
- イントロダクション:Ultravoxという“電子の叙情詩”
- アーティストの背景と歴史:John Foxx期からMidge Ure期へ
- 音楽スタイルと影響:電子音とヨーロッパ的叙情の融合
- 代表曲の楽曲解説
- アルバムごとの進化
- Ultravox!:アートロックとパンクのはざま
- Ha!-Ha!-Ha!:パンクの鋭さと電子音への接近
- Systems of Romance:John Foxx期の完成形
- Vienna:Midge Ure期の幕開けと決定的飛躍
- Rage in Eden:暗く複雑な芸術性
- Quartet:George Martinとポップの洗練
- Lament:哀愁と成熟の結晶
- U-Vox以降:変化と停滞、そして再結成
- 影響を受けたアーティストと音楽
- 影響を与えたアーティストと音楽シーン
- 同時代アーティストとの比較:Human League、Gary Numan、Japanとの違い
- ファンと批評家の評価:1位にならなかった名曲が残したもの
- Ultravoxの魅力:冷たい音の中に燃えるロマンティシズム
- まとめ:Ultravoxは電子音楽に“哀愁の建築”を与えたバンドである
イントロダクション:Ultravoxという“電子の叙情詩”
Ultravoxは、1970年代後半から1980年代にかけて、ニューウェーブ、ポストパンク、シンセポップの境界を切り開いたイギリスの革新的バンドである。初期はJohn Foxxを中心としたポストパンク/アートロック色の強いバンドとして始まり、のちにMidge Ureを迎えることで、よりドラマティックで叙情的なシンセポップへと変化した。
Ultravoxの音楽には、冷たい機械音と人間的な感情が同時にある。シンセサイザーは鋭く、リズムは正確で、音像は未来的だ。しかし、そこに流れるメロディはどこかヨーロッパ的で、映画的で、深い哀愁を帯びている。彼らは電子音楽を、単なる実験やダンスの道具ではなく、都市の孤独、冷戦時代の不安、ロマンティックな憧憬を描くための楽器へ変えた。
特に1980年のアルバムViennaと、そのタイトル曲「Vienna」は、Ultravoxを象徴する作品である。「Vienna」はUKシングルチャートで1位には届かなかったものの、バンド最大級の代表曲として長く愛されてきた。Midge Ureは後年、この曲が長く、遅く、ヴィオラ・ソロまであるため、当初はシングル向きではないと思われていたと振り返っている。にもかかわらず、その映画的な構成とノワール的な映像美によって、1980年代を代表する一曲となった。
Ultravoxは、ニューウェーブの知性、シンセポップの洗練、ポストパンクの実験性、そしてロマン派的な感情を併せ持つ稀有なバンドである。彼らの音楽は、まるで夜のヨーロッパの駅で響く電子の賛美歌のようだ。冷たいのに熱い。未来的なのに古典的。無機質なのに、胸を締めつけるほど人間的である。
アーティストの背景と歴史:John Foxx期からMidge Ure期へ
Ultravoxの歴史は、大きく二つの時代に分けられる。ひとつはJohn Foxxがフロントマンを務めた初期。もうひとつはMidge Ureを迎え、商業的にも大きな成功を収めた時期である。
バンドは当初、Ultravox!という表記で活動していた。初期の彼らは、パンク以降のロンドンの空気を吸い込みながらも、単純な3コード・パンクとは異なる、アートロック、グラム、電子音楽、クラウトロックの要素を持っていた。John Foxxの冷たく都会的なボーカルと、Billy Currieのシンセサイザー/ヴィオラ、Warren Cannのドラム、Chris Crossのベースが、まだ未完成ながらも先鋭的な音を作っていた。
1977年のUltravox!、同年のHa!-Ha!-Ha!、1978年のSystems of Romanceを経て、Ultravoxは徐々に電子音楽へ接近していく。特にSystems of Romanceは、のちのシンセポップやニューウェーブに大きな影響を与えた作品として評価されている。しかし、商業的成功には届かず、John Foxxは1979年にバンドを離れた。
その後、バンドはMidge Ureを迎える。UreはSlik、Rich Kidsなどで活動していたミュージシャンであり、ギタリスト、シンガー、ソングライターとしての能力を持っていた。John Foxx期のUltravoxが冷たく実験的な都市の影だったとすれば、Midge Ure期のUltravoxは、その影に壮大なメロディとロマンティックな光を加えた存在である。
1980年のViennaによって、Ultravoxは一気に独自のスタイルを確立する。以後、Rage in Eden、Quartet、Lamentへと続く時期は、彼らの黄金期である。Official Chartsの記録でも、「Dancing with Tears in My Eyes」はUKシングルチャートで最高3位、13週チャートインしており、1980年代半ばの彼らの人気の大きさを示している。オフィシャル チャート
音楽スタイルと影響:電子音とヨーロッパ的叙情の融合
Ultravoxの音楽スタイルは、時代ごとに変化している。John Foxx期には、ポストパンク、アートロック、グラムロック、クラウトロック、初期電子音楽の要素が強い。音は尖っており、都市的で、時に無機質だ。Foxxの声には、感情を抑えた冷たい観察者のような雰囲気がある。
Midge Ure期に入ると、Ultravoxはよりメロディアスで、劇的で、シンセポップとしての完成度を高める。だが、彼らは単なるポップバンドにはならなかった。Billy Currieのクラシック的な感覚、ヴィオラやピアノの使い方、ヨーロッパ的なコード感が、Ultravoxの音楽に独特の格調を与えている。
Ultravoxのシンセサイザーは、ただ未来的な音色を鳴らすためのものではない。冷たい都市の照明、駅のホーム、夜の河、無人の広場、軍事的な緊張、古いヨーロッパ映画のモノクローム。そうした景色を描くための筆である。Viennaの40周年デラックス版には、オリジナル音源に加えてSteven Wilsonによるステレオミックスなども含まれており、アルバムの音響的な奥行きが再評価されている。
また、UltravoxはKraftwerk、Roxy Music、David Bowie、Brian Eno、Neu!、Canといった電子音楽/アートロックの流れと深く結びついている。一方で、Midge Ure期には、よりロマンティックで大衆的なメロディも強まり、シンセポップがチャートの中心へ向かう時代に大きな役割を果たした。
代表曲の楽曲解説
「Hiroshima Mon Amour」
「Hiroshima Mon Amour」は、John Foxx期Ultravoxを代表する楽曲のひとつである。タイトルはAlain Resnaisの映画Hiroshima mon amourを想起させ、戦争、記憶、愛、破壊が交差するイメージを持つ。
この曲では、パンクの荒々しさよりも、冷たい電子音と退廃的なムードが前面に出ている。サックスの響きも印象的で、未来的でありながらジャズの影もある。John Foxxの声は、まるで壊れた都市を遠くから見ているように響く。ここには、後のシンセポップの原型だけでなく、ニューウェーブが持つ知的な不安がある。
この曲を聴くと、Ultravoxが早い段階から“ロックバンド”の枠を超えようとしていたことが分かる。ギターで怒りを鳴らすのではなく、電子音で記憶の廃墟を描く。そこに初期Ultravoxの美学がある。
「Slow Motion」
「Slow Motion」は、1978年のSystems of Romance期を象徴する楽曲である。ここでは、John Foxx期Ultravoxの冷たいロマンティシズムがさらに洗練されている。リズムは硬質で、シンセは鋭く、ギターは空間を切り裂くように鳴る。
タイトル通り、曲にはスローモーションの映像のような感触がある。都市の中で時間が引き延ばされ、感情が凍りつき、すべてが映画のワンシーンのように見える。Foxxのボーカルは、熱を込めすぎず、むしろ距離を保つ。その距離が、逆に曲を美しくしている。
Systems of Romanceは商業的には大成功しなかったが、その後のニューウェーブ、シンセポップ、エレクトロニック・ロックにとって非常に重要な作品だった。Ultravoxがこの時期に作った冷たい電子の美学は、後のGary NumanやDepeche Mode、さらには多くのポストパンク系アーティストにも通じる。
「Sleepwalk」
「Sleepwalk」は、Midge Ure加入後のUltravoxが最初に大きく開けた楽曲である。1980年のViennaに収録され、シングルとしてもバンドの新章を告げた。
この曲では、John Foxx期の冷たさを残しながら、Midge Ureのよりメロディアスなボーカルが加わることで、音楽が大衆的な広がりを持つようになる。シンセは疾走感を持ち、リズムはタイトで、サビには明確なフックがある。
タイトルの「Sleepwalk」は、眠ったまま歩くことを意味する。これはUltravoxの世界観に非常によく合っている。意識と無意識、都市と夢、機械と人間。その境界を歩くような曲だ。バンドはここで、実験性を失わずにポップへ接近する道を見つけた。
「Vienna」
「Vienna」は、Ultravox最大の代表曲であり、1980年代シンセポップの金字塔である。Midge Ureによれば、この曲は長く、遅く、ヴィオラ・ソロがあり、シングルの常識から外れていたため、当初はヒット向きではないと思われていた。しかしバンドは曲を短く編集することを拒み、その結果、独自の構成と荘厳なムードがそのまま残された。
この曲は、ポップソングというより短編映画である。静かなイントロ、硬質なリズム、Billy Currieのピアノとヴィオラ、Midge Ureの劇的なボーカル。曲が進むにつれ、ヨーロッパの古都、夜の駅、冷戦時代の影、モノクロ映画のような情景が浮かび上がる。
「Vienna」の美しさは、感情を直接叫ばないところにある。むしろ、抑制されたドラマがある。サビでタイトルが歌われる瞬間、都市の名が単なる地名ではなく、失われた記憶や届かない憧れの象徴になる。これはシンセポップが単なる軽いポップではなく、映画的で詩的な表現になり得ることを示した名曲だ。
「All Stood Still」
「All Stood Still」は、Vienna期のもうひとつの重要曲である。タイトルは「すべてが静止した」という意味を持つが、曲そのものは非常に推進力がある。緊張感のあるリズムと、鋭いシンセが前へ進む。
この曲には、冷戦時代的な不安がある。システムが止まる。都市が止まる。時間が止まる。そうしたイメージが、電子音によって描かれている。Ultravoxはこの時期、ロマンティックな美しさだけでなく、テクノロジーや社会不安を音にする力を持っていた。
「The Thin Wall」
「The Thin Wall」は、1981年のRage in Edenを代表する楽曲である。Viennaで確立したドラマティックなシンセポップを、さらに暗く、複雑で、芸術的な方向へ進めた作品だ。
曲には、壁の向こう側にある不安が漂っている。薄い壁。こちら側とあちら側を分けているが、完全には遮断できないもの。これは心理的な境界にも、政治的な境界にも聞こえる。Ultravoxの音楽には、個人的な不安と社会的な緊張が重なる瞬間が多い。
Rage in Edenについては、近年も再発やSteven Wilsonによるミックスを通じて再評価が進んでいる。Midge Ureは同作の再発に際し、忘れられていたデモや新ミックスを聴くことの面白さについて語っている。
「The Voice」
「The Voice」は、Ultravoxの中でも特に壮大な楽曲である。Rage in Edenに収録され、バンドのシンセポップとしての完成度と劇的な構成力を示している。
タイトルの“声”は、個人の声であると同時に、内面から響く声、歴史の声、社会の声にも聞こえる。曲は力強いリズムで進み、Midge Ureのボーカルがその上に堂々と乗る。コーラスは大きく開け、Ultravoxらしい荘厳さがある。
この曲には、80年代前半の彼らが持っていた“電子音楽でありながら英雄的”な感覚がよく表れている。シンセポップでありながら、ロックのスケールを失わない。そこがUltravoxの強みだった。
「Reap the Wild Wind」
「Reap the Wild Wind」は、1982年のQuartetを代表する楽曲である。プロデューサーにGeorge Martinを迎えたこの時期、Ultravoxはより洗練されたポップサウンドへ近づいていく。
曲は開放的で、メロディも明快だ。ViennaやRage in Edenの暗くヨーロッパ的なムードに比べると、より広い空へ向かうような感覚がある。タイトルの“wild wind”は、自由、変化、危険を思わせる。
QuartetはUltravoxの中では比較的ポップな作品として語られることが多い。実験性の鋭さは少し後退するが、その代わりにサウンドはよりクリアになり、バンドはチャート向きの洗練を手に入れた。
「Dancing with Tears in My Eyes」
「Dancing with Tears in My Eyes」は、1984年のLamentに収録された代表曲であり、Ultravox後期の最大級のヒットである。Official ChartsではUKシングルチャート最高3位、13週チャートインを記録している。オフィシャル チャート
この曲は、タイトルだけで強いイメージを持つ。「涙を浮かべて踊る」。これは80年代ポップの本質を表すような言葉でもある。ダンスミュージックでありながら悲しい。明るいビートの上に終末的な感情が乗る。
歌詞とビデオの文脈では、核の不安や終末のイメージも読み取れる。冷戦時代の恐怖、愛する人との最後の時間、破滅が近づく中で踊る人間。Ultravoxは、ここでも電子ポップを単なる娯楽ではなく、時代の不安を映す鏡として使っている。
「Lament」
「Lament」は、同名アルバムのタイトル曲であり、Ultravoxの叙情性が強く表れた楽曲である。Official Chartsではシングル「Lament」がUKチャート最高22位、8週チャートインしている。オフィシャル チャート
“Lament”とは哀歌、嘆きの歌である。Ultravoxにとって、これは非常にふさわしい言葉だ。彼らの音楽には常に嘆きがある。ただし、それは湿った感傷ではなく、冷たい電子音に包まれた厳粛な嘆きである。
この曲では、Midge Ureの声が深い哀愁を帯びて響く。シンセは空間を広げ、リズムは抑制されている。派手なヒット曲ではないが、Ultravoxの成熟した側面を理解するうえで重要な曲である。
アルバムごとの進化
Ultravox!:アートロックとパンクのはざま
1977年のUltravox!は、バンドの出発点である。まだシンセポップの完成形には遠く、グラムロック、パンク、アートロックの影響が混ざっている。プロデュースにはBrian EnoとSteve Lillywhiteが関わっており、実験的な姿勢はすでに明確だった。
この作品のUltravoxは、まだ荒い。しかし、荒さの中に未来の断片がある。パンクのエネルギーを持ちながら、単なる暴発ではなく、スタイルと構築を求めている。John Foxxの冷たい声も、この時点から独特だ。
Ha!-Ha!-Ha!:パンクの鋭さと電子音への接近
同じく1977年のHa!-Ha!-Ha!では、バンドはより攻撃的で、ポストパンク的な方向へ進む。ここには「Hiroshima Mon Amour」のように、のちの電子音楽路線を予感させる楽曲も含まれている。
このアルバムでは、パンクの直線的な力と、シンセサイザーの冷たい美学がまだ衝突している。その未整理な感じが魅力でもある。Ultravoxはここで、ギター主体のロックから、電子音を中心にした未来の音楽へ一歩踏み出している。
Systems of Romance:John Foxx期の完成形
1978年のSystems of Romanceは、John Foxx期Ultravoxの完成形と言える作品である。Conny Plankのプロデュースによって、音はよりシャープで、冷たく、洗練されたものになった。
「Slow Motion」、「Quiet Men」などに見られるように、このアルバムには後のシンセポップの原型がある。電子音は前面に出ているが、まだロックバンドとしての緊張感も残っている。Foxxの世界観は、都市、機械、孤独、ロマンスの崩壊を描く。
商業的には大きな成功を収めなかったが、影響力は大きい。後の多くのニューウェーブ/シンセポップ・アーティストが、この作品から何かを受け取ったはずだ。
Vienna:Midge Ure期の幕開けと決定的飛躍
1980年のViennaは、Ultravoxのキャリアにおける決定的な転換点である。Midge Ure加入後初のアルバムであり、バンドはここで実験性と大衆性を見事に結びつけた。
収録曲には、「Astradyne」、「Sleepwalk」、「Passing Strangers」、「Mr. X」、「Vienna」、「All Stood Still」などが並ぶ。Bandcampの40周年デラックス版には、これらのオリジナル曲に加え、Steven Wilsonによるミックスも収録されている。
このアルバムの魅力は、電子音楽でありながら非常に映画的なことだ。音は冷たいが、構成はドラマティック。ヨーロッパ的な哀愁と、シンセサイザーの未来感が見事に溶け合っている。Viennaによって、Ultravoxは単なる先鋭的バンドから、80年代ポップを象徴する存在へと変わった。
Rage in Eden:暗く複雑な芸術性
1981年のRage in Edenは、Viennaの成功を受けながらも、より難解で、より暗く、より芸術的な方向へ進んだ作品である。タイトルからして象徴的だ。楽園の怒り。美しいものの内側にある不穏さ。
「The Thin Wall」、「The Voice」などに見られるように、アルバム全体には緊張感がある。シンセサイザーの層は厚く、リズムは硬く、歌詞にも抽象性がある。評論的にも再評価されており、近年の再発やSteven Wilsonによるミックスを通じて、その複雑な音像が改めて注目されている。
Rage in Edenは、Ultravoxが商業的成功に安易に乗らず、より深い表現へ進んだことを示す作品である。聴きやすさではViennaに劣るかもしれないが、芸術的な密度では非常に高い。
Quartet:George Martinとポップの洗練
1982年のQuartetは、プロデューサーにThe Beatlesで知られるGeorge Martinを迎えた作品である。この事実だけでも、バンドがより大きなポップフィールドへ向かっていたことが分かる。
「Reap the Wild Wind」、「Hymn」など、楽曲はより明快で、サウンドも磨かれている。Rage in Edenの暗く複雑な世界から比べると、より開かれたアルバムである。The Audiophile Manの解説でも、John Foxx期とMidge Ure期の違いを踏まえながら、Rage in Eden、Quartet、MonumentがMidge Ure期の重要な流れにあることが語られている。
ただし、ポップになったからといって、Ultravoxらしさが失われたわけではない。Billy Currieのシンセ/ヴィオラの感覚、Midge Ureの劇的な歌、バンド全体の厳粛なムードは残っている。Quartetは、彼らが自分たちの美学をより大きなリスナー層へ届けようとした作品だ。
Lament:哀愁と成熟の結晶
1984年のLamentは、Ultravox後期の代表作である。「Dancing with Tears in My Eyes」、「Lament」などを含み、バンドの成熟したシンセポップを示している。
このアルバムには、冷戦時代の影、個人的な喪失、壮大な哀愁が漂う。「Dancing with Tears in My Eyes」のようなヒット曲は、ポップソングでありながら終末的な不安を抱えている。「Lament」では、より静かな悲しみが表現される。
Lamentは、Ultravoxが最も大衆的に聴かれた時期の作品でありながら、単なるヒット狙いにはなっていない。そこには、彼ららしい格調と影がある。
U-Vox以降:変化と停滞、そして再結成
1986年のU-Voxでは、Warren Cannが脱退し、バンドの化学反応は変化する。このアルバムは賛否が分かれる作品であり、黄金期の緊張感を求めるリスナーには物足りなく感じられることも多い。シンセポップの時代そのものも変化し、Ultravoxのサウンドは1980年代後半の音楽シーンの中でやや居場所を探すようになった。
その後、バンドは長い休止や別ラインナップでの活動を経る。2008年にはMidge Ure、Billy Currie、Chris Cross、Warren Cannのクラシックラインナップが再結成を発表し、2009年にReturn to Edenツアーを行った。これは、1985年のLive Aid以来、クラシックラインナップが共演する大きな機会だったとされる。
2012年には再結成後のアルバムBrilliantも発表された。往年の緊張感を完全に再現するものではないが、Ultravoxという名前が単なる過去の記憶ではなく、再び現在形として鳴る瞬間だった。
影響を受けたアーティストと音楽
Ultravoxのルーツには、David Bowie、Roxy Music、Kraftwerk、Brian Eno、Neu!、Can、Velvet Underground、グラムロック、クラウトロック、パンクがある。
John Foxx期には、Bowieのベルリン期やRoxy Musicのアート性、Kraftwerkの電子的ミニマリズムが強く感じられる。一方でMidge Ure期には、よりクラシック音楽的な叙情や、ヨーロッパ映画的なドラマ性が強まる。
特にBilly Currieの存在は重要だ。シンセサイザーだけでなくヴィオラやピアノを使うことで、Ultravoxの音楽は単なる電子ポップではなく、室内楽的な格調を持つものになった。「Vienna」のヴィオラ・ソロは、その象徴である。
影響を与えたアーティストと音楽シーン
Ultravoxは、ニューウェーブ、シンセポップ、エレクトロニック・ロックに大きな影響を与えた。特にSystems of RomanceとViennaは、電子音を使ったロック/ポップの可能性を大きく広げた作品である。
Depeche Mode、Gary Numan、OMD、Visage、Japan、Duran Duran、A Flock of Seagulls、のちのシンセウェイヴ系アーティストまで、Ultravoxの影響は幅広い。彼らは、シンセサイザーが冷たい未来音であるだけでなく、深いロマンティシズムを表現できることを示した。
また、「Vienna」のような楽曲は、シンセポップに映画的なスケールを持ち込んだ。これは、単に3分のポップソングを作るのではなく、音楽で場面を作る方法である。後の多くのアーティストが、Ultravoxから“電子音でドラマを作る”感覚を受け取ったはずだ。
同時代アーティストとの比較:Human League、Gary Numan、Japanとの違い
Ultravoxを同時代のシンセポップ/ニューウェーブ勢と比較すると、その独自性がはっきりする。
The Human Leagueは、より大衆的でミニマルなシンセポップへ向かった。「Don’t You Want Me」のように、冷たい電子音を分かりやすい男女のドラマへ変換した。一方、Ultravoxはより重厚で、ヨーロッパ的で、映画的である。
Gary Numanは、機械と人間の疎外感をより直接的に表現した。彼の音楽は無機質で孤独だ。Ultravoxにも冷たさはあるが、そこにはクラシック的な叙情とロマンティックな大仰さが加わる。Numanが無人の工場なら、Ultravoxは夜のウィーン駅である。
Japanと比べると、どちらも洗練とヨーロッパ的な美意識を持つが、Japanはより耽美的で東洋趣味やアートポップへ向かう。一方、Ultravoxはより構築的で、シンセとリズムの緊張感が強い。Japanが香水のようなバンドなら、Ultravoxは黒いコートと石造りの街路のバンドである。
ファンと批評家の評価:1位にならなかった名曲が残したもの
Ultravoxの評価を語るうえで、「Vienna」がUKチャートで1位にならなかったという逸話は避けられない。Joe Dolceの「Shaddap You Face」に阻まれたことは、英国ポップ史の有名な話として語られてきた。しかし、その“1位になれなかった”ことが、かえって曲の伝説性を高めた面もある。Midge Ureの回想でも、曲はシングルとして常識外れだったが、結果的に長く愛されるアンセムになったことが語られている。
Official Chartsの記録を見ると、Ultravoxは「Dancing with Tears in My Eyes」をはじめ、複数のヒット曲を持つバンドであり、1980年代英国ポップの中心的存在だったことが分かる。オフィシャル チャート ただし、彼らの評価はヒット曲だけでは測れない。初期のJohn Foxx期、Systems of Romanceの先鋭性、Rage in Edenの芸術性、Lamentの成熟など、アルバム単位での再評価も重要である。
Ultravoxは、シンセポップの中でも“軽さ”より“格調”のバンドだった。そのため、時代によっては過剰に大仰だと見られることもある。しかし、その大仰さこそがUltravoxの魅力である。彼らは電子音楽に劇場性を与えた。冷たい機械に、黒いロマンを宿した。
Ultravoxの魅力:冷たい音の中に燃えるロマンティシズム
Ultravoxの最大の魅力は、冷たい音の中に燃えるロマンティシズムである。シンセサイザー、ドラムマシン、硬質なベース。これらは本来、無機質に聞こえやすい。しかしUltravoxは、それらを使って哀愁を描いた。
「Vienna」では、都市そのものが失われた恋の象徴になる。「The Voice」では、電子のリズムの中から人間の声が立ち上がる。「Dancing with Tears in My Eyes」では、終末の不安の中で人間が踊る。彼らの音楽は、いつも矛盾を抱えている。機械なのに人間的。未来的なのに古典的。冷たいのに、胸を焦がす。
この矛盾が、Ultravoxを単なる80年代のシンセポップバンドではなく、時代を超えて聴かれる存在にしている。
まとめ:Ultravoxは電子音楽に“哀愁の建築”を与えたバンドである
Ultravoxは、ニューウェーブとシンセポップを彩った革新的バンドである。John Foxx期には、ポストパンクと電子音楽を結びつけた冷たい都市の音を作り、Systems of Romanceで後のシンセポップの原型を示した。Midge Ure期には、Viennaで電子音とロマンティックな叙情を融合し、Rage in Edenで芸術性を深め、Quartetでポップの洗練へ進み、Lamentで成熟した哀愁を響かせた。
「Vienna」は、シンセポップが映画のような情景と深い感情を描けることを証明した名曲である。「Dancing with Tears in My Eyes」は、時代の不安とポップの快楽を同時に鳴らした。「The Voice」や「The Thin Wall」は、電子音楽が内面と社会の緊張を表現できることを示した。
Ultravoxの音楽は、今も夜の都市に似合う。冷たい街灯、濡れた舗道、遠くの駅、無人の広場、古いヨーロッパ映画のような影。その中で、シンセサイザーが静かに鳴り、Midge Ureの声が立ち上がる。
Ultravoxは、電子音楽に“哀愁の建築”を与えたバンドである。その建築は、今も崩れずに残っている。冷たく、美しく、そして深く人間的なまま。

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