発売日: 2023年4月14日
ジャンル: ヘヴィメタル、スラッシュメタル
過去と向き合う季節——成熟と再燃の13作目
2023年、Metallicaはキャリア13作目となるアルバム72 Seasonsを発表した。
そのタイトルが示す“72の季節”とは、人が人生で最初に経験する18年間(18年×4季節)を指す。
ジェイムズ・ヘットフィールドはこの期間を「人格の核を形成する季節」と語っており、本作はその記憶と葛藤、再生への意志を音楽として昇華した一大叙事詩である。
音楽的には、初期のスラッシュメタルに立ち返る瞬間もありつつ、ミドルテンポの重厚なグルーヴやヘヴィロックの厚みも全編にわたって展開。
90分を超える長尺の中に、Metallicaの「現在地」と「原点」が併走するような構成となっている。
プロデュースはグレッグ・フィデルマンとバンド自身によるもので、前作Hardwired… to Self-Destructの路線をよりダイレクトに押し進めている。
全曲レビュー
1. 72 Seasons
オープニングを飾る7分超のスラッシュ・ナンバー。
人生の最初の18年間に積もる怒りや混乱を、切れ味鋭いリフとリズムで具現化している。
2. Shadows Follow
過去の過ちや影を引きずりながらも前に進もうとする姿勢を描く。
重く刻まれるリフとジェイムズのヴォーカルが、内省と暴力性のバランスを見事に保つ。
3. Screaming Suicide
「自殺」というタブーに正面から向き合い、その言葉を「口に出すことで力を失わせる」という思想に基づいたリリック。
社会的テーマをストレートに叫ぶ姿勢は、近年のMetallicaらしい。
4. Sleepwalk My Life Away
覚醒と眠り、現実逃避と対峙という二項を行き来する楽曲。
ロバート・トゥルージロのベースラインが躍動し、リフの反復がトランス的な感覚をもたらす。
5. You Must Burn!
中速で重く進行するドゥーミーな一曲。
異端者への処刑、あるいは自己犠牲のようなテーマが、ダークなサウンドと相まって陰鬱な雰囲気を演出する。
6. Lux Æterna
本作のリードシングルにして、最もスピーディな一曲。
80年代のKill ‘Em All時代を思わせる勢いと明快な構成が、爽快なカタルシスを生む。
7. Crown of Barbed Wire
有刺鉄線の王冠を冠るという象徴的なタイトルが示すように、支配と苦痛、贖罪が交錯するテーマ。
ヘヴィかつダークなリフが、苦悶する内面を具現化している。
8. Chasing Light
希望と破滅の狭間を描く、アップテンポで前のめりなトラック。
「You’re chasing light but you’re fading fast」というラインが、焦燥感を際立たせる。
9. If Darkness Had a Son
「闇が息子を持っていたなら」という詩的な構造のリリックが印象的。
宗教的、道徳的な自己との対話がテーマとなっており、サビでの反復が催眠的な効果を生む。
10. Too Far Gone?
救いの可能性を模索するような内容。
「俺はもう戻れないのか?」という叫びが、長年にわたる自己否定と葛藤を浮き彫りにする。
11. Room of Mirrors
鏡張りの部屋に映る自分自身との対話をモチーフにしたメタファー的楽曲。
リズムの疾走感がありながら、テーマは深く心理的である。
12. Inamorata
Metallica史上最長の11分超に及ぶ大作。
「恋人=悲しみ(sorrow)」というコンセプトが歌詞全体を覆い、重く、そしてゆったりとした展開の中に、情念と美しさが共存する。
総評
72 Seasonsは、Metallicaが老いてなお成長し続けるバンドであることを、これ以上ない形で示した作品である。
自己分析と過去との対峙をメインテーマに掲げながら、音楽的には原点回帰と進化が絶妙に同居している。
ジェイムズ・ヘットフィールドのリリックはこれまで以上にパーソナルで痛々しく、それだけに聴く者の心にも深く突き刺さる。
そして、バンドとしての演奏力と結束力は衰えるどころか、むしろ新たな頂に達しつつあるようにさえ思える。
90分という長さにもかかわらず、その濃度と誠実さによって最後まで引き込まれる。
72 Seasonsは、Metallicaがただのレジェンドで終わらない理由を、静かに、しかし確実に証明してみせた一枚である。
おすすめアルバム
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Hardwired… to Self-Destruct by Metallica
——本作の前作にして、自己破壊と再生の予兆が見え始めたアルバム。 -
Reload by Metallica
——グルーヴ重視の時期における、パーソナルなテーマの先駆。 -
God Hates Us All by Slayer
——荒廃と怒りの中で人間の弱さを曝け出す、鋭利なメタル作品。 -
The End of Chaos by Flotsam and Jetsam
——熟練のバンドが見せるスピードと抒情のバランスが、本作と共鳴する。 -
Titans of Creation by Testament
——ベテランが現代スラッシュを更新した、迫力と技巧の結晶。
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