Your Dog by Soccer Mommy（2018）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.04

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. “声を取り戻す歌——それが、Your Dog だった”
- 関連記事:

1. 歌詞の概要

「Your Dog（ユア・ドッグ）」は、アメリカ・ナッシュビル出身のシンガーソングライター Soccer Mommy（ソッカー・マミー） ことソフィー・アリソンが2018年に発表したデビュー・アルバム『Clean』のオープニングを飾る楽曲であり、抑圧的な関係性からの脱却を力強く宣言するフェミニスト・アンセムである。

タイトルに含まれる“Your Dog”という言葉は、主人との命令に従う犬のように、相手の感情や都合に振り回され、自分の感情を押し殺してきた語り手自身を象徴している。だが本作は単なる嘆きではない。ソフィー・アリソンはこの曲で、依存からの覚醒、自己主張の芽生え、そして“私をコントロールさせない”という明確な意志を歌っている。

サウンドはローファイでミニマルなギター・アレンジを基調としながらも、メロディには切実さと冷静さが共存しており、まるで感情を凍らせながらも静かに怒りを燃やすような、“冷たい炎”のような強さが全編を支配している。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Your Dog」は、ソフィー・アリソン自身が語るように、過去に経験した不健全な関係性や、女性として社会の中で感じてきた抑圧的構造に対するカウンターとして生まれた作品である。

「私はあの時、“いい子”でいようとしすぎていた。でもそのせいで、自分を消してしまっていたことに気づいた」と、彼女はインタビューで語っている。つまりこの曲は、他者との関係性の中で自分を見失っていた自分を取り戻すための音楽的儀式でもあるのだ。

フェミニズムの文脈とも親和性が高く、2010年代後半における**“サイレントな怒り”を抱える女性たちの共鳴点**となったこの曲は、リリースと同時に批評家からも絶賛され、Soccer Mommyをインディーロックの新たな旗手へと押し上げた。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I don’t wanna be your fucking dog
あんたのクソみたいな飼い犬になんて、なりたくない

That you drag around
あんたの気分で引きずり回されて

A listless, pooch, obedient and mute
意志もなく、従順で、言葉さえ持たない犬のままで

Always coming back
それでも、いつも戻ってきてしまってた

I just want a lover who’s in it for the fight
私は、闘ってくれる恋人が欲しいだけ

歌詞引用元：Genius Lyrics – Your Dog

4. 歌詞の考察

「Your Dog」は、非常に明確なメッセージを持った楽曲でありながら、怒鳴り散らすことも、劇的な表現に頼ることもない。それゆえに、むしろその怒りはより深く、静かに、聴き手の内側に染み込んでいく。

冒頭の「I don’t wanna be your fucking dog（あんたの犬にはなりたくない）」というフレーズは、まるで何年も言えなかった言葉がやっとこぼれ落ちたような解放感と痛みを同時に感じさせる。ここには、“従属”という構造そのものに対する拒絶があり、それは恋愛に限らず、家族、社会、性別役割といったあらゆる支配関係に向けられている。

また、「Always coming back（それでも戻ってきてしまう）」というラインが示すように、語り手は完全に解放されているわけではない。その中間地点にいるからこそ、この曲はリアルなのだ。怒りと未練、解放と恐怖、その曖昧で揺れる感情を捨てずに曲として封じ込めたことが、リスナーにとって大きな共感とカタルシスを与える。