発売日: 2017年10月27日
ジャンル: インディーロック、エモ、フォーク
『Turn Out the Lights』は、ジュリアン・ベイカーのセカンドアルバムで、彼女が初めてセルフプロデュースに挑戦した作品だ。本作では、前作『Sprained Ankle』で示された内省的なテーマをさらに深く掘り下げつつ、アレンジや音楽的スケールが大幅に広がっている。ピアノやストリングスといった楽器が加わることで、彼女の音楽はより壮大で感情的な広がりを持つようになった。
アルバムの主題は、孤独、精神的な健康、信仰の揺らぎといった重いトピックが中心だ。しかし、こうした暗いテーマの中にも希望や癒やしの兆しが見え隠れし、聴く者に深い共感を与える。ジュリアン・ベイカーの歌声は、痛みと美しさを同時に伝える力を持ち、その感情の強さは全曲を通じて圧倒的だ。
トラック解説
- Over
インストゥルメンタルで始まる静かな序章。わずかなピアノの音が、まるで深い霧の中で光を探すような感覚を生む。アルバム全体のテーマである孤独と再生の幕開けにふさわしい。 - Appointments
アルバムのリードトラックで、静かなピアノとギターが織りなすサウンドに乗せて、自己受容と希望の兆しが描かれる。「Maybe it’s all gonna turn out all right」という歌詞が繰り返されるたびに、聴き手の心にじんわりと暖かさが広がる。 - Turn Out the Lights
タイトル曲は、壮大なストリングスが加わった劇的な楽曲。孤独や心の痛みを抱えながらも、それを受け入れる覚悟が滲む歌詞が印象的だ。楽曲が進むにつれて音の層が増し、希望と絶望がせめぎ合うようなダイナミズムを生む。 - Shadowboxing
自己との対話を描いた一曲で、ギターのアルペジオが繊細な緊張感を作り出している。タイトルの「Shadowboxing(影との戦い)」は、自分自身の不安や内面の葛藤を象徴しているようだ。 - Sour Breath
苦しみと喪失感を鋭く描き出す楽曲で、ベイカーのボーカルが感情の限界まで押し上げられる。楽曲の静と動の対比が心に深く刺さる。 - Televangelist
ピアノを主体としたバラードで、神や信仰に関する複雑な感情を歌う。簡素なアレンジの中に、彼女の歌声と歌詞が際立つ一曲だ。 - Everything That Helps You Sleep
ゆったりとしたテンポで進む曲で、歌詞には深い孤独と癒やしを求める願いが込められている。ストリングスが楽曲の終盤に加わり、希望の光を感じさせる余韻を残す。 - Happy to Be Here
皮肉めいたタイトルとは裏腹に、自己否定やアイデンティティの揺らぎをテーマにした内容。ジュリアン・ベイカーの率直な歌詞がリスナーの心に刺さる。 - Hurt Less
優しいアコースティックギターとベイカーの穏やかなボーカルが、愛する人の存在による癒やしを描く。この曲は、アルバムの中で特に温かみを感じる瞬間だ。 - Even
苦痛や矛盾を抱えながらも前に進もうとする姿を描いた曲。ギターとストリングスが織り成すドラマチックな展開が、聴き手に強い印象を残す。 - Claws in Your Back
アルバムのフィナーレを飾る壮大な一曲。自己肯定感や希望の再生をテーマにしており、「I think I can love the sickness you made」という歌詞が、暗闇の中にある救いを示唆する。圧倒的なエモーションが最後までリスナーを包み込む。
アルバム総評
『Turn Out the Lights』は、ジュリアン・ベイカーの音楽的・感情的な成長が明確に感じられる作品だ。繊細なギターとピアノ、壮大なストリングスによるアレンジが、彼女の歌詞世界をさらに豊かにしている。重く内省的なテーマを扱いつつも、その中に見える微かな光が聴き手に希望を与える。前作『Sprained Ankle』と比べて音楽的スケールが格段に広がっており、ジュリアン・ベイカーの新たな可能性を感じさせる名作だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Home, Like Noplace Is There by The Hotelier
エモーショナルな歌詞とドラマチックな楽曲展開が共通するエモの名盤。内面的な葛藤を音楽に昇華した点が似ている。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
孤独や喪失、救いをテーマにしたフォークアルバム。ジュリアン・ベイカーの静謐な世界観を愛するリスナーには響くだろう。
Stranger in the Alps by Phoebe Bridgers
繊細なアコースティックサウンドと内省的な歌詞が特徴で、同じように感情の深みを掘り下げた作品。
A Crow Looked at Me by Mount Eerie
愛する人の死をテーマにしたアルバムで、静かなアレンジと深い感情表現が共通する。
Lush by Snail Mail
若さゆえの痛みや自己探求をテーマにしたアルバムで、感情的なギターサウンドがベイカーの作品と響き合う。
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