アルバムレビュー：High Road by Kesha

発売日: 2020年1月31日
ジャンル: ポップ、ヒップホップ、カントリーポップ

自由とユーモアを取り戻したKeshaのカムバック作

2020年、Keshaは4thアルバムHigh Roadで再び音楽の多様性を広げた。前作Rainbowが彼女の内面的な痛みと再生を描いた作品だったのに対し、本作はより遊び心に満ちた自由な雰囲気を持っている。エレクトロポップ、ヒップホップ、カントリー、バラードといった多様なジャンルを縦横無尽に行き来しながら、Kesha特有の皮肉やユーモアが全開となっている。

「私は悲劇のヒロインではない」と宣言するような本作は、彼女が音楽的にも精神的にも新たなフェーズに突入したことを示しており、初期のKe$haのパーティー感覚と、Rainbowで確立したアーティスティックなアプローチが共存するユニークな作品となっている。

全曲レビュー

1. Tonight

ピアノバラードのような導入から始まり、突如としてエレクトロヒップホップ調のパーティーチューンに変貌する異色のオープニング曲。「今夜は楽しむぞ！」というシンプルなメッセージがKeshaのエネルギッシュな個性を際立たせる。

2. My Own Dance

「私は自分のダンスを踊る」と歌うセルフ・エンパワーメント・ソング。シンプルなビートとシンセを軸にしたサウンドは、彼女の過去作とリンクしつつも、より洗練された仕上がりになっている。

3. Raising Hell (feat. Big Freedia)

ニューオーリンズのバウンス・サウンドを取り入れたアップテンポな楽曲。ビッグ・フリーディアとのコラボにより、Kesha流の「教会風パーティーアンセム」が誕生した。

4. High Road

タイトル曲にふさわしい、自信に満ちたナンバー。シンセとラップを取り入れた自由奔放なトラックで、「人生を楽しむんだ」というKeshaらしいメッセージが込められている。

5. Shadow

穏やかなアコースティックギターの伴奏に乗せて、Keshaが「ネガティブな人たちに構わない」というテーマを歌うバラード。彼女の成熟した姿勢が表れている。

6. Honey

ポップとカントリーが融合した楽曲で、恋愛の駆け引きを軽妙に描いている。彼女のカントリー音楽への愛が感じられるトラック。

7. Cowboy Blues

アコースティックなシンプルなサウンドに乗せて、切ない恋を語るカントリーバラード。ナッシュビルの影響が色濃く出ている楽曲。

8. Resentment (feat. Brian Wilson, Sturgill Simpson, Wrabel)

Brian Wilsonらが参加したエモーショナルなバラード。失われた愛に対する感情を、繊細な歌声で表現している。

9. Little Bit of Love

80年代風のポップロック・サウンドが特徴的なナンバー。恋愛をテーマにしながらも、Keshaらしいユーモアが光る。

10. Birthday Suit

ゲーム音楽のようなピコピコしたシンセが印象的なエレクトロポップ曲。遊び心が詰まった歌詞が楽しい。

11. Kinky (feat. Ke$ha)

過去のKe$ha（Ke$ha名義の初期のキャラクター）との対話を描いたトラック。彼女自身の音楽的な変遷を象徴するようなメタ的な楽曲となっている。

12. Potato Song (Cuz I Want To)

カントリー風の曲調ながら、歌詞の内容は奇妙で風刺的。Keshaのユーモアセンスが全開になった楽曲。

13. BFF (feat. Wrabel)

親友との友情をテーマにした感動的なバラード。Keshaの優しさと温かみが伝わる一曲。

14. Father Daughter Dance

家族との関係を歌った感傷的なバラード。これまでのKeshaの作品にはあまりなかったテーマが新鮮。

15. Chasing Thunder

アルバムのラストを飾る壮大なナンバーで、人生の旅路をテーマにしている。Rainbowの「Spaceship」にも通じる締めくくり方。

総評

High Roadは、Keshaが音楽的な自由を手に入れたことを証明する作品だ。シリアスなバラードから、無邪気でカオティックなパーティーチューンまで、彼女の多面性が存分に発揮されている。

前作Rainbowが内省的なテーマを前面に押し出していたのに対し、本作は「過去の苦しみを乗り越えた先にある楽しさ」を描いている。初期のKe$haの陽気さと、大人になったKeshaの成熟が共存することで、アルバム全体に独特のバランスが生まれている。

商業的にはAnimalやRainbowほどの爆発的な成功は収めなかったものの、Keshaのアーティスティックな進化を示す重要なアルバムであり、彼女の音楽を長く追い続けているファンにとっては特に興味深い作品となった。

おすすめアルバム

• Miley Cyrus – Plastic Hearts (2020)
  ポップとロックを融合させたスタイルで、Keshaの新たな音楽性と共鳴する作品。

• Demi Lovato – Dancing with the Devil… The Art of Starting Over (2021)
  自己再生のテーマを扱いながらも、多様なサウンドを取り入れたアルバム。

• Lady Gaga – Chromatica (2020)
  ダンスミュージックを軸にしながら、自己表現を深めた作品で、Keshaの遊び心に近い部分がある。

• P!nk – Hurts 2B Human (2019)
  ポップロックやバラードを取り入れた多彩なスタイルが、Keshaの音楽性とリンク。

• Taylor Swift – Lover (2019)
  カントリーポップ、シンセポップ、バラードなど、多様なジャンルを内包したポップアルバム。
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