
発売日:2019年5月24日
ジャンル:Rock / Folk Rock / Soul
概要
The Waterboysが2019年に発表した13作目のスタジオ・アルバムがWhere the Action Isである。Mike Scottを中心に、長年の重要メンバーであるフィドル奏者Steve Wickhamらが参加し、前作Out of All This Blueで大きく取り入れた打ち込みやR&B的な制作を残しながら、ロック、ソウル、フォーク、ファンク、電子音を自由に横断している。80年代の「The Big Music」やFisherman’s Bluesの音を再現するのではなく、その時々にScottが興味を持った音楽をThe Waterboysの語彙へ取り込む姿勢が前面に出た作品だ。
タイトルは1960年代のロックンロール・ナンバー「Where the Action Is」に由来し、オープニング曲ではその発想をThe Waterboys流に作り替えている。本作に共通するのは、過去への敬意を懐古趣味で終わらせないことである。Robert Burnsの詩を素材にした曲があれば、俳優Dennis Hopperを題材にした長い語りの曲もあり、Scott自身の若い時代を振り返る歌もある。それらを同じアルバムへ置くことで、ロック史、文学、個人的記憶が一つの流れに混ざっていく。
サウンドも曲ごとの差が大きい。ギターを前面に出すロックから、電子ビートを使ったファンク、ピアノ中心のバラードまで振れ幅があり、統一されたジャンル感よりScottの声と言葉が全体を結びつける。キャリア35年以上のバンドによる作品だが、過去の代表作を安全に反復する方向には進んでいない。むしろベテランらしい作曲力を使いながら、現代的なリズムや録音方法を試し続けている点に本作の性格がある。
全曲レビュー
1. 「Where the Action Is」
Robert Parkerの60年代の楽曲を出発点にしながら、Scottが歌詞と音楽を作り替えた勢いのあるオープニングである。ギターと強いビートが前へ出て、題名通り「何かが起きている場所」へ向かう興奮を作る。Scottの声には若々しさを装うというより、今でも刺激のある場所を探そうとする意志が感じられる。アルバム全体にあるロックンロールへの愛情を、懐古ではなく現在形の音として提示する曲だ。
2. 「London Mick」
ScottがThe ClashのMick Jonesへ敬意を表した曲で、ロンドンのロック文化に対する親しみが明快に現れる。演奏も題材に合わせて軽快で、ギターを軸とした短いロックンロールとしてまとめられている。人物の経歴を説明する伝記歌ではなく、Scottの目に映るJonesの格好よさや精神をスケッチするように進む。音楽家が別の音楽家へ送るファンレターのような素直さが、このアルバムではむしろ新鮮に響く。
3. 「Out of All This Blue」
前作と同じタイトルを持つ曲で、電子的なリズムとソウル/R&Bへの関心を引き継いでいる。昔ながらのフォーク・ロック的なThe Waterboysを期待すると意外な音だが、Scottの語りかけるような声が入ることでバンドの個性は失われない。ビートを一定に保ち、その上で声や楽器の色を変える作りは、ギター中心の前2曲とも対照的だ。前作で始めた実験が一時的な寄り道ではなかったことを示している。
4. 「Right Side of Heartbreak (Wrong Side of Love)」
タイトルの対句をそのままフックにした、ソウル色の強い恋愛曲である。失恋と愛情を単純な反対語として扱わず、どちら側に立っているのか自分でも整理できない状態を描く。Scottは大げさに悲嘆するより、経験を重ねた人物らしい乾いた声で言葉を運ぶ。バックのリズムには温かさがあり、歌詞の苦さを必要以上に重くしないことで、古典的なソウル・ソングに近いバランスを作っている。
5. 「In My Time on Earth」
人生の有限性を見つめる曲だが、死を暗く語るだけではなく、この世界にいる時間をどう使うかという方向へ視線を向ける。ピアノや穏やかな伴奏を中心にした広がりのあるアレンジによって、Scottの言葉をじっくり聞かせる。若い時期の焦燥を歌うのではなく、長いキャリアを経た歌い手だからこそ自然に成立する内容である。アルバム前半の外向きなロックから、個人的な時間へ視点を移す役割も持つ。
6. 「Ladbroke Grove Symphony」
ロンドンのLadbroke Grove周辺とScott自身の若い時代を振り返る、アルバムの中心的な長尺曲である。具体的な土地や人物の記憶を積み重ねながら、個人的な回想を英国ロック文化の風景へ広げていく。「Symphony」と題していてもクラシック的な交響曲ではなく、異なる記憶や場面を連ねることで規模を作るタイプの曲だ。過去を理想化するだけでなく、時間が経った現在から若い自分を見直す距離感がある。
7. 「Take Me There I Will Follow You」
反復する言葉とリズムによって、どこかへ連れていってほしいという衝動を直接的に表現する。細かな物語を説明するより、タイトルのフレーズを何度も押し出すことで感情を身体的なものへ変える曲である。演奏にもファンクや現代的なビートの感覚があり、The Waterboysの伝統的なフォーク・ロックから意識的に離れている。アルバム後半を再び外向きなエネルギーへ切り替える。
8. 「And There’s Love」
大きなドラマを作らず、愛情が生活の中に存在することを簡潔な言葉と穏やかな旋律で歌う。Scottの作詞は壮大な精神性へ向かうことも多いが、ここでは言葉を詰め込みすぎず、反復によって意味を残す。演奏も声を覆わない程度に抑えられ、前曲のビート中心の感触から自然に温度を下げていく。アルバム終盤に必要な余白を作る、小さいながらも役割のはっきりした曲だ。
9. 「Then She Made the Lasses-O」
スコットランドの詩人Robert Burnsの「Green Grow the Rashes, O」をもとにした曲で、Scottの文学への長年の関心が表れている。古い詩を博物館的に保存するのではなく、現代のThe Waterboysの演奏へ移し替えることで、言葉の生命力を前へ出す。Scottの歌声には伝承歌を歌うような素朴さがあり、アルバムの電子的な側面とは大きく異なる。古い言葉と現代の音を同じ現在形として扱う姿勢がよく分かる。
10. 「Piper at the Gates of Dawn」
約9分に及ぶ終曲では、Dennis Hopperにまつわる物語をScottが長いスポークン・ワードとして語る。通常のヴァースとサビを持つ歌ではなく、声の後ろで音響がゆっくり変化し、聞き手は映画の一場面を追うように言葉へ集中することになる。タイトルはKenneth Grahameの文学作品を思わせるが、中心にあるのはHopperという20世紀カウンターカルチャーの人物像だ。ロック、映画、神話的なイメージを重ね、明確な結論より長い余韻を残してアルバムを閉じる。
総評
Where the Action Isは、一つの様式を完成させることより、Mike Scottが長年吸収してきた文化を自由に並べることを選んだアルバムである。ロックンロール、ソウル、ファンク、フォーク、電子ビートが同居し、さらにBurns、Mick Jones、Dennis Hopperといった人物や文化的記憶まで入り込む。そのため音だけを基準にするとかなり雑多だが、Scottが「自分を動かしてきたもの」を現在から見直すという視点では一貫している。
特に興味深いのは、過去との付き合い方である。「London Mick」や「Ladbroke Grove Symphony」にはロック史への愛情があり、「Then She Made the Lasses-O」はさらに古い文学へ遡る。しかし、昔の音を正確に再現して安心感を作ることが目的ではない。電子的なビートを平然と隣へ置くことで、文化は保存されるものではなく、現在の人間によって使い直されるものだという感覚が生まれている。
一方、この多様性はアルバムの弱点にもなる。初期The Waterboysのような大きなギター・サウンドや、Fisherman’s Bluesのような明確なルーツ音楽への集中を求めると、曲ごとの方向が散らばって聞こえるだろう。だがScottの声と言葉に焦点を置けば、そこには若い頃の記憶、恋愛、老い、音楽への敬意という共通した時間意識がある。異なるジャンルを一つの音へ統一するのではなく、一人の人間の経験によってつないでいるアルバムなのだ。
キャリア後期の作品としても、その落ち着かなさが長所になっている。The Waterboysは80年代の代表的な音を再演するだけでも成立するバンドだが、本作はそれを選ばず、現代的な制作と古いフォーク、ロックの記憶を衝突させる。すべての試みが同じ強度でまとまっているわけではないものの、「昔の自分らしさ」に固定されることを拒む姿勢は明確である。タイトル通り、Scottにとっての「action」が今どこにあるのかを探し続けた作品と言える。
おすすめアルバム
Out of All This Blue by The Waterboys
2017年の前作。打ち込み、ファンク、R&B、ヒップホップ的な制作を大胆に取り込み、従来のThe Waterboys像を更新した。Where the Action Isの電子的なリズムがどこから続いてきたのかを知るには最も直接的な一枚である。
Fisherman’s Blues by The Waterboys
1988年作。フィドルやマンドリンを取り込み、初期の壮大なロックからアイリッシュ/スコティッシュ・ルーツ音楽へ大きく方向転換した代表作。ジャンルを固定せず、その時点の興味に従うScottの姿勢の原点として本作とつながる。
This Is the Sea by The Waterboys
1985年作。「The Whole of the Moon」を含む初期の代表作で、巨大なギター、ピアノ、サックスによる「The Big Music」を完成させた。2019年の自由で細分化されたサウンドと比較すると、Scottの作曲と制作の変化が鮮明に分かる。
London Calling by The Clash
1979年作。パンクを出発点に、レゲエ、ロカビリー、ソウルなどを取り込みながらロックの枠を広げた作品。「London Mick」で敬意を示されるMick Jonesの仕事を含め、本作に流れるロンドンの音楽文化をたどるうえでも関連が深い。
Wrecking Ball by Emmylou Harris
1995年作。伝統的なルーツ音楽を背景に持つ歌手が、Daniel Lanoisによる現代的で抽象的な音響へ踏み込んだ作品である。過去を捨てずに新しい制作方法へ接続するという点で、後期The Waterboysの冒険心と共通する。

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