発売日: 1993年2月15日(UK)
ジャンル: ポップ、ヒップホップ・ソウル、ダンス・ポップ、ニュー・ジャック・スウィング
概要
『Walthamstow』は、イースト・ロンドン出身のボーイズ・グループ East 17(イースト・セブンティーン) によるデビュー・アルバムであり、
UKポップにストリートとソウルを持ち込んだ、90年代イギリスのボーイバンド像を塗り替えた衝撃的デビュー作として知られている。
Take Thatと並び称されながらも、East 17はより“荒っぽくてリアル”なローカル色とストリート感を武器に、
ヒップホップ、レゲエ、ニュー・ジャック・スウィングなどを自在に取り込んだ独自の音楽性を展開。
『Walthamstow』は、そのブレイクスルーとして全英1位を獲得し、グループの存在感を一気に確立する作品となった。
アルバムタイトルは彼らの出身地であるロンドン北東部・ウォルサムストウに由来し、
リリックには地元愛や階級意識、恋愛、葛藤が等身大で描かれている。
特に「House of Love」「Deep」「It’s Alright」などのヒットシングルは、
ダンスフロアとラジオの両方を賑わせ、East 17を**“UKポップの異端児”から一躍トップグループへと押し上げた。**
全曲レビュー
1. House of Love
デビューシングルにしてEast 17の名刺代わり。
ヘヴィなビートとラップ・ヴァース、ソウルフルなコーラスが混ざり合う、グループのスタイルを明確にした革新的トラック。
2. Deep
セクシュアルでメロウなR&Bバラード。
グループ内のボーカル・バランスが見事で、ティーンポップと大人のソウルの間を狙った構成が秀逸。
3. It’s Alright
レイヴ感あるピアノリフが特徴的なダンス・ポップナンバー。
エネルギーと安心感が同時に伝わるポジティブ・アンセム。後にアメリカでもヒット。
4. Gold
ゴスペル的なコーラスとスムーズなラップが絡むスロー・チューン。
内省的なリリックが、グループの“ソウル志向”を象徴する一曲。
5. Gotta Do Something
社会的メッセージが込められたラップ主導のトラック。
“何かしなきゃ”という焦燥感とコミュニティへの眼差しが熱い。
6. I Want It
軽快なビートとラップの掛け合いが楽しいダンス・トラック。
若さと欲望をポジティブに描いたイースト・ロンドン的ストリート・ポップ。
7. Feel What U Can’t C
サイケデリックなシンセとループ感のあるリズムが印象的。
見えないものを信じろ、というスピリチュアルなメッセージ性を含む。
8. West End Girls(Pet Shop Boysカバー)
大胆な選曲によるカバー。East 17流にリアレンジされ、原曲の冷たさに代わってストリートの熱が加わったユニークな仕上がり。
9. Slow It Down
ややレイドバックしたヒップホップ・ソウル。
スロージャムとしての完成度が高く、後の『Steam』にも通じる“夜のEast 17”。
10. Let It Rain
恋人への切なる祈りをテーマにしたロマンティックなミディアムバラード。
繊細さと荒削りな感情表現が同居する、意外な名曲。
11. Feel Me
ファンとのつながりをテーマにしたパーソナルな一曲。
“俺たちを感じてくれ”というダイレクトな訴えに、当時のファンは熱狂した。
12. House of Love(Pedigree Mix)
オープニング曲のリミックス。
よりクラブ寄りにアレンジされ、ハードなビートが映える。
総評
『Walthamstow』は、East 17が“ただのボーイバンド”ではないことを最初から宣言した革命的デビュー作であり、
その混血的で自由なサウンドは、90年代UKポップの可能性を一気に拡張させた。
彼らの魅力は、“不良っぽい見た目”と“ソウルフルで誠実な音楽”のギャップにあり、
このアルバムではそれが最も生々しく、雑味を残したまま記録されている。
だからこそ、当時のティーンたちはEast 17を“自分たちの代弁者”として熱狂的に受け入れたのだ。
ストリートとポップ、ヒップホップとラブソング、階級と夢──
そのすべてを抱えながら、East 17はロンドン北東部から世界へと歩み出していった。
おすすめアルバム(5枚)
- Take That『Everything Changes』
East 17と並ぶUKボーイバンドの代表作。より洗練されたポップ感との比較が興味深い。 - Boyz II Men『Cooleyhighharmony』
East 17のR&B志向と重なるソウル・ボーカルの王道。 - Pet Shop Boys『Actually』
カバー元でもある影響源。UKポップの知的冷静さとEast 17の熱を比較すると面白い。 - Damage『Forever』
UKストリート系R&Bボーイズグループ。East 17の弟分的存在。 -
Eternal『Always & Forever』
同時期のUKソウル系ガールズグループ。East 17と共演も多く、文脈的にリンクする。
後続作品とのつながり
このアルバムの成功を受けてEast 17は、
より壮大なポップ・バラード路線に進化した『Steam』(1994)で**「Stay Another Day」**というNo.1ソングを生み出す。
だがその変化の起点には、常に**“ウォルサムストウから来た少年たち”というルーツとリアリティ**があった。
『Walthamstow』はその出発点として、今なお熱と衝動を放ち続けている。
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