What You Need by INXS（1985）楽曲解説

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. INXSとMTV時代の象徴として

1. 歌詞の概要

INXSの「What You Need」は、1985年にリリースされたアルバム『Listen Like Thieves』に収録されている楽曲であり、バンドが国際的な成功を収める大きなきっかけとなった一曲である。この曲の歌詞は、リスナーに向けて「必要なものはすでに自分の中にある」「君を動かす力はここにある」と励ますようなメッセージを持っている。具体的なストーリーを描くのではなく、ダイレクトでシンプルな表現を通して、聴く者を鼓舞するエネルギーに満ちているのが特徴である。

都会的なファンクグルーヴを下敷きにしたこの曲は、愛や欲望といったテーマを複雑に語るのではなく、「今この瞬間を楽しめ」「必要なものはすでに目の前にある」という感覚を直感的に伝えている。歌詞は決して難解ではなく、反復されるフレーズがリスナーにポジティブなマントラのように響く構造になっている。そのため、この楽曲はライブでも強い一体感を生み出し、観客を引き込む力を持っているのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

1980年代半ば、INXSはすでにオーストラリア国内では人気の高いバンドであったが、世界的なブレイクを果たすには決定打を欠いていた。初期の彼らはニューウェーブやポストパンクの影響を受けながら、やや硬質でアンダーグラウンドな響きを持っていた。しかし、バンドは次第にR&Bやファンク、ポップスの要素を取り込み、より幅広いリスナーに届く音楽性へとシフトしていった。

その転機となったのが、プロデューサーのクリス・トーマスの参加である。トーマスはRoxy MusicやSex Pistols、Pretendersなどを手掛けた経験を持ち、サウンドに洗練と鋭さを与えることに長けていた。彼はINXSの持つファンク的なリズム感と、マイケル・ハッチェンスのセクシーでカリスマ的なヴォーカルを前面に押し出すことで、「What You Need」を世界標準のポップ・ロックへと仕上げたのである。

実際に「What You Need」は、INXSにとってアメリカのBillboard Hot 100で初のトップ10入りを果たした楽曲であり、世界的な成功を予感させる重要な突破口となった。この成功を基盤に、後のアルバム『Kick』での頂点を迎えることになるのだ。したがって、この曲は単なるシングルヒットにとどまらず、バンドのキャリアにおける戦略的なターニングポイントであったとも言えるだろう。

また、歌詞のシンプルさは当時の音楽シーンにおいても特徴的であり、MTV世代に向けてダイレクトに訴えるものだった。シンセサイザーに頼りすぎず、ファンクギターとホーンセクションを強調するアレンジは、バンドがライブ感を重視していた証でもある。映像的にも「What You Need」のミュージックビデオは、80年代の都会的で洗練された雰囲気を体現し、INXSのクールなイメージを強固にした。

3. 歌詞の抜粋と和訳

（歌詞引用元：INXS – What You Need Lyrics | Genius）

You don’t have to take this lie down
君はもうこの嘘に押しつぶされる必要はない

You don’t have to swallow your pride
君はプライドを飲み込んで我慢する必要はない

Just take what you need and leave the rest behind
ただ君に必要なものだけを手にして、あとは置いていけばいい

‘Cause it’s what you need tonight
なぜなら、今夜必要なのはそれだけだから

歌詞は繰り返しと短いフレーズで構成されており、余計な装飾を削ぎ落としている。まるでステージ上でのメッセージのように直接的で、聴き手に強いインパクトを与える構造になっているのだ。

4. 歌詞の考察

「What You Need」の歌詞は、社会的・政治的な背景を語るものではなく、もっと個人的で普遍的な欲望や感情に訴える。そのメッセージは「必要以上のものを背負わずに、今この瞬間を楽しめ」というシンプルで力強いものである。1980年代の消費文化の中にあって、この歌詞は「もっと多くを求めること」ではなく「必要なものを見極めること」を強調しているようにも解釈できる。

また、マイケル・ハッチェンスのヴォーカルが持つ性的なニュアンスは、歌詞の励ましや誘いをより身体的で親密なものに変えている。「What You Need」は単なる応援歌ではなく、愛や欲望、衝動をも含んだ複合的なメッセージなのだ。

この曲が放つ明快さは、複雑なメタファーや社会的批評を用いた楽曲が多かった80年代のニューウェーブシーンの中で、逆に際立っていたとも言える。聴き手は深く考える必要はなく、ただグルーヴに身を委ねることで曲のメッセージを体感できる。それはライブの場で特に強烈に機能し、観客を解放的な気分へと導いた。

さらに、INXSというバンドの個性を考えれば、この歌詞は彼ら自身の姿勢をも映し出している。「自分たちの音楽に必要なのは複雑な理屈ではなく、リズムと感情の直接的な表現だ」という信念が込められているように思えるのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

Need You Tonight by INXS
　後の代表曲であり、より洗練された都会的なサウンドとセクシーさを備えた楽曲。
Devil Inside by INXS
　ダークなファンクロックで、バンドのエネルギーとハッチェンスの妖艶さを堪能できる。
Let’s Dance by David Bowie
　同じ80年代のファンク・ポップ路線で、都会的なダンスロックの完成形。
Sledgehammer by Peter Gabriel
　ホーンセクションを活かしたファンキーなアレンジが「What You Need」と共鳴する。
Everybody Wants to Rule the World by Tears for Fears
　80年代を代表するアンセム的な楽曲で、シンプルなメッセージと洗練されたサウンドが魅力。