Blood Under My Belt by The Drums(2017)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Blood Under My Belt(ブラッド・アンダー・マイ・ベルト)」は、The Drums(ザ・ドラムス)が2017年にリリースした4枚目のスタジオ・アルバム『Abysmal Thoughts』からのリードシングルであり、フロントマンのジョナサン・ピアース(Jonathan Pierce)のソロ・プロジェクト化後の最初の時期に発表された楽曲である。

この曲は、別れた恋人への深い後悔と未練を、極めて個人的で、しかし普遍的な感情として描いている。タイトルの「Blood Under My Belt」は直訳すれば「ベルトの下の血」、つまり“腰のあたりに流れる血”という意味で、比喩的には情熱、痛み、あるいは性愛の傷跡を暗示している。

歌詞の語り手は、かつて愛していた相手に対して、「君のことをちゃんと愛せていなかった」と素直に認め、自らの愚かさと未熟さを悔いている。そしてその中には、「愛するということを、まだ完全には理解できていなかった」という切実な心の叫びが込められている。

曲のトーンは明るくメロディアスだが、そこに込められた感情は重く、深く、そして誰しもが経験するような“終わった後に気づく愛”への痛烈な自省に満ちている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Blood Under My Belt」が収録されたアルバム『Abysmal Thoughts』は、The Drumsが正式にジョナサン・ピアースの単独プロジェクトとなってから初めて発表された作品である。
バンドの共同創設者であるジェイコブ・グラハムが脱退したことで、ピアースは完全に自分の内面と向き合うことになり、本作は彼自身がすべての作詞・作曲・演奏・プロデュースを手がけた、極めてパーソナルなアルバムとなった。

そのなかでも「Blood Under My Belt」は、恋愛における後悔と贖罪のテーマをストレートに描いた楽曲であり、明快なポップ感と感情的な率直さが融合した仕上がりとなっている。
80年代ニューウェーブやシンセポップの影響を色濃く受けたサウンドは、The Drumsの初期のギター・ポップ路線とはまた異なる、より洗練されたエレクトロ・インディーの要素をまとっている。

楽曲全体に漂うのは、“失って初めてわかる愛の重さ”と、“過去の自分への悔しさ”であり、それを甘く美しいサウンドに包むことで、聴き手に深い余韻を残す構造となっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Blood Under My Belt」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。

引用元:Genius Lyrics – Blood Under My Belt

“I didn’t treat you right / There was blood under my belt”
君にちゃんと向き合えなかった/僕の中には情けない傷があったんだ

“Now I’m someone you once had / I’m in your past”
僕はいまや“かつて君がいた人”/ただの過去の存在になってしまった

“And I know I was wrong / I never should have let you go”
僕が悪かったのはわかってる/君を手放すべきじゃなかった

“I wanna be the one you call when you’re down”
君が落ち込んだ時に電話したくなるような人になりたい

“I didn’t love you / But I always wanted to”
僕は君をちゃんと愛せなかった/でも本当はずっとそうしたかったんだ

これらのフレーズは、未熟な自分の振る舞いを反省し、それでも「君のことを想っていた」と告白する語り手の内面をストレートに描いている。特に「I didn’t love you / But I always wanted to」というラインは、自己矛盾のなかにある切実な想いを象徴しており、この曲の感情的核心となっている。

4. 歌詞の考察

「Blood Under My Belt」は、愛し方を知らなかった自分が、後になってそれを学び、ようやくその失われた関係の価値に気づいたときの、取り返しのつかない感情を描いている。
この曲における“血”とは、戦いの傷跡であり、情熱の痕跡であり、そして自らが誰かを傷つけてしまった証でもある。

語り手は、過去の恋人に対して“自分は十分ではなかった”と告白するが、その言葉には自己憐憫ではなく、“ようやく大人になった視点”が感じられる。つまりこれは、若さゆえの失敗を悔いると同時に、それを通じて自分が成長したことを静かに語っている楽曲でもある。

「君をちゃんと愛せなかったけど、愛したかった」——この矛盾に満ちた言葉は、真の意味で愛とは何かを考えさせる。
愛は意志だけでは成立しないし、気持ちがあっても行動が伴わなければ、相手には届かない。そうした現実のなかで、人は何度も間違え、学び、そしてようやく“誰かを大切にする”ということの意味を知るのだ。

また、サウンドの軽やかさと歌詞の重さのコントラストは、The Drumsの美学を体現しており、心の痛みをポップソングとして昇華するという彼らのアプローチが、ここでも見事に発揮されている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Real Love Baby” by Father John Misty
    愛に対する不完全な願望を、陽気なメロディに乗せた皮肉混じりのラブソング。

  • “Somebody Else” by The 1975
    失恋と自意識の迷走を、美しくも切ないサウンドで描いたモダン・バラード。

  • “If You’re Not the One” by Daniel Bedingfield
    愛しながらも結ばれない切なさと、“可能性”への葛藤が詰まった名曲。

  • Motion Sickness” by Phoebe Bridgers
    過去の恋人への感情が複雑に絡み合う、痛々しくも鋭利なラブソング。

  • All My Friends” by LCD Soundsystem
    過去の自分と今の自分のギャップを描く、大人になった者のためのダンス・アンセム。

6. 後悔は未来への種:「愛せなかったこと」を歌うことの意味

「Blood Under My Belt」は、The Drumsのキャリアにおける“再出発”を象徴する楽曲であると同時に、ジョナサン・ピアースという人間の“自己告白”でもある。
そこにあるのは、単なるノスタルジーや未練ではなく、「過去の自分とどう向き合うか」という成熟した視点である。

自分の未熟さ、弱さ、臆病さ——それらを正直に認め、でもまだどこかで“君に愛されたい”と思っている。その正直さは、決してカッコよくはない。でも、それこそが人間的で、リアルで、誰もが共感できる感情だ。

私たちは皆、いつか“誰かをちゃんと愛せなかった”後悔を抱える。そのときにこの曲を聴けば、少しだけ救われたような気持ちになるだろう。

「Blood Under My Belt」は、後悔の中にある優しさを掘り起こし、それを静かに、でも確かに、未来へと繋げようとする一曲である。
そしてその優しさこそが、真に誰かを“愛する”ための第一歩なのかもしれない。

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