発売日: 2005年10月4日
ジャンル: インディーロック、バロックポップ、ノイズポップ、アートロック
- 過剰と親密の交差点——“自分たち自身”を名乗った、バンド最大のうねり
- 全曲レビュー
- 1. Our Faces Split the Coast in Half
- 2. Ibi Dreams of Pavement (A Better Day)
- 3. 7/4 (Shoreline)
- 4. Finish Your Collapse and Stay for Breakfast
- 5. Major Label Debut
- 6. Fire Eye’d Boy
- 7. Windsurfing Nation
- 8. Swimmers
- 9. Hotel
- 10. Handjobs for the Holidays
- 11. Superconnected
- 12. Bandwitch
- 13. Tremoloa Debut
- 14. It’s All Gonna Break
- 総評
- おすすめアルバム
過剰と親密の交差点——“自分たち自身”を名乗った、バンド最大のうねり
2005年にリリースされた『Broken Social Scene』は、カナダの音楽集団Broken Social Scene(以下BSS)による3作目のスタジオ・アルバムである。
前作『You Forgot It in People』で確立された“コレクティヴ”としての美学をさらに発展させ、
本作では音の密度、構成の複雑さ、感情のスケール感がすべて倍化している。
セルフタイトルであることが示すように、これはBSSという存在の“解放と混沌”そのものであり、
都市の雑音と心のさざなみが同時に鳴り響くような、過剰なまでに親密なサウンドスケープが広がっている。
収録曲にはFeist、Emily Haines(Metric)、Amy Millan(Stars)らBSSファミリーの女性陣も再集結し、
また、バンド内ユニットDo Make Say Think的なインスト構成や、ラウドなノイズギターの暴走も随所に見られる。
まさに“Broken Social Sceneらしさ”が極まった一枚といえるだろう。
全曲レビュー
1. Our Faces Split the Coast in Half
冒頭から歪んだギターとシンバルが炸裂。
美しさと暴力性がせめぎ合うような音の地滑りが、アルバムの“うねり”を予告する。
2. Ibi Dreams of Pavement (A Better Day)
壮大なオープニングを引き継ぐアンセミックな一曲。
Ibi Kaslik(作家で旧友)の夢が、より良き明日を描くという寓話的構成。
感情が高まり、ギターが咆哮し、ドラマが押し寄せる。
3. 7/4 (Shoreline)
変拍子(7/4)をベースにした代表曲。
Feistのヴォーカルが光る中、ポストロック的構築とポップの躍動が融合する名曲中の名曲。
4. Finish Your Collapse and Stay for Breakfast
短いインストだが、ドローンとメロトロン的音像が余韻を引き延ばす、夢と夢の間のような時間。
5. Major Label Debut
タイトルは皮肉的だが、内容はむしろ親密でローファイなサウンド。
メジャーの華やかさとは正反対の、私的なサマー・ラブソングのようでもある。
6. Fire Eye’d Boy
パンクのスピード感とポップの切なさが同居するロックナンバー。
燃える瞳の少年=激情とナイーヴの象徴。
7. Windsurfing Nation
Emily HainesとEOTSのK-OSが参加。
ラップ的な語りと断片的な演奏が重なる、雑多で多文化的な“カナダ的風景”の音像。
8. Swimmers
繊細なギターリフと淡いヴォーカルが広がる、浮遊感ある“水中の記憶”のような一曲。
恋愛、喪失、再生——すべてが水面下で語られる。
9. Hotel
ノイズの洪水とポエトリーリーディングのような語りが交差。
まるで都会の夜に迷い込んだ夢の断片を聴いているかのよう。
10. Handjobs for the Holidays
タイトルは過激だが、サウンドは耽美的でエレガント。
音の重ね方が精緻で、祝祭と哀愁が渦を巻く。
11. Superconnected
資本主義、メディア、ネット社会へのシニカルな視線が込められた歌詞と、
インダストリアルなノイズとポップの奇妙な交錯。
12. Bandwitch
中盤のノイズ・ジャム的トラック。
制御されないギターと即興性が、“崩壊の美”を見せる。
13. Tremoloa Debut
ノスタルジックなインスト。
架空の弦楽器“Tremoloa”の登場を思わせる遊び心と脱力感が心地よい。
14. It’s All Gonna Break
9分を超える大作にして、本作のラストを飾るサウンドスケープ。
“すべてが壊れる”というフレーズが、恐怖ではなく解放として響く。
この混沌の中に、なぜか“再生”の気配すら感じられる。
総評
『Broken Social Scene』は、“自分たちの名前”を名乗ることによって、むしろ自分たちの“輪郭のなさ”を提示したアルバムである。
それは個と集団、秩序とカオス、美とノイズのあいだを彷徨いながら、都市と感情の断面図を音で描く試みだった。
この作品を聴くということは、散乱するメモリーと感情の残骸を拾い集めながら、“どこにも属さないけれど、確かにそこにいる”感覚を確認することなのかもしれない。
それは、まさに“broken social scene”——壊れかけた社会的風景そのものだ。
おすすめアルバム
- The New Pornographers – Twin Cinema
カナダ発インディーポップの名盤。密度の高いメロディとアンサンブルが共鳴。 - Animal Collective – Feels
感情と音の爆発。混沌と官能の美学。 - The Microphones – The Glow Pt. 2
私的記憶とローファイの極致。断片と内省が鳴る音のドキュメント。 - Arcade Fire – Neon Bible
社会的視線と個人的悲哀が交錯する、同時代的応答作。 - Sufjan Stevens – The Age of Adz
ノイズとポップ、宗教性と身体性の奇妙な融合。BSSの実験精神に通じる野心作。
コメント