発売日: 1999年10月18日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、サイケデリック・ポップ、フォークロック
“僕らだけ”の時間——ポスト・ブリットポップ時代の静かな自己再生
『Us and Us Only』は、The Charlatansにとって6枚目となるスタジオ・アルバムであり、90年代ブリットポップの興隆と終焉を乗り越えた先に現れた内省的で深みのある“再出発”の記録である。
1999年というミレニアム直前の空気の中、本作ではサイケデリック、フォーク、アメリカーナといった要素が穏やかに溶け合い、かつてのダンス・ロックの快楽性とは異なる成熟した響きが全体を包み込んでいる。
ロブ・コリンズの死を乗り越えて迎えたこの時期、バンドは新たにTony Rogersをキーボーディストに迎え、サウンドの方向性も変化。
ティム・バージェスのボーカルは以前よりも柔らかく、語りかけるようであり、“自分たちの物語を、自分たちの言葉で語る”という姿勢がアルバムタイトルにも込められているようだ。
全曲レビュー
1. Forever
アルバムの幕開けを飾る、サイケとフォークを融合させた穏やかなロックナンバー。
“永遠”というテーマを繰り返すことで、記憶と時間の循環を描き出す。
2. Good Witch, Bad Witch 1
短いインストゥルメンタル。
“善き魔女と悪しき魔女”という童話的モチーフが、アルバム全体の寓話的な語り口を予告する。
3. Impossible
しっとりとしたメロディに乗せて歌われる、不可能性と希望の間に揺れる感情。
アコースティック・ギターとエレクトリック・ピアノの交差が美しい。
4. The Blonde Waltz
3拍子のワルツ形式を取り入れた優雅なナンバー。
“金髪のワルツ”という印象的なタイトルが、どこかノスタルジックな風景を想起させる。
5. A House Is Not a Home
外的な場所ではなく、内的な拠り所を求めるような詩的バラード。
内省的なリリックと、温かみのある演奏が静かに共鳴する。
6. Senses (Angel On My Shoulder)
フォーキーなアルペジオとともに、内面世界へと深く潜るような一曲。
“肩に宿る天使”という宗教的比喩が印象的で、精神的な揺れを感じさせる。
7. My Beautiful Friend
アルバム中でも特に人気の高い楽曲。
亡き友人への追悼と回想を含んだリリックが、穏やかなグルーヴに乗って淡々と響く。
8. I Don’t Care Where You Live
ドライなユーモアと、感情を切り離そうとする姿勢が感じられる。
ややルーズなリズム感が、逆に感情の空白を強調している。
9. The Blind Stagger
沈み込むようなピアノとスローなビートが、酩酊した心象を映し出す。
感覚と現実の境界が曖昧になるような、ドリーミーな楽曲。
10. Good Witch, Bad Witch 2
再び登場するインストゥルメンタル。
前半とは異なり、やや不穏で内省的な空気が漂う。
11. Watching You
7分を超える長尺のラストトラック。
ゆっくりと波打つような展開の中で、感情が少しずつ浮上していく。
見つめること、見つめられること——関係性の曖昧さと、終わらない余韻が残る。
総評
『Us and Us Only』は、Charlatansが“踊るバンド”から“語るバンド”へと変貌した、精神的ターニングポイントとも言える作品である。
ブリットポップの喧騒を抜けたその先で、彼らはより静かに、より繊細に、音楽を通して生きるということそのものを表現しようとした。
そこには大きな声も派手な装飾もない。
だがだからこそ、このアルバムは聴く者の心に深く染み込んでくる。
「僕らと、僕らだけで」語り合うような、親密さと誠実さに満ちた一枚である。
おすすめアルバム
- Teenage Fanclub / Songs from Northern Britain
穏やかでメロディアスなUKギターポップ。内省的なリリックと空気感が共通。 - Wilco / Summerteeth
フォークとポップ、実験精神を融合したアメリカーナの金字塔。 - Spiritualized / Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space
サイケデリックとゴスペル的スピリチュアルが交錯する、感情の深層に迫る作品。 - Paul Weller / Heliocentric
UKロックの成熟と静けさ。チャールタンズ同様、ブリットポップ以後の誠実な音。 - Beth Orton / Central Reservation
フォークとエレクトロニカを融合させた90年代UKの良心。Charlatansの静けさと美しく響き合う。
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