
発売日: 1993年5月24日
ジャンル: テクノ、アシッドハウス、IDM
クラブミュージックからアートへ——Orbitalの進化を示した名盤
1993年にリリースされたOrbital 2(通称The Brown Album)は、イギリスのテクノデュオOrbitalの音楽性が大きく飛躍したアルバムであり、90年代のエレクトロニック・ミュージックの中でも特に影響力のある作品の一つである。本作は、デビュー作Orbital (The Green Album)(1991年)で築いたアシッドハウスやレイヴの要素を基盤にしながらも、より洗練されたプロダクションと、シネマティックな構成を取り入れた作品となっている。
特に、本作ではインテリジェント・ダンス・ミュージック(IDM)の要素が色濃くなり、ダンスフロア向けの即効性だけでなく、じっくり聴き込むことでその奥深さを味わえる作りになっている。「Lush 3」や「Halcyon + On + On」など、Orbitalのキャリアを象徴する楽曲が収録されており、彼らの最高傑作との呼び声も高い。
全曲レビュー
1. Time Becomes
アルバムのイントロ的な楽曲。短いながらも、金属的なシンセのループと、声の断片的なサンプリングが作り出す不穏な雰囲気が印象的。本作のダークで未来的なサウンドを予感させる。
2. Planet of the Shapes
タイトル通り、空間的で幾何学的なサウンドが特徴的。ディープなベースラインと硬質なビート、リズムの変化が生み出す緊張感が、IDM的な知性を感じさせるトラック。中盤以降のシンセのうねりが心地よい。
3. Lush 3-1
本作を代表する名曲のひとつ。ダンサブルなビートの上に、美しく広がるシンセメロディが重なり、徐々に高揚感を生み出していく。クラブトラックでありながらも、メロディの抒情性が際立つOrbitalらしい楽曲。
4. Lush 3-2
前曲の延長として展開されるが、よりビートが強調され、リズムが躍動的に変化していく。シンプルなモチーフを繰り返しながらも、細かい変化が加えられ、じわじわと引き込まれる。
5. Impact (The Earth is Burning)
9分にわたる壮大なトラック。環境問題をテーマにしており、重厚なシンセベースと激しいリズムが印象的。途中でトーンが変わり、静寂と爆発が交互に現れるドラマティックな構成が、まるで映画のサウンドトラックのような感覚を生む。
6. Remind
タイトル通り、記憶の奥底を刺激するようなドリーミーなシンセワークが特徴。ビートはしっかりとしたダンスグルーヴを保ちつつも、フローティングするシンセが浮遊感を生み出し、トランスとIDMの中間にあるようなサウンドが展開される。
7. Walk Now…
エスニックなパーカッションとエフェクトが印象的な楽曲。ダンスフロア向けのトラックながらも、アフリカン・リズムやトライバルな要素を感じさせる異色の一曲。
8. Monday
ミステリアスな雰囲気のミニマル・テクノトラック。リズムとベースが前面に押し出され、ダークでアンダーグラウンドなテイストが強い。夜の都市の風景を思わせるようなシネマティックな楽曲。
9. Halcyon + On + On
本作の最大の名曲であり、Orbitalの代表曲の一つ。夢幻的なシンセパッドと浮遊感のあるメロディが美しく、クラブミュージックでありながらも、瞑想的で感情に訴えかける楽曲となっている。サンプリングされた女性ヴォーカル(Kirsty Hawkshaw)が楽曲に儚さと幻想的な雰囲気を加えており、テクノ史に残るアンセム的存在。
10. Input Out
アルバムのアウトロ的な楽曲。静かにフェードアウトしていくサウンドが、アルバム全体の余韻を引き立てる。
総評
Orbital 2 (The Brown Album)は、Orbitalが単なるダンスミュージック・アクトからアーティスティックなエレクトロニック・ミュージックの先駆者へと成長したことを示すアルバムである。本作では、レイヴミュージックとしての即効性を維持しつつ、より洗練されたメロディ、ドラマティックな構成、シネマティックな音響設計が導入されている。
特に「Halcyon + On + On」は、クラブミュージックの枠を超えた芸術作品として評価されており、テクノの美しさを象徴する楽曲となっている。また、「Lush 3」や「Impact (The Earth is Burning)」など、シリアスなテーマを内包しつつも、リスニング体験として楽しめるトラックが揃っている。
本作は、クラブで踊るためのアルバムであると同時に、じっくりと聴き込むことで新たな発見があるアルバムであり、Orbitalの作品の中でも最高傑作の一つとされる理由がよく分かる。
おすすめアルバム
- Orbital – In Sides (1996)
- よりシリアスで実験的なサウンドへ進化した傑作。環境問題をテーマにした「The Girl with the Sun in Her Head」など、より芸術性が高い作品。
- Underworld – Dubnobasswithmyheadman (1994)
- クラブミュージックとアートの融合を果たしたUKテクノの傑作。「Dark & Long」などの名曲を収録。
- The Future Sound of London – Lifeforms (1994)
- アンビエント・テクノの金字塔。Orbitalの幻想的なサウンドが好きなら必聴。
- Leftfield – Leftism (1995)
- テクノ、ダブ、ハウスの要素を融合させた革新的な作品。「Open Up」など、ジャンルを超えた影響力を持つ。
- Aphex Twin – Selected Ambient Works 85-92 (1992)
- ダンスミュージックとアンビエントを融合させた歴史的名盤。Orbitalのメロディアスな要素が好きならおすすめ。
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