
1. 歌詞の概要
「Roundabout」は、イギリスのプログレッシブ・ロック・バンドYesが1971年に発表したアルバム『Fragile』の冒頭を飾る楽曲であり、彼らの代表曲として今なお高い人気を誇る作品である。およそ8分30秒に及ぶこの楽曲は、構成の複雑さとメロディのキャッチーさを絶妙に融合させた、プログレッシブ・ロックの傑作とされる。
歌詞は一見すると抽象的で断片的なイメージの連なりだが、全体としては旅、風景、時間の移ろい、そして繰り返される人生のサイクルをテーマにしていると考えられている。「Roundabout(ラウンドアバウト/環状交差点)」という言葉は、現実の交通の用語であると同時に、人生における繰り返しや循環、またはどこにもたどり着かない旅の象徴としても用いられており、幻想的な詩の中で象徴的に機能している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Roundabout」は、Yesのボーカルであるジョン・アンダーソンとギタリストのスティーヴ・ハウによって共作された。ツアー中、スコットランドの北部からイングランドへと移動する車中で、彼らが目にした湖や山々、雲の形や道の曲がり具合が、そのまま歌詞や構成に反映されたとされる。
特に「mountains come out of the sky and they stand there(山が空から現れて、そこに立っている)」という詩の一節は、彼らが見たスコットランド高地の印象を抽象化したものであり、自然と幻想の境界を曖昧にするような視覚的な詩表現となっている。アンダーソンはこの旅の風景を詩として記録し、ハウはその詩に音楽的なアイデアを付け加えた。
音楽的には、クラシックギターによる印象的なイントロ、変拍子のリズム、ドラムとベースの緻密な絡み、そしてリック・ウェイクマンの鮮烈なキーボードが特徴であり、プログレッシブ・ロックの要素を詰め込んだダイナミックな構成となっている。それにもかかわらずポップ的な感覚も保っており、1970年代のラジオで繰り返しオンエアされたことにより、Yes最大のヒット曲のひとつとなった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Yes “Roundabout”
I’ll be the roundabout
僕がラウンドアバウトになるよ
The words will make you out ‘n’ out
言葉たちは君を外へ、また外へと導いていく
I spend the day your way
僕は君のやり方で一日を過ごす
Call it morning driving through the sound and in and out the valley
朝と呼ぼう、音の中を走り、谷を行き来する旅を
この冒頭のパートは、旅の風景を詩的に描写しつつ、語り手と相手の関係性が象徴的に表現されている。ラウンドアバウトという構造物になぞらえながら、同じ道を何度も回るような人生や関係のループ感がほのめかされる。
Mountains come out of the sky and they stand there
山々が空から現れて、そこに立っている
One mile over we’ll be there and we’ll see you
1マイル先には君がいて、僕たちはそこで君に会える
この幻想的な一節は、現実の風景がどこか夢のように感じられる瞬間を捉えている。自然と人間の意識が交差する場面であり、視覚的なインスピレーションがそのまま詩に転化されていることがよくわかる。
4. 歌詞の考察
「Roundabout」の歌詞は、明確なストーリーラインを持つわけではないが、その代わりにリスナーの想像力を刺激する象徴やイメージの断片が散りばめられている。その特徴的な構成は、現実と夢、旅と静止、循環と前進といった二項対立のテーマを扱っていると見ることができる。
「ラウンドアバウトになる」というフレーズは、自分自身が旅の道そのものであるという自己同一化を示しており、単なる風景の描写を超えて、人生そのものが「巡る」ものであるという哲学的な視点を含んでいる。また、「君のやり方で一日を過ごす」という一節は、相手への順応や関係性の流動性を示しており、感情的な柔軟さや受容の姿勢がうかがえる。
全体として、歌詞は時間や空間、関係性といった抽象的な概念を、具体的な風景描写と音楽的リズムに乗せて表現するという、プログレッシブ・ロック特有の詩的アプローチが貫かれている。そしてその中心にあるのは「変化」と「繰り返し」という人間の存在そのものをめぐるテーマである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Close to the Edge” by Yes
さらに複雑で壮大な構成を持つYesの代表作。宗教的、哲学的テーマを扱った26分の大作。 - “Firth of Fifth” by Genesis
クラシック的な構成と詩的な歌詞、技巧的な演奏が融合したプログレの名曲。 - “Karn Evil 9” by Emerson, Lake & Palmer
未来的世界観とロックオペラ的展開が光る、プログレ・ロックの野心作。 - “Thick as a Brick” by Jethro Tull
アルバム1枚をまるごと1曲とする構成で、皮肉とユーモアに満ちた傑作。
6. ロックと詩の“循環”を体現したプログレの金字塔
「Roundabout」は、Yesというバンドの個性──技巧的な演奏、詩的な歌詞、多層的な構成、そして明るさと神秘が共存する音世界──をもっとも凝縮した形で示した楽曲のひとつである。1970年代初頭という音楽的冒険が許された時代にあって、彼らはロックの形式を拡張し、同時にそれを“歌”として成立させることに成功した。
この曲の持つ“循環性”は、音楽的にも歌詞的にも強い象徴性を帯びており、人間の思考や旅、感情の移ろいに対するメタファーとして、時代を超えて響き続けている。
まさにプログレッシブ・ロックの入門編にして到達点──「Roundabout」は、時間、風景、そして人生そのものを音と詩で巡る、終わりなきラウンドアバウトである。
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