
発売日:2008年10月27日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック、ポストパンク、ゴシック・ロック、ニューウェイヴ、ドリーム・ポップ、ポップ・ロック
概要
The Cureの4:13 Dreamは、2008年に発表された13作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの長いキャリアの中では比較的評価が分かれやすい後期作品である。The Cureは、1970年代末のポストパンクから出発し、1980年代前半にはSeventeen Seconds、Faith、Pornographyによって陰鬱なゴシック・ロックの深部へ沈み、1980年代半ば以降はThe Head on the Door、Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me、Disintegrationによって、暗さ、ポップ性、サイケデリックな広がり、ロマンティックな陶酔を独自に統合した。1990年代以降もWish、Bloodflowers、The Cureなどを通じて、時代ごとに変化しながら、Robert Smithの声と感情表現を中心とした音楽世界を維持してきた。
4:13 Dreamは、そのようなThe Cureの後期における一つの明るい反転として聴くことができる。前作The Cureは2004年に発表され、Ross Robinsonのプロデュースによって、より生々しく、重く、オルタナティヴ・ロック的な音圧を持つ作品だった。そこでは、Robert Smithの感情の叫びがかなり直接的に録音され、バンドの荒い側面が強調されていた。それに対して4:13 Dreamは、よりカラフルで、開放的で、ポップな曲が多い。タイトルに「Dream」とあるように、アルバム全体には夢のような浮遊感、色彩感、そして現実から少し離れた感覚が漂っている。
ただし、この明るさは単純な幸福感ではない。The Cureの音楽における明るさは、しばしば不安、喪失、過去への執着、恋愛の痛み、自己欺瞞と隣り合わせにある。4:13 Dreamでも、ポップなメロディや軽快なギターの背後には、記憶、幻想、関係の破綻、自己嫌悪、現実逃避が潜んでいる。The Cureは、暗い曲だけで暗さを表現するバンドではない。むしろ、明るいギターや疾走するリズムの中に、感情の不安定さを忍ばせることがある。本作はその性格が強く出たアルバムである。
アルバム・タイトルの4:13 Dreamは、複数の意味を含む。The Cureにとって13という数字は、バンドの13作目のアルバムであることとも関係する。また、4時13分という時間は、夜明け前の曖昧な時間、眠りと目覚めの境界、現実と夢のあいだにある時刻を想起させる。The Cureの音楽は、しばしば夜、夢、記憶、錯覚と結びついてきた。本作のタイトルは、その夢の状態を、時間として固定したものともいえる。つまり本作は、完全な現実でも、完全な幻想でもなく、その中間にある感情の風景を描くアルバムである。
制作面では、本作はRobert Smith、Simon Gallup、Porl Thompson、Jason Cooperという編成で録音された。特にPorl Thompsonのギターは、本作の音の色彩を大きく左右している。彼のギターは、The Cureの音楽において単なる伴奏ではなく、空間や感情の質感を作る重要な楽器である。4:13 Dreamでは、ギターが比較的前面に出ており、曲によってはきらびやかに、曲によっては鋭く、また別の曲ではサイケデリックに響く。Simon Gallupのベースは、いつものようにThe Cureの骨格を支え、Jason Cooperのドラムは、後期The Cureらしい安定した推進力を与えている。
本作は、当初より多くの楽曲が録音され、より暗い曲を含む別の構想もあったとされる。結果として発表された4:13 Dreamは、比較的明るく、ポップで、ギター・ロック色の強い曲を中心に構成された。そのため、The Cureの暗黒面を期待するリスナーには軽く感じられることがある。一方で、The Cureのポップな側面、すなわち「Just Like Heaven」「Friday I’m in Love」「High」などに見られる、明るさと切なさの混合を好むリスナーには親しみやすい作品でもある。
しかし、4:13 Dreamの評価を難しくしているのは、楽曲の質よりも、アルバムとしての焦点の曖昧さである。The Cureの代表作には、明確な情緒的統一感がある。Pornographyは絶望、Disintegrationは崩壊とロマンティックな喪失、Bloodflowersは時間と終わり、Wishは高揚と不安の揺れを持っていた。4:13 Dreamは、それらに比べると、統一された深い暗さや大きな物語性は弱い。しかしその代わりに、夢の断片のような曲が次々に現れる軽やかさがある。これは欠点であると同時に、本作の個性でもある。
The Cureの後期作品として考えると、4:13 Dreamは「重い自己総括」ではなく、「まだ色彩を失っていないバンドの音」として重要である。Robert Smithはこの時点でも、若い頃と同じような恋愛の混乱や幻想を歌っているように見えるが、その声には年齢を重ねた者の厚みがある。夢を歌っていても、それは無垢な夢ではない。長い年月を経てもなお、夢を見ることをやめられない人物の歌である。
全曲レビュー
1. Underneath the Stars
アルバム冒頭の「Underneath the Stars」は、4:13 Dreamの中でも最も美しく、The Cure後期の代表的な楽曲の一つといえる。長めのイントロから広がるギターとシンセサイザーの響きは、夜空の下にゆっくりと開いていくようであり、アルバム・タイトルの「Dream」という言葉を最も直接的に感じさせる。ここでThe Cureは、かつてのDisintegration期を思わせる広大な音響空間を作っている。
音楽的には、ゆったりとしたテンポ、重すぎないドラム、浮遊するギター、深く響くベースが一体となり、夢幻的な空間を形成する。Robert Smithのヴォーカルは、若い頃のように鋭く張り裂けるというより、やや丸みを帯びた声で、記憶の中を漂うように歌う。曲全体には、恋愛の陶酔と、すでに過ぎ去ってしまった瞬間を思い出すような切なさが同居している。
歌詞のテーマは、星空の下で共有される親密な瞬間である。しかし、The Cureの楽曲において幸福な瞬間は、常に失われる予感を含んでいる。星空の下にいるというイメージは、ロマンティックであると同時に、人間の小ささや時間の儚さも示す。語り手はその瞬間に没入しているが、聴き手にはそれが永遠ではないことも感じられる。
「Underneath the Stars」は、アルバムの冒頭として非常に重要である。The Cureがまだ壮大でロマンティックな音響を作れることを示すと同時に、本作が単なる軽いポップ作品ではないことを明らかにしている。夢はここで、甘美でありながら、すでに喪失の影を帯びている。
2. The Only One
「The Only One」は、本作の中でも特にポップで親しみやすいシングル曲であり、The Cureの明るいギター・ポップの系譜に属する楽曲である。タイトルは「ただ一人の存在」を意味し、恋愛における特別な相手への高揚感を示す。だが、The Cureらしく、その高揚はどこか不安定で、少し過剰である。
音楽的には、軽快なテンポ、きらびやかなギター、弾むようなリズムが印象的である。曲の構造は比較的シンプルで、サビも非常にキャッチーである。1980年代後半から1990年代初頭のThe Cureが得意とした、明るく疾走しながら切なさを残すポップ・ロックの延長線上にある。
歌詞では、相手への強い愛着や特別視が表現される。しかし「The Only One」という言葉は、純粋な愛の宣言であると同時に、依存や執着の響きも持つ。The Cureの恋愛表現は、相手を理想化しながら、その理想化が現実を壊していく危険をしばしば含む。この曲でも、幸福なメロディの裏に、相手を唯一の存在にしてしまう危うさがある。
「The Only One」は、The Cureのポップな魅力が分かりやすく出た曲である。深刻な暗黒性よりも、恋愛の高揚、身体の軽さ、言葉にできない嬉しさが前面に出ている。ただし、その明るさはThe Cure特有の過剰な感情に支えられており、単なるラヴ・ソングにはならない。
3. The Reasons Why
「The Reasons Why」は、タイトルが示す通り、理由を探す曲である。なぜそうなったのか、なぜ人は傷つくのか、なぜ関係はうまくいかないのか。The Cureの歌詞には、答えがないまま問いを繰り返すものが多いが、この曲もその一つである。理由を求めること自体が、関係の崩壊や自己不信の証拠として響く。
音楽的には、比較的落ち着いたテンポで、メロディには哀愁がある。前曲「The Only One」の明るさから少し影が差し、アルバムに内省的な色を加える。ギターの響きは広がりを持ちながらも、曲全体は派手に爆発せず、感情を抑えたまま進む。
歌詞のテーマは、説明できない感情への問いである。人は理由を知れば納得できると考えるが、恋愛や喪失や自己嫌悪には、明確な理由がない場合も多い。語り手は理由を求めるが、その問いは答えに向かうというより、自分の中で反復され続ける。The Cureの世界では、答えよりも問い続ける状態そのものが重要である。
「The Reasons Why」は、アルバムの中で華やかなポップ性と深い感情の間をつなぐ役割を持つ。派手な曲ではないが、The Cureらしい内省とメロディの美しさが表れている。
4. Freakshow
「Freakshow」は、タイトルからしてThe Cureの奇妙でグロテスクな遊び心を感じさせる楽曲である。見世物小屋、異形の存在、社会から外れた者たちの集まりを連想させるこの言葉は、The Cureが昔から持っていたアウトサイダー感覚と深く関係している。Robert Smith自身の外見やバンドの美学も、長年「普通」から外れたものとして機能してきた。
音楽的には、非常にリズミカルで、ファンク的な跳ね方も感じられる。ベースが曲を強く支え、ギターは鋭く絡む。The Cureの中ではやや異色の、踊れる奇妙なロックであり、The TopやKiss Me, Kiss Me, Kiss Meの一部にあった悪戯っぽい側面を思わせる。
歌詞のテーマは、見世物としての自己、あるいは恋愛関係の中で異形化していく感覚として読める。Freakshowとは、外れ者を見せる場所である。だが、The Cureの視点では、そこにいる者たちは単に哀れな存在ではなく、独自の魅力を持つ。普通の世界の方がむしろ退屈で残酷であり、異形の場所にこそ自由がある。
この曲は、アルバムに軽さと奇妙さを加えている。4:13 Dreamの夢は、美しい星空だけではない。そこには、見世物小屋のような歪んだ楽しさもある。「Freakshow」は、そのカーニバル的な側面を担う曲である。
5. Sirensong
「Sirensong」は、タイトルが示す通り、ギリシャ神話のセイレーンの歌を思わせる楽曲である。セイレーンは美しい歌声で船乗りを誘惑し、破滅へ導く存在である。The Cureの恋愛表現において、魅力と破滅は常に近い場所にある。この曲は、その神話的な誘惑を、穏やかで甘いメロディの中に描く。
音楽的には、アコースティックな質感があり、アルバムの中でも比較的柔らかい曲である。ギターは優しく、メロディは夢のように流れる。Robert Smithのヴォーカルも穏やかで、恋に落ちる瞬間の浮遊感を表現している。しかし、その柔らかさには、どこか危険な甘さがある。
歌詞のテーマは、抗えない誘惑である。相手の声、存在、雰囲気に引き寄せられ、理性では止められない。セイレーンの歌は美しいが、その先には破滅がある。The Cureの恋愛歌は、幸福な瞬間の中にすでに破局の影を含むことが多いが、「Sirensong」もまさにその系譜にある。
この曲は、4:13 Dreamの中で最も甘美な楽曲の一つである。激しい感情ではなく、静かな誘惑の力によって聴き手を引き込む。夢の中で聞こえる歌のように、現実感が薄く、美しいが危うい。
6. The Real Snow White
「The Real Snow White」は、童話的なタイトルを持ちながら、単純なファンタジーにはならない楽曲である。白雪姫というイメージは、純粋さ、美しさ、眠り、毒、鏡、嫉妬といった多くの象徴を含む。The Cureはこの曲で、童話的な女性像を現代的で歪んだ欲望の中に置き直している。
音楽的には、ギターが強く、アルバムの中では比較的ロック色が濃い。サウンドには華やかさもあるが、どこか不穏で、童話の明るさよりも毒のある色彩が目立つ。Robert Smithの歌唱も、相手への陶酔と混乱を同時に含んでいる。
歌詞では、「本当の白雪姫」という言葉が重要である。童話の中の白雪姫ではなく、現実の、あるいは語り手の幻想の中で作られた白雪姫。そこには、女性を理想化する視線と、その理想が崩れていく感覚がある。The Cureの歌詞では、理想の相手はしばしば現実の人間ではなく、語り手の欲望によって作られた像である。
「The Real Snow White」は、The Cureが得意とする童話的イメージの歪曲を示す曲である。美しいものは毒を持ち、純粋なものは欲望に汚される。夢の世界は、決して安全ではない。
7. The Hungry Ghost
「The Hungry Ghost」は、仏教などにおける餓鬼、つまり満たされることのない飢えを持つ存在を連想させるタイトルを持つ。The Cureの歌詞において、飢えや渇きは、愛、欲望、承認、意味への終わりなき欲求として現れることが多い。この曲は、本作の中でも比較的暗く、批評的な意味を持つ楽曲である。
音楽的には、重心の低いリズムとギターが印象的で、ポップな曲が続く中で少し影を濃くする。曲は派手に展開するというより、じわじわと進み、満たされない感覚を持続させる。Robert Smithの声には、諦めと苛立ちが混ざっている。
歌詞のテーマは、消費と欲望の終わりなさとして読める。人は何かを手に入れても満たされず、さらに欲しがる。愛も、物も、快楽も、成功も、すぐに空虚へ変わる。Hungry Ghostとは、現代社会に生きる人間そのものでもある。満たされることを知らず、ただ求め続ける存在である。
「The Hungry Ghost」は、4:13 Dreamの中で重要な暗部を担っている。夢のようなアルバムの中に、欲望の飢えが現れることで、作品全体に深みが出る。The Cureはここで、個人的な恋愛の痛みだけでなく、現代的な消費と空虚の問題にも触れている。
8. Switch
「Switch」は、アルバムの中でも攻撃性の強い楽曲であり、タイトル通り切り替え、反転、変化をテーマにしているように響く。The Cureにおいて、感情はしばしば急に反転する。愛が怒りに、幸福が不安に、夢が悪夢に変わる。「Switch」というタイトルは、その瞬間的な反転を象徴している。
音楽的には、ギターが鋭く、テンポも勢いがある。アルバムの中では比較的ハードな曲で、Robert Smithのヴォーカルにも強い緊張がある。ポップな明るさよりも、感情が苛立ちとして噴き出すような印象を与える。
歌詞のテーマは、関係や自己の急激な変化として読める。何かが切り替わる瞬間、人は以前と同じではいられなくなる。愛していた相手を突然拒絶したくなることもあれば、自分自身の感情が理解できなくなることもある。この曲は、その不安定な心理を音の勢いで表現している。
「Switch」は、アルバム後半に必要な緊張を与える曲である。夢のような浮遊感が続く中で、突然スイッチが入り、感情が鋭く動き出す。The Cureの音楽にある神経質なエネルギーがよく表れている。
9. The Perfect Boy
「The Perfect Boy」は、本作の中でも非常にポップで、The Cureのシングル向きの魅力が強く出た楽曲である。タイトルは「完璧な少年」を意味し、理想化された人物像、恋愛における幻想、そしてその幻想の危うさを示している。The Cureにおいて「完璧」という言葉は、しばしば現実とのズレを生む。
音楽的には、明るく疾走感のあるギター・ポップであり、メロディは非常にキャッチーである。曲調だけを聴けば、The Cureのポップ・ヒットの系譜に自然に入る。軽快なリズムと開放的なギターが、恋に落ちる高揚感を作っている。
歌詞では、完璧な存在として見られる人物が描かれる。しかし、完璧さとは現実の人間の性質ではなく、見る側の欲望が作り出すものでもある。完璧な少年は、実際には完璧ではないかもしれない。語り手はその像に惹かれながら、自分が幻想を作っていることにもどこかで気づいているように響く。
「The Perfect Boy」は、The Cureの明るいポップ性を代表する後期曲である。だが、その明るさは、理想化と失望の境界に立っている。完璧なものへの憧れは、必ず現実との衝突を呼ぶ。この曲は、その一歩手前の輝きを捉えている。
10. This. Here and Now. With You
「This. Here and Now. With You」は、タイトルに句点が入ることで、現在性を強調した楽曲である。「これ。ここ。そして今。君と」というように、瞬間を一つずつ確認するような言葉であり、The Cureの中では比較的肯定的で、現在の幸福をつかもうとする曲である。
音楽的には、軽快で明るく、アルバムの中でも開放感が強い。ギターはきらめき、リズムは前向きに進む。Robert Smithのヴォーカルにも、珍しく素直な喜びが感じられる。ただし、その喜びは永遠を約束するものではなく、現在の瞬間に限られている。
歌詞のテーマは、今ここにいることの肯定である。The Cureの音楽は、過去への執着や未来への不安に満ちていることが多い。しかしこの曲では、語り手は過去や未来から離れ、今この瞬間、相手といることを確認しようとする。これはThe Cureにとって非常に重要な感情である。なぜなら、彼らの音楽において「現在」はしばしば失われてしまうものだからである。
「This. Here and Now. With You」は、4:13 Dreamの明るい中心の一つである。夢のようなアルバムの中で、現実の瞬間を肯定する曲でもある。ただし、その現実は長く続く保証のない、一瞬の光として存在している。
11. Sleep When I’m Dead
「Sleep When I’m Dead」は、死ぬまで眠らない、あるいは死んだときに眠るという意味を持つタイトルであり、The Cureらしい不眠、過剰な感情、生への執着を示す楽曲である。実際、この曲は1980年代からの未発表素材に由来するとされ、The Cureの過去と現在をつなぐ曲でもある。
音楽的には、ファンキーで、リズムが強く、どこかThe Head on the DoorやKiss Me, Kiss Me, Kiss Me期の奇妙なポップ感覚を思わせる。曲は暗いテーマを持ちながらも、非常に踊れる。The Cureの魅力の一つは、死や不眠のようなテーマを、身体を動かす音楽へ変換できる点にある。
歌詞のテーマは、休むことを拒む精神である。眠りは安息であると同時に、死の比喩でもある。語り手は眠りを拒むことで、生き続けようとしている。しかし、その生は落ち着いた充足ではなく、神経の過剰な覚醒として表れている。眠れないことは活力でもあり、苦しみでもある。
「Sleep When I’m Dead」は、The Cureの歴史を内側に含んだ曲である。若い頃のRobert Smithの不眠と狂騒が、後期のバンド・サウンドの中で再び鳴っている。明るく踊れるが、タイトルには死がある。この二重性が非常にThe Cureらしい。
12. The Scream
「The Scream」は、タイトル通り叫びをテーマにした楽曲であり、アルバム終盤で感情の緊張を高める。叫びは、言葉にならない感情、恐怖、怒り、痛みの最も直接的な表現である。The Cureの音楽において、Robert Smithの声はしばしば泣き声や叫びに近づくが、この曲ではその要素がタイトルとして前面に出ている。
音楽的には、重く、激しく、後半に向かって緊張を増していく。ポップな楽曲が多い本作の中で、この曲は暗く、攻撃的な側面を強める。ギターの音も鋭く、リズムには不穏な圧力がある。Robert Smithのヴォーカルは、感情が制御できなくなる寸前のように響く。
歌詞のテーマは、内側に溜め込まれた感情の爆発である。人は言葉で説明できるうちは、まだ自分を保っている。しかし、言葉が壊れると叫びになる。この曲では、その瞬間が描かれる。The Cureの世界では、愛や喪失や恐怖が最終的に声の歪みとして表れることが多い。
「The Scream」は、アルバム終盤に必要な暗さと激しさを与える曲である。4:13 Dreamが全体として明るめの作品であるとしても、The Cureの根底にある叫びは消えていない。この曲は、そのことを強く示している。
13. It’s Over
アルバム最後を飾る「It’s Over」は、タイトル通り「終わり」を告げる楽曲である。The Cureのアルバムにおいて終わりは常に重要なテーマであり、恋愛の終わり、夢の終わり、若さの終わり、アルバムという体験の終わりが重なり合う。この曲は、4:13 Dreamの夢を閉じるための強い終曲である。
音楽的には、スピード感と荒々しさがあり、終曲としては静かな余韻よりも、感情を吐き出すような形を取る。Robert Smithのヴォーカルは切迫し、バンド全体も激しく押し出す。夢から静かに目覚めるのではなく、ほとんど強制的に目を覚まされるような終わり方である。
歌詞のテーマは、関係や幻想の終焉である。「終わった」という言葉には、諦め、怒り、解放、悲しみが同時に含まれる。The Cureの楽曲では、終わりは単純な停止ではない。終わった後も感情は残り続け、記憶は消えない。この曲の激しさは、終わりを受け入れきれない心の抵抗として響く。
「It’s Over」は、4:13 Dreamの終曲として効果的である。アルバムは星空の下の夢から始まり、さまざまな恋愛、幻想、飢え、叫びを経て、最後に終わりを告げる。夢は終わる。しかし、その終わりは静かなものではなく、まだ燃え尽きていない感情の爆発である。
総評
4:13 Dreamは、The Cureの後期作品の中でも、明るさ、色彩、ポップ性が比較的強く出たアルバムである。PornographyやDisintegrationのような深い暗黒性を期待すると、本作は軽く感じられるかもしれない。また、アルバム全体の統一感という点では、The Cureの最高傑作群には及ばない。しかし、本作には後期The Cureが持つ独自の魅力がある。それは、長いキャリアを経てもなお、Robert Smithが恋愛、夢、幻想、自己嫌悪、叫びを歌い続けているという事実そのものである。
本作の音楽的な特徴は、ギターの色彩感にある。Porl Thompsonのギターは、曲ごとに表情を変え、夜空のように広がる「Underneath the Stars」、軽快な「The Only One」、奇妙な「Freakshow」、激しい「Switch」や「The Scream」まで、アルバム全体に多様な質感を与えている。Simon Gallupのベースは、The Cureらしい陰影と推進力を保ち、Jason Cooperのドラムは後期の安定感を支える。バンドとしての演奏は、過去の名作期の緊張とは異なるが、十分に力強い。
歌詞面では、夢と現実の境界が中心にある。星空、唯一の恋人、セイレーン、白雪姫、餓鬼、完璧な少年、叫び、終わり。これらのイメージは、現実の恋愛や感情を、神話や童話や悪夢の中へ変換している。The Cureは常に、個人的な感情を幻想的なイメージで包むバンドだったが、4:13 Dreamではその傾向が非常に分かりやすく表れている。
ただし、本作の夢は完全に美しいものではない。「Underneath the Stars」や「Sirensong」のような美しい曲がある一方で、「The Hungry Ghost」や「The Scream」には飢えと苦痛がある。「The Perfect Boy」や「The Real Snow White」では、理想化された人物像が描かれるが、その理想は現実の人間を歪める危険を持つ。夢は慰めであると同時に、逃避であり、時には破滅への入口でもある。
4:13 Dreamの弱点は、アルバムとしての焦点がやや散らばっていることにある。前半はロマンティックでポップな曲が多く、中盤には奇妙な幻想性があり、後半には激しい曲が並ぶ。これらはThe Cureらしい多面性ではあるが、DisintegrationやBloodflowersのような一貫した深い流れとは異なる。そのため、作品全体としての強度は聴き手によって評価が分かれる。
しかし、この散らばりは本作のタイトルにある「Dream」という性格とも合っている。夢は必ずしも論理的に構成されない。美しい場面、奇妙な人物、恐ろしい感情、突然の叫び、唐突な終わりが連続する。4:13 Dreamは、整然としたコンセプト・アルバムではなく、夢の断片を並べたアルバムとして捉えると、その魅力が見えやすい。
The Cureのキャリアにおいて本作は、決定的な革新作ではない。しかし、後期のバンドがなおポップであり、ロマンティックであり、奇妙であり、感情的であり続けたことを示す重要な作品である。Robert Smithは若い頃から、恋愛の陶酔と破滅、孤独、夜、夢、叫びを歌ってきた。4:13 Dreamでは、そのテーマがよりカラフルで、時に軽やかな形で再び現れる。
日本のリスナーにとって本作は、The Cureの代表作を聴いた後に触れることで、後期のバンド像を理解しやすい作品である。暗いThe Cureだけではなく、ポップで、夢見がちで、少し奇妙なThe Cureを知るために有効である。特に「Underneath the Stars」は、後期The Cureの美しさを代表する楽曲として聴く価値が高い。
総合的に見て、4:13 DreamはThe Cureの後期における夢のアルバムである。完璧に構築された名盤ではないが、星空のロマンティシズム、恋愛の幻想、童話的な歪み、欲望の飢え、叫び、終わりが色鮮やかに並んでいる。The Cureはここで、暗闇だけでなく、暗闇の中で見える奇妙な色を鳴らしている。夢は甘く、危うく、そして最後には終わる。その儚さこそが、本作の核心である。
おすすめアルバム
1. The Cure – Wish(1992年)
4:13 Dreamのポップでギター主体の側面を理解するうえで重要な作品である。「High」「Friday I’m in Love」などに見られる明るさと切なさの混合は、本作の「The Only One」や「The Perfect Boy」にもつながる。The Cureが大きなスケールのギター・ポップを展開した代表作である。
2. The Cure – The Head on the Door(1985年)
暗さとポップ性、異国風の旋律、軽快なリズムを高い完成度で統合したアルバムである。4:13 Dreamのカラフルで多様な曲調の原点を理解するために重要であり、The Cureがゴシック・ロックの枠を越えてポップなバンドへ広がった瞬間を示している。
3. The Cure – Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me(1987年)
The Cureの多面性が最も大きく広がった作品の一つであり、ポップ、サイケデリック、ゴシック、ファンク、ロックが混在している。4:13 Dreamの散漫さにも通じる多彩さを、より大規模かつ充実した形で味わえるアルバムである。
4. The Cure – Bloodflowers(2000年)
The Cure後期の中でも、時間、老い、終わりをテーマにした重要作である。4:13 Dreamよりも暗く、統一感が強く、Robert Smithの成熟した内省が前面に出ている。後期The Cureの深い側面を知るために欠かせない作品である。
5. The Cure – Disintegration(1989年)
The Cureの代表作であり、ロマンティックな崩壊、広大な音響、喪失感、夢のようなギターが最高度に結実したアルバムである。4:13 Dream冒頭の「Underneath the Stars」に惹かれるリスナーにとって、その源流となる壮大な美しさを持つ作品である。

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