発売日: 1979年10月12日
ジャンル: ロック、アートロック、ポップロック
『Tusk』は、Fleetwood Macが1979年にリリースした2枚組アルバムで、前作『Rumours』の大成功を受け、より実験的でアヴァンギャルドなアプローチを試みた作品である。バンドメンバーの個々のスタイルや影響が前面に押し出され、特にリンジー・バッキンガムは、ローファイサウンドやパンク、ニューウェーブからの影響を取り入れた大胆なアプローチを展開している。アルバム全体としては非常に多様であり、スティーヴィー・ニックスの神秘的で詩的な楽曲、クリスティン・マクヴィーのメロディックでポップな楽曲、そしてバッキンガムの実験的なトラックが共存する。商業的には『Rumours』ほどの成功は収めなかったものの、独自の芸術的ビジョンを持つアルバムとして高く評価されている。
各曲ごとの解説:
- Over & Over
アルバムのオープニングを飾る「Over & Over」は、クリスティン・マクヴィーによる穏やかなバラードで、シンプルでありながらも温かみのあるメロディが特徴的。歌詞には愛と希望が込められており、アルバムの中でもリラックスした雰囲気を持つ。 - The Ledge
リンジー・バッキンガムの実験的なスタイルが色濃く反映された「The Ledge」は、ローファイな録音技術とパンク的なエネルギーを感じさせる曲。鋭いギターとシンプルなドラムが特徴で、バンドのこれまでのサウンドとは一線を画すトラック。 - Think About Me
クリスティン・マクヴィーによるポップロックの名曲で、キャッチーなメロディと軽快なリズムが印象的。「Think About Me」は、アルバム全体の中でも特に親しみやすく、シングルカットされヒットした一曲だ。 - Save Me a Place
バッキンガムの感情的な歌声が際立つ「Save Me a Place」は、フォークの要素が感じられるミディアムテンポの曲。柔らかなアコースティックギターが心地よく、愛と孤独をテーマにした歌詞が深く心に響く。 - Sara
スティーヴィー・ニックスの代表作の一つである「Sara」は、彼女の神秘的な詩とメロディが美しく融合した幻想的なバラード。繰り返される優しいピアノの旋律と、ニックスの感情豊かな歌声が、心の奥深くに訴えかける。長尺の曲でありながら、飽きることのない構成が見事。 - What Makes You Think You’re the One
バッキンガムが力強く歌い上げるロックナンバーで、ストレートなビートと攻撃的なボーカルが特徴。彼のアヴァンギャルドなアプローチが感じられ、感情がむき出しになったようなエネルギーが溢れている。 - Storms
スティーヴィー・ニックスが作詞作曲した「Storms」は、しっとりとしたバラードで、過去の恋愛と内面的な葛藤を描いている。アコースティックギターと繊細なコーラスが、曲全体に優雅な雰囲気を与えている。 - That’s All for Everyone
バッキンガムによる実験的なトラックで、重層的なコーラスとシンセサウンドが特徴的。幻想的でミステリアスな雰囲気が漂い、アルバム全体の中でも異色の存在感を放っている。 - Not That Funny
パンクやニューウェーブの影響を受けた「Not That Funny」は、バッキンガムの攻撃的なギターとエネルギッシュなパフォーマンスが際立つ。シンプルな構成ながらも、彼の実験精神が前面に押し出された楽曲。 - Sisters of the Moon
スティーヴィー・ニックスがリードする「Sisters of the Moon」は、神秘的でダークな雰囲気を持つロックナンバー。彼女のボーカルはパワフルで、ギターリフとリズムが力強く絡み合い、幻想的な世界観を作り出している。 - Angel
ニックスが書いた「Angel」は、明るく軽快なメロディが印象的な楽曲。曲のテーマは愛と自由を描いており、彼女の特有の詩的な歌詞が曲全体を彩っている。 - That’s Enough for Me
バッキンガムが再び実験的なアプローチを披露するトラックで、ハードでアグレッシブなギターが際立つ。シンプルだがエネルギーに満ち溢れた曲で、バンドのロック的な一面を強調している。 - Brown Eyes
クリスティン・マクヴィーのソウルフルなボーカルが魅力的な「Brown Eyes」は、ゆったりとしたリズムとムーディーなサウンドが特徴。シンプルながらも深みのある楽曲で、マクヴィーの歌声が感情的な余韻を残す。 - Never Make Me Cry
マクヴィーによるもう一つのバラード「Never Make Me Cry」は、優しいピアノの旋律と感情豊かなボーカルが美しく調和した一曲。愛と喪失がテーマで、静かで穏やかな雰囲気が漂っている。 - I Know I’m Not Wrong
バッキンガムによるアップテンポなロックナンバーで、リズムセクションとギターが強調されている。彼の自信に満ちたボーカルが印象的で、ニューウェーブやパンクの影響が強く感じられる。 - Honey Hi
クリスティン・マクヴィーによる「Honey Hi」は、ポップでメロディアスなトラックで、軽快なギターと甘いコーラスが特徴。明るくリラックスした雰囲気の中で、彼女のソフトな歌声が引き立っている。 - Beautiful Child
ニックスの感情的なバラードで、恋愛における喪失感と未練を描いた「Beautiful Child」。繊細なギターと彼女の切ない歌声が、深い感情を呼び起こす名曲。 - Walk a Thin Line
バッキンガムがリードする「Walk a Thin Line」は、重厚なビートとコーラスが重なり合い、緊張感のあるトラック。彼のボーカルはシンプルながらも力強く、曲全体を引き締めている。 - Tusk
アルバムのタイトル曲「Tusk」は、バンドの実験的な姿勢を象徴する斬新なトラック。南カリフォルニア大学のマーチングバンドをフィーチャーし、独特のリズムと緊張感のあるメロディが融合している。バッキンガムの大胆なプロダクションが際立つ、異色の名曲。 - Never Forget
アルバムを締めくくる「Never Forget」は、クリスティン・マクヴィーの温かいボーカルが特徴のポップな楽曲。明るくポジティブなメッセージが込められており、アルバム全体を心地よく終わらせている。
アルバム総評:
『Tusk』は、Fleetwood Macがアーティスティックな挑戦を行った意欲作であり、前作『Rumours』の成功を受けて、さらに音楽的な自由を追求したアルバムである。バッキンガムの実験的なアプローチ、スティーヴィー・ニックスの神秘的な楽曲、クリスティン・マクヴィーのメロディアスでポップなソングライティングが見事に融合している。商業的には『Rumours』ほどの成功を収めなかったものの、その斬新なサウンドと個々のメンバーの独自性が高く評価され、今日でも音楽的に影響力のある作品として認識されている。『Tusk』は、Fleetwood Macが音楽の枠を超えてさらなる成長を遂げたアルバムであり、ロック史における重要な一枚として位置付けられている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- The White Album by The Beatles
ロックバンドが実験的で多様な音楽スタイルを取り入れた代表作。『Tusk』のように、バンドメンバー各自の個性が表現されている点で共通している。 - Remain in Light by Talking Heads
ポストパンクとアフリカンリズムを融合させた大胆なアルバム。実験的なサウンドを追求する姿勢が、『Tusk』のアヴァンギャルドな一面と通じる。 - Pet Sounds by The Beach Boys
ポップミュージックにおけるサウンドの革新を象徴するアルバム。実験的で洗練されたプロダクションが、『Tusk』のサウンドと共鳴する。 - Rumours by Fleetwood Mac
『Tusk』の前作で、商業的に大成功を収めたアルバム。よりポップでメロディアスな楽曲が詰まっており、バンドのメロディックな一面が際立つ。 - Aja by Steely Dan
洗練されたジャズロックアルバムで、複雑なアレンジとプロダクションが特徴。『Tusk』の実験的な精神と音楽的探求に共鳴する部分が多い。
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