発売日: 2015年2月24日(UK)
ジャンル: インダストリアル・ロック、エレクトロニック・ロック、ポストパンク、オルタナティブ・ロック
未来の空白に響くノイズ——“次に何が起こるか”を問い続ける反復と断絶のアルバム
『What Happens Next』は、Gang of Fourが2015年に発表した10枚目のスタジオ・アルバムであり、
創設メンバーアンディ・ギル(Andy Gill)のもとで作られた、事実上の“ソロ・プロジェクト的色彩が濃い”後期作品である。
前作『Content』(2011)を最後に、ヴォーカルのジョン・キング(Jon King)が脱退し、
今作ではアリ・ハインド(John “Gaoler” Sterry)を新ボーカリストに迎え、さらにアリソン・モイエ(Alison Moyet)やハーバート・グリューネマイヤー(Herbert Grönemeyer)など多彩なゲストが参加。
その結果、『What Happens Next』は、かつての鋭角なポリティカル・ファンクとは異なる、インダストリアルで重層的な“ポストGang of Four”の世界観を構築している。
全体的にダークで冷たい音像が特徴で、テクスチャーとリズム、無機質な構成を軸にした実験的アートロックと化している。
全曲レビュー
1. Where the Nightingale Sings
重厚なベースとドラムに支配されたインダストリアル・ファンク。
“夜鶯の歌う場所”という詩的タイトルが示すように、陰鬱さと希望が交差するオープナー。
2. Broken Talk (feat. Alison Mosshart)
The KillsのAlison Mosshartが参加したダークなハイライト。
不協和なギターと女性ヴォーカルの絡みが、破綻したコミュニケーションの寓話を演出する。
3. Obey the Ghost
「ゴーストに従え」という命令形タイトルが象徴するのは、
見えない力に支配される現代の姿。
デジタルと反復の渦の中で、実体なき暴力を音に変換している。
4. First World Citizen
先進国の特権と矛盾をテーマにしたメタ・ポリティカル・トラック。
冷淡な語りとラップ調のリズムが、アイロニーを強調する。
5. Stranded
低音のうねりと、抑制されたエモーション。
“立ち往生する者”としての現代人の姿を描いた、脱構築的バラード。
6. Graven Image
「偶像(Graven Image)」への批判は、宗教的というよりもメディア批評的。
崇拝されるものの空虚さを、硬質なギターとノイズで塗りつぶす。
7. The Dying Rays (feat. Herbert Grönemeyer)
ゲストのグリューネマイヤーによる、重々しくも感傷的なボーカルが印象的。
“死にゆく光”というテーマに、老いと変化への静かな共感が滲む。
8. Isle of Dogs
ロンドン東部の地名をタイトルにしたアグレッシブなナンバー。
資本と再開発に呑み込まれる都市空間を描いた、現代版『Entertainment!』的視座を持つ。
9. England’s In My Bones (feat. Alison Mosshart)
再びMosshartが参加。
“イングランドが骨に染みついている”という言葉が、愛国と絶望の境界線を行き交う。
民族性と記憶をめぐるパーソナルな問いかけ。
10. Dead Souls
アルバムを締めくくる暗黒バラード。
“死せる魂”とは、理性を失った個人か、声を持たぬ群衆か。
静かな怒りと喪失の響きが、ノイズの向こうに浮かぶ。
総評
『What Happens Next』は、Gang of Fourという名前の“ブランド”を継ぎながらも、もはやその初期像とは異なる領域へと踏み出した野心作である。
それは、Andy Gillのソロ的とも言える実験であり、解体されたポストパンクの再構築/再定義でもある。
冷たく、重く、構成的。
かつての激情の叫びではなく、“声なきノイズの彫刻”としての現代批評音楽なのだ。
聴き手に共感やノスタルジーを与えるのではなく、距離と無感情を通して痛みを浮かび上がらせる。
「次に何が起こるのか」——それは答えではなく問いとして、音の中に埋め込まれている。
おすすめアルバム
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Nine Inch Nails – Hesitation Marks (2013)
インダストリアルな内省と美学が共鳴する、冷たく繊細な音世界。 -
Massive Attack – Heligoland (2010)
重厚で不穏なビートに、ポリティカルな影が忍び込む。 -
David Bowie – The Next Day (2013)
自己解体と過去の再構築に挑んだBowieの後期作。テーマ性が近似。 -
Swans – To Be Kind (2014)
身体性と反復の極限に挑んだ現代アートロックの傑作。 -
Depeche Mode – Delta Machine (2013)
デジタル・ゴスペルとでも言うべき、深い業と救済をたたえた重層的エレクトロニカ。
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