
発売日:2017年7月28日
ジャンル:アコースティック・ロック、オルタナティヴ・ロック、アンプラグド、インディー・ロック、チェンバー・ポップ
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Cry Baby
- 2. Whole Wide World
- 3. Sweetie Little Jean
- 4. Spiderhead
- 5. Take It or Leave It
- 6. Too Late to Say Goodbye
- 7. Punchin’ Bag
- 8. Shake Me Down
- 9. Telescope
- 10. Instant Crush
- 11. Trouble
- 12. Ain’t No Rest for the Wicked
- 13. Rubber Ball
- 14. Aberdeen
- 15. How Are You True
- 16. Cold Cold Cold
- 17. Cigarette Daydreams
- 18. Right Before My Eyes
- 総評
- おすすめアルバム
概要
Cage the Elephantの『Unpeeled』は、一般的な意味での新作スタジオ・アルバムではなく、既発曲を中心に再構成したライヴ/アンプラグド作品である。しかし、本作を単なる“アコースティック版ベスト盤”と見なすのは不十分だ。むしろこのアルバムは、初期の荒々しいガレージ・ロック・バンドとしての印象が強かったCage the Elephantが、楽曲そのものの強度、メロディの普遍性、感情表現の柔軟さを改めて証明した重要作として位置づけるべき一枚である。
タイトルの“Unpeeled”は、直訳すれば「皮を剥かれていない」あるいは「剥いてみせる」といったニュアンスを帯びる。実際、本作で行われているのは、バンドの代表曲群から過剰な歪みやライヴでの勢いだけに依存する要素を一度取り払い、曲の芯を露出させる作業だ。Cage the Elephantは、デビュー以来しばしば激しいライヴ・パフォーマンスや粗削りなロックのエネルギーで語られてきた。だが、『Tell Me I’m Pretty』の時点で明らかになっていたように、彼らの本質は単なる暴発型のロック・バンドではなく、メロディ、陰影、人物感情の揺れを丁寧に形にできるソングライター集団でもある。『Unpeeled』は、その事実を非常にわかりやすく可視化した作品だ。
本作のアレンジ上の大きな特徴は、弦楽器やパーカッション、ピアノなどを交えた室内楽的な広がりにある。いわゆる“ただアコギに持ち替えただけ”のアンプラグド作品ではなく、原曲の骨格を保ちながらも、曲によってはよりメランコリックに、曲によってはよりドラマティックに聴こえるよう設計されている。そのため、『Unpeeled』は単に静かで落ち着いた作品ではない。原曲のアグレッションが陰影へ変わり、ノイズの衝動が旋律の美しさへ置き換わることで、むしろ感情がより裸に近い形で伝わってくるアルバムなのである。
キャリア上の意味も大きい。本作は『Tell Me I’m Pretty』のあとに登場しており、バンドがちょうど“初期の荒さ”と“後年の洗練”のあいだを往復できる地点に達していた時期の記録でもある。デビュー作や『Thank You, Happy Birthday』の曲は、アコースティック編成によって意外なほど脆く、抒情的に響き、『Melophobia』や『Tell Me I’m Pretty』の楽曲は、その構成美やメロディの強さがより鮮明になる。つまり本作は、Cage the Elephantの過去曲を並べるだけでなく、バンドの歴史そのものを別の光で照らし直す作品になっている。
また、オルタナティヴ・ロックのバンドがアンプラグドやストリングス編成に取り組むとき、しばしば“格調”や“成熟”が前に出すぎて、本来の危うさが失われることがある。だがCage the Elephantは、本作でそうした罠を比較的うまく回避している。Matt Shultzのボーカルには依然として神経質な揺れが残っており、楽曲の不穏さや不器用さも完全には磨き上げられていない。そのため『Unpeeled』は、上品に整えられたライヴ盤ではなく、不安や衝動を別の質感へ翻訳した作品として聴ける。
さらに本作には、オリジナル曲だけでなくカバーも含まれている。これも重要な点で、Cage the Elephantがどのようなポップ/ロックの系譜を自分たちの中へ取り込んでいるかが垣間見える。原曲の解釈も含め、本作は“自分たちの代表曲を静かに演奏しました”という以上に、Cage the Elephantというバンドの音楽観をコンパクトに示す再構築アルバムとして非常に価値が高い。
全曲レビュー
1. Cry Baby
『Tell Me I’m Pretty』収録曲のこの楽曲は、原曲ではやや粘り気のあるロック・グルーヴと、関係性の不穏さが前面に出ていた。『Unpeeled』版ではその骨格を保ちつつ、アレンジの余白が増えたことで、感情の幼さや依存性がよりくっきり見える。
原曲の攻撃性がやや後退したぶん、タイトルにある“Cry Baby”という呼びかけの残酷さも目立つ。軽い挑発ではなく、相手との力関係や甘えのねじれがよく伝わる。オープニングとしても優秀で、本作が“静かなだけの作品ではない”ことを示している。
2. Whole Wide World
Wreckless Ericのカバー。Cage the Elephantはこの曲を、単なるパンク/パワーポップの引用ではなく、青春的な拡張感と所在なさを伴う楽曲としてうまく自分たちの世界へ引き寄せている。
“世界のどこにでも君を探しに行く”というシンプルな衝動は、彼らのディスコグラフィーにある落ち着かなさとも相性が良い。アコースティック寄りの編成によって、原曲の直進力は少し和らぐが、そのぶん歌の切実さが前に出る。カバー曲でありながら、本作の流れの中で自然に機能している。
3. Sweetie Little Jean
Cage the Elephant屈指の名曲であり、本作でもひときわ映える一曲。原曲の時点でノスタルジーと喪失感が濃厚だったが、『Unpeeled』版ではストリングスが入ることで、記憶の痛みがより映画的な陰影を帯びる。
この曲の本質は、単なる悲しい歌ではなく、呼びかけても戻らない存在への執着にある。アレンジが大きくなっても、その親密な喪失感が損なわれていないのが見事で、本作のハイライトのひとつである。
4. Spiderhead
原曲の持つ不穏な跳ね方と中毒性は、この再演でもしっかり残っている。ただし、歪んだギターの圧が減ったことで、曲の奇妙なメロディラインや心理のざわつきが以前より鮮明に聴こえる。
“Spiderhead”という言葉が持つ不快さ、何かに絡め取られるような感覚が、より身体的なロックの快楽ではなく神経的な違和感として立ち上がる。『Melophobia』期の不穏さを、別の形で保存した好例だ。
5. Take It or Leave It
この曲は、バンドの勢いと開き直りが魅力だった原曲に対し、『Unpeeled』版では感情の投げやりさがより強く浮かび上がる。
タイトルの通り、「受け入れるか、去るか」という極端な態度は、一見ロック的な強気にも聞こえる。しかしアコースティック寄りの演奏になると、それは自信というより、傷つく前に先に距離を取ろうとする防御にも聞こえてくる。原曲の快楽性が少し引き、歌詞のねじれが前へ出た再解釈である。
6. Too Late to Say Goodbye
『Tell Me I’m Pretty』でも比較的ポップな輪郭を持ったこの曲は、再演によってさらにメロディの美しさが際立つ。原曲では“明るく流れていくのに内容は切ない”というコントラストが魅力だったが、本作ではその切なさがより直接的だ。
関係が壊れたあとに残る微妙な時間差、別れがすでに進行したあとで言葉だけが取り残される感覚が、抑えたテンションの中でより深く響く。原曲以上にバラードとしての強さが見える一曲。
7. Punchin’ Bag
元来かなり意地の悪い、皮肉っぽい魅力を持つ曲だが、『Unpeeled』版ではその毒気がやや整理される代わりに、人間関係の不均衡が際立つ。
誰かを都合よく感情の受け皿にする構図は、激しいロック・アレンジでは痛快さも伴っていたが、ここでは笑いにしきれない生々しさが出る。軽快に聴こえるのに、内容は不穏。そのCage the Elephantらしさはしっかり保たれている。
8. Shake Me Down
本作でもっとも感動的な瞬間のひとつ。原曲の時点で、若いバンドとしては珍しく時間の経過や喪失を静かに見つめた名曲だったが、『Unpeeled』ではその普遍性がさらに増している。
ストリングスと抑制された演奏が、歌の核にある有限な人生へのまなざしを丁寧に支える。バンドの荒々しいイメージから入ったリスナーほど、この曲の強さに驚くはずだ。本作が単なる企画盤ではないことを証明する決定的な一曲。
9. Telescope
『Melophobia』の中でも特に内省的なこの曲は、アコースティックな質感と非常に相性が良い。原曲にあった浮遊感や距離感が、ここではより素朴な形で現れ、自分自身を遠くから見てしまう感覚がよく伝わる。
“望遠鏡”というモチーフは、近づきたいのに距離が縮まらない心の状態にも重なり、再演によってその孤独がより鮮明になった印象がある。『Unpeeled』全体の静かな中心を担う曲のひとつだ。
10. Instant Crush
Daft Punk曲のカバー。原曲はエレクトロニックな加工と機械的な美しさが特徴だが、Cage the Elephantはそれを生身の失恋の歌として読み替えている。
自動音声的なニュアンスや冷たい質感を取り払うことで、曲の中心にある後悔や届かなさが浮き彫りになる。カバーでありながら、Matt Shultzの不安定な声質が乗ることで、かなり自然にCage the Elephantの楽曲に聞こえるのが面白い。
11. Trouble
原曲でも彼らを代表する名曲だが、『Unpeeled』版ではその“トラブル”がより内面化して響く。ブルースやゴスペルに通じる響きが強まり、自分から逃れられない感覚がさらに深くなる。
この曲の魅力は、問題をドラマティックに叫ぶのではなく、むしろ静かに認めてしまうところにある。再演によってその抑制がより効いており、歌の輪郭がいっそう際立つ。本作の中でも完成度の高い再解釈だ。
12. Ain’t No Rest for the Wicked
デビュー期の代表曲であり、バンドの出世曲でもある。原曲はブルージーで軽快な語り口が魅力だったが、『Unpeeled』版では少しテンポ感が整理され、歌詞の社会的な観察眼が前に出る。
労働、犯罪、欲望、生活のしんどさをユーモア混じりに描くこの曲は、激しいライヴの盛り上がり曲としても強いが、静かな編成になると別種のリアリティを持つ。バンドの初期衝動が、単なる勢いではなくソングライティングの妙でもあったことがよくわかる。
13. Rubber Ball
『Thank You, Happy Birthday』の中では少し脱力した印象のある曲だったが、本作ではその軽さがむしろ魅力として生きる。
重くなりすぎる流れの中で、この曲は少し視線をずらす役割を果たしている。跳ね返るようでいて、実際にはどこか不安定な“Rubber Ball”というイメージが、感情を正面から受け止めきれない若さと結びついて聞こえる。アルバムの中盤を和らげる佳曲だ。
14. Aberdeen
原曲の狂気じみた中毒性は、さすがにそのままではないものの、『Unpeeled』版では別の意味で魅力が強い。ギターのノイズが減ったことで、メロディと歌唱の癖が際立ち、曲の異様さがより露骨になる。
どこか正気と不安定さの境界にあるようなこの曲は、ロックの勢いを差し引いても十分に成立することがわかる。Cage the Elephantの“変な良さ”がよく伝わる再演である。
15. How Are You True
『Tell Me I’m Pretty』の中でも静かな核を担っていた楽曲で、本作のアレンジとも非常に好相性だ。真実らしさ、本物であること、演じることと生きることのあいだの不安が、よりむき出しに響く。
原曲以上に柔らかいが、その柔らかさは慰めではなく、自己認識の揺れをそのまま受け止めるための余白になっている。『Unpeeled』の美点がよく出た一曲。
16. Cold Cold Cold
原曲の芝居がかったグラム的テンションをどう落とし込むかが見どころの曲だが、ここでは冷たさの主題がよりそのまま伝わってくる。
派手な勢いがやや引いた分、感情の断絶や疎外感が前へ出て、タイトルの“Cold”が単なるキャッチーな反復ではなくなる。再演としてはかなり興味深く、熱い演奏の中にあった冷えがはっきり露出する。
17. Cigarette Daydreams
本作最大のハイライト級の一曲。原曲自体がすでにシンプルで美しいが、『Unpeeled』ではその美しさがさらに拡大され、ほとんどスタンダードのような普遍性を持つ。
“タバコの白昼夢”という儚いイメージが、そのまま記憶や失われた関係の残像として立ち上がる。曖昧でありながら誰にでも届くこの曲の強さは、余計な説明を必要としない。Cage the Elephantが優れたメロディ・バンドであることを決定的に示す瞬間である。
18. Right Before My Eyes
終曲として非常に美しい選択。『Thank You, Happy Birthday』でも繊細な位置を占めていたこの曲は、『Unpeeled』の締めくくりとして、アルバム全体のテーマを静かにまとめ上げる。
何かが目の前で変わっていくのに、それを止められない無力感、過ぎ去るものを見つめるしかない感覚が、本作全体の“皮を剥いで見えた感情”と深くつながる。派手な終幕ではなく、余韻と未解決感を残して閉じるところが非常に誠実である。
総評
『Unpeeled』は、Cage the Elephantの代表曲を静かな編成で再演したライヴ盤、という説明だけでは足りない。実際には本作は、このバンドが何によって成り立っているかを再確認させる自己検証アルバムであり、同時に入門盤としても非常に優秀な一枚である。
初期の荒々しい曲は、ノイズや勢いを少し取り払うことで、その内側にあった不安やメロディの良さが前へ出る。中期以降の内省的な曲は、さらに繊細な輪郭を獲得する。そして代表曲群は、ロック・バンドの持ち曲である前に“よくできた歌”であったことがはっきりわかる。
本作の特に優れた点は、アコースティック化によって曲を無害にしていないことだ。多くのアンプラグド作品では、音が丸くなる代わりに曲の危うさも薄れてしまう。しかしCage the Elephantは、Matt Shultzの不安定なボーカル、曲自体のひねくれた構造、歌詞にある違和感をそのまま残しつつ、ストリングスやライヴ・アレンジによって別の陰影を与えている。つまり『Unpeeled』は、角を取った作品ではなく、角の別の見せ方を見つけた作品なのだ。
また、バンドの歴史を振り返る意味でも価値が高い。『Ain’t No Rest for the Wicked』から『Trouble』『Sweetie Little Jean』『Cigarette Daydreams』までが同じ地平に並ぶことで、Cage the Elephantが単発のヒット曲を持つロック・バンドではなく、一貫して“居心地の悪さ”と“美しいメロディ”を両立させてきたバンドであることがよくわかる。
この種の作品は、ともすればファン向けの補遺になりがちだが、『Unpeeled』はそれ以上のものになっている。既存曲を知っているファンには新しい意味を与え、初めて触れるリスナーにはバンドの輪郭をわかりやすく示す。
特におすすめしたいのは、Cage the Elephantの激しい面は知っているが、バラードや内省的な側面を十分に追っていないリスナーである。逆に、インディー・ロックやオルタナティヴ・ロックのバンドが、成熟の過程でどう“曲”を前面に出していくかに興味がある人にも、本作は非常に面白い。
『Unpeeled』は、皮を剥いた結果、意外なほど繊細で、しかもまだ少し危ういものが現れたアルバムである。そしてその危うさこそ、Cage the Elephantというバンドの魅力の中心にある。
おすすめアルバム
- Cage the Elephant – Tell Me I’m Pretty
『Unpeeled』収録曲の核となる楽曲が多く、バンドの中期的成熟がもっともよくわかる作品。
– Cage the Elephant – Melophobia
不安定さとソングライティングの強さが共存する重要作。『Unpeeled』で見える陰影の源流がある。
– Nirvana – MTV Unplugged in New York
激しさで知られるバンドが、アンプラグドで別の本質を露出させた名盤として比較価値が高い。
– Alice in Chains – MTV Unplugged
重さや不穏さを保ったまま、静かな編成へ移し替えることに成功した作品として相性が良い。
– Arctic Monkeys – Live at the Royal Albert Hall
直接同じ形式ではないが、ロック・バンドが既存曲の情感を別の角度から浮かび上がらせるライヴ作品として並べて聴くと面白い。



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