発売日: 1977年4月
ジャンル: ジャズ・ファンク、フュージョン、ルーツロック
概要
『Time Loves a Hero』は、Little Featが1977年にリリースした7作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの音楽的冒険精神が最も顕著に現れた作品のひとつである。
本作では、ファンクやニューオーリンズ・スタイルに加え、ジャズ・ロックやフュージョン的な要素が強く打ち出されており、インストゥルメンタルの比重も増している。
ローウェル・ジョージの主導性はさらに後退し、ビル・ペインとポール・バレールが主導する複雑で技巧的な構成が目立つ。
アルバムタイトルの「時は英雄を愛す」という言葉には、栄光と衰退、変化と停滞の交差が含意されており、1970年代後半のロックシーンへの皮肉ともとれる。
エネルギッシュかつ洗練された演奏は、同時代のSteely DanやWeather Reportと並べて語られるべき完成度を誇るが、同時にLittle Feat独自の“泥臭く知的なサウンド”も堅持されている。
全曲レビュー
1. Hi Roller
本作を象徴するファンキーなオープニング・ナンバー。
タイトル通り“成り上がり”をテーマに、虚栄と享楽の世界を軽妙なトーンで描いている。
ビル・ペインの鍵盤が跳ね、グルーヴィで都会的な印象をもたらす。
2. Time Loves a Hero
アルバムのタイトル曲にして、ビル・ペイン、ポール・バレール、ケニィ・グラドニーの共作によるリズミカルで知的な一曲。
時の流れと人間の選択という哲学的テーマを、軽やかな音で表現しており、歌詞の抽象性も魅力。
リトル・フィートの“知性と遊び心の共存”が光る代表曲。
3. Rocket in My Pocket
ローウェル・ジョージによる数少ない本作でのリード・ナンバー。
ロックンロールの伝統を継承するシンプルな構成ながら、ギターの切れ味とヴォーカルの熱量が突出している。
アルバム全体の中で異色の存在として、バランスを支える。
4. Day at the Dog Races
バンド全員によるインストゥルメンタル・トラックで、8分超のフュージョン的構成を持つ。
変拍子やテンションコード、ソロ回しが展開され、まるでジャズクラブの即興演奏のような緊張感が支配する。
『Time Loves a Hero』の最も実験的かつ挑戦的な楽曲である。
5. Old Folks Boogie
ポール・バレールと兄のガブリエル・バレールによる作品で、老いをテーマにしたユーモラスなファンク・ナンバー。
「年をとっても踊りは忘れない」というメッセージが、軽快なリズムに乗って響く。
観客参加型のライブ定番曲としても知られる。
6. Red Streamliner
ビル・ペインとグレッグ・アーマーの共作による、滑らかなメロウ・ファンク。
赤い流線形の列車という比喩が、時間や運命、移動を象徴しているようにも解釈できる。
コーラスの美しさとサックスの音色が都会的な洗練を加える。
7. New Delhi Freight Train
テリー・アレンの楽曲をカバーした、異国情緒あふれるスワンプ風ナンバー。
インド的なモチーフをアメリカ南部のグルーヴで再解釈するというユニークな試みが光る。
ローウェルがリードを取ることで、アルバムの中で土臭さが一時的に回帰する。
8. Keepin’ Up with the Joneses
ポール・バレールとビル・ペインの共作で、社会的比較と自己否定をテーマにしたシニカルな楽曲。
“隣の芝は青い”という心情を、軽快なメロディで包み込むスタイルは、まさにリトル・フィートの真骨頂。
グルーヴと風刺の両立が見事。
9. Missin’ You
アルバムを締めくくるバラードで、失った愛への郷愁がにじむ一曲。
ローウェルのヴォーカルは柔らかくも切実で、聴き手の胸に深く沁みる。
前曲までの知性とユーモアを経て、最後に置かれた感傷が、アルバム全体に人間的な余韻を与える。
総評
『Time Loves a Hero』は、Little Featが持つ“知的な遊び心”が最も洗練された形で結実したアルバムである。
ジャズ、ファンク、スワンプロック、そしてロックンロールという多様な要素を統合しつつ、単なる雑多さではなく、全体として明確な美意識を持って設計されている。
この時期のリトル・フィートは、すでにアメリカ国内での人気を確立し、ライブ・バンドとしても圧倒的な信頼を得ていた。
その余裕と自信が、音楽の緻密さと開放感という両極を自在に行き来するスタイルに反映されている。
一方で、ローウェル・ジョージの創作意欲の低下や、バンド内の力関係の変化も音に現れており、彼の存在はこのアルバムでは部分的なものにとどまる。
だが、それでも本作はバンドとしての集団的創造力の高さを証明しており、まさに“時が愛した英雄たち”の記録と言えるだろう。
おすすめアルバム(5枚)
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Weather Report – Heavy Weather (1977)
フュージョンの金字塔的作品。『Day at the Dog Races』との共鳴点が多い。 -
Steely Dan – Aja (1977)
同年発表の名盤。ジャズとロックの融合、洗練されたアンサンブルがリトル・フィートと並び立つ。 -
Frank Zappa – Zoot Allures (1976)
技巧的で風刺的な音楽性。ローウェル・ジョージの師でもあるザッパの影響が再確認できる。 -
Doobie Brothers – Livin’ on the Fault Line (1977)
AOR志向の強まった作品。都会的で滑らかなファンク感が本作と近い。 -
Little Feat – Waiting for Columbus (1978)
バンドの集大成的ライブ・アルバム。『Time Loves a Hero』期の楽曲も多数収録されている。
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