
楽曲概要
「Under My Skin」は、アイルランドのインディー・ロック・バンドNewDadが2023年にリリースした楽曲であり、彼らのデビューアルバム『MADRA』(2024年)の先行シングルとして、バンドの音楽的進化と内面の深層を強烈に印象づける一曲である。
曲名の「Under My Skin(私の皮膚の下に)」という言葉が象徴するのは、表面ではなく“奥に染み込んでしまった感情”。
それは恋愛における執着であり、トラウマ的な記憶でもあり、自分でも気づかぬうちに侵食されてしまった何かへの感覚だ。
この曲は、NewDadが持つドリームポップの儚さを保ちながら、ポスト・グランジ的な重さ、そして“叫ばない怒り”のような芯の強さを纏っており、2020年代以降の若い世代の心象風景を繊細に描き出している。
歌詞の深読みと文化的背景
“It’s under my skin, and I can’t get it out”
この反復されるフレーズは、取り除けない感情の象徴であり、感情そのものが皮膚の一部になってしまったような“侵食”のイメージを生む。
単なる「忘れられない」ではなく、「身体の一部になってしまった」何か──それがこの曲の主題である。
また、感情を「身体化」するこの表現は、女性シンガーソングライターに多く見られる“身体感覚を通じた表現”とも共鳴しており、リスナーに強い共感を生む。
恋愛の名残や痛みが“見えない傷”として残り続ける感覚は、SNSや過剰な可視化に晒される現代の若者たちにとって、よりリアルに響くテーマでもある。
音楽的特徴
冒頭から鳴るドラムとギターは、従来のNewDadよりも明確にラウドで、しかし“暴れすぎない”。
グランジやポスト・パンクを想起させるサウンドだが、ボーカルは一貫して抑制されており、感情の振れ幅を表に出さない冷たさが印象的。
Julie Dawsonのボーカルは、まるで日記を読むように淡々としながら、その中に崩れそうな脆さを含んでいる。
リバーブが深くかかったギターは、音というよりも“記憶の残響”のように漂い、ベースラインは感情の奥底をなぞるように重く響く。
楽曲内での役割
アルバム『MADRA』において、この楽曲は“静かなる中毒性”を担う中核トラックとして機能している。
一見するとテンションの低い曲に見えるが、その実、最も“しつこく残る”のはこの曲のようなタイプだ。
まさに「皮膚の下」に入り込むような、潜在的な浸透力を持つ一曲である。
総評
「Under My Skin」は、NewDadが静かに、しかし確かにロックバンドとしての強度を獲得したことを告げる重要曲である。
感情を爆発させるのではなく、押し込めたまま滲ませる──そのやり方でここまで深く響かせることができるのは、彼らの音楽が“痛みの形”を知っているからだ。
リスナーの心にも、きっとこの曲は“残る”。
忘れたころに、何かの拍子でふと思い出す。まるで、もう抜けない感情の一部のように。
類似楽曲(5曲)
- Daughter / Youth
感情を抑制した語り口と痛みの余韻が非常に近い。 - Beabadoobee / Care
ガーリーな声とグランジの対比。“言えない怒り”の表現が共鳴する。 - Soccer Mommy / Circle the Drain
メロディの親しみやすさと内面的な重さが並走する現代インディー。 - Wolf Alice / Don’t Delete the Kisses
詩的でありながら等身大の情景描写。耳元で囁くような距離感が印象的。 - The Smashing Pumpkins / Disarm
優しい音像の裏に強い痛みを秘めた、90s的エモーショナル・ロックの原型。
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