
1. 歌詞の概要
「Vertigo」は、U2が2004年にリリースしたアルバム『How to Dismantle an Atomic Bomb』のリードシングルとして発表された、混乱・スピード・欲望・現代社会の浮遊感を一気に炸裂させた、爆発的ロックナンバーである。
タイトルの「Vertigo(眩暈/めまい)」は、単なる身体的症状ではなく、情報過多、消費主義、道徳の錯乱といった21世紀的カオスの象徴として用いられている。
そしてボノはこの楽曲で、その混乱の渦の中で「自分は何を信じて生きているのか?」というアイデンティティの危機をロックの言葉で描き出す。
冒頭のカウント「¡Uno, dos, tres, catorce!(1、2、3、14!)」は意図的な間違いであり、すでに序盤から“論理が崩壊している世界”を示唆している。
正しさや秩序が崩れた現代において、U2は「Vertigo=目が回るような現実」にどう立ち向かうかを、ギターと叫びで表現しているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Vertigo」は、U2が90年代の実験的路線を経て、再びロックバンドとしての原点に立ち返る過程で生まれた作品である。
彼らの11作目となる『How to Dismantle an Atomic Bomb』では、**個人の信仰、愛、そして混乱する世界における“自分自身の再確認”**がテーマとして据えられており、「Vertigo」はその入り口として機能する一曲となっている。
また、この曲はアップルのiPodキャンペーンで使用されたことにより、2000年代のロックシーンにおいてU2の存在感を再確認させる重要な役割を果たした。
ビデオクリップでは、赤と黒のグラフィックな世界でメンバーが地面に吸い込まれていくように描かれ、“目が回る現代社会の重力”を視覚的にも表現している。
バンドにとってこの曲は、**ロックのエネルギーを用いた“現代への異議申し立て”**であり、同時に「自分たちはまだ最前線にいる」という宣言でもあった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は「Vertigo」の印象的な一節。引用元は Genius Lyrics。
Lights go down, it’s dark
明かりが消えて、闇が訪れるThe jungle is your head, can’t rule your heart
ジャングルのような頭の中、でも心は制御できないI’m at a place called Vertigo
僕はいま、“めまい”という場所にいる
この冒頭は、意識の混乱と感情の暴走が交錯する“精神の迷宮”の描写である。
理性では制御できない“心の欲望”と、それがもたらす混乱の中に立ち尽くす感覚が生々しく描かれている。
Girl with crimson nails
真紅のネイルの女の子がHas Jesus round her neck
首にイエスのペンダントをしているSwinging to the music
音楽に身を委ねて踊っている
ここでは、信仰と欲望の奇妙な共存が描かれている。
十字架のペンダントをつけながら、セクシーに踊る少女の姿は、現代の「聖と俗」が無秩序に混ざり合った価値観の象徴である。
4. 歌詞の考察
「Vertigo」は、信仰と欲望、秩序と混乱、自由と制御という二項対立を、あえて混沌のまま提示する楽曲である。
U2はこの曲で、「わからないこと」や「矛盾した世界」に対して答えを出そうとはしていない。
むしろ、その“混乱の中で何を感じ、どう叫ぶか”こそが人間性の証だと説いている。
ボノが「Vertigo」と名づけたのは、ただ気分が悪いからではない。
それは、**現代という目まぐるしく変わる世界で、自分がどこに立っているのかもわからなくなる“感覚のメタファー”**なのだ。
また、この曲は“音楽そのもの”にも目眩を起こさせるような強度を持っている。
ザ・エッジのエッジィなギターリフ、アダム・クレイトンの重厚なベース、ラリー・マレンのドラム、そしてボノのシャウト。
すべてが一体となって、現代の「地に足がつかない」不安定さをサウンドとして体現している。
「Vertigo」は、U2というバンドが、答えの出ない世界に“ロックという手段”で抗っている瞬間を切り取った、彼らの姿勢そのもののような楽曲なのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Seven Nation Army by The White Stripes
ミニマルなギターリフと高揚感が、社会的焦燥と個人の不安をシンプルに撃ち抜く。 - Take Me Out by Franz Ferdinand
踊れるグルーヴの中に冷静な視線と攻撃性を忍ばせた00年代ポストパンクの代表曲。 - The Pretender by Foo Fighters
権威への挑戦と、自分自身を守ろうとする内なる怒りをパワフルに表現。 - Boulevard of Broken Dreams by Green Day
孤独と迷いのなかに立つ個人の姿を、メロディックに突き詰めたロック・アンセム。 - American Idiot by Green Day
情報操作と消費社会に対する痛烈な風刺。混乱した現代の“声”のひとつ。
6. “この目眩の中で、君は何を信じて立ち上がるか?”
「Vertigo」は、**混沌とした21世紀の入り口に立ちすくむすべての人にとっての“ロック的処方箋”**である。
それは啓示でも、答えでもない。
ただ、目が回るほどの現実の中で、“叫ぶ”という人間の原始的な行為こそが、自分を守る術なのだという、U2からの切実なメッセージなのだ。
「Vertigo」は、真っ直ぐに叫びながら、世界の崩壊にも笑って立ち向かうためのロックンロールの祈りである。
この世界は狂ってる。
でも、その狂気の中でこそ、叫ぶべき声がある。
それが、この曲のすべてなのだ。
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