Night Time by Superorganism(2018)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Superorganismの「Night Time」は、彼らのセルフタイトル・デビュー・アルバム『Superorganism』(2018年)に収録された楽曲であり、アルバムの終盤に配置された静謐な一曲である。この楽曲は、他の収録曲のようなサイケデリックなポップ感や皮肉めいたテンションとは異なり、より内省的で夢想的なトーンが特徴的であり、“夜”という時間が持つ孤独、神秘、解放感、そして恐れを詩的に描いている。

歌詞では、昼間の喧騒や現実から逃れるように、夜の中で自分自身の感情や思考と向き合う主人公の姿が浮かび上がる。夜というモチーフは、単なる時間帯ではなく、“自分を覆う世界のリズムが緩んだときにだけ見えてくる内面”の象徴として機能しており、楽曲はその静かな時間帯にこそ生まれる“ちいさな自由”と“見えない不安”を捉えている。

ゆったりとしたテンポに合わせて語られる言葉は、眠気を誘うようでいて、その実、リスナーの意識を内側に沈めていくような不思議な力を持っている。「Night Time」は、Superorganismの持つ実験的なサウンドメイキングと、Oronoの飄々としたボーカルが最も繊細な形で結びついた作品と言える。

2. 歌詞のバックグラウンド

Superorganismは、YouTubeやサンプリング、コラージュ的編集技法を駆使してポップソングを再構築する8人組の国際的コレクティヴであり、その音楽性はポスト・インターネット時代の雑多な文化の反映そのものである。「Night Time」もまた、そうした雑多性のなかでの“静けさ”を探るようなアプローチがとられている。

ヴォーカルのOrono Noguchiは、楽曲について「夜になると、すべてが止まったように感じられる。でもその中で、自分の思考がむしろいちばん活発になる瞬間がある」と語っており、この楽曲はまさにその“頭の中だけが騒がしい時間”を描いたものである。

また、「Night Time」はアルバムの中でも最もミニマルな構成を持っており、サウンドは少ない音数の中に浮遊感を残し、細かなエフェクトや環境音が曲の内省的なムードを強調している。都市の片隅、イヤフォンでこっそり聴くような環境で真価を発揮する曲であり、派手なフックはないが、心の奥にじわじわと染み込んでくるような作品だ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Night Time

In the night time when the world is at its rest
夜になると 世界は静かに眠りにつく

You will find me in the place I know the best
私は いちばん自分らしくいられる場所にいる

Dancin’, shoutin’, flyin’ to the moon
踊って 叫んで 月まで飛んでいく

(Don’t have to worry ‘cause I’ll be come back soon)
(心配しないで すぐに戻ってくるから)

And we build castles in the skies and in the sand
空や砂の上に お城を作る

Design our own world ain’t nobody understand
誰にも分からない 私たちだけの世界をデザインする

歌詞は一見すると子どもっぽい空想のように感じられるが、その裏には“現実の中で居場所を探す苦しみ”が滲んでいる。

4. 歌詞の考察

「Night Time」は、逃避の歌であると同時に、現実から自由になる瞬間を称える“内なる希望”の歌でもある。昼間の社会的な規範やプレッシャーが薄れた夜にだけ、自分の思考や感情をフルに解放できる──そうした“夜の魔法”がこの曲の核を成している。

「We build castles in the skies and in the sand」というラインは、夢想と現実の間にある儚い想像の世界を象徴しており、それが“誰にも理解されない世界”として描かれることで、孤独と親密さが共存する不思議な感覚が生まれる。「心配しないで、すぐ戻ってくるから」というさりげない言葉にも、“夜の世界に行って帰ってくる”というルーティンが隠されており、そこには現実とのギリギリのバランスを保ちながら生きている語り手の姿がある。

この楽曲の優れた点は、内面の世界を賛美しながらも、それが“逃避”で終わらないことにある。夜の静けさの中で生まれる感情や想像力は、現実の中では生きづらさの裏返しでありながら、その中で育まれる“独自の世界”は確かに力強く、美しい。Superorganismはこの曲を通して、“変わり者であること”“日中の社会に馴染めないこと”を否定するのではなく、むしろその価値を照らしている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Oblivion by Grimes
    儚さと強さが共存する夜のエレクトロポップ。現実と幻想の交錯を描く。

  • To Binge by Gorillaz feat. Little Dragon
    エレクトロと内省が溶け合う、心の酩酊を描いた夜のテーマソング。

  • Motion Sickness by Phoebe Bridgers
    静かな怒りと悲しみがにじむインディーポップ。夜に響く自己対話。

  • Night Time, My Time by Sky Ferreira
    タイトルの通り、“夜”を舞台にした不安と解放をテーマにした濃密なポップソング。

  • Midnight City by M83
    都市の夜を疾走するようなサウンドと、感情のざわめきを描いたシンセポップの名曲。

6. “夜の静けさ”がもたらす自由と自己回復

「Night Time」は、Superorganismのアルバムの中で最も静かで、最も個人的な楽曲である。華やかさやデジタルの喧騒を離れ、“夜”というひとときにこそ訪れる静かな自由、誰にも干渉されずに想像力を膨らませられる時間、その美しさをそっとすくい取ったような楽曲である。

現代の社会では、“常に接続され、見られ、評価される”ことが当たり前になっている。だが「Night Time」は、そうした世界から一歩距離を置き、自分自身とだけ向き合える時間の尊さを、柔らかくも力強く伝えてくれる。

この曲は、夜が好きなすべての人にとってのテーマソングであり、“わかってもらえないこと”の価値を肯定してくれる、優しいまなざしの音楽である。夜に目を閉じながらこの曲を聴くと、自分自身が静かに許されていくような、そんな気がしてくるだろう。Superorganismはこの楽曲で、喧騒のなかにひっそりと潜む“夜の救済”を、確かに音楽として記録している。

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