう感覚、相手といることで世界が明るく見える感覚が描かれる。The Cureの楽曲における幸福はしばしば一瞬のものであり、その一瞬が強く輝くほど、後の喪失の可能性も感じられる。「Mint Car」もその意味で、完全な無邪気さだけではない。

この曲は、本作の明るい極を代表している。「Want」のような暗い欲望からここまで気分が振れることこそ、Wild Mood Swingsの本質である。The Cureが暗いバンドであると同時に、眩しいほどのポップ・ソングを書けるバンドであることを示す一曲である。

7. Jupiter Crash

「Jupiter Crash」は、本作の中でも特に美しく、静かな宇宙的イメージを持つ楽曲である。タイトルは「木星衝突」を意味し、1994年にシューメーカー・レヴィ第9彗星が木星へ衝突した天文現象を連想させる。The Cureはこの壮大な宇宙的出来事を、恋愛や感情の比喩として用いている。

音楽的には、穏やかなアコースティック・ギターと柔らかなメロディが中心である。音は控えめで、静かな夜空を見上げるような感覚がある。Robert Smithの声は優しく、少し寂しい。アルバムの中で非常に叙情的な位置を占める曲である。

歌詞では、宇宙の衝突と恋愛のすれ違いが重ねられる。大きな天体の出来事でさえ、遠くから見れば静かに見える。人間関係もまた、内側では大きな衝撃が起こっていても、外からは静かな出来事に見えることがある。Smithはこの曲で、壮大な宇宙を使いながら、非常に個人的な寂しさを描いている。

「Jupiter Crash」は、Wild Mood Swingsの中でも過小評価されがちな名曲である。大きなドラマではなく、小さな声と美しい比喩で感情を描く。The Cureの叙情的な才能がよく表れている。

8. Round & Round & Round

「Round & Round & Round」は、タイトル通り、循環、反復、抜け出せない感情の回転をテーマにした楽曲である。The Cureの歌詞には、同じ感情や関係の中を何度も回り続ける人物がしばしば登場する。この曲もその一つであり、ポップな表面の下に閉塞感を持つ。

音楽的には、比較的軽快で、リズムも前へ進む。しかし、タイトルが示す反復性によって、曲は進んでいるようで同じ場所を回っているようにも聴こえる。Robert Smithのヴォーカルには皮肉があり、相手や自分自身の行動パターンにうんざりしているような感覚がある。

歌詞のテーマは、関係の堂々巡りである。同じ喧嘩、同じ期待、同じ失望を繰り返す。人は変わりたいと思っても、感情の癖から簡単には抜け出せない。曲の明るさは、その空回りを少し滑稽に見せている。

「Round & Round & Round」は、アルバムの軽めの曲に分類されるが、主題はThe Cureらしく陰りを帯びている。気分は回り続け、答えには到達しない。この反復感が、本作の不安定な心理を補強している。

9. Gone!

「Gone!」は、ホーンを用いた陽気なアレンジと、どこか投げやりな感覚が同居する楽曲である。タイトルは「行ってしまった」「消えた」という意味であり、喪失や逃亡を示すが、曲調はむしろ軽快である。このズレがThe Cureらしい。

音楽的には、ジャズやブラス・ポップ的な要素があり、アルバムの中でも特にカラフルな曲である。Robert Smithは重々しく嘆くのではなく、少し演劇的に、やや皮肉を込めて歌う。ホーンの明るさが、歌詞の空虚さを逆に際立たせている。

歌詞のテーマは、何かが失われた後の虚脱感として読める。人や感情や機会が消えてしまった後、人は悲しみに沈むだけでなく、時に妙に軽くなったように感じることもある。この曲の明るさは、その奇妙な解放感を表しているように響く。

「Gone!」は、本作の中でも特に評価が分かれやすい曲だが、アルバム・タイトルの精神には非常に合っている。深刻な喪失が、突然カラフルで滑稽な音に変わる。これこそ気分の乱高下である。

10. Numb

「Numb」は、タイトル通り麻痺をテーマにした楽曲であり、本作の中でも暗く、重い感情を持つ。The Cureにおいて麻痺は重要な主題である。悲しみが強すぎると、人は泣くことすらできず、感情が鈍くなる。この曲はその状態を静かに描いている。

音楽的には、ゆったりとしたテンポで、陰鬱なギターと抑制されたアレンジが中心である。派手な展開はなく、曲全体が沈んでいる。Robert Smithの声も疲れており、感情の爆発ではなく、感情が消えていく感覚を表現している。

歌詞では、痛みを感じすぎた結果、何も感じられなくなる状態が描かれる。これは失恋や孤独だけでなく、精神的な消耗全体に関わる。The Cureの暗い曲の中でも、この曲は絶望の叫びではなく、叫びの後に訪れる無感覚を扱っている点が特徴である。

「Numb」は、アルバム後半で重要な重さを与える曲である。明るい曲や奇妙な曲が続いた後、ここで再びThe Cureの深い闇が現れる。気分の揺れが、ついに麻痺へ到達する瞬間である。

11. Return

「Return」は、戻ること、帰還、再び同じ場所へ向かうことを示すタイトルを持つ楽曲である。The Cureの歌詞において、帰還は必ずしも救済ではない。過去へ戻ることは、同じ痛みを繰り返すことでもある。この曲には、そのような不安定な循環感がある。

音楽的には、比較的明るく、ポップな印象を持つ。だが、メロディの中にはどこか焦りがあり、完全には安心できない。曲は軽快に進むが、歌詞の内容は複雑である。The Cureが得意とする、明るい音と不安な感情の組み合わせである。

歌詞のテーマは、戻りたいという願いと、戻ることへの恐れである。人は失ったものを取り戻したいと思うが、過去は同じ形では戻らない。戻ることは、現在を否定することにもなる。Robert Smithはこの矛盾を、比較的軽やかなポップ・ソングの中に込めている。

「Return」は、アルバムの流れの中で大きく目立つ曲ではないが、本作のテーマにはよく合っている。感情は前へ進むだけでなく、何度も戻る。気分の揺れは、時間の中でも起こるのである。

12. Trap

「Trap」は、タイトル通り罠を意味し、関係性や欲望の中に閉じ込められる感覚を扱う楽曲である。本作の中ではギターが前面に出たロック寄りの曲で、アルバム後半に緊張感を与えている。

音楽的には、比較的荒く、勢いがある。明るいポップ曲というより、苛立ちを抱えたロック・ナンバーである。ギターは鋭く、リズムも前へ押し出す。Robert Smithの声には、不満と焦燥が混ざっている。

歌詞では、自分が何かに捕らわれているという感覚が描かれる。それは恋愛関係かもしれないし、自分自身の感情の癖かもしれない。罠の恐ろしさは、外から仕掛けられるだけでなく、自分からそこへ入ってしまう場合もある点にある。The Cureの恋愛歌では、相手に支配されることと、自分自身の欲望に縛られることがしばしば重なる。

「Trap」は、Wild Mood Swingsの中で感情の攻撃性を担う曲である。ポップな揺れの中に、閉じ込められた怒りが噴き出す。アルバム全体の不安定な構造において、必要な荒さを持つ一曲である。

13. Treasure

「Treasure」は、本作の中でも特に美しく、静かな別れの歌である。タイトルは宝物を意味し、失われたもの、あるいは大切に保管される記憶を示す。The Cureの楽曲において、宝物は現在の幸福ではなく、すでに過去になった愛や時間として現れることが多い。

音楽的には、穏やかで、アコースティックな質感があり、Robert Smithの声も非常に優しい。大きく盛り上がらないが、メロディには深い哀愁がある。アルバム後半の中で、感情的な核となるバラードの一つである。

歌詞のテーマは、愛する人を手放すこと、または失われた存在を大切に記憶することとして読める。相手を所有し続けるのではなく、記憶の中で宝物として抱く。ここには、The Cureの成熟したロマンティシズムがある。若い頃の執着や絶望とは異なり、喪失を静かに受け入れるような感覚がある。

「Treasure」は、Wild Mood Swingsの中でも過小評価されがちな名曲である。アルバムの散漫さの中に、こうした静かな深みがあることが、本作を単純な失敗作にはしていない。

14. Bare

アルバム最後を飾る「Bare」は、Wild Mood Swingsの終曲として非常に重要な楽曲である。タイトルは「裸の」「むき出しの」という意味を持ち、アルバム全体で揺れ続けた感情が、最後に装飾を失い、露出することを示している。

音楽的には、長めのバラードであり、静かな導入から徐々に感情を深めていく。派手な終曲ではなく、沈み込むような余韻を残す。Robert Smithのヴォーカルは非常に痛切で、過去を振り返るような疲れと諦めがある。The Cureの長尺バラードの伝統に連なる曲である。

歌詞のテーマは、関係の終わりと、感情を隠せなくなった状態である。人は恋愛の中で多くの言葉や演技を使うが、最後には何も残らず、裸の自分だけが残る。タイトルの「Bare」は、自己の防御が剥がれた状態を示している。これは痛みを伴うが、同時に真実に近い状態でもある。

終曲として「Bare」は、本作全体の散らばった感情を静かにまとめる。欲望、嘘、奇妙な引力、幸福、喪失、麻痺、罠、宝物。そのすべてを通過した後、最後に残るのは、むき出しの孤独と記憶である。The Cureらしい、非常に苦く美しい締めくくりである。

総評

Wild Mood Swingsは、The Cureのキャリアの中で最もまとまりに欠ける作品の一つであると同時に、そのまとまりのなさによって独自の魅力を持つアルバムである。Disintegrationのような圧倒的な統一感や、Wishのようなギター・ポップと暗い叙情のバランスを期待すると、本作は散漫に感じられる。だが、タイトル通り「気分の激しい揺れ」を表現した作品として聴くと、その構造には一定の必然性が見えてくる。

本作では、The Cureのあらゆる側面が極端に出入りする。「Want」「Numb」「Bare」のような暗く重い曲がある一方で、「The 13th」「Mint Car」「Gone!」のような明るくカラフルな曲がある。「This Is a Lie」「Jupiter Crash」「Treasure」のような静かな叙情もあれば、「Club America」「Trap」のような皮肉や苛立ちもある。この幅広さは、バンドの強みでもあり、同時にアルバムとしての弱点でもある。

音楽的には、ホーンやストリングス、ラテン的なリズム、アコースティックな質感など、The Cureとしてはかなり多様なアレンジが使われている。これは新鮮さを生む一方で、バンド・サウンドの芯をやや曖昧にしている。特にBoris Williams脱退後のドラマー交代や制作体制の変化は、アルバム全体のまとまりに影響している。The Cureらしい強固な空気感が薄れる場面もある。

しかし、Robert Smithのソングライターとしての力は随所に残っている。「This Is a Lie」「Jupiter Crash」「Treasure」「Bare」は、本作の中でも非常に優れた楽曲であり、The Cureの叙情的な深さを示している。また、「Mint Car」のような明るい曲にも、彼特有の一瞬の幸福への執着が表れている。つまり、本作は全体としては不安定だが、曲単位では重要な瞬間が多い。

歌詞面では、愛と欲望への疑いが繰り返される。Smithは愛を信じたいが、同時にそれが嘘かもしれないことを知っている。幸福を感じても、それが長続きしないことを知っている。戻りたいと思っても、過去には戻れないことを知っている。Wild Mood Swingsというタイトルは、単なる気まぐれではなく、このような感情の不安定さを正確に表している。

本作の問題は、その不安定さが常に音楽的な強度へ変換されているわけではない点にある。曲によっては、軽さがやや中途半端に響き、The Cureの深みと結びつききれていない部分もある。だが、その不完全さも含めて、1990年代半ばのThe Cureが置かれていた状況をよく物語っている。彼らは過去のゴシックな重厚さに戻ることも、完全なポップ・バンドになることも選ばず、両者の間で揺れていた。

日本のリスナーにとってWild Mood Swingsは、The Cureの入門作として最適ではない。まずはDisintegration、The Head on the Door、Wish、Pornographyなどから聴いた方が、バンドの核心はつかみやすい。しかし、The Cureの多面性、特に明るさと暗さの間で揺れる不安定な魅力を理解するには、本作は非常に興味深いアルバムである。

総合的に見て、Wild Mood SwingsはThe Cureの傑作ではないが、見過ごすには惜しい作品である。失敗も迷いも含んでいる。しかし、その迷いの中に、The Cureらしい美しい曲、奇妙な実験、感情の振れ幅が刻まれている。完璧に整ったアルバムではなく、感情が整わないまま揺れているアルバムである。その不安定さこそが、本作のタイトル通りの本質である。

おすすめアルバム

1. The Cure – Wish(1992年)

Wild Mood Swingsの前作であり、The Cureのギター・ポップと暗い叙情が高い水準で共存した作品である。「High」「Friday I’m in Love」の明るさと、「From the Edge of the Deep Green Sea」などの深い陰影が同居しており、本作がどこから出発したのかを理解するために重要である。

2. The Cure – Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me(1987年)

The Cureの多彩さが最も豊かに表れた二枚組アルバムである。ポップ、ゴシック、ファンク、サイケデリック、バラードが混在しており、Wild Mood Swingsの多様性の先行例として聴くことができる。ただし、こちらの方が全体のエネルギーと完成度は高い。

3. The Cure – Disintegration(1989年)

The Cureの代表作であり、ロマンティックな喪失感と広大な音響が完璧に結びついたアルバムである。Wild Mood Swingsの「Want」や「Bare」にある暗く長い曲の源流を理解するうえで欠かせない作品である。

4. The Cure – The Head on the Door(1985年)

The Cureが暗さとポップ性をコンパクトに統合した重要作である。「In Between Days」「Close to Me」などの明るい曲と、内省的な楽曲がバランスよく配置されている。Wild Mood Swingsのポップな側面をより整理された形で味わえる。

5. The Cure – Bloodflowers(2000年)

Wild Mood Swingsの次作であり、バンドが再び長尺で暗い、統一感のある世界へ向かった作品である。時間、終わり、喪失をテーマにした後期の重要作であり、Wild Mood Swingsの散漫さの後にThe Cureがどのように深い叙情へ戻ったかを理解できる。

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