
発売日:2017年8月11日
ジャンル:ポップ、カントリー・ポップ、ロック、ゴスペル・ポップ、エレクトロ・ポップ
概要
KeshaのRainbowは、2017年に発表された通算3作目のスタジオ・アルバムであり、彼女のキャリアにおいて最も重要な転換点となった作品である。デビュー当初のKeshaは、「Tik Tok」や「We R Who We R」に象徴されるように、エレクトロ・ポップ、クラブ・ミュージック、ラップ調のヴォーカル、パーティー文化を前面に押し出したアーティストとして世界的な成功を収めた。しかしRainbowでは、そのイメージを大きく更新し、より生々しい歌唱、ロックやカントリーへの接近、傷ついた自己の再生、信仰や赦し、女性としての尊厳をテーマにした作品へと進化している。
本作の背景には、Keshaが長年抱えてきた法的・精神的な困難がある。プロデューサーのDr. Lukeとの訴訟や契約問題は、彼女の音楽活動に大きな影を落とし、2012年のWarrior以降、長い間オリジナル・アルバムを発表できない状態が続いた。そのためRainbowは、単なる新作ではなく、沈黙を破る復帰作であり、自分自身の声を取り戻すための作品として受け止められた。
アルバム・タイトルのRainbowは、嵐の後に現れる虹、すなわち苦難の後の希望を象徴している。本作の楽曲群には、怒り、悲しみ、祈り、ユーモア、解放感、自己肯定が混在している。Keshaはここで、痛みを隠すのではなく、音楽の中心に置く。しかし、その痛みは単なる被害の物語として消費されるのではなく、再生への力へと変換される。これは、2010年代後半のポップ・ミュージックにおいて重要な流れである。ポップスターが完璧な商品イメージではなく、傷や弱さを含めた人間性を提示することが、より大きな説得力を持つ時代になっていた。
音楽的にも、RainbowはKeshaの過去作から大きく広がっている。エレクトロ・ポップの要素は残りつつも、カントリー、ロック、グラム・ロック、ブルース、ゴスペル、フォーク、バラードなど多様なジャンルが導入されている。特に、カントリー音楽との接点は本作の重要な特徴である。Keshaはナッシュヴィルにルーツを持つアーティストであり、これまでもカントリーやロックへの関心を示してきたが、本作ではその側面がより明確になっている。「Hunt You Down」や「Old Flames (Can’t Hold a Candle to You)」などは、その代表例である。
キャリア上の位置づけとして、RainbowはKeshaが「パーティー・ポップのアイコン」から「自分の物語を歌うシンガー・ソングライター」へと再定義された作品である。もちろん、彼女のユーモアや派手なキャラクター性が消えたわけではない。「Woman」や「Boogie Feet」には、以前からの奔放さや祝祭感が生きている。しかし本作では、それらが単なる享楽ではなく、生き延びた者の喜びとして響く。踊ること、笑うこと、派手に振る舞うことが、苦難からの回復の表現になっている。
影響関係を考えると、本作にはDolly Parton、Johnny Cash、The Rolling Stones、Queen、Elton John、The Flaming Lips、さらにはゴスペルやアメリカーナの伝統が重なっている。Keshaは、2010年代のEDMポップの文脈から出発しながら、Rainbowでアメリカ音楽のより深い層へ接続した。後続のポップ・アーティストにとっても、本作は「商業的ポップスターがジャンルの枠を越え、個人的な回復を作品化する」重要なモデルとなった。
日本のリスナーにとって、RainbowはKeshaのイメージを大きく変えるアルバムとして聴かれるべき作品である。過去のヒット曲から彼女を知っている場合、本作の生々しい歌唱やロック/カントリー色に驚くかもしれない。しかし、ポップ・ミュージックが個人の痛みや社会的な抑圧とどのように向き合えるかを考えるうえで、本作は非常に重要である。華やかなポップ・アルバムであると同時に、自己回復の記録でもあり、2010年代後半のポップ史におけるひとつの到達点といえる。
全曲レビュー
1. Bastards
アルバムの冒頭を飾る「Bastards」は、Rainbow全体の精神を静かに宣言する楽曲である。派手なビートやシンセサイザーではなく、アコースティック・ギターを中心にした穏やかな音像から始まる点が印象的である。これまでKeshaに対して抱かれていたクラブ・ポップのイメージを意図的に外し、まずは彼女の声とメッセージを前面に置いている。
歌詞の中心にあるのは、他者の悪意や批判に屈しないという姿勢である。「人に自分を壊させるな」という内容は、非常に直接的でありながら、説教的にはならない。むしろ、長い傷つきの経験を経た人物が、自分自身にもリスナーにも言い聞かせているように響く。タイトルの「Bastards」は挑発的だが、曲のトーンは怒り一辺倒ではない。そこには、怒りを超えた静かな決意がある。
音楽的には、フォークやカントリーの要素が強く、シンプルなコード進行と柔らかなメロディが特徴である。Keshaのヴォーカルは、過去作のような加工されたラップ調のスタイルではなく、息遣いや声の揺れが分かる生々しいものになっている。この変化は非常に重要である。彼女はここで、ポップ・アイコンとしてのキャラクターではなく、ひとりの人間として歌っている。
「Bastards」は、アルバムの導入として完璧に機能している。Rainbowが単なる復帰作ではなく、自己肯定と再生の物語であることを示し、リスナーに対して、これから始まるアルバムがKeshaの新しい声によって語られることを告げている。
2. Let ’Em Talk feat. Eagles of Death Metal
「Let ’Em Talk」は、Eagles of Death Metalを迎えたロック色の強い楽曲である。前曲「Bastards」が静かな決意を示したのに対し、この曲ではその決意が騒々しい解放感へと変わる。他人が何を言おうと気にせず、自分らしく生きるというテーマが、グラム・ロック的なギターと荒々しいリズムによって表現されている。
サウンドは、Keshaの過去のエレクトロ・ポップとは大きく異なる。ギターはざらつきがあり、リズムは直線的で、全体にライブ感がある。Eagles of Death Metalの持つガレージ・ロック的な軽薄さと、Keshaの派手なキャラクターが組み合わさることで、曲は非常に祝祭的なエネルギーを持つ。
歌詞では、噂話や批判を受け流す姿勢が描かれる。これはポップスターとして常に世間の目にさらされてきたKeshaにとって、個人的な意味を持つテーマである。しかし、曲は被害者意識に留まらない。むしろ、悪口を言いたい人間には言わせておけばよいという、強い開き直りがある。
この楽曲は、Rainbowにおける重要なバランスを示している。本作は深刻なテーマを扱うが、決して暗いアルバムではない。怒りや傷を、ロックンロールの騒々しさと笑いに変える力がある。「Let ’Em Talk」は、Keshaが再び楽しむ権利、騒ぐ権利、自分自身を祝う権利を取り戻したことを示す楽曲である。
3. Woman feat. The Dap-Kings Horns
「Woman」は、Rainbowの中でも特に力強い自己肯定のアンセムである。The Dap-Kings Hornsによるファンキーなホーン・セクションが楽曲全体を牽引し、ソウル、ファンク、ポップが混ざり合った鮮やかなサウンドを作っている。Keshaはここで、自立した女性としての誇りを、ユーモアと豪快さを交えて歌う。
歌詞のテーマは明確である。経済的にも精神的にも他者に依存せず、自分の人生を自分で動かす女性の宣言である。ここでの「Woman」は、抽象的な女性賛歌ではなく、具体的な主体性の表明である。誰かに養われる存在ではなく、自分で稼ぎ、自分で選び、自分で楽しむ人物として描かれている。
音楽的には、ヴィンテージ・ソウルやファンクの影響が強い。The Dap-Kings Hornsの参加によって、楽曲には生演奏の熱気が生まれている。デジタル中心だった初期Keshaのサウンドとは異なり、ここでは肉体的なグルーヴが重視される。ホーンの派手なフレーズ、跳ねるリズム、Keshaの荒々しくも楽しげなヴォーカルが一体となり、非常に開放的な楽曲になっている。
重要なのは、この曲のフェミニズム的なメッセージが重苦しくなく、喜びとして表現されている点である。女性の自立を真面目なスローガンとしてではなく、踊れるポップ・ソングとして提示することで、メッセージはより広く届く。「Woman」は、Rainbowの中でもKeshaの強さとユーモアが最も直接的に表れた楽曲であり、彼女の新しい時代を象徴する一曲である。
4. Hymn
「Hymn」は、タイトルが示す通り、祈りや賛歌の形式をポップ・ソングへと変換した楽曲である。ただし、ここで歌われるのは特定の宗教への賛美ではない。むしろ、社会の中心から外れた人々、傷ついた人々、自分の居場所を探している人々への連帯がテーマになっている。
サウンドは、エレクトロ・ポップの要素を残しながらも、全体に荘厳で浮遊感のある雰囲気を持つ。ビートは抑制され、シンセサイザーは広がりを作り、Keshaのヴォーカルは祈りのように響く。初期の攻撃的なクラブ・サウンドと比べると、ここでは音の空間が大きく、感情の余白がある。
歌詞では、完璧ではない人々、罪や失敗を抱えた人々、社会の規範に合わない人々が肯定される。Keshaは、自分自身を含む「はみ出した者たち」のために歌っている。これは、彼女のファン層とも深く結びつくテーマである。ポップ・ミュージックはしばしば、孤独な人々に共同体の感覚を与えるが、「Hymn」はまさにその役割を担う楽曲である。
本曲は、Rainbowの精神的な中心のひとつである。怒りや解放だけではなく、祈り、赦し、共同体への願いがここにはある。Keshaは、個人の痛みをより大きな連帯の感覚へと広げている。「Hymn」は、ポップ・ソングが現代的な賛歌として機能しうることを示す楽曲である。
5. Praying
「Praying」は、Rainbowの最重要曲であり、Keshaのキャリアを語るうえで欠かせない楽曲である。ピアノを中心にしたバラードとして始まり、後半に向けて壮大に高まっていく構成は、再生と解放のドラマを明確に描いている。過去の苦しみを見つめながら、相手への憎しみだけでなく、相手が変わることを祈るという複雑な感情が歌われる。
この曲の歌詞は、単なる復讐ではない。傷つけた相手に対して、いつか自分のしたことを理解し、祈るようになることを願う。その姿勢には、怒りと赦しが同時に存在している。Keshaは自分の苦しみを否定しない。しかし、その苦しみに支配され続けることも拒む。ここに、本作の核心である「再生」がある。
音楽的には、Keshaのヴォーカル能力を強く示す楽曲である。初期の作品では、オートチューンやラップ調の表現が彼女のイメージを作っていたが、「Praying」では声そのものの力が前面に出ている。特に終盤の高音は、技術的な見せ場であるだけでなく、抑圧からの解放を象徴する瞬間として機能している。
「Praying」は、2010年代ポップにおける重要なバラードである。ポップスターの個人的なトラウマを、普遍的な回復の物語へと昇華した点で、本曲は強い意義を持つ。Keshaはここで、傷ついた人物としてではなく、傷を乗り越えようとする主体として自分を提示している。この曲がRainbowの中心に置かれていることは、アルバム全体の意味を決定づけている。
6. Learn to Let Go
「Learn to Let Go」は、過去を手放すことをテーマにした明るいポップ・ロック曲である。「Praying」が深い痛みと祈りを描いた後に、この曲が置かれることで、アルバムは回復の次の段階へ進む。ここでKeshaは、過去に囚われ続けるのではなく、そこから自由になることを学ぶ。
サウンドは軽快で、リズムには前向きな推進力がある。ロック的なギターとポップなメロディが組み合わさり、シングル曲としての分かりやすさを持っている。重いテーマを扱いながらも、曲調は晴れやかで、アルバム・タイトルの「虹」のイメージに近い明るさがある。
歌詞では、子どもの頃の純粋さや、過去の傷から解放される必要性が語られる。重要なのは、手放すことが忘れることとは違う点である。傷をなかったことにするのではなく、それに人生を支配させないようにする。この考え方は、本作全体の回復の物語と一致している。
「Learn to Let Go」は、Keshaのポップ・ソングライターとしての力をよく示している。深刻なテーマを、分かりやすく歌えるフックと明るいサウンドに変換することで、リスナーに前向きなエネルギーを与える。単なる励ましの曲ではなく、痛みを知ったうえでの解放の歌である。
7. Finding You
「Finding You」は、アルバムの中でもロマンティックで幻想的な色合いを持つ楽曲である。これまでの楽曲が自己回復や社会的な連帯を中心にしていたのに対し、本曲では愛する相手との深い結びつきが描かれる。ただし、その愛は単なる恋愛の幸福ではなく、魂のつながりや運命的な再会の感覚を含んでいる。
音楽的には、ミディアム・テンポのポップ・バラードであり、シンセサイザーと柔らかなリズムが楽曲を包み込む。メロディは滑らかで、Keshaの声も穏やかに響く。激しい感情表現ではなく、静かな確信のようなトーンが特徴である。
歌詞では、何度生まれ変わっても相手を見つけるというような、永遠性を帯びた愛が描かれる。これは、Rainbowの中では比較的夢想的なテーマである。しかし、Keshaが歌うことで、それは単なる甘いラブソングではなく、苦しみを経た後に再び愛を信じることの意味を持つ。傷ついた後に誰かを愛することは簡単ではない。そのため、本曲の穏やかさには、回復の成果としての重みがある。
「Finding You」は、アルバムの中で感情の幅を広げる役割を果たしている。自己肯定、怒り、祈りだけでなく、愛への信頼もまた再生の一部であることを示している。Keshaの繊細な側面が表れた楽曲である。
8. Rainbow
表題曲「Rainbow」は、アルバム全体の象徴となる楽曲である。苦難の後に虹を見るというイメージは非常に明確であり、本作の回復と希望のテーマを集約している。Keshaはここで、自分自身に向けて、そして同じように苦しみを抱える人々に向けて、希望を失わないことを歌う。
サウンドは、ピアノとストリングスを中心にした壮大なポップ・バラードである。曲は静かに始まり、次第に広がりを増していく。アレンジにはミュージカル的なドラマ性もあり、アルバムの中心にふさわしいスケールを持つ。Keshaの声は力強く、しかし「Praying」とは異なる温かさを持っている。
歌詞では、暗闇や嵐を抜けた先にある色彩が描かれる。虹は、単なる幸福の象徴ではない。嵐があったからこそ現れるものであり、痛みの存在を前提としている。この点が重要である。Rainbowというアルバムは、苦しみを否定して楽観する作品ではなく、苦しみを通過したうえで希望を見つける作品である。
表題曲としての「Rainbow」は、アルバムの感情的な核を担っている。Keshaはここで、過去の自分を抱きしめながら、新しい自分へ進もうとしている。カラフルで派手なイメージを持つ彼女のキャラクターが、ここでは精神的な意味を持つ。虹は、Keshaというアーティストの再生そのものを象徴している。
9. Hunt You Down
「Hunt You Down」は、カントリー色の強いユーモラスな楽曲である。ここまでの重いテーマから少し離れ、Keshaらしい遊び心とブラック・ユーモアが前面に出る。愛する相手に対して、裏切ったら追い詰めるという物騒な内容を、軽快なカントリー・ポップとして歌う点が面白い。
サウンドは、アコースティック・ギターやカントリー風のリズムを中心にしており、アメリカーナへの接近が明確である。Keshaのナッシュヴィル的なルーツが自然に表れている楽曲であり、彼女がエレクトロ・ポップだけのアーティストではないことを示している。
歌詞は、恋愛における嫉妬や独占欲を誇張して描いている。真剣な脅しとしてではなく、カントリー・ミュージックにしばしば見られる物語性とユーモアの延長として機能している。愛情の深さと危うさを、笑える形で表現している点がKeshaらしい。
「Hunt You Down」は、アルバムに軽さとキャラクター性を与える楽曲である。Rainbowはシリアスな作品だが、Keshaの魅力は深刻さだけではない。過剰なユーモア、少し悪趣味な冗談、芝居がかった表現も彼女の重要な個性である。本曲はその側面を鮮やかに示している。
10. Boogie Feet feat. Eagles of Death Metal
「Boogie Feet」は、Eagles of Death Metalとの再共演によるロックンロール・パーティー・ソングである。踊ることそのものを肯定する楽曲であり、アルバムの中でも最も享楽的なエネルギーを持つ。初期Keshaのパーティー感覚が、よりロック寄りの形で蘇った曲といえる。
サウンドは、ガレージ・ロック、グラム・ロック、ダンス・ロックの要素が混ざっている。シンプルなリフ、勢いのあるリズム、コール・アンド・レスポンス的な構成が、ライブ的な楽しさを生む。エレクトロニックなクラブ・ビートではなく、バンドの騒々しさによって踊らせる点が特徴である。
歌詞は非常にシンプルで、踊ること、身体を動かすこと、楽しむことが中心にある。しかし、Rainbowの文脈で聴くと、この単純さには意味がある。苦しみを経た後に踊ることは、単なる娯楽ではなく、身体を取り戻す行為になる。楽しむことは、回復の一部である。
「Boogie Feet」は、Keshaの過去と現在を結びつける楽曲である。初期のパーティー・ポップの精神を保ちながら、サウンドはロックへ寄り、メッセージはより深い解放感を持つ。重いテーマの多いアルバムの中で、必要な祝祭の瞬間を作っている。
11. Boots
「Boots」は、カントリー・ポップとダンス・ポップの中間にある楽曲である。タイトルの「ブーツ」は、カントリー的なイメージ、旅、労働、強さ、女性の自立を連想させる。Keshaはここで、恋愛と自由を軽快なリズムに乗せて描いている。
サウンドは、カントリー風の質感を持ちながらも、完全な伝統回帰ではない。ポップなビートと現代的なプロダクションが加わり、ジャンルの境界を軽やかに越えている。Keshaの声は少し挑発的で、楽しげであり、楽曲全体に自信がある。
歌詞では、恋愛相手との親密さや、身体的な魅力が描かれる。しかし、ここでもKeshaは受け身の人物ではない。自分の欲望を理解し、自分の楽しみ方を選ぶ主体として存在している。これは「Woman」とも通じるテーマである。女性の欲望を隠さず、同時にユーモアを交えて表現する点がKeshaらしい。
「Boots」は、Rainbowの多様な音楽性を支える楽曲である。カントリー、ポップ、ダンスの要素が混ざり、アルバム後半に軽快な流れを生み出している。シリアスな回復の物語の中に、肉体的な楽しさと遊び心を戻す役割を果たしている。
12. Old Flames (Can’t Hold a Candle to You) feat. Dolly Parton
「Old Flames (Can’t Hold a Candle to You)」は、Keshaの母であるPebe Sebertが共作した楽曲として知られ、Dolly Partonが1980年に歌ったカントリー・クラシックの再録である。本作では、そのDolly Parton本人を迎えている点が大きな意味を持つ。これは、Keshaのルーツとアメリカ音楽の伝統を結びつける重要な瞬間である。
サウンドは、アルバムの中でも最も純度の高いカントリー・バラードに近い。アコースティックな響き、抑えたアレンジ、感情を丁寧に伝えるヴォーカルが中心となる。Dolly Partonの参加によって、楽曲には歴史的な重みと温かさが加わっている。
歌詞のテーマは、過去の恋人たちは現在の相手には及ばないというものだ。タイトルの「古い炎はあなたの灯火にはかなわない」という比喩は、カントリーらしい詩的な表現であり、過去と現在の愛を比較しながら、今ある愛の価値を示している。
この曲は、Keshaが単なるポップスターではなく、カントリー音楽の伝統にも接続するアーティストであることを明確にする。Dolly Partonとの共演は、世代を超えた女性アーティストの連帯としても読める。ポップの世界で傷ついたKeshaが、カントリーの母性的な伝統へ帰ってくるような感覚もある。
「Old Flames」は、Rainbowの中で非常に重要な位置を占める。個人的な回復の物語が、家族、ルーツ、音楽史へと広がる瞬間であり、アルバムの奥行きを大きく深めている。
13. Godzilla
「Godzilla」は、アルバムの中でも最も奇妙で愛らしい楽曲である。タイトル通り、日本の怪獣ゴジラを題材にしており、巨大な怪物と人間の関係をユーモラスに描く。日本のリスナーにとっては、特に印象に残りやすい曲だろう。
サウンドは、アコースティックで素朴なポップ・ソングに近い。大げさな怪獣映画風の音作りではなく、むしろ小さな童話のような雰囲気がある。このギャップが楽曲の魅力である。巨大なゴジラを題材にしながら、音楽は非常に親密で、かわいらしい。
歌詞では、ゴジラを恐ろしい破壊者としてではなく、町に馴染もうとする存在のように描いている。ここには、Keshaらしい「はみ出した者」への共感がある。見た目や存在の大きさによって恐れられる者にも、孤独や愛らしさがある。これは、本作全体のテーマである、社会の中心から外れた存在への肯定ともつながる。
「Godzilla」は、一見すると軽い変化球のような曲だが、Rainbowの中では重要な意味を持つ。Keshaは深刻な傷を歌う一方で、奇妙なもの、笑えるもの、子どものような想像力も大切にしている。回復とは、強くなることだけではなく、再び遊び心を取り戻すことでもある。本曲はそのことを示している。
14. Spaceship
アルバムの最後を飾る「Spaceship」は、幻想的でスピリチュアルな楽曲である。Keshaは以前から宇宙や超自然的なイメージに関心を示してきたが、この曲ではその感覚が静かな終幕として表れている。宇宙船に乗ってどこかへ帰っていくというイメージは、現実からの逃避であると同時に、自分の本来の場所へ戻る願いでもある。
サウンドは、カントリーやフォークの素朴さと、宇宙的な浮遊感が混ざっている。アコースティックな質感を持ちながら、曲全体にはどこか非現実的な広がりがある。派手なクライマックスではなく、静かに空へ昇っていくような終わり方が印象的である。
歌詞では、自分はこの地球に完全には属していないという感覚が語られる。それは孤独の表現でもあり、同時に特別な自己認識でもある。Keshaは、自分が普通ではないこと、社会の枠に収まりきらないことを悲劇としてだけではなく、個性として受け止めている。
「Spaceship」は、Rainbowの締めくくりとして非常に美しい。アルバムは痛みから始まり、怒り、祈り、解放、ユーモア、愛を経て、最後に宇宙的な孤独と希望へ到達する。完全な解決ではなく、どこか遠くへ向かう余韻を残して終わる点が、本作の魅力である。
総評
Rainbowは、Keshaのキャリアにおける決定的な再生のアルバムである。初期のKeshaは、パーティー、クラブ、享楽、悪ふざけのイメージによって大きな成功を収めた。しかし、そのイメージは時に彼女の音楽的才能や人間的な複雑さを覆い隠していた。Rainbowは、その覆いを取り払い、Keshaがシンガー、ソングライター、表現者として持っていた幅広い可能性を明確に示した作品である。
本作の最大の特徴は、痛みを正面から扱いながら、暗闇に留まらない点である。「Praying」では深い傷と祈りが歌われ、「Learn to Let Go」では過去を手放す意志が示され、「Rainbow」では苦難の後の希望が描かれる。しかし同時に、「Woman」「Boogie Feet」「Boots」では踊ること、笑うこと、自分の身体と欲望を肯定することが歌われる。このバランスが非常に重要である。回復とは、ただ静かに癒えることではなく、再び楽しむ力を取り戻すことでもある。
音楽的にも、本作は非常に多彩である。ポップ、ロック、カントリー、ファンク、ゴスペル、フォーク、エレクトロ・ポップが入り混じり、Keshaの幅広いルーツと趣味が反映されている。ジャンルの統一感だけで見ると、アルバムはやや散漫に感じられる部分もある。しかし、感情の物語としては一貫している。曲ごとに異なる音楽性は、Keshaが自分自身のさまざまな側面を取り戻していく過程として機能している。
歌詞面では、自己肯定、フェミニズム、トラウマからの回復、信仰、赦し、孤独、愛、ユーモアが主要なテーマとなる。特に重要なのは、Keshaが自分を単なる被害者として描いていない点である。彼女は傷ついたことを隠さないが、その傷を自分の全体像にしない。怒ることも、祈ることも、踊ることも、笑うことも、愛することも、すべてが彼女の回復の一部である。
後の音楽シーンへの影響という点では、Rainbowは2010年代後半のポップ・ミュージックにおける「告白的でありながらポップである」作品の重要な例である。ポップスターが個人的な苦難を作品化することは以前からあったが、本作はその中でも、法的・社会的な文脈と結びついた非常に象徴的なアルバムとなった。女性アーティストが自分の声を取り戻す物語としても、多くのリスナーに強く受け止められた。
日本のリスナーにとって、RainbowはKeshaを再発見するための作品である。初期のヒット曲から受ける派手なイメージだけで彼女を理解していると、本作の歌唱力、ソングライティング、ジャンル横断性に驚かされる。特に「Praying」「Rainbow」「Old Flames」「Spaceship」は、Keshaの表現者としての深みを示す楽曲であり、彼女のキャリアを語るうえで欠かせない。
総合的に見て、Rainbowはポップ・アルバムであると同時に、自己回復のドキュメントである。完全に整った作品というより、感情の振れ幅をそのまま抱え込んだ作品であり、その不均一さこそが魅力になっている。Keshaはこのアルバムで、自分の声、自分の身体、自分の物語を取り戻した。Rainbowは、苦しみの後に見える色彩を信じるための、2010年代ポップの重要作である。
おすすめアルバム
1. Lady Gaga — Joanne
ポップスターが自身のルーツや人間的な側面を前面に出した作品という点で、Rainbowと比較しやすいアルバム。カントリー、ロック、フォークの要素を取り入れながら、派手なポップ・アイコンとしてのイメージを再構築している。KeshaのRainbowと同じく、傷や家族、自己認識をテーマにした作品である。
2. Miley Cyrus — Younger Now
カントリーやアメリカーナの要素を取り入れ、ポップスターとしての過去のイメージから距離を置いたアルバム。Keshaと同様に、ナッシュヴィル的なルーツやアメリカ音楽への接近が見られる。派手な自己演出から、より素朴で個人的な表現へ向かう流れを理解するうえで関連性が高い。
3. Dolly Parton — 9 to 5 and Odd Jobs
Keshaが敬愛し、Rainbowにも参加したDolly Partonの代表的な時期の作品。カントリーを基盤にしながら、女性の労働、自立、日常の感情をポップに表現している。Keshaの「Woman」や「Old Flames」に通じる、女性の主体性とユーモアの源流として聴くことができる。
4. Florence + The Machine — Ceremonials
壮大なゴスペル的コーラス、祈りのような歌詞、苦しみと浄化を結びつける表現が特徴の作品。Rainbowの「Praying」や「Hymn」にある宗教的・精神的な高揚感と接点がある。ポップの枠内で、痛みや救済を大きなスケールで描く作品として関連性が高い。
5. P!nk — The Truth About Love
ロック寄りのポップ、率直な歌詞、自己肯定と不安定な感情の両立という点で、Rainbowと近い魅力を持つアルバム。ユーモア、怒り、脆さ、力強さを同時に表現する女性ポップ・アーティストの系譜として、Keshaとの比較に適している。

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